第94話 どうなるのかな?

 明日の予定をパーシバルが、支配人のパウエルさんに伝える。

「午後1時過ぎに着く予定です。その後はコルドバ王国の大使館でお茶会みたいですから、そんなに長くは滞在しないと思うのですが……これを見たら買い物に時間が掛かるかもしれませんね」

 確かに、買いたい物が増えるかも?

 それは、その時にならないとわからないね。

「パーシバル様の馬車にメアリーと乗って送って貰いますわ」

 すっかり遅くなったから、うちの馬車はロマノ大学に父親を迎えに行く。


「カエサル様と仲良く飾っているのを見て、少し嫉妬しましたよ」

 ええっ、それは無いよ。

「背が届かない場所に物を置くのを手伝って貰っただけですわ」

 それに、パウエルさんが気を利かして、店員にさせていたからね。

 少し、いちゃいちゃと言い争いをして、明日の予定のチェックだよ。


「12時過ぎにお迎えに行きます。それから、マーガレット王女とリチャード王子と合流しましょう」

 そこら辺は任せるよ。

「それと、アルーシュ王子が日曜には入寮されます。サンドイッチを2人分増やさないといけないかもしれません」

 ふぅ、何人分になるのかな?

「6人分ですか?」と訊いたら、少し考えて「8人分……いや、11人分はいるかもしれません」と答える。

 それは、キース王子とラルフとヒューゴの分も含まれているんだね。

「キース王子は、真面目に勉強をされているのかしら?」

 ラルフは授業をサボっていると言っていたから、少し心配だ。

「ペイシェンス様、キース王子の事は、ラルフとヒューゴに任せると約束して下さい」

 パーシバル? それって嫉妬なのかな?

「いえ、嫉妬もありますが、中途半端な情けは為になりません。彼は、リチャード王子を王弟として支えていく立場なのです。淡い初恋の失恋をいつまでも引きずっている姿を皆に見せてはいけないのです」

 なら、サンドイッチもダメじゃないの?

「それは、オーディン王子だけ除け者にはできないから、ラルフに頑張ってお世話をして貰いましょう」

 かなり、ラルフに厳しいけど、この前まで同じく騎士クラブにいたから、有能なのはわかっているからかも。

 材料は自分の失言からこうなったので、パーシバルが用意してくれるそうだ。

「良いのに……」と一応は遠慮したけど、パーシバルがキチンとしてくれるのは嬉しい。


 家に送って貰って、少しだけ話をする。だって、本当に学園では月曜にちょこっと話しただけなんだもん!

 いや、話しているけど、周りに人がいるからさぁ!

 でも、秋は日が暮れるのが早い。庭を散歩しながらなら、木の影とかでちょこっとキスもできるのにね!

 応接室だから、メアリーも隅の椅子に座っているよ。


「木曜は拘束魔法を習うと言われていましたが、合格しましたか?」

 メアリーがいるから、こんな話題だよ!

「ええ、なんとか合格しましたが、攻撃魔法は難しいですわ。的が動いたら、焦ってしまいますの」

 パーシバルは、的が動くと聞いて、興味を持ったみたい。戦闘関係も萌ポイント高いんだね。

「大きなビッグボアの絵を描いた的が、レールの上を動いて、私の方に向かってくるのです。焦って、2回も外してしまいましたわ」

 話を聞いて、羨ましそうな溜息をつく。

「そんな風な練習場があるなんて! 動く的は騎士クラブにもありますが、横に少し移動するだけです。自分に向かってくる的、それはとても良いですね!」

 いや、慌てて外したと言ったのはスルーするんだね。

「攻撃魔法を撃てたということは、やはり討伐に参加されるのですね?」

 心配そうなパーシバル、胸がキュンとする。

「ええ、攻撃魔法もですが、拘束魔法でも躊躇してしまうのです。これでは自分も周りの人も護れませんもの」

 私を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「本当に、気をつけてください」

「ええ」と見上げて、キスをするけど「こほん!」とメアリーの咳払いがするから、一瞬だけだよ。


 パーシバルを見送って、弟達と温室で上級薬草を採る。

「流行病もロマノには入ってこなかったし、もう良いのかしら?」

 いちごに変えても良いのかな? 少し悩むけど、今年の冬は厳しいみたいだから、風邪をひく人も増えるだろう。

「もう一度、上級薬草を植えましょう」

 畝を作って、後はナシウスとヘンリーに任せる。

 メアリーと工房で上級回復薬を作る。

「どこに配りましょう?」

 家には備蓄があるから、親戚に10本ずつ配っている。

「この前は、伯母様方の屋敷とラシーヌ様に配ったのよね。今度は、モラン伯爵家かしら?」

 バーンズ公爵家とかは、ちゃんと備蓄してそうだもんね。

「あのう、差し出がましいのですが……」

 メアリーが口を出すのは珍しい。

「何かしら?」

「薬草がとても高値で販売されているのです」

 それはわかっているよ。内職にしろという提案かな?

