第88話 色々な道具がいっぱい

 バーンズ公爵夫人に、横道に逸れているのを注意されたから、元に戻す。

「冬の討伐関連は、あと一つ考えているのです。これで便座を現地で作るのです」

 型を見せたら、全員がトイレだと分かったみたい。

「土の魔法使いなら簡単に固められるか? だが、討伐に魔力は温存しておきたいのでは無いのかな?」

 ああ、それは考えてなかったかも?

「一度、試してみますわ」

 従僕に土を入れて持ってきてもらう。

「便座になれ!」

 一瞬で固まったよ。

「ペイシェンスのは出鱈目な生活魔法だからな」

 カエサルが呆れている。

 型からも簡単に外れるよ!

「ふむ、これは考慮する価値はあるな。然程、魔力も使わなそうだし、快適な方がパフォーマンスは上がるだろ」

 後は、個室にするための布の図を見せる。

「この枝は、現地でも調達できるかもしれないが、持って行った方が良いだろう。探すのも手間だ」

 その方が長さが揃えやすいかも?


 ここまでが、冬の魔物討伐関連グッズだ。

「シュラフのジッパーは特許だな。後のは、もうエクセルシウス・ファブリカで特許をとっているから、商標登録で良いだろう」

 少し落ち着いて、お茶を飲む。

「後は、ゆっくりでも良い道具ばかりですわ」

 カエサルは、笑っているよ。

「父上、信じてはいけませんよ。かなり画期的な道具が揃っていそうです」

 食品関係から見せよう!

「これは、密封容器です。中に入れて持ち運べますし、冷蔵庫で保存する時にも便利です」

 最初から、バーンズ公爵は夢中になっちゃった。

「これは良いな! 領地の魔物討伐なら、これにランチを入れていけば良さそうだ」

 えっ、そっちですか? まぁ、使えるけどね。


 ビニール擬きも、エクセルシウス・ファブリカ案件になったよ。

「これは、色々と使えそうだ。衛生面的にも良さそうだ」

 前世では、ゴミ問題があったけど、スライムのお陰でこちらにはないからね。


 割れ難いガラスは、すぐに色々な使い道があるのに気づいたみたい。

「これで温室を作れば、ガラスより安価にできますわ。サティスフォード子爵は、温室でメロンを栽培したいと言っておられたから、提案して試して貰うつもりです」

 バーンズ公爵も、サティスフォードに支店を出した時に、子爵とも話していたから、頷いている。

「彼はとても有能だから、温室栽培も成功させるだろう」

 これもエクセルシウス・ファブリカ案件になった。


 サンドイッチの箱には、バーンズ公爵夫人が感心したみたい。

「これはコンパクトに畳めるのが良いわ。領地との行き来の時に、使えそうだわ」

 バーンズ領も北部にあるから、行き来は大変みたいだ。


 一人鍋は、レシピ付きで売り出す。これは、ほぼ錬金釜の応用だから、商標登録だけだ。

 チョコレートファウンテンは、聞いただけで、公爵夫人の目がキラキラしていた。

「今度のパーティでお出ししたいわ! ふふふ……大評判間違いなしね!」

 公爵とカエサルは、よりチョコレートフィーバーが加熱するのではと心配そうだ。

「噴水の魔法陣はあるから、これも商標登録だけだな」

 まぁ、それは良いんだ。


 ここからは裁縫関連だ。バーンズ公爵夫人の反応に注目するよ。

「これは銀ビーズなのです。この前、提案したビーズの豪華版ですわ。これが見本です」

 カルディナ街で買った鮮やかな青い絹の布に、銀ビーズで刺繍したバッグを公爵夫人に渡す。

「まぁ、とても美しいわ! ドレスに刺繍したらどれほど豪華になるかしら?」

 でも、カエサルと公爵は、留金に注目している。

「これは、前の留金よりも洗練されている」

 そうだよ! ガマ口もいいけどね。バッグの留金はお洒落じゃないとダメだもの。

「中の財布は前の留金ですわ」

 色鮮やかな緑色に染めた皮の残りにガマ口をつけた小さなコイン入れだよ。

 寮の下女にチップを渡して、パーシバルや屋敷に手紙を届けてもらうから、少しだけ持ち歩いているんだ。

「まぁ、私も欲しいわ! 特に、この小さな財布は便利ね。チップをいちいち侍女に言わなくても済むもの」

 公爵夫人も侍女システムには苦労しているみたいだね。

「この皮は、素晴らしい染色だな! ペイシェンスが染めたのか?」

 ああ、そちらもあったかも?

「これは、ペイシェンスの生活魔法でないと無理かもしれませんよ」

 カエサルが忠告した。

「ふうむ、少し内職をして欲しい! 色鮮やかな皮が有れば、ダンスシューズが華やかになるだろう」

 公爵夫人もハッとしたみたい。サミュエルから貰った誕生日プレゼントのダンスシューズは、晒した白だった。

「それは、本当に素晴らしいシューズになりそうだわ」

 ああ、カカオ豆と皮の染色と半貴石の内職が増えそうだ。

「この銀ビーズは普通の針では糸を通せません。こちらの専用の極細針も一緒に販売して下さい」

 これらは、問題なさそう。

「半貴石のビーズは簡単にできそうなのか?」

「ええ」と頷いておく。

「そちらと、カカオ豆は、火曜にクラブハウスに持って行かせるから、頼んでおく」

 皮は染料がいるからね。家の工房でしよう!


