第21話 今週は忙しくなりそう

 日曜の午後は馬術教師が来るけど、今回は私はパスだ。アーサー様の屋敷に招待されているからね。手土産はメロンだよ! 昨日の夜と、朝から一番大きな実にかなり魔力を注いだんだ。他のはまだ小さな拳大だ。

 小さなバスケットに藁を敷いて、その上にメロンを1個置く。

「美味しいと良いのだけど……」

 香りは良い感じだけど、食べてないから少し不安なんだ。

「良い香りですね!」

 ヘンリーが食べたそうだけど、もう一週間は待ってほしい。

「ええ、美味しそうな香りです」

 ナシウスも食べたそうだ。

「来週には食べられそうですよ」と言い聞かせて、私はリリアナ伯母様の馬車に乗る。今日はリリアナ伯母様とサミュエルと私だ。ノースコート伯爵は、調査隊が一旦王都に帰るので、見送る為に一時領地に帰っているそうだ。

「まぁ、今度はメロンなの? 高かったでしょう?」

 ふふふ、温室で作ったのは内緒だよ。そのうちリリアナ伯母様にもあげる予定だけどね!

「アーサー様とはあまり話していないのだけど、どんな方なのだ?」

 サミュエルとは年齢が違うし、フィリップスやブライスやミハイルほど誰とでも話すタイプの人じゃないからね。

「アーサー様は、錬金術クラブの常識派ですわ。カエサル部長を支える立場で、時にはブレーキをかける場面もあるけど、錬金術への熱意も持っておられるわ」

 サミュエルは、ふぅと大きな溜息をついた。

「つまり、錬金術クラブの中では常識がある人なんだな」

 あっ、そんな言い方をされると、他のメンバーが非常識に聞こえるよ。

「サミュエル、くれぐれもアーサー様に失礼な態度をしないようにね」

 リリアナ伯母様が注意していたけど、サミュエルは完璧なマナーでお茶会を終えたよ。勿論、私も。

 ミラー侯爵夫妻は、少し年配の落ち着いた感じで、アーサーが錬金術クラブに入った時に驚いたけど、好きな事を見つけたのを応援していると話していた。良い親だね! アーサーは何とはなくお兄さんタイプだと思っていたのに、末っ子だった。だから甘やかしてしまうと両親に曝露されて、アーサーは苦笑していたよ。

 やはり、学園で見る顔と家庭で見る顔は違うね!

 玄関まで見送りに来てくれたアーサーと少しだけ話す。ほとんど私とサミュエルは口を開かなかったからね。

「もしかして、土産のメロンはペイシェンスが作ったのか?」

 小声で質問されたので、こちらも小声で「ええ」と返事をして、馬車に乗った。

「また、錬金術クラブで!」とアーサーが手を振っている。やはり錬金術クラブは良いよね!

 屋敷に送って貰ったら、馬術教師が来ていた。

「あっ、私も一緒に練習したいから、ここで降ります」

 サミュエルったら、他所行きの服のままだよ!

「汚さないように気をつけなさい」

 まぁ、ナシウスみたいに一枚しか無いわけじゃないから良いのかな? 後で生活魔法で綺麗にしてから帰そう。

 そう、前は馬をレンタルしなくてはいけなかったから、寮に戻る時間が決められていたけど、今は飼っているから、マーガレット王女が寮に来られるまでに行けば良いだけなんだ。

「ペイシェンスも練習しないか?」なんてサミュエルが言うけど、私は忙しいんだよ!

「他にもする事があるから」と断って屋敷に入る。ああ、ワイヤットが呼んでいる。

「子爵様がラフォーレ公爵家との契約の書類にサインされました。問題は無さそうです」

 私は書斎で父親がサインした契約書を一応は読んでからサインする。

「それと、エクセルシウス・ファブリカとか言う会社の書類が山ほどバーンズ商会から届いておりますが……」

 説明を求めるワイヤットの視線が怖い。言ってなかったっけ? 忘れていたよ!

「これは、リチャード王子の発案なのです。私が特許をいっぱい取っているので、目立ちすぎるのは危険だから会社を設立したら良いって事になりましたの。代表者は王宮魔法師のゲイツ様が引き受けて下さいましたわ」

 父親が王宮魔法師と聞いて驚いている。

「ゲイツ様が? 彼の方は、このような事に関わるような方だとは思わないのだが?」

 免職になる前は、まだゲイツ様は王宮魔法師では無かった筈よね?

