第18話 休日は忙しい

 金曜に帰ったから、少しだけ弟達と一緒の時間が増えたのは嬉しい。

「お姉様、お帰りなさい!」

 二人を抱きしめて、キスをする。ゾフィーがワイヤットに王妃様からの籠を渡しているのも一緒だ。

「ナシウス、ヘンリー、お父様がいらっしゃらなくても勉強をしていましたか?」

 二人が頷くのは分かっていたよ。ちゃんと勉強をする習慣を身につけさせていたからね!

「それに毎朝の体操もしています!」

 ヘンリー、なんて可愛いんだろう。二度目のキスをしておこう!

「お姉様、明日のフィリップス様の屋敷に私も行って良いのでしょうか?」

 殆どの招待状は、ノースコート伯爵夫妻とサミュエルと私だったけど、歴史に興味があるナシウスは、フィリップスに招待されている。

「ええ、勿論だわ。それに彼方が招待されているのですから、ナシウスは素直に受け止めたら良いのよ」

 そうだ! キャシディ家に手土産を用意しなくては!

「温室に行きましょう!」

 弟達と温室に向かう。スイカとメロンの葉っぱは茂っていたけど、まだ実はつけていない。残念! 少し、成長を後押ししておこう。

「バラはまだ秋咲きのがあるから、そうだわ! どうせ、チョコレートをつくるのだから、それを手土産にすれば良いのよ!」

 問題は、私が台所に行くのを、メアリーが良い顔をしない事だけど、工房ですれば良いんじゃないかな?

「ナシウス、ヘンリー、手伝ってね!」

 生活魔法を使えば簡単にできるけど、台所から道具や材料を運ばなきゃいけないからね。

「はい!」二人とも良い返事だ。チョコレートを作るからかもね?

「お嬢様、バーンズ公爵家からカカオ豆や砂糖や生クリームがいっぱい届きました。これは、チョコレートの材料ですね」

 ああ、でもエバの楽しみを取っちゃうことになるね。少し予定変更だ。

「あのチョコレートは、まだ私しか作れないの。

洗って、ローストするまではエバに任せるわ。少し多めに作らないと、欲しがる方が多いいの」

 前に作った5倍のカカオ豆をミミに手伝わせて洗っている。本当は生活魔法だと簡単に綺麗になるけど、作り方を覚えて欲しいからね。

「ナシウスとヘンリーには、チョコレートを入れる箱作りを手伝って貰うわ」

 私の工房で、小さな箱を何個も作る。ナシウスは手先が器用だし、ヘンリーはナシウスのを見て身体強化で真似している。

「中は、綺麗な布を敷きましょう!」

 手土産なのだから、少しゴージャスにしたい。

「メアリー、この時期にある果物って何かしら?」

 メアリーは、私が台所に入り浸らないように見張っていたけど、弟達と工房で箱を作るのはギリギリセーフみたい。

「梨と林檎は少し早いですわ。南の土地からのオレンジが八百屋の店頭に並んでいますけど……」

 私が手を叩いて喜んだから、メアリーが驚いている。前世で、オレンジピールやレモンピールにチョコレートコーティングされていたの大好物だったんだよね! それに、半分だけコーティングするのだと、チョコレートの節約になるよ。

「メアリー、オレンジを10個ほど買ってきて!」

 メアリーがお使いをしている合間に、台所に急ぐ。洗ってローストしてあるカカオ豆を砕いて、殻と芽を取り除く! そして「細かく、滑らかになれ!」と生活魔法を唱える。

「エバ、これに砂糖を入れてかき混ぜて、少し冷ましてから、また温めるの。その後で、半分に分けて片方のには生クリームを混ぜてね!」

 レシピを渡して、弟達が箱を作っている工房に帰ったら、メアリーがオレンジを10個買ってきた。ナイスタイミングだよ。

「ヘンリー、ナシウス、このオレンジに塩を塗してゴシゴシするのよ!」

 三人でするとあっという間だね。

「お姉様、オレンジの皮を使うのですか?」

 ナシウスは鋭いね!