 バーンズ公爵夫人は、新製品の数々に興奮したのか、お茶タイムだよ。

「ここからは、知育玩具です」

 カルタは、全員が笑って了承してくれた。

「本当に子供の頃に欲しかったな!」

 問題は、素材だよ。

「本当は、こちらで作った方が丈夫なのですが……絵が描きにくいかも?」

 バーンズ公爵は即決だ。

「これは、固い紙で作ろう。安価になるし、多くの子供達に遊んで貰いたいからな」

 まぁ、そうなるかもと思っていた。

「分数の玩具は、本当に子供の頃に欲しかったですわ。ここら辺から算数が嫌いになったのですから」

 公爵夫人だけが、分数の玩具に賛同してくれた。公爵とカエサルは理系なのかもね。

 文字の積み木も問題ない。


「これは?」

 カエサルが箱に残ったバケツ二つを自分で取り出した。

「この素材は、エクセルシウス・ファブリカ案件くさいぞ」

 バーンズ公爵も、首を傾げている。

「これは積み木に似ていますが、もっと年齢が上の子供にも遊べるブロックですわ」

 床に基礎の板を置いて、ブロックを積んでいく。

「もしかして、城になるのか!」

 カエサルも床に座って、城作りに協力してくれる。

「違う、ペイシェンス! そこに物見櫓を作るのだ!」

 かなりカエサルは夢中になっているみたい。

「いや、カエサルはわかっていない。物見櫓は、ここだろう」

 ええ、いつの間にかバーンズ公爵も床に座り込んで、跳ね橋を作っているよ。


「これが面白いのは確実ですわね」

 私は、城作りは2人に任せて、バーンズ公爵夫人とお茶をしながら、親子で言い争いながら、城を完成されるのを眺めていた。

「おお、立派な城になったが、もう少しブロックが欲しいぞ!」

 いや、もう十分でしょう。

「アイロス様、童心にかえれて良かったですわね」

 公爵夫人に揶揄われて、少し照れ臭そうな公爵だ。

「ペイシェンス、これは売れるぞ! それにしても、もっと欲しいパーツがある」

 カエサルも夢中だね。

「城は、男の子は夢中になりそうですが、女の子はもっと可愛い物が良いのでは?」

 ふふふ……公爵夫人、考えていますよ!

「ええ、これは弟達にプレゼントしたブロックですから。こちらのデザインでは、素敵なサロンや台所や寝室などを作って遊べます。それに、ガーデニングも楽しめるのですよ」

 まだデザイン画の状態だけど、公爵夫人は手を叩いて喜ぶ。

「ふふふ、ドールハウスみたいだわ!」

 ああ、そちらも楽しそう!

「これは、収穫祭のプレゼントに良さそうだ!」

 販売確定みたい。


 最後に『ローレンス王国版人生ゲーム』の薄い箱が残っていた。入れたかな? 忘れていたよ。

「これは、ボードゲームです」

 ザッと説明したら、公爵が銀行を引き受けてくれた。

 カエサルは、騎士。私は、商人。公爵夫人は官僚。

「ほほほほ……楽しいわね!」

 結果は、公爵夫人が大臣になり、カエサルはそこそこ裕福な騎士になった。

「ペイシェンス、途中までは金儲けも順調だったのに、船が沈んで破産とは!」

 公爵に笑われたよ! 

「これは面白いな! このコインと馬車や人形を木で作って販売しよう! 収穫祭では親戚が集まるから、大人も遊べる」

 やはり、プラスチックもどきはエクセルシウス・ファブリカ案件になるから、代用品があるならそちらにした方が良いみたい。


「父上、パウエルが倒れないようにして下さいね」

 そうか、冬の魔物討伐は11月の半ば、収穫祭は12月の初めだからね。

「ペイシェンス、いっぱい作りすぎだ!」

 カエサルの言葉に、全員が頷いた。

「ええ、これからは……あああ、大切な物を忘れましたわ。陛下に献上する守護魔法陣のマントを持ってくるつもりだったのに、部屋に置き忘れてしまいましたの」

 残念な子を見るみたいな視線が痛いよ。

「それは、後で必ず届けて欲しい。ゲイツ様が考えられた守護魔法陣に間違いはないだろうが、試してから献上した方が良いからね」

 はい、と頷くしかない。

「スケジュール表と、やる事リストを作っているのに、忘れるなんて!」 

 ふふふ……と公爵夫人に笑われた。

「婚約して気持ちが落ち着かないのでしょう。それに、ペイシェンス様は忙しすぎるのではないかしら? もう少し、自分を甘やかさないといけませんよ」

 あっ、カエサルがチョコレート増産させるのは母上なのにと呆れた目をしている。でも、口には出さないんだね。

 

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