第69話 土曜の予定
錬金術クラブの体験コーナーは、大成功だった。
マックスとエドという2人の新入部員を確保できたし、参加した学生達の錬金術への偏見も払拭できたのだ。
明日の土曜は大事な用事が2つある。
1つは前から予定されていた家庭教師の面接だ。リリアナ伯母様の推薦だから、変な人では無いと期待している。
もう1つの事を考えるだけで、胸がドキドキする。
パーシバルが結婚の許可を父親に貰いに来るのだ。
父親は反対しないと思う。私の好きな人と結婚すれば良いと、普通の貴族とは違う理想論的な考え方をしているからだ。
私が恐れているのは、モラン伯爵夫妻が反対する事だ。
前からのモンテラシード伯爵夫人からの縁談には好感触だったけど、それは私が外交官になる、もしくはならなくてもパーシバルと共に赴任地に同伴するのが暗黙の条件だった。
でも、陛下から外国には行かせられないと言われたのだ。
私がパーシバルの親なら、他の令嬢を勧めるだろう。
外交官になる息子の側に妻にいて欲しいと願うのは当たり前だ。
まぁ、モラン伯爵夫人も未開の国には同行されなかったみたいだけど……やはり、反対されそうだよ。
父親の迎えが終わった後で馬車を回してくれる段取りだ。普段なら金曜に帰る時は錬金術クラブには行かないから、先に王立学園に馬車を回してくれるのだけど、今回は体験コーナーだし、後片付けもあったからね。
これは、前から土曜の家庭教師の面接に備えて、金曜の夜に帰ると決めた時から段取りもしていた。
「パーシバルと冬の魔物討伐についても話し合わないといけないわ!」
でも、王立学園では、話せる場所なんてあの東屋しかないけど、もう日が落ちているから無理だ。
「この事も話し合わないといけないのかも?」
陛下から内密に私は
グレンジャー家みたいに法衣貴族にして貰った方が良いのか、そこら辺も元ペイシェンスにも知識がない。
「ああ、パーシバルにも言って無かったかも!」
だって、あの時はプロポーズに舞い上がってて、二人でいろいろと話したけど、こういった実務的な話題ではなかったんだ。
これって貴族的にはとても重要な事かもしれない。
父親にも報告しなくてはいけないけど、ワイヤットに相談しよう!
メアリーが迎えに来るまで、週末にしなくてはいけない事をリストにする。
このところ、忙しくて、大事な事を報告し忘れているからね。
「1、家庭教師の面接。
2、パーシバルとの結婚許可! 両家の許可を得る事。
3、
4、
5、陛下の守護魔法のマントを仕上げる。
6、パーシバルにも守護魔法のマントを作りたい!
7、パーシバルと冬の魔物討伐について話し合う。
8、ナシウスのブロックを作る!
9、チョコレートを作る。エバに任せる。
10、ラシーヌから手紙が来たら、話しに行く」
予定がいっぱいだけど、半分はパーシバル絡みだ。
「ああ、反対されなければ良いのだけど!」
ちょっと悲劇のヒロインの気分だ。麗しの騎士と貧乏な令嬢!
親の反対で、結婚できないなんて、嫌だよ!
自分の妄想を手で掻き消していたら、メアリーが迎えに来て、変な顔をする。
「お嬢様、何をなさっているのですか?」
荷物を手早く纏めているメアリーに報告しなきゃね!
「パーシバル様にプロポーズされたの! 土曜に結婚の許可を貰いに来られるわ。私もモラン伯爵家に行かなくてはいけないのだけど、反対されるかも?」
メアリーが私を抱きしめて祝福してくれた。子供の頃、以来だよ。
「お嬢様、おめでとうございます」
ああ、でもモラン伯爵夫妻が許可してくれたらだよ!
「ええっ? 反対されると考えておられるのですか?」
メアリーは、反対されるなんて思ってもいないようだ。
「だって、私は陛下から外国には行かせられないと言われたのよ。外交官になるパーシバルの妻には相応しくないわ」
そう言うとメアリーが本当に驚いたみたい。
「でも、お嬢様は
メアリーは自信満々だけど、身贔屓だからあてにはならない。
「あっ、お父様に
メアリーは当然ですと頷く。
家に帰ったら、すぐに夕食だ。サッとメアリーに着替えさせて貰う。
コーンスープ、鳥の蒸し物、夏野菜のソテー添え、柔らかなパンはゲイツ様がサンドイッチ用に下さった残りだね。
転生した時の食事とは違って味も量も良い感じだ。ナシウスの鳥の蒸し物は私の倍近くあるけど、ペロリと完食だ。
育ち盛りの弟達の為に、お姉ちゃん頑張るよ!
デザートは、バナナクレープだった。チョコは無いけど、美味しいよね!
さて、これ以上先延ばしには出来ない。
「お父様、食事の後に少しお時間を頂けますか?」
バナナクレープを美味しそうに食べていた父親は、少しナイフとフォークを置いて、私の顔をじっと見つめた。
「ペイシェンス、良いけど……」
あっ、何か察したみたい。花嫁の父って複雑な気持ちだとか聞いたけど、うちは平気だと思っていたんだけどな?