「ええ、今回のお菓子はオレンジピールで作るのよ」

「オレンジピール?」二人とも知らないみたい。砂糖をいっぱい使うから、貧乏なグレンジャー家では食べた事が無いのかも。

「先ずは、半分に切って、中の実は夕食のデザートに使ってもらいましょう」

 クレープシュゼットに良いけど、生憎ブランデーは無いよ。オレンジ風味のクレープだな。

「ヘンリー、少しだけですよ!」

 半分に切ったオレンジの中身をスプーンでくり抜いているのだけど、ヘンリーはそのまま口に入れちゃった。

「これで美味しいデザートをエバにつくって貰うのですからね」

 ヘンリーもその後はオレンジを食べたりしなかった。

「メアリー、これをエバに渡してちょうだい」

 ここからは、本当はスプーンで内側の白い部分を削るのだけど、生活魔法で時短する。

「白い部分はこちらに集まれ!」

 オレンジ色の皮だけになったよ。これを3回茹でこぼして、砂糖シロップで炊くんだ。そして、細く切って干しても良いけど、低温のオーブンで焼く事にする。これは、エバに任せる。もう、メアリーの目が怒ってきているからね。

「エバはオレンジピールを使ったことがあるかしら? 一応はレシピを書いたので、それを見て作って。チョコレートは、いい感じね! 生クリームを入れた方は、この型に入れて冷やしてちょうだい」

 弟達に箱を作ってもらっている間に、錬金術で小さな型を何個も作ったんだ。前世の板チョコの小さい版の型と、小さな花型や星型やハート型が並んでいる型だ。

「これに生クリームが入ったチョコレートを入れて固めるのですね!」

 エバの声が弾んでいる。やはり、エバに任せて良かったよ。

「薄く作ってあるから、こうして捻れば固まったチョコレートは取れると思うけど、取れなかったら少し湯煎して温めてね」

 オレンジピールのチョコの方はレシピと図を書いて任せるしかない。もどかしいけど、仕方ないよね。

「できあがったら、この箱に綺麗に入れてね。バーンズ公爵家に3箱、明日訪ねるキャシディ伯爵家、ノースコート伯爵家、それとマーガレット王女、リュミエラ王女、ゲイツ様と王妃様用ね! あっ、友達に渡すのもあるわ。残ったのは、私たちで食べましょう!」

 エバは、バーンズ公爵家からカカオ豆が届いたのだから、そこは普通に頷いていた。キャシディ伯爵家も手土産には素敵だろうと笑っていたし、ノースコート伯爵家には夏休み中お世話になったと頷いたけど、マーガレット王女、リュミエラ王女、辺りから顔が強張ってきて、最後の王妃様用と聞いて青ざめた。

「王妃様に献上するのですか?」

 ああ、こんなに緊張するなら言わなければ良かったな。

「バーンズ公爵家に5箱渡すの。2箱は、ゲイツ様に持って行って貰うわ。ゲイツ様が1箱王妃様に渡されるかどうかは分からない。王妃様はゲイツ様の叔母様になるみたいで、お父様の説教をやめて欲しいとお願する為に渡すとか言っていたけど、チョコレートに目がないから食べちゃうかも?」

 エバは、王妃様用のチョコレートを食べても良いのでしょうか? と首を捻っている。

「兎に角、お願いしておくわ!」

 メアリーの目がだんだんと座ってきているので、台所から退散する。

「お嬢様、ゲイツ様は王妃様の甥子様なのですか? そんな方に少し気易い話し方過ぎませんでしょうか?」

 あっ、そっちで怒っていたんだ。なら、もう少し台所にいても良かったのかな?

「それは、ゲイツ様が許可して下さったから大丈夫なのよ。それより、明日のナシウスの服は大丈夫かしら? あの子、また背が伸びたんじゃないかな?」

 メアリーは、ハッとして去って行った。本当にナシウスは、毎日背が高くなっている気がするよ。私も、少しは成長しているけど、どうもすらっとした美人にはなれそうもない。母親の方に似て背は低いのかもね。

 夕食のデザートはオレンジ風味のクレープに少しだけチョコが糸のように細くかけてあった。

「この茶色のは美味しいな」

 珍しく父親のコメントがあったよ。

「これは、お姉様がサティスフォードのバザールで見つけたカカオ豆で作られたチョコレートです」

 ナシウスが説明してくれた。

「そうか、ペイシェンスは色々な料理を知っているのだな」

 まぁ、前世の知識だけどね。ナシウスのディナージャケットの袖が短くなっている。ということは昼のジャケットの袖もだね。やれやれ、ヘンリーにお休みのキスをしたら、メアリーを手伝いに行かなきゃ! 休日は忙しいよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る