第110話 ロマノ大学の教授達

 土曜も朝からはオルゴール体操をする。やはり魔素を取り入れるようになってから、体力がついてきた。

 とは言え、やっと普通になった感じだよ。ペイシェンス、本当に体力無かったからね。

「今日はロマノ大学の教授達を招待して、昼食会なの。ナシウスはヘンリーと一緒に子供部屋でお昼を食べてね」

 本当なら、私も一緒に過ごしたい。母親が亡くなっているから、ホステス役だよ。グッスン!


「ナシウスは、ロマノ大学では何を勉強したいのかしら?」

 ナシウスは、文系だから何を専攻するのかゆっくりと考えても良い。

「私は、ロマノ大学に行っても良いのでしょうか? リリアナ伯母様は、グレンジャー家の男の子は大学へ全員進学すると言われていましたが……」

 ああ、父親がロマノ大学の学長に就任したのに、まだナシウスは不安だったのだ。お姉ちゃん失格だよ!

「ナシウスは、ロマノ大学に進学できますよ。私とナシウスの奨学金を頂いていますから、心配しないで! それと、ヘンリーも大学に行けるだけの貯蓄はしますから、安心してね」

 何故、あんなにグレンジャー家が貧乏だったのか理由はわかっていないけど、これからは貯金するよ。

 領地の開発や屋敷の修繕、そして私の花嫁道具などにかなりお金は使うけど、ヘンリーの大学進学代は別にしておく。通帳を分けても良いかもね!


 ナシウスは、ホッとして、どの学部にするか考え中だと言う。

「グレンジャー家は、学問の家だと言われていますが、私は外国に行ってみたいのです。フィリップス様のように遺跡も見たいですし、何かローレンス王国に役に立つ仕事もしたいのです」

 夏休み、カザリア帝国の遺跡調査が影響しているのかも? 

「遺跡調査だけをしても良いのですよ」

 援助は惜しまないけど、ナシウスは首を横に振る。

「グレンジャー家を護っていくのは、私の義務です。二度と寒さで目覚めるのは嫌ですから」

 ああ、ヘンリーと違ってナシウスは、貧乏になる前の生活を少しは覚えているからね。そして、ど貧乏な辛さも!


「そうですね。グレンジャー家は法衣貴族ですから、何か職に就かないと節約生活をしないといけないかもしれません」

 いや、でも金貨800枚あれば、普通に暮らせると思うのだけど? 

 一度、ワイヤットと相談してみよう! 頭の中のペイシェンスが不安そうに騒ついている気がするけど、この件を解決しないと、パーシバルと将来を語れないよ。


 アマリア伯母様が来られる前にもう一度メニューの確認と食堂と応接室をチェックする。

 バラの花を綺麗に飾ってあるし、応接室の椅子やソファーも配置済みだ。

 台所は、エバがミミと大奮闘中だ。ジョージ、マシュー、ルーツは従僕の服を着てスタンバイしている。


 ここは任せた方が良さそう! それにメアリーが手ぐすねひいているから、素直に部屋に戻っておめかしだよ。

「モンテラシード伯爵夫妻がお見えです」

 キャリーが呼びに来た時には、もう用意はできていた。

 応接室には父親とモンテラシード伯爵夫妻が座っている。

 モンテラシード伯爵とは初対面かも?

「こちらがペイシェンスですわ」

 アマリア伯母様に紹介されて、お淑やかに挨拶する。

「初めまして、ペイシェンスです」

 私は、もっとお爺さんを想像していたけど、かなり引き締まった身体付きで活動的な感じの紳士だ。

「赤ちゃんの時にチラリと会っているが、綺麗になったね。モラン伯爵家のパーシバル様と婚約したと社交界で評判なのはわかる気がする」

 おお、それになかなか口も上手い! ラシーヌ様のお父様らしい感じだよ。アマリア伯母様より考え方も進歩的なのかも。

 

 後は、伯母様に任せて大人しくしておく予定だったのに……ヴォルフガング教授だけでなく、芸術科のクレーマン教授、この人がとても厄介だった。

 5組の教授夫妻を招待しているのだけど、法律科と文学科と経済学科の教授は、問題なかったのだ。

 次々と到着する順に応接室に招き入れては、挨拶して、モンテラシード伯爵夫妻と父親と和やかに話していた。

 私はお淑やかに座って頷いているだけで良かったのに……ヴォルフガング教授が到着した時から、かなりヤバくなってきた。


「ああ、やっとペイシェンス様に会えました!」

 思わずアマリア伯母様の影に隠れたくなったよ。

「ヴォルフガング教授、奥様を紹介して下さいませ」

 そう、他の教授は、奥方を紹介したり、社交していたのに、すっ飛ばしているのだ。

 まぁ、モンテラシード伯爵夫人の迫力に、ヴォルフガング教授も奥様を紹介したり、マナーを思い出したみたい。やれやれ!


