第22話 月曜のホームルーム

 日曜にマーガレット王女とリュミエラ王女にチョコレートの小箱をプレゼントした。ゾフィーにお茶を入れさせて、早速試食会だ。

「まぁ、まぁ! ペイシェンス、とても美味しいわ」

 花型のミルクチョコレートを口に入れたマーガレット王女の顔が綻ぶ。

「ペイシェンス、ありがとう!」

 星型のミルクチョコレートを食べたリュミエラ王女も嬉しそうだ。

「これならお母様も喜ばれると思うわ」

 まぁ、ゲイツ様が二箱とも食べてしまわなければだけどね。前よりもグッと美味しくなっているもの。一気に食べちゃいそう!

 ああ、寮にはパーシバルがいるんだ。週末会わなかったから、免疫が落ちていたのか、食堂で見た瞬間からドキドキが止まらないよ! ふーふー、深呼吸して落ち着かないと!

「ペイシェンス様、月曜は学食ですね!」

 ああ、こんな経営2の課題の為の調査ですら、デートに誘われた気になる。フィリップスとラッセルが一緒で良かったよ。

 私は、自分の感情の揺れで手一杯だ。でも、マーガレット王女とパリス王子がトレーを持って並んでいる。ああ、パリス王子も週末に会わなかったから王子様度アップだ。漫画ならバラの花を背負って出てきそうな美少年だね。ああ、マーガレット王女が冷静さを保とうと頑張っているけど、ちょっと難しそう。

 考えてみたら、今までマーガレット王女にアタックする男性はいなかった。ダンスとかには誘われていたけど、政略結婚されるのだろうと全員が一歩引いていたのだ。パリス王子の本当の目的が何か私にはわからないけど、マーガレット王女との縁談も自分の地位を確保するには有利だと考えていると思う。複雑な立場だから、あらゆる選択肢を考えているのだろう。

 夕食の後は、女子会だ。お互いに週末の報告だけど、マーガレット王女は浮かない顔だ。

「キースと一緒にデーン王国の大使館に行きましたけど、スレイプニルとやらは大きくて怖かったわ」

 リュミエラ王女は「それは大変でしたね」とくすくす笑う。

「リチャードお兄様が訪ねられたと思うけど?」

 相変わらず、マーガレット王女は恋バナ好きだ。ポッと頬を染めたリュミエラ王女、可愛い!

「ええ、リチャード様にロマノを案内して頂きました。通われているロマノ大学にも行きましたの」

 やるじゃん! 初デートだから、ロマノ見学は良いと思うよ。

「まぁ、私はロマノ見学なんかした事が無いのよ」

 それは、私も同じだよ。

「ペイシェンスはどうしていたの? 確か、何方かの屋敷に招待されていたと思ったけど」

 フィリップスとアーサーの屋敷に招待された話をしたよ。

「まぁ、ノースコート伯爵夫人と一緒のお茶会なら、ペイシェンスは大人しくしていただけでしょうね」

 その通りだよ。後、今週の土曜はベンジャミンの家で昼食会、そのままカエサルの家でお茶会。日曜は、サリエス卿が剣術指南に来られるから、お礼の昼食会を開いてマントを渡す予定。午後はパーシバルとカルディナ街に行くつもりなんだよね! 

 来週の土日は、ブライスとミハイルの家のお茶会だ。再来週、サティスフォードに行けると良いなぁ。

「何だか、ペイシェンスは忙しそうね」

 そう、招待ラッシュが終わるまでは忙しいし、その後もね!

 なんて浮かれているけど、頭の隅っこには流行病への恐怖が住みついている。月曜の空き時間にマキアス先生を訪ねてみよう。


 月曜は外交学2と地理と染色だ。地理はテストを受けて修了証書を取るつもり。染色の後の四時間目、錬金術クラブに行きたいけど、職員室までマキアス先生に質問しに行く。

「今日は一緒の授業が多いですね」

 パーシバルに言われると、普通にスケジュールが被っているだけなのに縁があるような気になる。文官コースだから、授業が被るのは当たり前だと言い聞かせないと、私の心臓のドキドキが止まらない。

 ホームルームでは、ケプナー先生が履修届の書き方や、単位が足りなくならないようにと各コース毎に注意を与えていた。本当に担任が変わって良かったよ。

 私はマーガレット王女とリュミエラ王女の履修届のチェックをする。リュミエラ王女は、ほぼ必須科目の修了証書を貰っているし、合格も多い。家政コースは刺繍1と習字1とマナー1は合格している。マナーは簡単だから、マーガレット王女と一緒に秋学期には修了証書を貰えるだろう。