「キャリーが孤児院の心配をしていたので、少し私も気になっているのです」

 ああ、それは考えていなかったよ! 

「メアリー、良い事を言ってくれました」

 ノブレス・オブリージュだよ! 私も貴族なのだから、社会に対して果たすべき責任が重くなるんだ。

 転生した頃は、家族を食べさせるだけで精一杯だったから、考えもしなかったよ。

 でも、今はかなり余裕がある。それに、上級回復薬は、家で作っているのだ。

「このモラン伯爵家に届ける上級回復薬以外は、孤児院に寄附しましょう」

 メアリーが満足そうに頷く。


 貧乏だけど、一応は貴族に転生した私は恵まれているのかも? 王立学園には通っているし、ロマノ大学の奨学金も貰えた。

 それに、特許料や準男爵の年金で、他の令嬢よりも自由に使えるお金も持っている。

「ノブレス・オブリージュかぁ」

 前世では庶民だったから、赤い羽の募金ぐらいしかした事がなかったよ。

 これも、パーシバルと相談したい。領地管理なんかできるのか不安だよ。


 土曜の朝、メアリーに巨大毒蜘蛛の糸を冒険者ギルドに買いに行って貰う。

「魔法省も買い集めているから、きっと高額になっていると思うの。でも、魔法省で見た巨大毒蜘蛛の糸は綺麗な真っ直ぐな物ばかりだったわ。きっと検品が厳しいのよ。私は生活魔法で、真っ直ぐにできるから、もつれたり、ごちゃごちゃに固まっているのでも良いの。グレアムに付き添ってもらってね」

 本当は私が行きたい! でも、きっとメアリーは反対するから、頼むのだ。

「それで、パーシバル様のマントに刺繍されるのですね!」

 メアリー的には婚約者のマントに守護魔法陣の刺繍をするのは、とてもロマンチックで素敵な事みたい。凄く張り切って出かけた。


 錬金術クラブに持ち込まれたカカオ豆を3樽も滑らかにしたのだから、屋敷で作る必要があるのかしら? と思うけど、あちらは板チョコで販売しているみたいなので、相変わらずエバに作って貰っている。

 昨日の夜に滑らかにしているから、後はエバ任せだけど、メアリーが外出しているので台所に顔を出す。

 

 台所には甘い香りが満ちていた。ミミも張り切って手伝っている。

「お嬢様、新作のチョコレートですか?」

 えっ、期待でエバの目が輝いている。ちょっと覗きに来ただけなんだけど、新作のアイディアはいくらでもあるよ。

「さくらんぼのジャムはまだ残っているの?」

 エバは力強く頷き、ミミにパントリーから持って来させる。

 ガラスの瓶に宝石みたいにツヤツヤのさくらんぼがジャムの中に浮かんでいる。これならできそう!

「このさくらんぼの形が残っているのを、ブランデーで少し煮るの。そして冷ましてから、チョコレートをコーティングするのよ。本当はジクがあると可愛いのだけど……それは作ったら良いのね!」

 工房で、さくらんぼの軸を作る。本当はプラスチック擬きで作ったら簡単だけど、あの素材はエクセルシウス・ファブリカ案件になりやすい。それに元々は植物なのだから、木の枝で小さな軸を何十本も作る。

 少し上を太くして、カーブさせたから、さくらんぼの軸に見えると思う。

 ジクをジャムのさくらんぼに刺してみたら良い感じだよ。


「あっ、それと日曜に寮にサンドイッチ11人前を持って行かないといけないの。材料はパーシバル様が持ってこられるけど、少し新作も作りたいわ」

 サンドイッチは、ゲイツ様に差し入れに持って行ったから、エバは作り慣れている。新作と聞いて笑う。

「何でしょう?」

 ううん、エバは苦手かもね?

「魚を低温の油で加熱するの……そのレシピを置いておくから、よろしくね!」

 魚、と聞いただけでエバの眉が寄ったけど、前世では大人気だったよ。難しい顔で、レシピを読んでいる。

「鶏のコンフィは作った事がありますけど……良いでしょう! お嬢様のレシピに外れはありませんから」

 コンフィ、そうだ! そう呼ぶ料理だね。

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