第117話 アップタウンデート!
本当ならパーシバルと2人でアップタウンデートだったのに……まぁ、メアリーはついてくるけど……。
「ドレスメーカー? ふうん、私も流石にその分野は知りませんね」
もう、お邪魔虫の上に、興味が無いのがあからさまな態度だよ。
だから、ついて来なければ良いのに!
「母に聞いてみましたが、マダム・トレメインは年配の貴婦人のドレスが得意みたいです」
うん、それは高そうだし、そういう感じじゃ無いのを探しているのだ。
「ここら辺にドレスメーカーは集まっていると聞きました」
パーシバルは、事前に調べてくれたみたい。優しいね。
「馬車を降りて、ウィンドウを見て歩きたいですわ」
退屈そうなゲイツ様は無視して、話を進めるよ。
「ペイシェンス、お手をどうぞ」
ゲイツ様は、馬車に残るそうだから、私とパーシバルと2人だ! やったね!
ウィンドウには、ドレスを着せたトルソーが置いてあるけど……、ウィンドウディスプレイというより、ただ置いてあるだけだ。
異世界のウィンドウディスプレイは、要改善だよ。購買意欲を全く掻き立てないね。
「ふう、あまり変わり映えはしないのですね」
ちょっとガッカリ! 社交界用のロングドレスも私の年齢で着る脹脛丈のドレスも、よく似たデザインばかりだ。
「まぁ、見本ですから、よく作られるタイプのドレスしか飾っていないのでしょう。それより、ペイシェンス様のデザインを縫ってくれるドレスメーカーを探された方が良いのかもしれません」
あああ、目から鱗だよ! それに、私よりファッションセンスの良いエリザベスがいたじゃん!
「そうですわね! でも、素人の私のデザインで縫ってくれるドレスメーカーがあるのかしら?」
パーシバルは、クスクス笑う。
「育てれば良いのでは? ドレスメーカーのお針子を引き抜くのです」
あっ、暗黒パーシバルだ! でも、靴下のかけつぎをしていた時の内職代、凄く安かった。
「パーシー様、とても良いアイディアですわ。布を縫うミシンも出来上がりそうですから、若い子向けのメゾンを作りたかったのです」
あれっ、パーシバルが苦笑している。
「また、新たな産業を作り出そうとしておられますね」
えっ、そうかな? でも、こんな退屈なディスプレイなんかしないで、バンバン売れそうな服を並べたいな。
「ペイシェンス、少しずつにしましょう」
そうだね! 先ずは私のドレスを縫うお針子さんを確保して、エリザベスとデザインを考えよう。
布は、シャーロッテ伯母様に安く売って貰えば、今よりも格安のドレスができそう!
「それと、この前、着ていらした乗馬服は売れ筋になりそうですよ。エレガントなのに機能的ですから」
パーシバルは、褒めるのが上手いなぁ! エスコートして貰いながら、浮き浮きしちゃう。
「シェラフに使ったジッパー、あれは金属製でゴツイですけど、柔らかな素材で作ればドレスにも使えますわ」
えっ、パーシバルが立ち止まったけど?
「ふう、次々とアイディアが出てくるのは素晴らしいですが、少しの間はデートを楽しみましょう!」
あっ、そうだよね! アップタウンのドレスメーカーをチェックしながら、2人で歩く。
何店かは、少しだけ若々しいドレスをトルソーに着せていた。
「これは、好きですわ」
私は、良いと思ったのだけど、パーシバルは少し首を傾げている。
「何だかシンプルなデザインですね? 若い人用のだからでしょうか? 私もドレスについてはよく知らないのですが、安そうに見えます」
ああ、これも価値観の違いだし、私のシンプル路線は安物に見えるのかも?
