第44話 家庭教師!

 今週末は、金曜の錬金術クラブに行ったから、土曜の朝に家に帰った。今回は土曜はブライス、日曜はミハイルの家のお茶会に招かれている。

「お姉様、お帰りなさい」

 また背が伸びたナシウスにキスするには、少し背伸びしないといけない。ヘンリーはまだ大丈夫。でも目線が同じぐらいになっているよ! 

 二人は朝食前に体操を終えていたけど、私に付き合って2回目の体操をしてくれた。魔素を呼吸で取り込むようになってから、体力はついて来ている。でも、やっと普通の女学生に追いついた感じだよ。ペイシェンス、本当に体力無かったからね。

 先ずは温室チェックだよ。裏の畑はマシューとルーツが頑張って蕪と玉ねぎとロマノ菜を作ってくれているからね。後で、少し魔法で後押しするだけで大丈夫。

「お姉様、メロンとスイカがいっぱいです!」

 ヘンリーが嬉しそう。私も嬉しいけど、少し複雑なんだ。この秋なのに暑い気候が、流行病の年に似ていると言われているからね。

「そろそろ収穫時期ですわ。お世話になった家に配りましょう」

 リリアナ伯母様、アマリア伯母様、シャーロッテ伯母様、ラシーヌ様、モラン伯爵家、バーンズ公爵家、ああゲイツ様にもあげなきゃね!

 スイカとメロンのセットであげるよ。バスケットは生活魔法で、チャチャっと編もう。工房を持っているから、その横の倉庫に色々な材料を買って溜めて置けるようになって、便利なんだ。

 全てのメロンとスイカを採った温室には、肥料をすき込んだ。畝を作って、上級薬草の種を蒔く。

「ジョージ、この上級薬草には浄水しか与えてはいけないの。週末は私が水を浄化できるけど、他の日はどうしたら良いのかしら?」

 ジョージは腕を組んで考えているけど、難しいよね。

「大きな水瓶に浄水を溜めて置くしか無いかしら? それか、空いている時間に家に戻って浄水を作るか?」

 横で真剣な顔で聞いていたナシウスが提案する。

「お姉様、この上級薬草は、流行病に備えて育てるのですよね。私にも協力させて下さい」

 ナシウスは生活魔法が少し使える。カザリア帝国の遺跡の扉も開け閉めできたしね。

「お姉様、私もお手伝いしたいです!」

 ヘンリー、なんて良い子なんでしょう。キスしておこう。ナシウスにもキスしたいけど、恥ずかしがる年頃だからね。我慢するよ。

 ジョージに何個ものバケツに水を汲んで来てもらって、浄水の作り方の練習だ。

「ナシウス、ヘンリー、よく見ててね!」

 二人に教えるのだから、少しオーバーにバケツに手をかざして「綺麗になれ!」と唱える。ナシウスもヘンリーも真剣に見ていたよ。

「ナシウス、一緒にやってみましょう」

 私はナシウスの後ろに立って、手を重ねて「「綺麗になれ!」」と唱えた。うん、浄水になっているね!

「お姉様、何か分かった気がします! 今度は私だけでしてみたいです」

 ナシウスは、本当に天才だよ!

「では、やってみなさい」と言うと、ナシウスはかなり精神を集中させて「綺麗な水になれ!」と唱える。

「まぁ、とても上手に浄水ができたわね。これができたら、旅行先でも綺麗な水が飲めるから安心だわ」

 ナシウスは歴史研究クラブに入るみたいだし、遺跡調査に行くかもしれない。その時に、水に当たったりしたら大変だものね。

「もう少し練習したいです!」

 浄水はいくらあっても良いからね。温室の隅に置いてある樽を浄化して、そこに溜めておこう。

 ナシウスが水を汲みに行ったので、今度はヘンリーだよ。ヘンリーはまだ私より背が少しだけ低いから、後ろから抱え込むのも簡単だ。

「一緒に何回かやってみましょう」

 ヘンリーの手と重ねて「綺麗な水になれ!」と唱える。私はいつもは「綺麗になれ!」だけで済ませていたけど、ナシウスの真似だよ。具体的に言った方が、ヘンリーにもわかりやすいかなって思ったんだ。

「もう少しで分かる気がします」

 ヘンリーと何回か水の浄化をしたよ。

「お姉様、やってみます!」

 頑張って! ヘンリーは騎士になるから、あちこちに遠征に行く。水の浄化も大切だし、身体も綺麗に保って欲しいからね! 