「歴史は合格を貰えませんでしたわ」

 少しがっかりしているみたいだけど、文官コースの選択科目の世界史と違って、必須科目の歴史はローレンス王国の歴史がメインだから、コルドバ王国のリュミエラ王女には難しいと思うよ。

「私も秋学期中に歴史は修了証書を貰いたいと思っているから、リュミエラ様と一緒に勉強しましょう」

 おお、良い感じだ。

「それと、外国語のデーン語も一緒に勉強しましょうね! ペイシェンスは本当は修了証書が取れるのに私に付き合ってくれているの。家政コースの女学生はあまり履修していないから」

 えっ、マーガレット王女に何が起こったのかしら? 凄く思慮深い王女になった感じだけど?

 なんて感激している場合では無かった。

「今日からグリークラブの練習ですよね!」

 ああ、声が弾んでいる。ご機嫌が良いのは、パリス王子とグリークラブに行くからかも。それに、ほぼ毎日放課後はパリス王子とクラブ活動だよ。

「ええ、楽しみですの。クラブなんて入った事がなかったので」

 リュミエラ王女の声も弾んでいるけど、それは初めてのクラブ活動を楽しみにしているからだ。

 少し不安だけど、マーガレット王女を信頼するしかない。グリークラブには入らないと決めたのだから。

 パリス王子は、ブライスに聞きながら履修届を書いていた。こちらも必須科目はほとんど修了証書を貰ったみたい。魔法使いコースの選択科目も魔法陣1は合格したし、やはりデキる王子なのかも?

「ペイシェンス嬢、どのようなスケジュールになりましたか?」

 フィリップスに尋ねられて、お互いのスケジュールを見せ合う。

「かなり修了証書を取られたのですね!」

 そういうフィリップスも、自ら修了証書を取らないと決めている世界史以外は、修了証書や合格が多い。

「フィリップス、これで良いのかな?」

 ベンジャミンがフィリップスに履修届けをチェックしてもらいにやってきた。

「ええ、なかなか面白そうな先生ばかりですね」

 単位を取るのは苦労するだろうけど、ベンジャミンなら大丈夫だと思うよ。

「世界史がややこしそうだ!」と吠えているので、私の暗記ノートを譲ってあげる事にする。本当にカザリア帝国の拡張期もややこしいし、滅びた後の戦国時代なんてカオスだもの。

「これを差し上げますわ」

 修了証書用のテストを受ける為に寮に持って来ていたのだ。吠える前からあげようと思っていたよ。

「なんだ?」とパラパラとノートをめくっていたが、横で覗いていたフィリップスが「素晴らしい!」と大声をあげた。

「こんなに分かり易い図解を見たのは初めてです。ペイシェンス嬢、これを写しても宜しいでしょうか?」

 自分で写すなら勝手にしてくれれば良いよ。まぁ、ベンジャミンにあげたのだから、本人に許可を得てね。

 ラッセルもやってきて「私も写させて欲しい!」なんて言うもんだから、文官コースの学生が寄って来たよ。

「この図解を教科書に載せるべきだ!」フィリップスの熱弁に、少し引いちゃう。

「言っておくけど、これは私が貰ったのだからな!」

 ベンジャミン、文官コースの学生を敵に回す気? と心配したけど、大丈夫だった。

「だから、順番に写せば良い。先ずは一番先に声を上げたフィリップス、そしてラッセル、これで3冊になるから、すぐに写し終わるだろう!」

 ははん、ベンジャミンは古文書の写しで慣れているからね。効率的で良いよ!

「もしかして、他の科目のノートもあるのか?」

 ベンジャミン、他の学生の目が怖いよ!

「ええ、行政と法律は纏めノートが有りますけど、もう修了証書を貰いましたから屋敷に置いています」

 にやっと笑ったベンジャミンに手を出されたよ。

「来週、持って来ますわ」と約束させられた。

 あっ、歴史のカード! マーガレット王女とリュミエラ王女が勉強するのに良いかもしれない。キース王子の古典の勉強会で、何故か歴史まで教える羽目になったんだ。あのカードでお互いに問題を出して答えていけば、楽しく覚えられるよ。

 知育玩具を売り出して貰おうと思っていたのに、忘れていたよ。工房もあるから、見本を作ってパウエルさんに見て貰おう!

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