第39話 火曜は錬金術デー
「むふふふ……」
マーガレット王女の髪をセットしながらも、笑いが込み上げてきちゃう。
「ペイシェンス? 何か変な物でも食べたの?」
ああ、失敗しちゃった。変人に思われちゃうよ。
「いえ、今日は少し楽しみなのです。染色のダービー先生に漂白剤や染料を提供して頂ける事になったので、巨大毒蛙の皮を染めるのです!」
ああ、楽しみだなぁ!
「それがそんなに楽しいのね。ペイシェンスはやはり変わっているわ」
まぁ、それは人それぞれだよ。
「放課後の音楽クラブを忘れないように!」
注意されちゃった。誰か錬金術クラブのメンバーに教えて貰うように頼んでおこう。夢中になると時間を忘れちゃうからね。
カエサル部長には頼まないよ。錬金術クラブ愛が強いからね。
頼むならブライスかアーサーかな? 錬金術クラブ愛が強いのは一緒だけど、彼らは常識派だからね。マーガレット王女の命令だと言っておけば、教えてくれそう。
リュミエラ王女には今朝は違う髪型にする。
マーガレット王女と同じなのも飽きただろうし、もっと可愛い髪型の方が似合う気がするんだ。
「新しい髪型を試してみましょうね」
艶やかなブルネットを一旦は上で纏めるのは一緒だけど、そこから二つに分けて下に垂らす。
それをカールして、両流し? にする。うん、年下の甘い雰囲気がより可愛い感じだ。
「まぁ、とても素敵だわ!」
リュミエラ王女はブルネットなので、片流しだと少し重く感じていたんだ。
二つに分けたので軽やかな雰囲気になった。ツインテールほど子供っぽくは無いから良いんじゃないかな?
「ペイシェンス、私も明日から別の髪型にしたいわ。考えておいてね!」
ええっ、マーガレット王女は片流しがよく似合っているのに?
まぁ、色々な髪型は知っているから良いけど。前世では髪型は自由だったからね。
ホームルームが終わったら、錬金術クラブに急ぐ。
もうカエサル部長がクラブハウスを開けていたよ。本当に授業はほとんど受けていないみたい。
「ご機嫌よう」と言った瞬間から「巨大毒蛙の皮を染めるんだな!」と椅子から立ち上がる。
「ええ、ダービー先生が手芸クラブにいらっしゃる筈ですわ」
なんと、カエサル部長が台車を押して付いて来てくれた。漂白剤や染料を運んでくれるみたい。助かったよ!
「ダービー先生、ご機嫌よう」
朝一にちゃんとダービー先生がクラブハウスにいてくれた。
「ペイシェンス、ご機嫌よう。そちらは?」
私がカエサル部長を紹介する。
「この度は、錬金術クラブに協力して頂き、ありがとうございます。何かお手伝いする事が有れば、仰って下さい」
カエサル部長って、礼儀正しくしようとすれば、ちゃんと出来るんだよね。
「まぁ、ありがとうございます。ペイシェンスが皮を鮮やかに染める方法を考えてくれるだけでもありがたいんですのよ」
台車に重たい漂白剤が入った壺を乗せるのは、私では無理だったかも。
染料は乾燥している物が多いから、カサは大きいけど軽いよ。
錬金術クラブに帰ったら、先ずは漂白する為の器を作る。
漂白は一気にしたいから、浴槽ぐらいの大きさが欲しい。
「カエサル部長、スライム粉と珪素とを混ぜたいのです。大鍋を使って良いですか?」
錬金術クラブで一番大きな鍋に材料を入れる。今日は珪素を多めにするよ。
「おいおい、目分量なのか?」
カエサル部長に呆れられたけど、材料を大鍋に入れるのは手伝ってくれる。重いんだよ!
「ええ、漂白する時に使うだけですから」
こういうのカエサルとかベンジャミンの方がキチンと量るんだよね。私は大雑把かも?
