第19話 土曜の朝
土曜の朝は、メアリーにハンドルを回してもらってオルゴール体操だ。ナシウスとヘンリーはいつもしているから、もうスムーズに身体が動いている。
「やはり音楽がある方が良いわ」
この大きなオルゴールを寮には持って行けないけど、外でした方が魔素の取り込みが効率的かもしれない。ただ、人の目が気になるかもね。
朝食の後は、弟達の勉強を見る。ヘンリーはナシウスが教えてくれるから大丈夫だけど、ナシウスは誰も教えてくれる人がいないからね。
「数学を教えて下さい」
他の科目は、ナシウスは賢いから読めば、ほぼ理解できる。数学の新しいページ説明をして、解き方を教えたら、サラサラと問題を解いていく。次のページの説明をして、私は工房へ向かった。
「お嬢様、この服を新しくしていただけないでしょうか?」
工房にメアリーがやってきて、おずおずと何着かの男の子用の服を差し出す。
「良いわよ! 綺麗になれ!」と唱えると、元の高級そうな男の子用の服になった。
「本来なら新調するべきなのでしょうが、成長に追いつきませんわ」
なんて申し訳なさそうなメアリーだけど、こちらこそ申し訳ないよ。
「それでお嬢様は何を作るおつもりなのですか?」
メアリーに手伝って貰おう!
「この前、色々な色のガラスビーズを作ったでしょ。今度は少し高級感のあるビーズを作るの」
メアリーの目が輝いている。錬金術は好きでなくても、ビーズとかは興味があるみたい。
小さな鍋に銀を溶かして「極小のビーズになれ!」と唱えると、鍋の中には極小ビーズがびっしりだ。
「まぁ、綺麗ですわ! これでドレスの裾や襟周りに刺繍すれば豪華になります」
ドレス関係は、メアリーのテンションが上がるね!
「ええ、でも針が通るかしら?」
針に糸をつけて、極小ビーズに通そうとしたけど無理だった。
「お嬢様、細い針を作られては?」
私は、もう少しビーズを大きくしようかな? って思ったけど、メアリーの美意識的には極小ビーズの方がマッチしたようだ。
「ええ、そうね! 極細の針を作りましょう」
それと、銀のビーズはこれで出来上がりでは無いんだ。このままでも綺麗だけど、銀は黒ずんでくるからね。薄くガラスコーティングする。
半分は透明、後のは薄いピンク、薄いブルーのコーティングにしたよ。キラキラ度アップだね!
「まぁ、宝石のカケラのように煌めいていますわ」
私が極細の針を何本か作って、作ったビーズを前に作った透明な仕切りがある箱に入れたら、本日の作業終了だ。針は無くさないように、ハギレに刺しておくよ。
「ああ、ワイヤットに相談があったのだわ!」
楽譜の売り出しの件の書類を寮に忘れて来たよ!
「メアリー、寮の私の部屋から紙袋に入った書類を持ってきて欲しいの。王宮に行ったから、持って帰るのを忘れたわ。グレアムに馬車で送って貰ってね!」
そんな大事な書類を忘れるなんて! とメアリーに叱られると思ったけど、そそくさと出て行った。何か変だな? まぁ、昼からはキャシィディ伯爵家に行くから、急いでいたのかもね?
「ワイヤット、ラフォーレ公爵家で楽譜を売り出す事になったの。私が作曲したのもあるから、契約書にサインして欲しいそうよ。お父様のサインも必要なの。その書類をメアリーに寮に取りに行って貰っているから、大丈夫か読んでおいてね!」
ワイヤットからは、重要な書類を寮に忘れた事を叱られたよ。やはり、メアリーは変だったよね? 極小ビーズで作る物を考えていたのかな?