 真っ赤な顔になるほど集中してて、可愛くて抱きしめたくなるけど、ここは我慢して見守ろう。

「綺麗な水になれ!」

 あっ、できたみたい!

「ヘンリー、できましたね!」抱きしめてキスしちゃおう。

「もっと練習します」

 ヘンリーも水を汲みに行ったので、私は蒔いた上級薬草の種を少し魔法で後押ししておく。

「大きくなれ!」畝の上に小さな芽が出たよ。

 ナシウスが水を汲んで帰ってきた。

「お姉様、もう芽が出ています!」

 ああ、これも教えれば良かったかも。でも、この冬は上級薬草を何回も作らなくてはいけないから、その時で良いよね。

「ナシウス、上級薬草には浄水しかあげてはいけないの。お願いしておくわね」

「はい! 任せて下さい」

 わぁ、ナシウスの目がキラキラしている。キスしたいよ!


 ナシウスとヘンリーは、水の浄化の練習だから、私は台所へ行くよ。またバーンズ公爵家からカカオ豆と材料がいっぱい届いたからだ。

「まぁ、アーモンドも下さったのね」

 オレンジもあるし、アーモンドもいっぱいだ。アーモンドチョコレートが好評だったんだね。

「それに箱もいっぱい届きました」

 ああ、これで弟達の内職はお終いだね。でも、中の凹んだ土台は無いから、作らなきゃね。布も一緒に届いている。これは、かなり欲しがっているのが分かるよ。バーンズ公爵夫人がプレゼントしたチョコレートが好評なのだろう。

「まぁ、エバ! 皮を剥いてくれたのね!」

 前に真剣に見ていたものね。ここまでしてくれていたら「細かく滑らかになれ!」と唱えるだけだ。オレンジピールも作っているし、アーモンドもローストしてキャラメリーゼしてある。後はエバに任せても良いんだけど、やはり新作が作りたい。

 カルディナ街で買ってきた、ドライマンゴーで作るよ!

「エバ、このドライマンゴーを小さな四角に切って、チョコレートコーティングするの」

 もうエバは熟練のチョコレート職人だから、簡単に理解してくれる。これから林檎もでるし、新作のアイディアがいっぱいだ。


 チョコレートは任せて、工房でバーンズ商会から届いた箱に合わせて、チョコレートが動かないように凹んだ土台をつくる。

「お姉様……箱はもう作らなくてもいいのですね」

 浄水の練習を終えた二人が工房に駆け込んで来た。箱作りを手伝ってくれるつもりだったんだね。

「ええ、箱はありますけど、土台に布をセットしなくてはいけません。布を切って、セットしましょう」

 ナシウスは、貧乏な生活で節約が身についたみたい。キチンと測って、無駄にならないように布に線を引いてから、ヘンリーに渡している。

 これは二人に任せて、私は陛下に献上するマントに刺繍をするよ。秋の終わりの魔物の討伐前には献上したいし、その前にカエサル部長がテストしたいと言っているからね。

「ああ、後は日曜にしたら出来上がりそうだわ」

 撥水加工は、バーンズ商会に任せる。魔石をセットする前なら、簡単に生活魔法で乾かせるからね。ノースコートでは誰も魔石を外す事を思い付かなかったんだ。私もね!

「魔石を入れるロケット部分を作りましょう」

 小さな鍋に銀を溶かして、ロケット部分を作る。これなら、留金を開いて魔石を交換できるよね。

「お姉様、錬金術って凄いですね!」

 ナシウスが見て、驚いている。物を作るのにも興味があるみたいだけど、やはり読書と歴史の方が好きみたいだね。ヘンリーも錬金術より剣と乗馬が好きそうだし、兄弟でも少しずつ違っている。

 メロンとスイカの籠を編んで、午前中はお終い。やはり、金曜に帰るべきなのかも? 今度からは錬金術クラブが終わってから、帰ろうかな?

