第113話 領地の開発について話し合う
ワイヤットにも訊きたい事がいっぱいだけど、今はお茶を用意して貰う。
「これは、昼食会に出したチョコレートケーキとコーヒーですわ」
ワイヤットが気を利かせて、コーヒーを出してくれたのには感謝だけど、後で質問しちゃうかも。
「この黒いコーヒーは、チョコレートケーキに合いますね!」
チョコレートケーキも砂糖ザリザリでは無いし、軽いスポンジに、生クリームを挟んでいるから食べやすい。
それにブランデーで煮たさくらんぼが良いアクセントになっている。
パーシバルもブラック派みたい。少し休憩してから、肝心な話になる。
「この前、グレンジャーの土地について考えている事があると言いましたでしょう。一つは砂防ダムの建設、そしてそれを利用して水路を作る事。
そして……缶詰工場を作りたいのです」
あれから、グレンジャーについて調べたのだ。
遠浅の海岸にはマッドクラブが住み着いて、討伐の対象になっていた。
でも、蟹は腐るのが早いから、地元でしか食べられていないのだ。蟹缶、美味しいよね!
「缶詰工場? 缶詰とは何でしょう?」
私は、メモ帳を見せてパーシバルに説明する。
「この前、食べた魚のコンフィとかを缶に詰めて、密封した上で、高温の蒸気で加熱して、殺菌すれば、1年や2年は食べられる保存食になるのです。ロマノは内陸ですが、こうしたら海の幸も食べ放題ですわ」
社会見学で缶詰め工場も行ったからね。メモの絵を見せながら、説明する。
「これは……海軍が欲しがりそうですが、宜しいのですか?」
缶詰も軍需物資になるけど、庶民にも食べられるから、そこまで拘っていたら何もできなくなる。
「それは仕方ないですわ。それにマッドクラブも食べたいですし」
パーシバルに爆笑されたよ。食いしん坊だと思われたみたい。
缶詰工場を動かす動力源についても話さなきゃ!
「これは、砂防ダムができると分かってからの話なのですが……水を高いところから落とす時のエネルギーを利用したいと思っているのです」
ああ、やはりエネルギーについてから説明しないといけないみたい。
メモの図を見せながら、エネルギーと水力発電について考えた事を説明する。
「これは、実現可能なのでしょうか?」
パーシバルは怪訝そうな顔だ。私もまだ分からないよ。
「この分野とダムを建設できるかとか、勉強しなくてはいけません。それと、これが無理でも動力源については、少し考えているのです。あああ、この件もゲイツ様が興味をもっているから、冬休みに実験してみようと言われていたのだわ。旅行だからと断ったのに、弟達に魔法を教えるとか言われると……」
パーシバルも、ゲイツ様と私が一緒にあれこれするのは嫌じゃないかな?
「開発とかゲイツ様とされるのは構いません。それを拘束したら、ペイシェンス様に嫌われますからね。でも、私に説明して下さると嬉しいです。婚約者が何をしているかも分からないのは悲しいですからね」
それは、私も一緒だよ。
「パーシバル様が機密にしなくてはいけない事は話して下さらなくても良いですが、私に何をして欲しいかとか、何で悩んでいるかとか話して頂きたいです」
2人で、将来について話し合うと、ついいちゃいちゃモードになっちゃう。
だって、パーシバルって近くで見ると、凄く綺麗な顔立ちだから、うっとりしちゃうのだ。
もしかして、私って面食いなのかも? いや顔だけで選んだわけじゃ無いけど、綺麗なのは綺麗なのだもの!
ちょっと抱き合って、キスしていたら「コホン!」とメアリー咳払いがする。チェッ、縫い物していたのにさぁ、チェック厳しいよ。
まぁ、今日はまだまだ話し合う事があるのだ。
「この前、ペンライトをいっぱい作りましたの」
それは、収穫祭の予算を出したパーシバルも知っているから、頷いて先を話すように促された。
「クズ魔石って安いのです! それを纏めて大きな魔石にできたら、動力源にしても安くつくと思うのです」
あっ、パーシバルが呆れている。ぶー!
「それができるなら、これまでに作られていると……でも、ゲイツ様も興味を持たれたという事は、可能性ありなのですね!」
パーシバル、ゲイツ様の方を信用していない? まぁ、王宮魔法師だから仕方ないけどさぁ!
「それを、冬休みに実験してみようと言われているのです。それと、卵の浄化器も作らなくては! マヨネーズは浄化しないとむずかしいですからね」
ああ、パーシバルに爆笑されちゃった。
「やはり、ペイシェンス様は食いしん坊さんです。でも、卵の浄化器ができたら、安価な卵が食べられるかも? いや、やはり養鶏場の浄化も必要だから高いままなのかな?」
ふふふ……、それも計画中なのだ!
