第69話 離宮のお茶会

 海水浴でジェーン王女もリフレッシュできたみたい。それと浜辺の女子会でリュミエラ王女の件を話し合って、マーガレット王女もジェーン王女も何か覚悟が決まったみたいな顔つきになった。


 お茶の時間になったので離宮に戻り、用意された各人の部屋で素早くお風呂に入って着替える。


「乾け!」私は生活魔法があるから、楽だよ!


「本当にお嬢様の生活魔法は素晴らしいですわ」


 メアリーは生活魔法が使えたら便利ですのにと小さな溜息をこぼしながら、髪の毛を整えてくれる。


「それにしてもこんなに海水浴をされているのに、少ししか日焼けされていませんね。アンジェラ様やナシウス様やヘンリー様やサミュエル様も薄い小麦色ですが……まさか生活魔法を使われているのですか?」


 生活魔法なのかな? 海水浴の後で「綺麗になれ!」と毎回掛けているんだけど?


 特にナシウスとサミュエルは色白だから、海水浴をすると真っ赤になっちゃうんだ。海水でベタベタしたまま馬車に乗りたく無いから「綺麗になれ!」と毎回掛けているけど、そう言えば赤くなっているのも治まっている。


 これって治療になるのかな? 生活魔法が今のエステナ教が教え広めている魔法体系では説明不可能だと段々と分かってきた。前は私が転生者だから、少しヘンテコなのかなって深く考えていなかったんだよね。


「お嬢様、もしかして美容もできるのでしょうか?」


 メアリーの目が期待でキラキラしている。うん、少しメアリーの鼻の先っぽと頬にはソバカスがある。私の海水浴に付き合って濃くなっているかも?


「まぁ、駄目かもしれないけど……綺麗になれ!」


 えええ……私ってエステシャンで食べていけるんじゃないかな?


「お嬢様、ありがとうございます!」


 元々のソバカスは消えては無いけど、かなり薄くなってよく見ないと分からない程度になっている。うん、メアリーは初めからソバカスがあったから、これが個性だと思っているから消えなかったのかも。


 魔法を使ったから、魔素を補給しておく。これはゲイツ様から教わった呼吸法でやるよ。深く息を吸って前世で言う丹田に魔素を溜める感じで何回か深呼吸する。海水浴の疲れも回復した気がする。


 これを毎日すれば、ペイシェンスの体力強化になるんじゃないかな? あっ、そうだ! 前世のラジオ体操、あれってよく考えられているんだよね。深呼吸もあるし、それに夏休みといえばラジオ体操だもんね!




 着替えてナシウスとサミュエルとアンジェラとサロンへ行く。ヘンリーはマーカス王子と子供部屋で子守りとお茶をしている。今回は陛下もいらっしゃるから、私も子供部屋の方が気楽そうで羨ましいよ。


「サミュエル、調査隊は揉めているみたいだな。その上、ゲイツまで厄介になっているとは……私の留守を頼んで来たのに仕方ない奴だ」


 そうか、陛下が王都を離れて休息している間の留守番をしている筈のゲイツ様が勝手に離れちゃったんだね。なら、王都に帰るように命令してくれるかも。調査も進んだし、私や弟達にも魔法の新しい使い方のヒントもくれたのは良いんだけど、やはりあの人は疲れるんだよ。


 それと……私の中のペイシェンスに気づかれたくない。私がゲイツ様を避ける本能的な理由かも知れないね。近頃は、転生した時ほどはチェックが入らなくなってきたけど、まだ残っている。彼の方は私の考えている事が薄らだけど分かるみたいだし、やはり王宮魔法師としての能力は優れているから要注意なんだよ!


 なんて考えているうちにサミュエルはノースコート伯爵家の跡取りとして、ちゃんと陛下と話している。すごく成長したね!


「この報告書でも保護したいヴォルフガングと研究したいグースの立場の違いが明白だ。その上、ゲイツが掻き乱している様だな……それに動力源は視察したい……」


 あっ、王妃様の笑顔が深くなっているよ。夏の離宮でしか陛下とゆっくり過ごせないのに、二度目の視察は駄目なんじゃないの? ここには休息に来ているんだし、王都では忙しくて王妃様と過ごす時間も少ないのでは?


「ええ、視察に行かれたら良いですわ。リチャードも帰ってくるみたいですし」


 へぇ、コルドバ王国からは船旅だから夏の離宮に来るんだね!


「そうだな! リチャードからコルドバ王国について聞きたいので、もう一週間いよう!」


 陛下には、是非、ゲイツ様を王都に帰る様に命じて頂きたいです。まぁ、今朝はヘンリーも朝食は一緒だったけどね。リリアナ伯母様から「ヘンリー君も一緒でいいです」とゲイツ様が言われたと教えて貰ったけど、それってまず馬を射ようとしているんじゃないよね?


 顔と収入は合格だけど、あの唯我独尊男と結婚は無理だと思う。でも、弟達に親切なのは将を射る為だとしても好条件なんだよね。駄目! お金に弱いのは困ったもんだよ。まぁ、この異世界では財産と地位はとっても重要みたいだから、段々と染まったのかな? いや、グレンジャー家があまりに貧乏だったから金に弱くなったんだよ。


 なんて考えているうちに、陛下がまた視察に来る事が決定した。王妃様はもう一週間一緒に離宮にいれるから、1日の視察を許したみたいだね。


「リチャードもカザリア帝国の遺跡の視察に行くかもしれませんわ。サミュエル、お願いしておきますね」


 リチャード王子なら、あの二人の教授も上手く操縦してくれるんじゃないかな? 私は、そろそろ夏休みの自由研究の仕上げに取り掛かろう。


 絵画刺繍をまずは仕上げて、ラジオ体操用のオルゴールを作って、マギウスのマント用の銀糸を作り、やっぱり気球の模型でも良いから飛ばしたい!