混ぜた材料に「浴槽ぐらいの容器になれ!」と魔法を掛ける。うん、このくらいの大きさなら大丈夫よね。
「後は蓋を作らなきゃね!」カエサル部長は、まだ漂白剤の匂いを知らないから、首を傾げている。蓋を作って完成だよ!
巨大毒蛙の皮を浴槽の中に入れる。そこに漂白剤をドボドボ注ぐのだけど、それはカエサル部長に任せた。
壺が重くて持ち上げられなかったからだ。
「臭い!」やっと気づいて文句を言っているよ。私はクラブハウスの窓を全開にする。
そして、漂白剤を注ぎ終わったら、木の棒でかき混ぜてから、蓋をピタッとする。
「何分ぐらい漂白するのだ?」
臭そうなカエサル部長には悪いけど、ムラなく染めたいからね。
「あの薄い緑が白くなるまで漬けておかなくちゃいけないのです」
時々、蓋を外して、木の棒でかき混ぜる。
その度に、カエサル部長は眉を顰める。臭いんだね。
「これをお使い下さい」
昨夜、私は手縫いでマスクを作っていた。カエサル部長にも渡すよ。
今日は二人とも漂白剤が制服についたら白い斑点になるから、白衣を着ている。それに白いマスク! 怪しい二人だ!
「わぁ、何だ! この匂いは!」
二時間目になったら、ベンジャミンがやってきて騒ぐ。
「ペイシェンスが巨大毒蛙の皮を漂白しているのだ。漂白してから染めるそうだ」
カエサル部長がうんざりした顔で、ベンジャミンに教えている。
ベンジャミンにもマスクを渡しておこう。
「それで、漂白はいつまで続くのだ?」逃げ腰だよ!
「白くしないと、ムラに染まるみたいですわ」
二人がうんざりしている。錬金術に関しては我慢強いのに、漂白剤の匂いには我慢できないみたい。
「ペイシェンス、生活魔法で時短できないか?」
ベンジャミンの提案を試す事にした。私もこの匂いにはうんざりしていたからね。
蓋を取ると、まだ薄い緑が残っている。頑固だね!
「白くなれ!」巨大毒蛙の頑固な主張に腹が立ったから、かなり強めに唱える。
「おお、これで良いんじゃないか?」
初めから生活魔法で漂白すれば良かったね。
「漂白剤を排水しても良いのかしら?」
カエサル部長は、肩を竦める。
「手芸クラブでは、排水溝に流しているのだろう? 大丈夫じゃ無いか? まぁ、水と一緒に流した方が安全だな」
水を全開にして、少しずつ漂白剤を流す。後は乾かして、水洗いだよ。
「乾かしたのに水に浸けるのか?」
ベンジャミン、漂白剤が皮に残っていたら、上手く染められないよ!
「ええ、何度か洗わないといけませんわ」
ベンジャミンの目がキラリと光る。
「洗濯機を使えば良い!」
確かにね! でも、生活魔法の方が早いんだよ。
ベンジャミンが洗濯機を出してくるまでに、3回洗った。これで良いよね!
「えええ、ペイシェンス! 酷い」
ベンジャミンには悪いけど、これからが本番なんだよ。早く染めたいからね。生活魔法で乾かす。
「手芸クラブに洗濯機を使って貰えば良いかも? 生活魔法が使えない学生には便利だと思うわ」
カエサル部長とベンジャミンが手を取り合って喜んでいる。折角、作った洗濯機だけど使う人がいないみたい。人件費が安い世界だからね。
「それは良い考えだな。材料を無料で貰ったお礼になる」
カエサル部長は、手芸クラブに借りを返せるとご機嫌だ。やはり、上級貴族として借りをそのままにするのは良くないみたい。
真っ白になった巨大毒蛙の皮をテーブルの上に広げる。ここから染めるのだけど、アイディアが二つあるんだ。
「カエサル部長、ベンジャミン様、気球ですけど、一色に染めるか、このように2色か3色に染めるか? どちらにしましょう?」
スケッチブックには一色の気球と縦に3色に分けた気球を描いてある。
白、赤、青とかに分けても楽しそうだよね。白を間にしたら、何色でも良さそう。
「ううむ! 一色でも良いと思っていたけど、こうしたスケッチを見ると多色の方がより楽しそうな雰囲気になるな」
カエサル部長も悩んでいるみたい。私も悩んでいるから訊いているんだよ。
「難しいかもしれないが、多色の方が良い!」
ベンジャミンはセンスが良いね!