「お父様はゲイツ様を知っておられるのですか?」

 少し懐かしい顔をして頷いた。

「ああ、ユリアンヌとゲイツ様の母親は再従姉妹になるからね。遠い親戚に過ぎないけど、ベネット侯爵家に嫁がれてからもユリアンヌには親切にして下さったのだ。だから、何度か幼いゲイツ様にも会った事があるのだよ。彼方は覚えておられないだろうがね」

 そうか、私とゲイツ様が三従兄弟なら、親同士は再従兄弟になるんだ。母親は、王妃様とも学友だったし、王妃様の実家に嫁いだベネット侯爵夫人とも仲が良かったんだ。私も女友達がもっと欲しいな! なんて呑気な事を考えている場合ではなかった。

「この書類にゲイツ様のサインが必要ですよ」

 ドサリと音がする程の量だ。それに、私と父親のサインも必要なのだ。二人で読んでサインを済ませた頃には、ドッと疲れたよ。

「これをお嬢様がゲイツ様に届けてサインを貰って欲しいとパウエル様からの付箋が付いていましたが、どういう意味なのでしょう?」

 あああ、王宮に出向いてゲイツ様から防衛魔法を習う事も言い忘れていたかも?

「それは陛下の命令で、ゲイツ様から防衛魔法を習う事になったのです。私のスケジュールは、木曜の午後が空いていますから、馬車をお願いします」

 流石に父親も呆れている。

「ペイシェンス、少し報告がおざなりになっているようだ。気をつけなさい。馬車の手配だけではない。侍女も付き添わなくてはいけないのだからね」

 えええ! メアリーも? しまった! 目立つのが嫌だからゲイツ様に王立学園に来て貰うのを避けたけど、面倒臭い事になっちゃった。早く防衛魔法を習得して、空いている時間は錬金術クラブに通いたいよ!

 部屋に上がって、持っていく物の準備をする。

ラフォーレ公爵家との楽譜販売の契約書。火曜の音楽クラブでアルバート部長に渡せば良いよね!

 マーガレット王女とリュミエラ王女に渡すチョコレートの小箱。これは、今夜渡しちゃおう!

 エクセルシウス・ファブリカ関連の書類は、メアリーに木曜に持ってきて貰う。寮も安心だとは思うけど、ゴースト会社については極秘にしたいからね。机の引き出しの中にしまっておくよ。

 そして、極小の銀ビーズの入った箱。キャメロン先生にドレスのネックラインと裾にこれで刺繍すると提案してみよう。どうやらリュミエラ王女は裁縫をした事が無さそうだから、夏物のドレス2枚の仮縫いで修了証書を貰うのは避けたいんだ。

 そして、もう一つのチョコレートの小箱。これは月曜に染色の授業でハンナが料理クラブに時々でも来て良いと言ってくれたら、手土産にするつもり。それに、料理クラブに青葉祭で協力して貰えるか聞かないといけないんだ。

 それと、絶対にマキアス先生に質問に行かなきゃ! 流行病に備えるべきなのか? それとも大丈夫なのか? 前の流行病は年寄りが重症化したと聞いたけど、今回もそうとは限らない。弟達が罹ったら大変だ!

「月曜か、火曜は学食だわ! マーガレット王女はパリス王子とどう接されるのかしら? それに今週からは音楽クラブとグリークラブに行かれるから、そこでの接触も増えるのよね?」

 王妃様から厳しく言い聞かされていたし、マーガレット王女も恋に浮かれた状態ではなくなったけど、パリス王子はやはり恋の都ソフィア出身だけあって、乙女心を揺さぶるのが上手いんだよね。パーシバルは、側仕えとして一緒にいる時に注意しておけば良いと言っていたけど、本当にそれで良いのかな?

 メアリーが馬車の用意が出来たと告げに来たので、木曜の件を話す。

「午後から王宮にゲイツ様に防衛魔法を習いに行かなくてはいけないの。だから、その時に机の引き出しの中にある書類を持ってきてね」

 メアリーはノースコートで聞いていたのか、頷いている。父親とワイヤットに言い忘れたのは失敗だな。

 寮に行く前に馬術練習をしている弟達とサミュエルに挨拶に行く。

「お姉様、高い障害もうまく飛べるようになりました!」

 ヘンリーが障害を跳ぶのを冷や冷やしながら見たけど、凄く上手い。

「上手ですわ!」と拍手しておく。

「私も跳べるようになったのです」

 ナシウスも上手く跳んだけど、やはり心臓がドキドキしちゃったよ。

「ナシウス、上手くなりましたね」と拍手する。

 でも、やはりサミュエルは乗馬クラブだけあって、スムーズに簡単そうに跳んだ。

「サミュエルは流石に上手いわね!」と褒めておこう。

「寮に行きます。皆、綺麗になれ!」

 あらら、馬まで艶々になったよ!

「ペイシェンス、乗馬クラブに入らないか?」

 馬の世話をさせるつもりなのか、サミュエルに勧誘されたけど、即行で断ったよ。

「では、行ってまいります」

 弟達の頬に軽くキスをして、馬車に乗る。メアリーは荷物を持って先に乗っていた。

 さて、今週はどうなるのかな? 王宮へゲイツ様に防衛魔法を習いに行かなきゃならない。学食の調査もしなきゃね! マキアス先生は何と仰るだろう? そして、私は週末にカルディナ街に行けるのかな? 

 マーガレット王女の事も心配だけど、私も深刻な問題から、パリス王子と一緒に受ける少し憂鬱な魔法陣2の授業や、少しドキドキする冒険の予定もある。かなりエキサイティングな一週間になりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る