第82話 可愛い!
「こちらが私の勉強部屋なのです」
アンジェラの勉強部屋は、女の子らしい白とピンクで飾られていて、勉強部屋というよりプチサロンだった。それに白いハノンが乙女チックさをアップしている。
白いレースのカーテンが風にそよいでいる部屋で、ピンクのクッションが置いてある白のソファーに座ってお喋りする。
「リチャード王子様がノースコートに滞在されたのですよね。噂通りの素敵なお方なのでしょうか?」
わぁ、初っ端から恋バナ? いや、憧れの王子様の話かな?
まぁ、アンジェラとの恋バナは楽しいから良いんだけどね。色々な話をしたけど、それは秘密!
でも、少し気になる話もあった。
「この前、屋敷に泊まられた方が東方のカルディナ帝国の話をされていましたわ。私は東の果ての帝国は文明が遅れているとばかり思っていたのですけど、帝都レオマはとても素敵でエキゾチックな都市だそうです。お土産に扇を頂きましたのよ」
引き出しから取り出して見せてくれた扇は、絹張りで緻密な絵が描いてあった。
「まぁ、とても素敵ですね。見せて貰っても宜しいかしら?」
手に取って眺めると、前世の中国っぽい絵柄で、五重塔みたいな建物や赤く塗られた橋や池や柳などが細かく描かれていた。それと、一番驚いたのは隅に画家か職人の署名があり、漢字に近い文字だったことだ。
「第二外国語はカルディナ語でしたが、このような文字では無かったと思っていたのに?」
履修要項に記載されていた文字は、元カザリア帝国が使っていた文字と同じだった。
「さぁ、それは分かりませんが、言葉が通じなくて困ったとも言われていました。あんな東の果てまで商売の為とはいえ行かれる方もいらっしゃるのですね」
考えられないとアンジェラは首を横に振ったけど……東の果ての国、凄く興味があるよ。もしかしたら米とか作っていないかな? 東洋風の風景に期待しちゃう。
その後は、サロンに降りてお茶をしたけど、上機嫌のリリアナ伯母様と渋い顔をしないようにしている伯父様の様子で、かなり高価な物を買ったのだと分かった。まぁ、今年の夏は私がカエサル達を呼んだり、陛下が視察に来られたり、調査隊が来たり、ゲイツ様やリチャード王子まで来たからね。ホステス役のリリアナ伯母様はとっても忙しかったから、良いんじゃない?
お茶をしていると港の見学を終えたサティスフォード子爵とサミュエルと弟達が戻ってきた。わぁ、楽しそうなヘンリーの顔! 一緒に行けば良かったかな?
お茶の時間に子守りがアンジェラの弟達を子守りが連れてきた。めちゃくちゃ可愛い!
エイムズは6歳、ジェイミーは4歳ぐらいかな? アランはよちよち歩きだ。もう、目が釘付けだよ。
「エイムズ、お客様に挨拶しなさい」
ラシーヌに言われて「いらっしゃいませ」とエイムズが挨拶をした。前歯が生え変わっている途中で、もう抱きしめたいぐらい可愛いの!
挨拶が終わったら、子守が子供部屋へとつれて行こうとする。残念!
「お母様、ペイシェンス様はとても小さな子供がお好きみたいなのです。それにヘンリー様にはエイムズと遊んで貰っても良いかもしれませんわ」
アンジェラに私の好みを見抜かれている? 私はショタコンですが、変態ではありませんよ!
「では、エイムズはここに残っても良いわ。ジェイミーとアランは子供部屋の方が良いでしょう」
でも、エイムズはサロンで行儀良くしているのが窮屈そうだ。私の我儘に幼い子供を突き合わせてはいけないね。
「ヘンリー、エイムズと一緒に子供部屋で遊びましょう」
それにお土産も作ってきたんだ! 幼い子が喜んでくれそうな玩具だよ。メアリーに子供部屋に持ってきて貰おう。
「お姉様、私もヘンリーと一緒に子供部屋で遊んでも良いでしょうか?」
ナシウスがそう言うとサミュエルも一緒に来ることになった。
子供部屋は、勉強部屋というよりも育児室だった。まぁ、アンジェラがここで勉強できないと別の部屋を欲しがるのも理解できるね。
「エイムズ、こちらはペイシェンス様とナシウス様とヘンリー様よ」
下の二人は子守りと床に座り込んで遊んでいるので、エイムズにだけ挨拶する。
「エイムズとジェイミーとアランに玩具を持ってきたの」
そう、私は海水浴なのに大事な物を作るのを忘れていたんだ。ノースコートを去るギリギリに作ったのをお土産にしたんだよね。
「ペイシェンス様、これは何でしょう?」
メアリーに荷物の中から取り出して貰ったビーチボールの中には鈴を入れてある。
「これは膨らませて遊ぶボールよ。サミュエル、ナシウス、ヘンリー、膨らませて下さる?」
ビーチボールは大、中、小と作ってある。アンジェラの弟達は三人だからね。
身体の大きさ順で、サミュエルに大、ナシウスに中、ヘンリーに小を渡したけど、キョトンとしている。あっ、風船とか無かったね。紙風船なら作れそう!
