第114話 やはり疲れたね
ああ、4番目の話もしなくてはね!
「あのう、こんな話はし難いのですが、パーシー様にも領地管理について考えて欲しいし、変な子供の夢物語だと思われたく無いから……」
メモ帳に挟んでおいた通帳を差し出す。
「これは? ペイシェンスの通帳ですか?」
良いのですか? と確認してから手に取った通帳をパラパラとめくって、呆気に取られている。
ちょっと信じられない額だからね。
「私も、メアリーに通帳記入して貰って、驚きました。何か、還元すべきだと思うのです」
通帳を私に返して、パーシバルは微笑む。
「ノブレス・オブリージュですね! 良い事だと思います。調査して実現可能なら、砂防ダムと港の整備と水路の確保もしましょう。地元民にとっては、ちゃんと治水された土地こそが住みやすいのですから」
あれっ? 私のノブレス・オブリージュとは少し違うけど、チャリティーとかじゃなくて、領主としての仕事も含まれるのか! 目から鱗だよ。
浚渫された土砂には栄養分も含まれているから、遠浅の沿岸を埋立ても良いのだ! オランダじゃ無いけど、領地倍増計画だ。
「ペイシェンス、何を考えているのですか?」
ああ、考えが暴走していた。これは、後の話だよ。
「浚渫した土砂で遠浅の沿岸を埋め立てたら、良いかなぁと思っていただけですわ。これはかなり先の話です」
パーシバルが頭を抱え込んでいる。
「それは神の領域ですよ!」
ふふふ……違うよ!
「書物で読みましたが、海を埋め立てた都市もあったそうです。木の杭を打ち込んで、そこに土砂を入れていくのです」
ベネチアとオランダの合体案だよ。図を書いて説明する。
「ふむ、理論上はできそうですが……兎に角、専門家に調査して貰ってからです。それと、グレンジャーを見て、駄目そうだったら違う土地にすると約束して下さい」
それは、そうだよ!
「ええ、勿論!」
2人で見つめ合うと、いちゃいちゃしたくなるけど……タイムアップだ。
「そろそろ、夕食の時間ですわ」
メアリーの言葉で、パーシバルは立ち上がる。
「一緒に食べても良いのに……」
離れがたくて引き留めるけど、今日は帰ると笑う。
「昼食会で子爵様もお疲れでしょうから」
まぁ、確かに私も疲れているけどね。
「まだ、ご相談したい事がありますの。それと、アップタウンのドレスメーカーを見て歩きたいのです。今のドレスメーカーは、少し流行に疎い気がしていますから」
高いとは言わなかったけど、察したみたい。
「明日、また来ますよ! ゲイツ様が来られなかったら、アップタウンに出かけましょう」
へへへ、メアリーがいるから言わなかったけど、冒険者ギルドにも連れて行って欲しいのだ。
魔力を通しやすい素材について調べたいからね。
「あっ、パーシー様のマントをお持ちください。守護陣の刺繍をしたいのです」
パーシバルは、私の頬にキスして帰って行った。
弟達も昼はご馳走だったみたいで、夜は簡単な具沢山のスープとパンで済ました。だって、お腹いっぱいなんだもの。
父親は、ワインをたくさん飲んだからか、今夜はワインは無しにして、コーヒーをワイヤットに頼んでいる。
「お父様、コーヒーは眠くたくならない作用があると聞きましたわ。夜は控えた方が良いかも?」
にこりと笑った父親は、夜更かしして本を読むつもりみたいだ。
まぁ、明日は日曜だから良いけどね。
ヘンリーは、もう寝ていたから、額にキスし、灯を少し暗くして自分の部屋に行く。
「お嬢様、明日もパーシバル様が来られるなら、お風呂に入った方が良いですよ」
疲れているけどと、お風呂に入ろう! 私の部屋に無いのは不便だけど、メアリーが着替えとかは運んでくれるからね。
「入浴剤が欲しいし、シャワーが欲しいわ!」
こちらのは、猫脚のバスタブにお湯を溜めて、そこで身体も髪も洗う方法なのだ。
髪の毛を濯ぐお湯は、メアリーが掛けてくれるけど、シャワールームが欲しい!
「そうか! 新居の内装は私が仕切って良いのだわ! シャワールームを浴槽につけよう!」
高級なホテルにあるガラス張りのシャワールームなら排水溝をちゃんとすれば大丈夫だよね。
お風呂のお湯を出す魔道具はあるのだから、それを応用すればできる筈!