 本当はオルゴールじゃなくてレコードとプレイヤーを作りたいけど、時間的に無理だからオルゴールにしたんだ。これは異世界にもあるんだよ。ワイヤットが差し出した骨董品にあったんだ。木の箱と金属の筒、そして魔石が必要なんだよね。前世のはゼンマイだったけど、魔石の小さいのならノースコートの町でもあるから、メアリーに買ってきて貰おう! 回転する魔法陣は扇風機のを応用できるよね。それにノースコートには錬金術クラブのメンバーが勢揃いだから教えて貰える。


 それとアンジェラは明日には帰ってしまうけど、絶対にサティスフォードには行きたい。アンジェラの弟達に会いたいし、なんたってバザールがあるんだよ! 南の大陸から色々な物が運ばれているんだもん! 米とか、米とか、ないかな? 私はパンも好きだけど、やはり元日本人としては米が食べたい!


 なんて気がそぞろだったけど、王妃様の発言で驚いたよ。


「秋学期からは、リュミエラ王女だけではなく、ソニア王国のパリス王子も留学されると外務省から手紙が来ましたわ。それとデーン王国のオーディン王子も留学したいとのことです」


 マーガレット王女とジェーン王女が驚いている。知らなかったんだね。やはり縁談がらみなのかな? 14歳のヨーゼフ王子は、マーガレット王女のお相手候補、そして12歳のオーディン王子はジェーン王女?


「母上、ヨーゼフ王子は中等科2年でしょうか? オーディン王子は初等科3年ですか?」


 年齢は伝わっているけど、それが満年齢なのかは分からないからね。それにリュミエラ王女みたいに一学年上に編入とかあるし、秋学期から初等科3年のキース王子が気にするのも分かるけど、ライバル視はやめてね!


「さぁ、そこまでは書いてありませんでしたが、ヨーゼフ王子は従姉妹のリュミエラ王女と同じ学年を選ばれると思いますわ。オーディン王子は年齢的に初等科3年かもしれませんね」


 ヨーゼフ王子は、リュミエラ王女の従兄弟になるんだね。それを口実にマーガレット王女と同じクラスになるのかも?


「そうか、オーディン王子は馬術が得意なのでしょうか? 伝説の六本脚馬スレイプニスを連れて来られると良いのですが……」


 世界史や地理でも習うけど、デーン王国の騎馬隊は勇猛果敢だ。馬も、ローレンス王国の馬より毛深くて種類も少し違うみたい。伝説の六本脚馬スレイプニスはとても大きいと書いてあったけど、ここの馬でも私には十分に大きいよ。前世の馬より大きく感じているんだけど。


「さぁ? 来られればわかりますよ」


 キース王子の緑色の目がキラキラしている。えええ、ジェーン王女の緑色の目もキラキラしているよ。そんな怪物みたいな大きい馬に乗りたいものなのかな?


 マーガレット王女とヨーゼフ王子はどうなるのか? リュミエラ王女のお友達だけでも荷が重いけど、それは一人で外国に来られるのだから親切にしてあげようと思うから良いんだよ。でも、ヨーゼフ王子と友達になるかは保留だね。恋愛主義のドンファンなら、側仕えとしてガードしなきゃいけないかも? 秋学期が不安になってきたよ。


 なら、遺跡の調査は調査隊に任せて、私はしたい事をしよう! 秋学期がどうなるか分からないなら、夏休みを満喫しなくちゃね!




 私は帰りの馬車で、これからの計画を立てる。


「アンジェラ、絶対にサティスフォードには行きたいわ!」


「ええ、是非いらして下さい」


 王都に帰る途中でも良いから、サティスフォードには寄りたい。これはラシーヌにも手紙で頼んでおこう。染め物と巨大毒蛙のネバネバで儲け話になったから、きっと招待してくれるよね!


 あっ、ナシウスとヘンリーと塩を作る約束もしていたんだ。これは海水浴に行った時にしよう。


 オルゴールの箱には貝殻を貼り付けても可愛いかもね。音楽はラジオ体操の曲にしよう。だってあれじゃないと駄目なんだもん!


『1、ナシウスとヘンリーと塩を作る。2、絵画刺繍を仕上げる。3、オルゴールを作ってラジオ体操をする。4、マギウスのマント用の銀糸を作る。5、熱気球の模型を作る。6、サティスフォードに行く!』


 何か忘れているような気がするけど……あっ、コーラスクラブ用の歌だ。今はパスだね! リュミエラ王女がコーラスクラブに入って、そこの活動に不満を持ってからで良いんじゃないかな? それに、初雪祭まで音楽クラブは合奏の練習もあるから、マーガレット王女も忘れてしまわれるかもしれないしね。


 秋学期の目標は『1、魔法陣を自分で書けるようになる。2、なるべく多くの終了証明をとる。3、避難ボート、救命胴衣、浮き輪、カッパ、長靴……これらの作製。4、ミシン! 5、熱気球の作製。6、リュミエラ王女の友達になる?』かな?


 リュミエラ王女の友達は、相手次第の点もある。マーガレット王女は義理の妹になるのだし、王族だから友達になっても良いと思われるかもしれないけど、子爵の令嬢、準男爵なんかとはなんて考える方だと難しいな。


 でも、リチャード王子は、そんな考え方の妃は娶られないと思う。だから、かなりリュミエラ王女はできる方なんじゃないかな? そう期待したい。となると、私はマーガレット王女の側仕えを優先しなきゃね。やっぱりミシンが最優先かも! あの縫い目をリュミエラ王女に見られたくないよ。

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