「ええっと、その突起の蓋を開けて、口をつけて空気を中に吹き込むのよ」
ヘンリーが一番に膨らませた。小さいビーチボールだったからね。ナシウスとサミュエルは苦戦している。フーフーしている顔、可愛いな!
「ほら、膨らませたよ」
ポンと投げたら、中の鈴がチリンチリンと鳴って、床に座り込んで遊んでいたジェイミーとアランが目を上げる。わぁ、上目遣いの幼児、最強じゃん!
「これを投げて、当たったとしても痛くないから、遊ばせても良いですか?」
子守りに許可して貰って、膨らませた中と大も混ぜて遊ぶ。
「ほら、こうして落とさないようにボールを回すのよ」
私がヘンリーにポンとビーチボールを投げると、手でポンとエイムズに渡す。うん、海岸でしたかったね!
エイムズはサミュエル、ナシウス、ヘンリーと遊んでいるから、私とアンジェラは、床を転がるビーチボールを追いかけるジェイミーとアランを見て笑っているよ。
「こうやって見ると、エイムズもジェイミーもアランも可愛いですわ。いつも、私のリボンをくちゃくちゃにしたりするから苦手でしたの」
ここで勉強していたら、後ろからリボンとか解いたりする事もあったんだろうね。お姉ちゃんは大変だ。
「妹なら、もう少しは一緒に遊んだかもしれませんけど……元気すぎて!」
ああ、ジェイミーとアランがボールの取り合いになって喧嘩している。子守りがアランを抱き上げたけど、不満なのか反り返って泣いている。
「確かに、賑やかだけど……私はあまり気にならないわ。ほら、ジェイミー、アランに一つあげなさい」
見知らぬ女の子から言われて、ジェイミーは二つ持っているビーチボールの小さい方を渡してくれた。
「アラン、ほら、ボールよ」
子守りに抱かれたまま、ボールを受け取ったアランはニマッと笑う。末っ子は嘘泣きが得意だね! 私も前世では末っ子だったから分かるよ。
お昼寝の時間になったので、子供部屋から出る。
夕食までの間、ちょこっとだけアンジェラの勉強部屋で話をする。夕食には着替えないといけないから、本当にちょこっとだけね。
「明日は、バザールを案内する予定です。私も滅多に連れて行って貰えないから楽しみですわ」
アンジェラもあまりバザールには行ったことがないんだね。私も楽しみにしているよ!
「ええ、サティスフォードに着いた時、風に乗って香辛料の香りが届きましたわ」
ふふふ……とアンジェラが含み笑いをする。
「何かしら?」気になるよ!
「今夜のお食事は少し南の大陸風なのもお出しするとお母様が言っていたのです。辛いのが苦手な方用にローレンス王国風にアレンジしてあるから大丈夫ですわ」
私がびっくりした顔をしたので、アンジェラが慌てて説明してくれたけど、香辛料を使った料理! 凄く楽しみ!
「まぁ、どんな料理なのか、楽しみですわ」
ここで、ミアとメアリーが呼びに来たので話は終わりだ。夕食の為に着替える貴族の習慣にも慣れては来たけど、そう言えば寮では着替えないんだよね。そこもマーガレット王女的には楽なのかも?
「メアリー、今夜の料理には香辛料が入ってる物もあるみたい。楽しみだわ。明日のバザールで香辛料を買って帰ろうと思うの。エバにレシピを渡せば作ってくれるかしら?」
メアリーは、口に出しては反対はしなかったけど、香辛料の入った料理を食べてからにしたら如何でしょうって顔をしている。どうやらケープコットでは香辛料をあまり使わないみたいだ。それはグレンジャー家でもだよ。塩と少しの胡椒(本当にちょこっと)あとは、庭で育てているハーブ……まぁ、充分に食べられるようになっただけでもありがたいんだけどさ。カレー食べたいなぁ! 香辛料の風を嗅いだ時から、カレーに洗脳されちゃっているんだ。
さっと湯浴みして、薄いブルーのドレスに着替える。金髪にはブルー系と言われるけど、前世では黒髪だったから、いまいちよく分からない。でも、赤とかも金髪に映えるよね。その辺のファッションルールも誰かに教えて貰いたい。
「お嬢様、バザールで髪飾りとかを見てはどうでしょう?」
今夜はリリアナ伯母様から貰った星形の水晶の髪飾りを付けるけど、普段使いのが少ない。やはり、メアリーは料理の材料より、リボンや髪飾りを買う方が令嬢に相応しいと思っているみたい。
「ええ、そうね! それに屋敷に残っている人達へのお土産も買いたいわ」
家へのお土産は、リリアナ伯母様が用意してくれると言っていたけど、それとは別にちょこっとした個人的なお土産が買いたい。それは、メアリーも同感みたいだ。ちょっとした表情の変化だけど分かるよ。同僚のエバ、そして下男のジェームズ、マシュー、そして執事のワイヤット? ワイヤットって謎が多い。グレンジャー家より良い家でもやっていけそうなんだけど?
「ねぇ、ワイヤットって何故グレンジャー家で執事をしているのかしら?」
メアリーが目を一瞬見開いて、そそくさとブラシとかを片付ける。何か秘密があるの? メアリーが貧乏になってもグレンジャー家に仕えているのは、母親に忠実だったからだと思う。だから、ワイヤットも何か理由があるのかなって思って聞いたのだけど……謎が増えた気分だよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます