第123話 冬の魔物討伐に行く前に

 私は、その後どうなったのか分からず、モヤモヤしていたが、ゲイツ様の手紙が届いた。

 修道士と下男は何処かに捕まったみたいで姿を2度と見る事はないだろうと書いてあった。

 モンタギュー司教は、急病になったと噂が流れているみたい。それも、光の魔法の治療をするのが憚られる場所が痛くて、公務どころではない状態だそうだ。

「女好きのモンタギュー司教、娼婦から悪い病を貰う!」

 スキャンダル新聞の大見出しになったのを、態々同封してくれたよ。


 ルイーズは、学園を休学している。自分が何をしたのか理解できず、私への手紙を届けただけだと主張したみたいだけど、流石にフェンディ伯爵は事態の深刻さに気づいて、領地に帰らせたそうだ。

 どうやら、修道士に騙されたと気づいた時は、後の祭だったね。

 ルイーズは、修道女になると言ったみたいだけど、教会とは縁を切った方が良いと思う。

 これらの事は、ゲイツ様からの手紙で知った。

 モンタギュー司教と修道士と下男には少しも同情はしないけど、ルイーズだけは少しだけ心配だ。王立学園を卒業しないと、碌な未来はないからね。


 なんて他人の事を考えている暇も無いほど、私は忙しいのだ。

 月曜から、冬の魔物討伐だからね! パーシバルのマントはできたから、渡してある。

 シュラフは、知り合いの分しか作れなかった。

 でも、知り合い分だけでも作れたのは、モリーとマリーのお陰だね。あの子達はお針子が本職だったから、綺麗に手早く縫う。

 それに、メアリーが馬に乗る事があるとは思えないけど、一応は乗馬服も縫ってもらった。

 喪服の絹でも良いと思ったけど、侍女がそんな物は着れないと頑固だから、黒の丈夫そうな綿と毛織物の混合生地で縫ってもらったよ。

「モリーとマリーがいてくれて、良かったわ」

 

 使用人の冬の支給服は、2人に任せた。これで、私とメアリーの負担がかなり軽減したよ。

 特に、エバにはチョコレートをいっぱい作って貰っているから、金貨とは別に服を3着支給するつもりだったからね。

 普段の服と外出用の服とコートだよ。


「このお屋敷の使用人は幸せですね。こんなにキチンと服を支給して貰えるなんて!」

 モリーが感激しているけど、2年前は給金も滞っていたのだ。

 キャリーは、簡単なところを教えて貰いながら縫っている。

 メイド見習いから、メイドになるには、縫い物もできないと駄目だからね。


 エバは、ゲイツ様の屋敷から来た調理助手とパーシバル様が領地の屋敷から呼び寄せた2人の調理助手とミミの指導で忙しそうだけど、丁度、冬用の保存食を作る時期なので、助かってもいるみたい。

 ああ、バーンズ商会からは、チョコレートの樽が6個も届いて、滑らかにして返したよ。

 家用のも大きな樽が届いた。2週間分にしても多いと思うけど、収穫祭が近いからかも?

「滑らかにはしておくから、後はエバに任せるわ」

 

 チョコレートの加工については、ゲイツ様の所から来た調理助手のファビが、とても熱心だ。きっと、しっかりと習ってくる様に厳命されているのだろう。

 パーシバル様の領地から来た調理助手は、1人はかなり腕が良いアンで、もう1人は若いスージーだ。

「スージーは初心者ですが、ミミと一緒に育てます。アンは、グレンジャー家の調理人になる様に厳しく育てたいです」

 これは、エバに任せよう!


