第89話 トリプルデートの予定? クアドラプルデート?

今週も何人かの女学生からの視線は感じるけど、もう慣れたのか、精神攻撃への防衛魔法が上手くなったのか、然程ダメージは受けない。

 月曜の2時間目はパーシバルと上級食堂サロンでお茶をするのが習慣化してきた。

 それに、やはり他の時間は他の学生が一緒だから、話し合うことが難しいんだ。

「学生チームに大学生をカウントし忘れていたのです。あちらは、リチャード王子が纏め役なので、手紙で伺いを立てたら、絶対に欲しいそうです」

 まぁ、濡れた毛布で寝たくはないよね。

「バーンズ商会でも増産体制で頑張って下さるそうですわ。領地の兵にも配りたいと言われていました。北部の領地では、今年は討伐に苦労しそうだから、少しでも快適に過ごして能率をあげたいみたい」

 砦に泊まれる所は良いけど、やはり野営もあるみたいだからね。

「それと、木曜にゲイツ様にも聞いてみるつもりです。私は、そちらチームなのかも?」

 全然、討伐について知らないので、パーシバルに教えて貰う。

「テントは大きなテントが何個も立てられます。騎士団、学生、魔法使い、冒険者と大まかに分けられますが、冒険者以外の女性は一つのテントにまとまって泊まっていた筈です。ユージーヌ卿がいらっしゃるから、わからないことはお聞きしたら良いです」

 そのテントに従者も一緒みたいだけど、侍女のメアリーも良いのかな?

「それは、大丈夫でしょう。ユージーヌ卿の従者は、戦闘にも同行するでしょうが、学生の従者はキャンプ地に残る者が多いですから」

 なら、メアリーもキャンプ地に残ってくれたら良いのだけど……頑固だからなぁ!


「ヘンリーが騎士志望なら、従者も育てなくてはいけませんよ。女学生の従者は、本人も技術的に未熟ですし、戦闘には連れていけません。騎士が従者も護りながら戦うなんて無理ですからね」

 私は、マシューをナシウスの従僕に、ルーツをヘンリーの従者にと朧げに考えていたけど、それでは駄目みたい。

「ルーツに聞いてみないといけませんけど、ヘンリーの従者にと考えていたのです」

 パーシバルは、少し考える。うちの召使いは少ないから、すぐに思い出した。

「あの茶髪の弟の方ですか? 12歳ぐらいでしたか?」

「ええ、兄のマシューは14歳です。弟のルーツはもうすぐ12歳ですわ」

 パーシバルは、ちょうど良い年頃だと笑う。

「なら、どちらがどちらの従僕になっても、従者になっても変ではありませんね。今度、剣術指南に行った時に、2人も参加させて下さい。従者には向き不向きもありますから。もし、2人とも向いていなかったら、モラン伯爵領から兵士志願の男の子を派遣します」

 ああ、それは助かる!

「ありがとうございます! お父様も私も騎士については何も知りませんから」

 本当は、サリエス卿に聞いてもいいのだけどね。

「サリエス卿はちゃんと指輪を買えたでしょうか?」

 2人で顔を見合わせて、笑う。

「ユージーヌ卿が武具屋に行かなければ、買えたと思いますけどね」

 ふふふ……楽しい!