「では、白はこのままでいいとして、他は何色に染めようかしら?」
3機作りたいとカエサル部長は考えているみたいだから、ブルー系、赤系、グリーン系にする。
ブルー系にもグリーンを入れるし、グリーン系にもブルーを入れるよ。赤系のには黄色を入れる。グリーン系にも黄色を入れても良いな。
「こんな感じかしら?」
色分けの設計図を描く。それに合わせて、それぞれ染める皮の量を考える。
ああ、ここで昼休みになった。全員に生活魔法を掛ける。
「綺麗になれ!」匂いが染み付いていたけど、さっぱりしたね。
「昼食に行きますわ!」と
昼食後も錬金術クラブだ。早く染めたいな!
「ペイシェンス、凄いな! 皮を真っ白にしたんだ」
三時間目はブライスとアーサーも来ていた。
「あのう、今日の放課後は音楽クラブなのです。私は夢中になると時間を忘れてしまうから、四時間目が終わったら教えていただけないでしょうか?」
二人に頼んだけど、ブライスは四時間目は授業だ。アーサーに任せておこう。まぁ、本当は自分で気をつけなきゃいけないんだけどね。
先ずは黄色を染める。薄い色の方が染めやすいとダービー先生が言っておられたからね。
大鍋に黄色の染料を入れて、水で炊く。鮮やかな黄色にしたいから、ダービー先生が下さった資料を見ながら触媒を決める。
「この色に染まると良いのだけど……」
大鍋の中には鮮やかな黄色の染料があるけど、皮は染めるとくすんじゃうんだよね。
黄色に染める分量の皮を浸ける。
「なかなか染まらないわ」
炊きながら、木の棒でかき混ぜるけど、うっすらと黄色くなるだけだ。
「ペイシェンス、生活魔法を使えば良いんじゃないか?」
ベンジャミンの軽口で、ハッとしたよ。
巨大毒蛙の皮は染め難いとダービー先生は言っていた。普通の染め方では駄目なんだ。
「鮮やかな黄色になれ!」
かなりの魔力を込める。ああ、綺麗な黄色に染まったよ。
木の棒で取り出して「乾け!」と唱える。
「おお、綺麗な黄色だな!」
全員がやってきて、鮮やかな黄色になった巨大毒蛙の皮を触って喜ぶ。
他の色も生活魔法を使って染めたよ。これって、ダービー先生に教えても実行できるかな?
「手芸クラブには、洗濯機を寄付しておくから、ペイシェンスは余計な心配はしなくて良い」
カエサル部長が、そう言ってくれたけど、私も何かお礼をしたい。
「そうだわ! ビーズ刺繍のバッグセットをお礼にあげましょう」
残った時間で、バッグの口金を作った。
こちらでは見ていないガマ口タイプだよ。パチンと留めるの。
これと、ビーズとカルディナ街で買った鮮やかな布をセットしてあげれば、皆、楽しんで作りそう。
「ペイシェンス、それは何だ?」
ベンジャミンは首を傾げている。私が絵を描いて説明していたら、カエサル部長が頭を抱え込んでいたよ。
「それは、女の人のバッグだけでなく、他にも色々と応用できるのではないか? またペイシェンスは売れそうな物を作ったな!」
確かに財布とか、色々と使い道はあるよね! にまにま笑っていたら、タイムアップだ。
アーサーに教えて貰ったよ。さぁ、音楽クラブに行かなきゃ!
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