 メアリーと持って行く物を考えながら衣裳櫃に詰めていく。

「先ず、乗馬服とマントは着て行くでしょう。長靴も履いていくわ。剣も持って行くし……これはベルトに差すみたいだけど、慣れないから歩き難いわ」

 他の人は帯剣するのに慣れているみたいだけど、私はどうも気になって歩けない。

「慣れだと思いますわ」

 まぁ、慣れるとは思えないけど、冬の魔物討伐の時だけだからね。


 パーシバルにキャンプ地の情報をあれこれ貰ったから、準備はかなり楽になった。

 エアマットレスは、女子用のテント分は確保してある。

 女子用のテントのシュラフは、私とメアリーとユージーヌ卿とその従者の分だけだよ。

 ミシンはできたけど、シュラフを作るのにミシン1台では、数は作れなかった。


 シュラフを贈るのは、パーシバル、カエサル、アーサー、ベンジャミン、ブライス、サリエス卿と従者達のだ。

 従者は、よく知っている人だけだ。錬金術メンバーの従者は夏休みにノースコートに来ていたからね。

 それとゲイツ様とサリンジャーさんと、2人の従者。

 そういえば、この2人の従者とは会った事が無いけど、一緒に行動する事が多そうだからね。


 後は、王族関係だよ。リチャード王子、パリス王子、アルーシュ王子、そしてザッシュ! 本当は従者分も用意したかったけど、時間切れだ。

 それにモリーもマリーもまだミシンの使い方に慣れていないから、ジッパーとかは手縫いでつけていたからね。


「1個残っていますが、どうします?」

 ふう、2個残っていたら、カミュ先生の息子さんに贈るのだけど、1人だけってのはちょっとね。

「予備に持って行くわ。女子のテントで具合が悪くなる人もいるかもしれないから」

 厳しい冬になるとの予想通り、初雪が降ったと思ったら、大雪になったのだ。

 討伐地の黒い森シュヴァルツヴァルトまでは、冒険者ギルドが道の除雪をしているし、キャンプ地の確保やテントの設営とかも請け負っているみたい。


 私とメアリーの防寒マントは、撥水加工も済ませているし、乗馬服も撥水加工したよ。

「湯たんぽはどうしようかしら? シュラフがあれば要らないかしら?」

 メアリーは、黙って2つ入れる。寒いのは嫌だからね。

「あっ、ポットと金属製のマグカップとお茶のティーバッグは、一箱に纏めておきましょう。それに板チョコもね!」

 これも4セット作っている。

 女子のテント全員分と、学生のテントのはパーシバルに渡すけど、全員分は無いね。王族関係と友達かな?

 後は、騎士団のテント用のはサリエス卿に渡すし、魔法使いのテント用のはサリンジャーさんに渡しておく。ゲイツ様は、他の人に紅茶とかあげそうに無いからね。


 チョコレートは、女子には1枚ずつ配るけど、他のテントは知らないよ! それは、渡す人に任せる。

 パーシバルは、きっと王族と知り合いに配りそう。サリエス卿は、なんとかするでしょう! サリンジャーさんは、チョコレートはほぼゲイツ様に取られそうな予感。


「食事はあちらで用意してくれるそうですが、ナイフやフォークはどうなのでしょう?」

 メアリーは、お上品に食べて欲しいようだけど、討伐した魔物の肉をバーベキューするみたい。

 つまり、フォークで肉を刺して、パクパク食べるのだ。

「さぁ、どうかしら?」ととぼけておく。

 メアリーは黙ってナプキンに包んだフォークとナイフを櫃の中に入れた。やれやれ!


 エバが堅焼きのシュトーレンを何個も焼いて私の部屋まで持ってきた。中にはドライフルーツと木の実がたっぷり入っていそう!

「お嬢様、どうぞご無事に」

 心配そうだよ! 私も、少し不安だけど、行くと決めたからね。

「魔物の肉をいっぱい貰ってくるわ!」

 エバが爆笑している。

「ええ、お待ちしています!」

 

 着替えや下着などを布に絡めて入れたら、箱に入れた上級回復薬を10本、割れない様に間に挟んでおく。

 怪我とかにも効くし、疲れた時に飲んでも良いからね!

 後は魔導灯、これはカンテラタイプのだよ。


「お嬢様、こんなにお金を持っていかれるのですか?」

 メアリーに私の財布を預けておく。金貨と銀貨を数枚入れている。

「キャンプ地には、冒険者ギルドの販売部も出張するとパーシー様に聞きましたわ。何か足りなくなったら買う必要が出てくるかも? 例年は5日ほどだけど、今年は1週間以上になるかもしれませんから」

 メアリーは、納得して財布を手提げ袋に入れた。


 メアリーとキャリーに頼んでグレアムに馬車を出して貰って、シュラフやポットの入った箱を配ってもらう。

 シュラフは、王族関係は全部纏めてパーシバルに渡すけど、錬金術メンバーのは屋敷を知っているから配るよ。

 それと、サリエス卿にはシュラフと共にポットの入った箱も渡しておく。

 サリンジャーさんにはゲイツ様分のシュラフと箱を渡す。

 ユージーヌ卿のも持っていって貰う。荷物が多くなるのは避けたいからだ。


 メアリーがキャリーと出かけてから、私は弟達と時間を過ごす。

「お姉様、気をつけて下さい」

 ナシウス、心配させちゃうね。

「ええ、それにゲイツ様の側を離れませんから、大丈夫ですよ」

 ヘンリーは自分も行きたくてうずうずしているみたい。ああ、ヘンリーが冬の魔物討伐に参加する時は、心配でついて行きそうだよ。

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