「あっ、ユージーヌ卿はドレスを着られるのでしょうか?」

「確か、王立学園の制服はスカートだったような? 私が入学した時に、中等科3年でしたから、一年しか騎士クラブで一緒ではありませんでしたけど……」

 騎士クラブでは、ズボンだったみたい。

「ああ、良い物を思い付きましたわ!」

 パーシバルが怪訝な顔をする。

「ぷんぷん、これはキュロットスカートですから、何も問題ありませんよぉ!」

 キュロットスカートの意味がわかっていないパーシバルに、ノートに図を書いて説明する。

「スカートに見えますが、馬にも跨がれます」

 感心して眺めているパーシバルのまつ毛が長くて、胸がキュンとしちゃう。

「これ、騎士コースを選択している女学生の制服にできませんか? 活動的で良いと思います」

 でも、制服はワンピースだからねぇ……。

「制服を上下に分けても良いなら、キュロットスカートでも良いかも」

 少し考えたパーシバルは頬を赤くした。トイレに不便なのがわかったのだ。

「乗馬服には最適ですわ」

 本当は、ズボンの方が乗馬しやすいけど、それが駄目ならキュロットスカートだね。

 貴婦人乗りしてても、スカートだと捲れるんだもん。

 前世の英国映画に出ていた貴婦人の乗馬服をキュロットスカートにアレンジしてデザイン画を描く。

「ペイシェンス様は、乗馬が苦手なのに、素敵な乗馬服をデザインされますね」

 帽子からベールが降りているのは、チリよけと枝で顔を傷つけない為だよ。

「これで乗馬が上手ければ、格好が良いのですが……」

 パーシバルは、笑わないようにしていたけど、我慢できなくて吹き出しちゃった。

「ペイシェンス様の唯一の欠点ですね。でも、その欠点も愛おしく感じる私は、かなり変わっているのかも?」

 いや、他にも欠点はあるよ! でも、なんだか嬉しい。いちゃいちゃしちゃうよ。


「ペイシェンス、ここでいちゃつかないで!」 

 ええっ、もう昼食の時間なの? 楽しいと時間が経つのが早いね!

 マーガレット王女とリュミエラ王女が先ず席についた。

 リュミエラ王女の指には控えめなルビーがついたステディリングが嵌まっている。

 貰ったのがとても嬉しいのか、いつもステディリングを触っているのが、微笑ましい。

「良いわねぇ」

 ポツリとマーガレット王女が本音を溢す。

「私で良ければ、ステディリングをプレゼントしますよ」

 ああ、恋愛の都ソフィア出身のパリス王子は、乙女心をくすぐるのが上手いね。

「パリス様、お戯れを言わないで下さい」

 えっ、マーガレット王女の頬が赤いんですけど?

「戯れではありませんよ」

 ソッとマーガレット王女の手を持って、薬指に軽いキスをする。

 えええ! いつの間に! 視線が絡み合っているんですけど!!

 隣のリュミエラ王女に目で尋ねる。少し困ったように微笑んで頷いている。

 私はパーシバルと婚約して、それどころではなかったから知らなかったよ。

 ああ、グリークラブと音楽クラブで放課後は毎日一緒だし、私は音楽クラブをサボっていたからだぁ!

 これは、王妃様に呼び出されるかも?


「パリス王子、今年の冬の魔物討伐は、かなり快適に過ごせそうですよ」

 パーシバルが強引に話を変えた。膨らませるマットレスには、パリス王子も関心があるみたい。

「やはり、ローレンス王国の錬金術は進んでいますね。一度、バーンズ商会にも行ってみたいです。マーガレット様、今週末に行きませんか?」

 おおっと、手強いよ!

「ええ、行ってみたいですわ!」

 リュミエラ王女が先に答えた。パリス王子は、従姉妹のリュミエラ王女の付き添いが表向きの留学理由だから、拒否はできない。

「リュミエラ様も一緒なら、お母様も許可して下さると思うわ」

 ああ、王妃様には母の形見のティアラを買い取って下さったお礼を言いたい。

「リチャードお兄様も誘ってみましょう!」

 リュミエラ王女が嬉しそうに微笑む。

「ついでだから、ペイシェンスもパーシバルと一緒にいらっしゃい!」

 えええ、そんな王族ばかりのショッピングに付き合いたくないよ。でも、拒否権は無さそう。


「ユージーヌ卿が婚約されたのをご存知ですか?」

 パーシバルの一言に、マーガレット王女がびっくりした。

「えええ、ユージーヌ卿が婚約されたのですか? どなたとでしょう? えええ、近衛隊を辞められるのかしら?」

 私は、事情を知らないリュミエラ王女とパリス王子にユージーヌ卿の説明をする。

「まぁ、女性騎士で騎士クラブの優勝だなんて、素敵だわ」

 リュミエラ王女も、素敵! と目がハートだよ。

「その上、とても麗しい女性騎士なのです。私も憧れますわ」

 マーガレット王女が不満そうに唇を尖らせている。

「結婚されるなんて、残念だわ!」

「ユージーヌ卿は、結婚されても近衛隊を辞めませんよ。従兄弟のサリエス卿は、理解がありますから」

 マーガレット王女が手を叩いて喜んでいる。

「ふふふ、ペイシェンスの従兄弟のサリエス卿は、進歩的な考え方なのね!」

 パリス王子は、折角良い雰囲気だったのに、ユージーヌ卿の話題に変わったのが残念そうだ。

 でも、転んでもただでは起きないね。

「では、護衛を兼ねてユージーヌ卿とサリエス卿も一緒に出かけましょう!」

 ああ、恋愛関係は、負けそうだよ。

 

 お昼は、何だか浮ついた感じで終わった。パーシバルと目で合図して、要相談だと頷く。

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