「お姉様、温室に行きましょう! メロンとスイカの花が咲いていましたよ!」
ヘンリーが走ってやってきた! やったね! 花が咲いたら、しなきゃいけない事があるんだ。
「お嬢様、これからはどうしたら良いのでしょう?」
今日は土曜だから、ジョージは温室の手入れだ。
「ふふふ、スイカもメロンも雄花と雌花があるのよ。で、一つの苗から、一個だけの雌花を残して、他のは取るの。そして、雄花の花粉を付けるのよ」
魔力で押したから、黄色い花がいっぱいついている。苗、一本に一個だけなんて、勿体ない感じだけど、秋だし、欲張ったら駄目な気がする。
「お姉様、どれが雌花かわかりません」
ナシウスの質問に、上の方にある雌花と雄花を一つずつ取って説明する。
「ほら、よく見て! 雌花の下には子房があるわ。まぁ、スイカの模様がもうあるのね!」
弟達だけでなく、ジョージとマシューとルーツもマジマジと見ている。来年は、春から作るからしっかり覚えてほしい!
「どの雌花を残すべきなのでしょうか?」
ううん、それは知らないんだ。農家に育ったら良かったけど、都会育ちなんだもの。ジョージに任せよう。
「多分、一番上のは駄目だと思うし、あまり下のも良くない気がするわ。そこまでは本に書いてなかったのよ。真ん中辺の大きな雌花を残して、後は取ってしまいましょう」
弟達も張り切って雄花を取るのを手伝う。雌花はジョージが一本ずつ残す雌花を決めて、他のを摘むから手を出さないよ。
「この雄花の花弁を取って、この花粉を雌花にそっとポンポンして受粉させるのよ」
ヘンリーが乱暴にして雌花の茎を折らないか心配したけど、優しくポンポンしている。
「実がなったら、スイカとメロンが食べられるのですよね!」
ああ、食欲が優っているんだね! 可愛いからキスしておこう。
「ええ、夏がおわっているから、甘味は少ないかもしれないけど、花が咲いたなら実もなると思うわ」
作業が終わったので、かなり魔力を込めて「美味しいメロンとスイカになれ!」と押しておく。
「それにしても、今年はなかなか涼しくならないわね?」
作物にとっては良いのだろうけど、少し変な感じがする。地球温暖化なんて、異世界には無さそうなんだけど? 化石燃料が見つかっていないんだよね。無いとは思わない。ダイヤモンドがあるぐらいだもの。ただ、地中深くにあって掘削できないのかもしれない。
そんな事を考えていたら、メアリーが寮から書類を取ってきてくれた。
「その書類はワイヤットに渡しておいてね!」
私は、エバからチョコレートを受け取らなきゃね!
「まぁ、とても綺麗にできているわ!」
やはりエバに任せて正解だよ。私が前世で作った手作りチョコとは、全く完成度が違う。
「これでよろしいでしょうか?」
エバは王妃様が召し上がるのにと心配そうだ。私は、皿に残っているハート型のミルクチョコレートを割って、口に入れる。
「これ、これよ!」前のは健康的なカカオ75%のチョコレートだったけど、私が好きなのはミルクチョコレートなんだ!
「ほら、エバもミミも食べてみなさい」
エバは半分残ったハートをさらに半分に切って、自分とミミで試食する。
「美味しいです!」ミミが泣いているよ!
「こんなに美味しい物は食べた事がありません!」
エバも自信回復したみたい。オレンジピールの半分チョココーティングしたのも、一本摘む。
「まぁ、とても美味しくできているわ。オレンジピールの少し残った苦味とダークチョコレートが凄く合っているわ」
これも、エバに渡したら、縦に半分に切ってミミと試食している。
「これなら、王妃様に献上しても恥ずかしくありません!」
おお、エバが胸を突き出して笑っている。嬉しそうで良かった。エバには苦労を掛けたからね。
「このチョコレート5箱とマントをバーンズ公爵家に届けてね」
今日はメアリーは忙しいね。でも、何だか浮き浮きしているように見える。チョコレート、好きなのかもね?
マントは何と桐の箱に入っている。私は、普通の紙の箱に入れて渡したんだけど、桐の箱に入って返ってきたんだ。まぁ、プレゼントするには高価そうに見えて良いかもね?
「その箱は持ちましょう!」サッとグレアムがメアリーから桐の箱を受け取って馬車に運ぶ。あれれ? メアリーの頬が赤い気がする。えっ、もしかして??
ううん、グレアムが普通にグレンジャー家の使用人なら問題ないんだけど……まぁ、見守っておこう。メアリーは、母親の侍女見習いとして実家のケープコットから付いてきた忠義者だ。幸せになって欲しい。
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