「ペイシェンス様?」
ああ、変な笑い方をしちゃった。それにしても、いつまでも様付けなんて、他人行儀だよね。
「ペイシェンスと呼んで欲しいですわ」
パーシバルもクスクス笑う。
「では、2人の時にはそうします」
ああ、すぐにいちゃいちゃモードになってしまうけど、まだまだ話し合う事があるのだ。
「グレンジャーは塩害被害が多いと聞きましたが、トレントを利用しては如何でしょう? 防風林にするのです」
ああ、パーシバルが呆れている。トレントは討伐すべき魔物だからね。
「トレントは確かに太陽を好みますから、沿岸は住みやすいでしょうが、砂浜より農地に引っ越して来ますよ」
それは、考えているけど、上手くいくかはわからない。
「トレントは木の実で増えるでしょ? だから、沿岸線に植えて増やすのです。それと、嫌いな金属を農地との間に埋めて、こちらに来ないようにできないかしら?」
大爆笑されたよ! そんなに変な事かな?
「トレントは育つのも早いから、薪にも困らなくなりますし、できたら美味しい木の実が取れる種類と……そうだわ! 楓糖も採りたいです!」
忘れていたけど、砂糖も作りたかったのだ。
「楓糖? またペイシェンス様は面白い事を考えられたのですね」
あああ、忘れないうちにメモをしよう!
「楓糖もですが、麦芽から甘い水飴が作れるのです! 何処かの本で読んだのに、忘れていたわ」
これもメモしておく!
「このメモ帳を盗まれないように気をつけて下さい。それと、誘拐にもね! ペイシェンス様のお陰でどれほどローレンス王国が豊かになるか、分かる人には分かりますから」
気を付けなきゃ! ああ、前世の言葉でメモを書けば、誰にも読めないよね! かなり漢字は怪しくなっているけど、私が分かればいいわけだし。
「これからは、暗号で書きますわ」
パーシバルは、驚いたみたい。
「そんなに簡単に暗号が考えられるのですか?」
まぁ、少しズルだけどね。
「また様付けですわ」
注意したら笑われた。
「ペイシェンスも私を様付けしないで呼んで下さい」
いやぁ、それは……結婚しても奥様は旦那様を様付けしているじゃん! 少なくとも人前ではね。
「では、パーシー様と呼びますわ。嫌では無いでしょうか?」
パーシバルは、少し懐かしい顔をした。
「乳母がパーシー様と呼んでいました。乳母よりペイシェンスの方が可愛いですけどね!」
またいちゃいちゃタイムになっちゃった。2人で見つめ合って、呼び合っていたらそうなるよね。
「冬休みに、モラン伯爵領に行って、グレンジャーを見てみます。砂防ダムも無理そうなら諦めますし、ライナ川の土砂を退けて運河にできるかをバーミリオン・ベルーシュ様を訪ねて相談したいのです」
知らない人の名前が突然出てきて、パーシバルは困惑している。
「バーミリオン様は、リチャード王子の製塩場を作るのに協力してくれたお爺ちゃん錬金術師ですわ。塩を作るのに綺麗な海水を汲み上げる必要があるのですが、そのポンプを作ってくれたのです」
お爺ちゃん錬金術師と聞いて、パーシバルは笑う。
「錬金術師の全てに嫉妬したりしませんよ」
それは分かっているけどさ、本当にお爺ちゃんだからね。
「まさか、ライナ川の土砂を浚渫するのですか?」
莫大な資金が必要そうだからね。
「ええ、本来は浚渫船を使ったりしますが、ホースで土砂を吸うのです。だから、強力なポンプが必要です。バーミリオン様が作れるか相談してみたいの」
ふむ、とパーシバルは考え込んだ。
「確かに、船を使わずにポンプで土砂を吸い上げられたら、ライナ川を運搬に使えるようになりますね。えええ、もしかして港も整備できるのでは?」
そうなんだよ! でも、それには砂防ダムが必要になる。
川が流してくる土砂に負けるからね。
「砂防ダムを作るとモラン伯爵領との運河は、途中までですね。ああ、あのシュミナ峠を利用されるなら、ほぼモラン領までライナ川が使えますね!」
やはりパーシバルの方が地元だから、地理には明るい。
私は、地図と長時間、眺めっこして、やっとシュミナ峠が良いかなと思ったのに!
「それについては、建築学の詳しい方に相談しなくてはいけませんわ」
私はズブの素人だからね。
「どちらにせよ、費用が掛かりますよ。砂防ダムを作るのもですが、専門家に調査して貰うにもね」
多分、そのくらいならあるよ!
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