第45話 わくわくの金曜日

 今週は、あれこれと勉強もクラブ活動も頑張ったよ。週末は、サティスフォードに行くからね!


 外交学2は、青組の為にカルディナ帝国の歴史と現在の行政組織図をガリ版印刷して配った。

 それを見たラッセルが「やはりペイシェンスは赤組に来て欲しい!」とフィッシャー先生に言って叱られていたね。

「赤組は、ローレンス王国側なのだ! 秋学期は絶対に勝って欲しい。そちらも頑張って資料を集めなさい」

 青組からは「先生は赤組を心情的に贔屓している!」とブーイングが起こったよ。やれやれ!


 月曜の午後からの染色2でダービー先生に、カルディナ街で買った布を切ったのと、ビーズ、そして口金をセットしたのを20個あげたよ。

「まぁ、まぁ、とても可愛いハンドバッグになりそうだわ」

 口金は、ガマ口もあるけど、少しお洒落なのもあるからね。それは皆で考えて分けて欲しい。


 経営2の課題の学食アンケートをまとめて、3人に配った。後は、各自の改善案をレポートに書く。

 他の学生が「ペイシェンスを囲い込むのはズルい!」とフィリップスとラッセルに噛み付いていたけど、パーシバルには誰もそんな事を言わないね。やはり学生会長のオーラかな?


 木曜の防衛魔法は、真面目に精神的攻撃の防衛魔法を習ったよ。

 ゲイツ様もサリンジャーさんが同じ部屋に机を運ばせて見張っているから、脱線はしなかった。でも、精神的攻撃の方が防衛魔法を掛けにくい。これは来週も練習しなきゃいけないな。


 それと、第二外国語のリー先生から授業の終わりに、コソッと感謝の言葉を貰った。

「カルディナ街で流行病が発生したら、大惨事になるところだった。王宮魔法師と一緒に浄化してくれて感謝している」

 えっ、マントを羽織っていたのに私だと気づいたの? 驚いていたら、素早くウィンクした。

「あの高級茶店は叔父が経営しているんだ。たまたま母とお茶をしに行っていたのさ」

 なるほどね! なんて頷いていたら、パーシバルが怪訝な顔をしている。

 あっ、言ってなかったかも?

「木曜に防衛魔法をゲイツ様に習いに行ったら、陛下に養鶏場の浄化を教会がサボっている件を進言された話になりましたの。それで、ハッと、カルディナ街の養鶏場は教会が浄化していないって気づいたのです」

 パーシバルは、養鶏場の浄化についても知らなかったみたい。

「ペイシェンス様は、私よりローレンス王国の為に働いておられますね。ああ、女準男爵バロネテスに叙されている意味を本当にはわかっていませんでした。私も精進しなくてはいけません」

 いや、それはゲイツ様にくっついて行っただけだよ。

「カルディナ街から流行病が発生したりしたら、焼き討ち騒動になったかもしれません。事前に防げて良かったです」

 やはり、パーシバルは外交官向きの考え方が自然とできるんだね。

「それは、私が下級薬師だから知っていたのですし、ゲイツ様が動かれたのについて行っただけですわ。パーシバル様は、外交官の目で問題を捉えておられますね。私は、ついつい食料品店が壊されたら困ると考えてしまいましたわ」

 パーシバルが「プッ」と吹き出した。かなり食料品を買い込んだからね。

 

 クラブも忙しくなった。音楽クラブは木曜をサボったのをアルバート部長に叱られて、活動日じゃ無い日もリュートの練習させられたよ。


 錬金術クラブは10月の頭の金曜の放課後に第一回目のワークショップを開くことになった。

 餌は綿菓子作りで、収穫祭の飾り電飾を作るよ。ああ、餌は人聞きが悪いから、ご褒美と呼ぶ事になった。

 この日は私も参加できるから、女学生を集めたいみたい。料理クラブや手芸クラブに声をかけるつもり。

 収穫祭の前日のワークショップは、初めに考えた通り、ご褒美は自転車の試乗で、キックボードを作る。


 年間行事予定をアーサーとブライスが中心になって決めて、1月、3月、5月、9月、11月にワークショップを開く事にした。

 1月はインテリア魔導灯、3月はスケートボード、5月はまた別なインテリア魔導灯、9月はローラースケート、11月は収穫祭の飾りの違うバージョン。

 ご褒美は、綿菓子、アイスクリーム、自転車の試乗、熱気球の試乗などを季節と参加する学生を考えて決める事にした。

「これで入部してくれる学生がいると良いのだが……エステナ神、お願いします」

 カエサル部長が珍しくエステナ神に祈っている。皆、シーンとしちゃったよ。


「いざとなったら妹のケイトリンを入れます! 錬金術クラブを廃部になんかさせません」

 えええ、あの活発そうなケイトリンを? 乗馬クラブに入るんじゃないの? ミハイル、それは無理だよ。

「そうだな! 幽霊部員でもいいなら、ナシウスもいるし、大丈夫だよ!」

 おいおい、ベンジャミン! それは慰めにならないよ。

「そうか、アンジェラも来年には入学だな!」

 えええ、常識派のブライスまで、何を言い出すの? アンジェラは音楽クラブにマーガレット王女が推薦すると決めているよ。

「ハハハ……錬金術クラブは安泰だな!」

 乾いた笑い。カエサル部長が壊れちゃったよ!

