第120話 パーシバルの警戒

 月曜の1時間目は外交学だ。ホームルームで、アルーシュ王子とザッシュに捕まった。

「外交学の教室に案内して欲しい」

 フィリップスやラッセルが驚いている。

「アルーシュ王子は、魔法使いコースではなかったのですか?」

 ラッセルの質問に、アルーシュ王子はカカカと笑う。

「魔法使いコースだが、折角、王立学園に留学しているのだから、興味深い授業を受ける事にしたのだ。単位は足りなくても、ロマノ大学は受験できるからな」

 ああ、文官コース全員が羨ましそうな溜息をついた。退屈な授業の単位も我慢して取っているのだからね。


「あら、パーシバル様?」

 いつもは教室で合流するのに、ホームルームまで出迎えてくれた。

「ペイシェンス様、さぁ、行きましょう!」

 エスコートしてくれるのは嬉しいけど、毎回これは負担じゃないの?

 フィリップスやラッセル達も、少し戸惑っている。

「ふうむ、パーシバルは婚約者を束縛したいタイプなのか?」

 もう、アルーシュ王子は余計な事を言わないでよ!

「いえ、私が書いた覚えのない手紙で、誰かがペイシェンス様を呼び出そうとしたので、少し注意しているのです」

 あっ、ここのメンバーを疑っていないから、真実を話しているのかな?

「それは、とても危険です。ペイシェンス嬢を誘拐する企てかもしれません」

 えええ、フィリップスもそう感じるの? ラッセルも厳しい顔だ。

「なのに、本人はこんなに呑気なのか? ハハハ、パーシバルも苦労するな!」

 アルーシュ王子の言葉に、何故か全員が頷いている。


「マーガレット王女の側を離れなければ良いのですが、殆ど授業は別ですからね。錬金術クラブへの送迎もできる時はしますが、どうしても無理な時はお願いしておきます」

 フィリップスとラッセルは、ベンジャミンとブライスにも頼んでおくと約束してくれた。

 えっ、パリス王子については、誰も口にしないね? アルーシュ王子を疑っていないのは、寮に入って間もないからかな?

 まぁ、アルーシュ王子は、嫁の1人にしてやると公言しているから、裏から手を回して誘拐とかするタイプじゃないよね。

 私は、パリス王子もそんな事はしないと信じたい。ここら辺が甘いと言われるのかもしれないけどさ。


 外交学で、新規のアルーシュ王子とザッシュは、ローレンス王国側になった。

「ふむ、ペイシェンスやパーシバルとは対戦相手になるのだな! ラッセルは同じ組か、宜しく頼むぞ」

 かなりアルーシュ王子も弁が立ちそう。それに、控え目な態度だけど、ザッシュも切れ者の感じがするのだ。

「ペイシェンス様、カルディナ帝国側も頑張りましょう!」

 おー! と気勢を挙げ合う。

「ああ、やはり王立学園に留学して良かった。こんなに面白いのなら、弟も誘えば良かったな」

 いや、もう十分王族が多いから、やめてね!


 2時間目、先週はアルーシュ王子とザッシュに邪魔されたけど、今回は他の授業を受けてみるとフィリップスやラッセルとどこかに消えた。良かったよ!

 上級食堂サロンで話すのかと思ったけど違った。

「カエサル様は、いつも錬金術クラブにいらっしゃると言われていましたね」

 えっ、カエサルにも言うの?

「ええ、あれではまた薬草学は落第しそうですが、卒業に必要な単位は足りているみたいですわ。錬金術クラブを続けたいから、卒業しないだけみたいですの。ロマノ大学でも錬金術学科とかあるのに変ですね」


 私の疑問にパーシバルが苦笑する。

「それは、ペイシェンスと一緒に錬金術をしたいから、王立学園に残っているのでしょう。ロマノ大学の錬金術学科は取らないと言われたのでは?」

 うん? そうだけど、何故知っているの?

「だって、グース教授と魔導船を作るのは嫌だから。カエサル様は、錬金術を続けるなら、それで良いと言っていたわ」

 パーシバルは、肩を竦める。

「カエサル様は、1番の強敵ライバルでしたから、本当は頼みたくないのですが、ペイシェンスの安全の為なら誰にでも頭を下げます」

 わっ、そんな事を言われたら、頬が赤くなっちゃうよ。


 錬金術クラブには、カエサル部長とアーサーがいた。

「丁度良かった。アーサー様にも聞いて欲しかったから」

 突然、パーシバルが来たので、収穫祭の予算の使い過ぎだと文句を言われるのか、少し身構えていた2人だったが、手紙の件を話すと真剣な目になった。

「もしかして、教会関係か?」

 カエサル部長は、前からエステナ聖皇国に警戒感を持っているからね。

「まだ、誰かは分かっていないので、こうしてペイシェンス様の側に居られる時は、居ようとしているのです。ペイシェンス様の部屋に下女は誰も手紙を届けていないと言うのが気になって。女学生を巻き込む策謀なのか、ただの悪戯なのか判断に困っています」

 ふむ、とカエサル部長とアーサーは腕を組んで考え込んでいる。

「錬金術クラブに行く時は、できるだけ私が送って行きます。でも、放課後は学生会の用事もありますから、迎えに来れない時は、音楽クラブか寮にまで送って欲しいのです」

 それは、カエサル部長とアーサーが了承してくれた。


 そこからは、冬の魔物討伐についての話になった。

「えええ、アーサー様も参加されるのですか?」

 驚いたよ!