フリフリは嫌いだけど、ある程度の飾りは必要なのかもね? つい、自分が貴族令嬢だと忘れてしまうよ。
「あっ、ここが今のドレスメーカーの店ですわ」
マダム・メーガン・ドレスメーカー、老舗っぽい風格はあるけど、少し掃除が行き届いてない。ウィンドウに埃がついている。
こういう所を気をつけないのって、よくないよね。
貴族御用達だから、依頼主は店に来ないのかもしれないけど、やはり清潔感は大事だよ。
それに、何か揉めているみたい。
「何事でしょう?」
パーシバルは、覗き込んでいた私をサッとドアから引き離した。
バン! とドアが開き、中から若い女の人が2人、男の使用人に叩き出された。
パーシバルに庇って貰わなかったら、ぶつかったところだよ。
「ちょっと、賃金を払ってよ!」
気の強そうな赤い髪の女の人が文句を言っているけど、片方の茶髪の女の人が止めている。
「モリー、やめて! もう、良いのよ。私がミスしたのだから」
モリーと呼ばれた赤毛の女の人は、茶髪の女の人の静止も聞かずに、ドアを開けて中に入ろうとしたけど、男の使用人に押し除けられて、道路に転んだ。
「酷いな! 乱暴な真似はやめなさい!」
パーシバルは、一目で上級貴族だとわかるから、男の使用人はへこへこと頭を下げた。
「旦那様、このしつこい針子は、ミスしてクビになったのが不満なのです」
モリーが、立ち上がって怒鳴る。
「私もマリーも、ミスなんかしてないよ! 賃金を払いたく無いから、いちゃもんつけているだけだろ!」
マリーは、街中の注目になっているのが恥ずかしいのか、必死でモリーを止めている。
「モリー、他のドレスメーカーの仕事を探しましょう!」
あっ、嫌な笑い方を男の使用人がしている。
「ふん、マダム・メーガンに逆らった針子など、何処も雇ってくれるものか!」
ああ、もう黙っていられない。
「マリーとモリー、私についていらっしゃい」
突然、見知らぬ女の子に命じられて、2人は驚いていたが、後ろに控えていたメアリーが「いらっしゃい!」と強く命じたので、ついて来た。
「ペイシェンス様、お針子を見つけたのですね」
パーシバルが、クスクス笑いながら、私の耳元で囁く。
「ええ、メーガンのドレスのデザインはありきたりでしたが、縫い目はとても綺麗でした。あそこのお針子なら腕は良いと思いますわ」
馬車では、ゲイツ様が退屈そうに待っていた。
モリーとマリーは、立派なモラン伯爵家の馬車に驚き、一瞬、逃げ出そうとしたけど、メアリーは庶民の扱いに慣れている。
「さぁ、馬車にお乗りなさい!」
ビシッと命じられると、反射的に従ってしまう。
馬車の中はぎゅうぎゅうだけど、モリーもマリーも小柄だから、何とかメアリーの横に小さくなって座っている。
どちらかと言うと、私とパーシバルとゲイツ様の方が窮屈かもね?
パーシバルは、どうするか? 私に尋ねる。
「一旦、屋敷に戻りますか? 冒険者ギルドは、また別の日でも良いとは思いますが……」
こんな機会を逃したら、メアリーは冒険者ギルドになんか行かせてくれない。
「馬車を冒険者ギルドに回して、そこで私達を降ろしてから、メアリーとこの2人を屋敷に連れて行って欲しいですわ」
パーシバルが私の希望を御者に命じて、馬車が動き出したから、モリーとマリーに話をする。
「私は、ペイシェンス・グレンジャーです。この前、マダム・メーガンの所で濃い青のドレスと水色のコートを作ったのよ」
モリーもマリーも縫ったみたい。
「何か落ち度があったのでしょうか?」
真っ青な顔で震えているマリーを庇う様に、モリーが声を絞り出す。
「まさか! ほら、とても似合っているでしょう? 縫い目は文句はないわ。でも、デザインと値段には少し文句があるの」
2人は、ホッとしたみたい。
「やはり、マリーはミスなんてしていないのだわ。ちゃんと残り布も箱に入れて返したのだから」
ああ、それが駄目だったのかも? メーガンは、残りの布と毛皮を全部は返したくなかったのかもね? 前のドレスの残り布は、リボンを作る程度しか返ってこなかったから。
「ふふふ……2人をお針子として雇いたいわ。住む場所があるなら通いでも良いし、無ければ屋敷に住み込みよ」
マリーとモリーは、手を取り合って喜ぶ。
「間借りしている下宿の家賃も払えなくて困っているのです。住み込みで雇って頂けるならありがたいです!」
「お願いします」
ゲイツ様は呆れているけど、反対はしない。
「メアリー、2人に説明してあげてね!」
メアリーは、冒険者ギルドになど令嬢が行くべきではないと思ったようだけど、婚約者のパーシバルとゲイツ様が一緒なので、渋々、2人を連れて馬車で屋敷に向かった。
フリーだよ! パーシバルとデートしたいけど、ゲイツ様がいる。ショボン!
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