 ホッとした次に、最大の難関がやってきた!

「こちらがラフォーレ公爵が絶賛されているペイシェンス嬢ですか?」

 ああ、この人は若くて綺麗な奥方も放置して、私を名指ししているけど、凄くライバル視線がキツい。

 ラフォーレ公爵の庇護は求めていませんから、そんな視線は投げつけないで! バリア全開だ。

「まぁ、ルノー様! 私も紹介して頂きたいわ」

 あれっ、この人は奥方ではないみたい。

「ああ、こちらはエステナ聖皇国でも私の曲を歌ってくれていた歌姫ディーバのカルメン・シータ様です。まぁ、姪のような関係です」

 真っ赤な口紅を塗った笑った笑顔が怖い! 頭から食べられそうな気分になったよ。

「ラフォーレ公爵が絶賛されていましたし、何曲か聴かせて頂きました。それとエリザの『アリア』と『歓喜の歌』は素晴らしいですわ」

 ああ、歌姫ディーバの絶賛はありがたいけど、横のルノー・クレーマン教授のご機嫌は急降下だ。

 姪のような関係って、愛人の俗語じゃなかったっけ? ペイシェンスの知識には、無いけど……前世の昔のパリの映画で、そう言っていたような?

「ふん! まぁまぁの出来だが、ラフォーレ公爵の庇護を受ける程とは思えないのですがね」

 だから、私はラフォーレ公爵の庇護は求めてないからさぁ!

 

 アマリア伯母様には、ヴォルフガング教授の防波堤になって貰っているけど、こちらも大変だよ。

 ワイヤットが食堂の用意ができたと告げた時には、ホッとした。

 私は、ホステスの席なので父親とは一番遠い。

 ヴォルフガング教授は、アマリア伯母様の横にして貰っている。

 法律科と経済学科の教授が近いけど、お互いの夫婦で話して欲しい。

 

 前菜は、魚のコンフィと冬野菜のテリーヌにした。

 切った時に、野菜の断面が出るように作ってあるから、とても見た目も綺麗だ。

「まぁ、とても美味しいですわ」

 ロマノでは、魚は不人気だけど、ご婦人方に好評なら、教授達も大丈夫だろう。


 スープは、コンソメスープ。

 メインが二品だから、ポタージュだと重たくなるからね。

 澄んだスープを上品に飲む。


 魚は、干し鮑のクリーム煮にした。付け合わせのサッと茹でたロマノ菜に、濃厚なクリームソースがよく合うし、干し鮑は本当に上手く調理してある。 

 エバは、やはり素晴らしい料理人だよ。

「ああ、これは美味しいが……何だろう?」

 アマリア伯母様に説明は任せる。その為に、昨日、打ち合わせしたのだからね。

「干した鮑を戻して、それをクリームソースで調理した物ですわ」

 伯母様も美味しそうに食べている。


 お口直しのシャーベットは、梨だよ。

 そして、肉のメインは少し演出に凝った。

「まぁ! 素敵なゲームパイね!」

 カルメン・シータのソプラノの声が他の人の賛美をかき消したけど、エバの力作だよ。

 大学の型と紋章の焼印は、私が錬金術で作ったけどね。

「これはロマノ大学の紋章だな!」

 父親も驚いているけど、これからだよ!

 ワイヤットが大学の形のゲームパイにナイフを入れると、鶏の白い身とビッグボアの赤い身が市松模様になっているのが見えた。

「まぁ、とても綺麗なゲームパイね!」

 ワイヤットが切り分けて、皿に乗せ、それにソースと温野菜を添えていく。

 ジョージも手伝って、なかなか上手にサービスした。

「とても美味しいです!」

 良かった! 本当はスパイスを効かした料理にしようか迷ったのだ。

 でも、夏ならスパイシーなのも良いけど、もう秋も深いからね。

 

 かなり皆様はワインも進んでいるみたい、会話が弾んでいるから、昼食会は成功だ。

 デザートは、チョコレートケーキだよ。

 それと、コーヒー! 生クリームと砂糖を添えた。

「まぁ、この黒い飲み物は、何かしら?」

 あっ、コーヒーはアマリア伯母様に説明していなかったかも?

「これは、南の大陸で好まれているコーヒーですわ。生クリームとお砂糖をお好みで入れて下さい」

 私は、ブラックで飲みたい。チョコレートケーキが甘いからね。

「まぁ、このケーキとコーヒーはとても合いますね」

 教授夫人達に好評だし、苦手な方には紅茶も用意してある。

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