「ああ、今年の冬は厳しくなりそうだから、父に参加しろと言われたのだ。マントも撥水加工をして貰ったが、他に用意する物はあるのかな?」

 ふふふ……、メアリーには不評だけど、私の考えている長靴を推奨するよ。

「パーシバル様、少し錬金術をしても宜しいですか?」

 パーシバルは、やれやれと肩を竦めている。


 ネバネバと珪砂とスライム粉を鍋で滑らかになるまで混ぜる。

 色は、黒にするよ! 汚れが目立たないようにしたいから。

 それとジッパー用の金属も小鍋に溶かす。

 3人は何をする気なのかと、椅子に座って見学だ。

 本来はジッパーは、ジッパーで作って、長靴につけるのだけど、自分用だから良いよね!


「ジッパー付きの長靴になれ!」

 お洒落な長靴スノーブーツを想像しながら、唱えると、ジッパー付きの長靴ができた。

「ペイシェンス? それは長靴だろう? わざわざ作らなくても……細いな?」

 長靴は、ズボンと上から脚を突っ込めるようにダブダブになっている。

「それでは履けない……あああ、ジッパーか!」

 私が靴を脱いで履こうとしたら、全員が顔を赤らめて後ろを向いた。

 こちらでは、脚を見るのも駄目みたいだね。


 長靴を履いて、ジッパーを上げる。うん、良い感じだよ。前世のお洒落長靴だね。

「もう履きましたよ! これなら冬の魔物討伐で、ぬかるんだ土地でも大丈夫でしょう?」

 振り返った3人は、じっくりと私の長靴を見ている。

「ふむ、ブーツは濡れると手入れが大変なのだが……防水加工より、こちらの方が良さそうだ。それに底もギザギザで、滑りにくいと思う」

 パーシバルは、自分用のも作って欲しいみたい。

「慣れないと、馬に乗りにくいかもしれません。鐙を固定するのに、踵とつま先の間に段差が欲しいです」

 乗馬用のブーツにヒールが付いているのは、背を高く見せるだけでは無いのだ。

 今の長靴は、底は平らでギザギザだから、少しヒール部分をつけたら良いのか?


「やり直します!」脱ごうとしたら、また全員が後ろ向きだ。

「3センチヒールをつけて!」

 全員が、それで良いのか? って顔をしているけど、ちゃんとヒールが付いた。

「まぁ、ペイシェンスの錬金術は、少し変わっているからな」

 カエサル部長、酷い言い方だよ。

 

 それから、パーシバル、カエサル、アーサーの長靴を作った。

「おお、これは軽くて、フィットしていて良い」

「脱ぐのも簡単で良いですね。前のは従者に引っ張って、脱がせて貰う必要がありましたから」

 パーシバルの従者も楽になりそうだよ。

 私は、メアリーのも目算だけど作っておく。

「なぁ、ベンジャミンのも作ってやって欲しい」

 カエサルは、優しいね!

「ええ、作りますわ!」

 アーサーは、タダで貰って良いのかと聞いてきた。

「錬金術クラブの材料で作った試作品ですもの。冬の魔物討伐で使って、改良点を教えて頂きたいのです」

「まぁ、それなら」と受け取ってくれたよ。


 錬金術クラブのメンバーも中等科は全員が冬の討伐に参加するみたい。

「今年は、厳しい冬になりそうだからな!」

 こういう点は、貴族としての義務を親から叩き込まれているみたい。

 放課後、ベンジャミンとブライスの長靴も作ったよ。

 それと男の子組にも沸く沸くポットと金属製のマグカップ、そしてティーバッグも渡すと約束した。


「それは嬉しい! 食事は沢山あるけど、温かいお茶が簡単に飲めるのはありがたい」

 カエサル部長とパーシバルは、去年は雨と雪で寒かったと愚痴る。

「ペイシェンス様、このセットをリチャード王子にも差し入れしたいのですが……」

 だよね! 気を使うよね!

「私は、女子のテント分は持っていく予定です。それとチョコレートは、疲れた時に良いですからね!」

 冬山登山とか、チョコレートはよく持って行っていたよね? 全員が呆れているけど?

「それは、ゲイツ様にも差し入れた方が良いと思うぞ」

 あっ、そうだよね!


「何だか、ペイシェンスと話していると、魔物討伐というより、キャンプに遊びに行く気がしてきた」

 アーサー、それは無いよ!

「違いますわ! ビッグボアのお肉も欲しいし、ビッグバードのお肉と羽毛も欲しいのですから、頑張って討伐する気満々ですわ!」

 全員に爆笑されたよ!

「でも、ペイシェンス様は何処に属されるのでしょう?」

 パーシバルの質問に胸を張って答える。

「私は、王立学園の学生ですわ!」

 えええ、何故、笑われるの?

「では、今年は学生チームの勝ちですね!」

 パーシバル? それはどうかな?

「どうでしょう? 私が外した魔物は、ゲイツ様がやっつけて下さるそうですから……まだ命中率が良くないのです」

 ショボショボだよ! でも、パーシバルは安心したみたい。

「ゲイツ様の横なら、ドラゴンが現れても平気そうですから、絶対に側を離れないように!」

 フラグ立てないでよ! 

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