 

 土曜のアンカーマン伯爵家のお茶会と、日曜のダンガード伯爵家のお茶会は、リリアナ伯母様に任せて乗り切ったよ。

 ブライスは、家でも優しそうだった。それにダンガード伯爵夫人は、とても趣味がよくてサロンに手作りの品が上品に飾られていた。絵画刺繍もあったけど、多分自分で刺繍されたんだと思う。 

 ミハイルは、家では少しだけヤンチャなイメージが強いね。赤毛の一家だけど、少しだけサロンに挨拶しにきた妹のケイトリンはストロベリーブロンドで可愛い。来年、入学するみたいだね。活発な感じだなと思っていたら、ジェーン王女の学友に選ばれたみたい。乗馬クラブに入るそうだ。

「姪の子のアンジェラ・サティスフォードはジェーン王女の側仕えになりますから、宜しくお願いしておきますね」

 ケイトリンは、お客様の前だからお淑やかに頷いていたよ。

「ケイトリンは、ジェーン王女様が寮に入られるのだからと、寮に入りたがっているのです」

 ダンガード伯爵夫人は、少し困っているみたい。息子のミハイルが家から通っているのに、より監督が必要な娘が寮に入るのが心配みたいだ。

「寮にはマーガレット王女様やリュミエラ王女様もいらっしゃいますし、アンジェラも寮に入りますわ。ジェーン王女様も学友が一緒なら喜ばれると思います」

 ダンガード伯爵夫人は、やっと寮に入れる決心がついたみたい。やはり年長の王女様方が一緒なのが安心材料になったみたいだね。ケイトリンが嬉しそうに微笑んでいたよ。


 ダンガード伯爵家の帰りの馬車で、リリアナ伯母様が家庭教師の話をしだした。

「ヘンリーは活発な男の子だし、騎士になりたいと言っているから、乗馬や剣術も教えられる男の家庭教師を探していたの。でも、なかなか見つからなくて……でも、女の家庭教師なら素晴らしい人がいるのだけど……」

 普通の貴族の家では、女の子には女の家庭教師とダンスや音楽、男の子には男の家庭教師と剣術や乗馬教師も雇うみたい。家の経済状況を知っているリリアナ伯母様は、男の家庭教師で乗馬や剣術も教えられる人を探していたみたいだけど、そんな好条件な家庭教師は誰も手放さない。

「アンジェラも乗馬は十分だろうし、サリエス卿も結婚されたら剣術指南どころではないでしょうし……」

 悩む! ラシーヌから乗馬教師を派遣して貰っていたけど、アンジェラには必要なくなるから解雇しそう。それに、これから結婚するサリエス卿はユージーヌ卿と休日を過ごすべきだしね。もう少し探して貰うべきなのかも?

「一度、面接してみない? 他に譲るのは惜しい方なのよ。本来なら家庭教師をするべき方ではないの」

 リリアナ伯母様がこれほど言う人って何か事情がありそう。

「実は、コーデリア・カミュは私の同級生なの。シェパード男爵家の娘で、カージェンヌ卿と結婚されたの。まぁ、カージェンヌ卿は、なかなかハンサムだったし、結婚は上手くいっていたのよ。去年、カージェンヌ卿が亡くなられて、3人の子息を育てるのに苦労されているの。年子だし、下の息子さんは双子なのよ」

 騎士爵の年金だけでは、3人の子息を育てるのはギリギリだろうね。ましてロマノ大学は無料じゃないし、学費が高い。

「それに、3人ともロマノ大学の寮に入っているから、住み込みの家庭教師をしても良いそうなの。空いた屋敷は他の方に貸せるから、大学の学費に当てたいそうよ」

 ああ、そんな事情を聞いたら断れないよ! でも、ヘンリーの為なら鬼になるぞ。安心して任せられない家庭教師は駄目だからね。

「一度、お会いしてから決めて良いですか?」

 リリアナ伯母様も「それで良いわ」と言ってくれた。

 どんな方なのか、心配なような、楽しみのような複雑な気持ちだ。ヘンリーの母親代わりをしていたからね。他の人に懐くのを見たくない気持ちもあるんだよ。でも、ナシウスが入学したら、ヘンリーは1人になっちゃうから、家庭教師は必要だよね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る