ナシウスも、何か察したのか灰色の目がまん丸になっている。
夕食後、父親の書斎に移って、パーシバルにプロポーズされた事を話す。
「そうか、それでペイシェンスはパーシバル様と結婚したいと思っているのだな。おめでとう!」
うん、うちの父親は私が好きなら結婚に反対しないと思っていたよ。
「明日、パーシバル様が結婚の許可を貰いに訪ねてくるかもしれません」
モラン伯爵夫妻が反対したら、来れないかもね?
「うん? どう言う意味なのだ? 訪ねてくるかもしれないとは?」
ああ、もう一個の方と一緒に説明しよう。
「この前からゲイツ様と王都に流行病が入ってこない様に、検疫システムを考えていたのです」
それは、父親も察していたようで、頷いて先を促された。
「発熱している人を隔離する為に、サーモグラフィースクリーンを開発しました。これなら、平熱の人は緑色に、微熱の人はオレンジ、発熱している人は赤の影が写りますから、兵士でも簡単に検疫できます」
驚いた顔をしているが、私があれこれ特許を取っているのも知っているから、疑いはしない。
「そうか、それは素晴らしい発明だと思う。王都だけでなく、港や大都市の門に設置すれば流行病の拡大を防げるだろう」
そうなんだよね!
「それを陛下が評価して下さり、まだ公表するのは控えていますが
父親が椅子から立ち上がって、喜んでくれた。
「ペイシェンス、それは素晴らしいよ!」
でも、すぐに座って首を捻っている。
「それと、パーシバル様が明日訪ねてくるか分からないのは、どう繋がるのだ? より良い条件になっただけだろう?」
ああ、パーシバルにはまだ言ってないんだよ!
「パーシバル様には
凄く呆れられたよ!
「ペイシェンス、そんな大事な話をしないなんて、パーシバル様を信用していないのか? それなら結婚には反対だよ」
違う! 慌てて説明する。
「私は、パーシバル様を信頼していますわ! でも、それより大変な事があって、そちらの方の話し合いをしていたのです」
父親もやはり貴族だね! 陞爵された事より大事な話とは何だろうと眉を顰めている。
「ええっと、私は門で浄化すれば王都に流行病が入らないと考えたのです」
少し考え込んでいたが「そうだな!」と次を促される。
「それで、ゲイツ様と浄化の魔法陣を書いて、浄化ゲートを作ったのです」
ガタン! と父親が立ち上がった。
「浄化の魔法陣! それはエステナ聖皇国が秘匿しているという光の神聖魔法陣ではないのか!」
ああ、やはりそっちを考えるよね?
「さぁ、私のは生活魔法系の浄化魔法陣ですから、エステナ聖皇国のとは違う物だと思いますわ。でも、これを書いたので、陛下は私を外国には行かせられないと判断されたのです」
椅子に座って、父親は考えている。
「それは……確かに外国に行ったら、エステナ聖皇国に攫われる危険性があるし、その国でも幽閉されてしまうかもしれないな」
ええっ! やっぱりそうなの? 異世界の治安って悪すぎるよ。
「それで、私は外交官になれないのだと思って、悲しくて……それに、外交官になるパーシバル様と一緒に外国にも行けないのです。この縁談は駄目だと思っていたのですが……」
流石に生活能力の無い父親も、一応は母親と恋愛結婚したのだから、何故、パーシバルがプロポーズしたのか察したみたい。
「それで、モラン伯爵が反対するかもしれないから、明日、パーシバル様が結婚の許可を貰いに訪ねて来るか不安なのか? ペイシェンス、お前はもっとパーシバル様を信頼しないといけないよ。両親すら説得できない様な男に、結婚の許可など与えない」
えええ! まさかの反対? 違うのか?
「ああ、そうですわね! きっと、パーシバル様はご両親を説得して、明日は許可を貰いに来られますわ!」
私に欠けているのは、信頼する強さだ。
あっ、もう一つあったんだ。おずおずと紙をポケットから出して、父親に見せる。
「陛下が
父親も困惑しているみたい。
「グレンジャー家は、何代も前から法衣貴族だから、領地管理とかは勉強していないのだ。そうだ! これはモラン伯爵に相談した方が良い。彼ならペイシェンスやパーシバル様が損にならない様に考えてくれるだろう。それに、これは持参金になるのだからね」
法衣貴族の方が、領地管理とかしなくて良いから楽そうなんだけど?
「お父様、法衣貴族にはどうやってなるのでしょう?」
えええ! 知らないの? 目が泳いでいるよ。
「4代前の子爵が、文部大臣をしていた時に、領地管理が難しくなって、それを王家に返納し年金を貰う事になったと、父から聞いているが……これもモラン伯爵やパーシバル様と相談しなさい」
こういった方面は、全く役に立たないね!
えええ、私も知らないし、よく似ていると陛下に言われたけど、違うよね?
私はまだ子供だから……いや、アンジェラなら詳しそう!
元ペイシェンスもお淑やかで、お金とか興味を持っていなかった。浮世離れしているのは、グレンジャー家の特徴なのかも?
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