それと、石鹸で髪の毛を洗うのもやめたい! シャンプーとコンディショナーが欲しい。
まぁ、石鹸で洗ってギシギシになっても生活魔法で艶々滑らかにしちゃうんだけどさ!
「薔薇の香りの石鹸とか欲しいわ」
アンジェラに貰った薔薇の香水を少しだけ付けたりしているけど、石鹸やシャワーの香りが良いのってリラックス効果があるよね。
「良い香りの石鹸は、とても高価ですわ」
メアリーが私の言葉を聞いて、溜息をつく。あの通帳の残高を見たら、高い石鹸ぐらい買ってもビクともしないと思うけど、やはり作った方が良いかもね!
やれやれ、中学校の授業で、石鹸を廃油から作ったことはあるけど、薬剤は用意してあったからね。
でも、これは誰かに聞けばわかりそう! どうせ作るなら、良い素材で作りたい。
折角、作るのに廃油は無いな!
部屋に戻って、メモを書いておく。やりたい事が多すぎて、忘れちゃうからね。
前のやる事リストを見返して、リバーシ、ダイヤモンドゲーム、投げて組み立てるテント、タピオカミルクティーがまだだ。
ティーバッグは、メアリーが孤児院に発注するみたいだけど、手洗いの石鹸とエプロンと三角巾を渡したい。これもメモ!
次のやる事リストは、シャンプーとコンディショナー、ああ、リップスティックも忘れていたよ。
カルメンみたいな真っ赤は嫌だけど、薄いピンクとかはつけたい。
まだペイシェンスは12歳だから口紅は早いけど、色付きのリップクリームとかなら良いと思う。
生活魔法で、唇も荒れていないけど、少し大人びて見せたい乙女心なのだ。
「さて、早く寝ましょう!」
まだ9時台だけど、今日は昼食会で疲れたから寝るよ。それに早寝しないと成長ホルモンが出ないと前世では言われていたからね。
夜更かしばかりしていたけど、背は高かったから、その説は少し疑問だ。でも、やれる事はしておきたい。
日曜は、パーシバルとデートだけど、先ずは弟達と遊ぼう!
オルゴール体操……パーシバルにもして欲しいな。まだ15歳だから魔素を取り込んだ方が良いと思う。
朝食の後は、温室に向かう。もう、薬草は植えなくても良さそうだから、いちごの苗を買ってきてもらっていたのだ。
「お姉様、いちごを植えるのですね!」
ふふふ……ヘンリーはいちごが大好きだからね。
「先ずは、上級薬草を抜きましょう」
これは、ナシウスとヘンリーに任せる。
「肥料を運びますね!」
肥料を撒いて、私が生活魔法で漉き込んで、畝を作る。
「後は、私達で植えます。お姉様は、上級回復薬を作って下さい」
ナシウスに言われて、私は工房に行く。
「メアリー、まだ孤児院に回復薬は必要かしら?」
メアリーは、少し考えて頷く。
「今年の冬は厳しいと聞きますから、他の孤児院にも譲ったみたいです。今回のもきっと他の孤児院にも配るでしょう」
なら、上級回復薬は、討伐に持っていくのを除いたら、全て孤児院行きかもね。
慣れているから、ちゃっちゃと作る。メアリーが箱に入れて、これはお終い。
巨大毒蜘蛛の糸に銀コーティングする。これで、パーシバルのマントに守護魔法陣の刺繍ができる。
銀を溶かしたついでに、魔石を入れるロケットも作っておく。
後は、シャンプーとコンディショナーを作りたいけど……成分が分からない。
リップスティックの容器は作れそうだけど、これも成分が分からない。
となると、この工房である材料で作れそうなのは、リバーシとダイヤモンドゲームだよね。
リバーシは、私はプラスチック擬きの方が好きだけど、きっとバーンズ商会で売り出す時は木製か石の駒になりそう。
ダイヤモンドゲームも私はプラスチック擬きで赤、黄、青のコマを作ったけど、これも木製になるかも?
投げたらテントになるのは、設計図を書くだけになった。
何故なら、待っていたパーシバルではなく、ゲイツ様がやってきたからだ。
ふぅ、アップタウンデートはできるかな?
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