「錬金術の楽しさをワークショップでわかって貰いましょう。何人かは入ってくれますよ」

 私が一番真っ当な事を言ったと思うのに、何故か笑われたよ。

「そうだな! 錬金術は楽しいのだ!」

 おっ、カエサル部長が復活した。そこから、ポスターを作ったり、収穫祭の飾りをどこにするか話し合った。

「目に付くのは、学園の入り口だな。でも、そこを飾るなら、許可が必要かもしれない」

 門には警備の兵が立っているので、校舎までの木立を飾る事に決める。カエサル部長が学園長の許可を貰ってくれるみたい。


「それと掲示板前に小さな植木を置いて、それを飾っても良いですわ。掲示板にワークショップの日時と綿菓子の作成とか宣伝を書いたポスターを貼るのです」

 綿菓子は絵でしか説明できない。食紅について水曜日の料理クラブでスペンサー先生に質問する。

「安全に食べ物に色をつけられる植物はありますわ。赤は紫蘇系、黄色はクチナシ、青もクチナシの加工です。あら、緑もクチナシの加工ですわね。紫は紫キャベツを加工したらできます」

 なるほどね! クチナシは万能食紅だね。


 今日は教えて貰うお礼を込めて、カカオ豆を少し持ってきたんだ。一緒にチョコレートを作るよ!

「この滑らかにするのが難しいのですね!」

 やはりスペンサー先生は、すぐにチョコレート作りの問題点に気づいたね。

「チョコレートさえ作れたら、後のアレンジは楽しいのですけどね」

 殻剥きも根気がいるし、滑らかにするのは今のうちは生活魔法でしかできない。

 今回は、チョコレートブラウニーを作る予定!

アメリカの女の子が一番初めに作るスイーツだし、失敗が少ないからね! 私の好みで、胡桃を入れるよ。

 今日は会費を払って、鳥のパイも皆と作って、デザートはチョコレートブラウニーだ。夕食前だから、どちらも少しずつだけど、両方とも美味しい!

「ペイシェンス様、ずっと料理クラブにいらして下さい」

 ハンナはチョコレートブラウニーにぞっこんみたいだ。


「これから収穫祭の練習も増えるから、毎回は来られませんの。でも、10月の初めの金曜日の錬金術の体験コーナーには、是非いらしてね! こんな感じの収穫祭の飾りを作りますし、綿菓子作りの体験もしますわ」

 ガリ版印刷の体験コーナーのプリントを配っておく。下は切り取って参加証になっている。これは展示場の箱に入れて貰う。何人来るのか、事前に知っていたいからね。

「えええ、こんなに綺麗な物が私に作れるかしら? 錬金術なんてできそうにないわ」

 ハンナの言葉に、全員が頷く。やはり、錬金術はハードルが高いみたい。

「ほら、ここと、ここを組み立てるだけですのよ。挑戦したい方には、違う形の飾りを作れるコーナーも用意しています」

 魔導灯をコードにクルクルと回して入れるだけだと知って「これを貰えるなら、参加するわ! 家にも飾りたいもの」とハンナが言ったら、全員が名前を書いて、下の半券を渡した。へへへ、10人ゲットだよ。

 まぁ、錬金術クラブに入ってくれるとは思わないけど、垣根を取り払うのが第一目標だからね!


 なんと、マーガレット王女やリュミエラ王女も体験コーナーに参加してくれると言ったので、他の女学生も次々と参加すると言い出した。

 社交界デビューした元学友3人は「そんな暇はありませんわ!」とツンとしていたけどね。

 これで20人はゲットできたよ! とホクホクしていたら、ラッセルやフィリップスも参加すると言ってくれた。

 この2人が参加するならと、文官コースの男子学生も参加したいと言い出した。


「ペイシェンス、すごいな! 25人も勧誘したのか?」

 他のメンバーもクラスメイトに声をかけたけど、数人しか参加してくれないみたいだ。

「錬金術クラブに入ってくれるのは少ないかもしれない。でも、こうやって錬金術の楽しさを知って貰うのは無駄ではないと思う」

 学園長の許可を得て、校門から校舎までの並木道に飾りをつける。朝は光らせていないけど、下校する時間はもう暗くなっているから、燈すよ。

「わぁ、綺麗だな!」

 皆が、馬車の中から見て騒いでいる。

 その中の何人かが掲示板の『錬金術クラブ体験コーナー』のポスターを思い出したみたい。

「これかぁ! 錬金術クラブの体験コーナーで作るのは! タダで貰えるなら参加しても良いかも?」

 ワークショップは、働くってイメージが良くないと他のメンバーに言われて、体験コーナーに変えたよ。ぷんぷん! 貴族もしっかり働くべきだと思うんだけどね。


 手芸クラブのメンバーも体験コーナーに参加してくれる事になった。

 収穫祭の飾りが欲しいからだってさ。体験コーナーは盛況だけど、何人クラブに入ってくれるかは分からない。


「今日はもう帰りますわ。ご機嫌よう!」

 ちょこっと錬金術クラブに寄ってから、家に帰る。

 だって、明日はサティスフォードに行くんだもんね! ああ、まだまだ欲しい物があるんだよ! 

 ウルチ米は11月になったらカルディナ街でゲットできる。味噌もありそう! 

 サティスフォードには南国風の物を期待しているんだ。

 メロンがあるなら、パイナップルとかバナナとか無いかな? タピオカも良いなぁ!

 いや、ちゃんと経済学2の課題の為の見学だとわかっていますよ。

 パーシバルが外務省で、ローレンス王国の食物の輸出入の資料を手に入れてくれた。きっと、フィリップスもラッセルも持っているだろう。


「お嬢様、明日は朝早いですから、夜は早くお休み下さい」

 ああ、メアリーに注意されちゃったよ。遠足の前の日の精神状態になっているからね。

 チョコレート作りは、滑らかにする所だけしたよ。後は、エバに任せる。

 弟達の家庭教師の面接は、来週末に決まった。良い人だと良いなと思いながら眠った。

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