第63話 何故、一緒に?
カザリア帝国の遺跡をナシウスとヘンリーが嬉しそうにゲイツ様を案内している。人を信じる弟達は愛しく感じるけど、お姉ちゃん、少し心配だよ。
本当は、何処かに腰を掛けて馬車の迎えを待ちたい所だけど、ゲイツ様が弟達を誑かすのでは無いかと心配なので、私も一緒に見学している。
「あそこの建物の中に魔導船の壁画が残っているのです」
ナシウスって、本当にしっかりしてて自慢の弟だよ。前世の旅行コンダクターにもなれそうだよね。
「お姉様、お手をどうぞ!」
廃墟に入る時にヘンリーが手を差し出してくれる。可愛い紳士だ。
「ありがとう」
本当にゲイツ様がいなければ、愛しい弟達とのんびり見学するのは楽しいんだけどね。それに……何故かヴォルフガングとユーリとフィリップスも一緒なんだよ。
「ゲイツ様、小脇に箱を抱えたまま転んだりされたら大変です。うちの助手に持たせましょう」
そう、ゲイツが小脇に抱え込んでいる古文書が入った箱からヴォルフガングを引き離すことは無理みたい。
「ヴォルフガング教授、少し離れて下さい。貴方は何度も壁画を見た事があるのでしょうが、私は初めて見るのですよ!」
まぁ、ピッタリ引っ付かれたらゲイツ様も鬱陶しいよね。
「ゲイツ様、その箱をユーリ様に持って頂いたらどうですか?」
若い男の側にピッタリとくっついている初老のヴォルフガングは大変そうだし、弟達に絵面的にあまり見せたく無い。
「ええ、ご心配なら、ゲイツ様の目の届く所にいさせますから。そのように古文書を縦にしたり、斜めにしないで下さい!」
ヴォルフガングは箱を水平に維持したいみたい。まぁ、気持ちは理解できるよ。
「ヴォルフガング教授の助手は信用できません。私から古文書を取り上げるつもりかも?」
いや、その古文書はノースコート伯爵の物ではないの?
「ゲイツ様、では私の友人のフィリップス様にお預けになってはどうですか? 彼はヴォルフガング教授の臨時の助手の立場ですが、人柄は私が保証しますわ」
ゲイツ様ときたら、凄く難しそうな顔をして眉間に皺を寄せている。
「ペイシェンス様は人を信用し過ぎだと思いますよ。それなのに、何故か私にだけ警戒されている」
ブツブツ文句を言ったけど、箱をフィリップスに渡した。
「これをノースコート館まで、君に預けるよ。帰ったら、返して欲しい」
まぁ、持ち歩くのが面倒になったんじゃないかな?
「フィリップス君、水平に持つんだよ」
それとヴォルフガング教授がぴったりと横に引っ付いているのにも嫌気がさしたのかもね? フィリップス、ごめんね! ユーリの羨望の目とヴォルフガングに付き纏われて!
「おお、この壁画は素晴らしいですね。うん、空を飛ぶ魔導船と海に浮かぶ魔導船。やはりカザリア帝国は優れた文明を持っていたのだと分かりますね」
ゲイツ様が真剣に壁画を眺めているので、私達は少し離れた場所に移る。だって、屈んだり、横に移動したりするから、邪魔になりそうなんだもの。
少し離れた場所から壁画を眺めていると、千年前に滅びたカザリア帝国の方が文明が進んでいたなんて変な気分になった。でも、前世でもピラミッドとかマヤの遺跡とか妙に進歩した文明の謎もあったよね、なんて想いに耽る。
「この魔導船は魔石ではなく、あの動力源と同じシステムで動いていたのでしょうか?」
ナシウスは、やはり賢い子だよ。
「その当時は巨大な魔石を持つドラゴンとかいたのかもしれませんが、太陽光の方が常に手に入りやすいから、そうかもしれませんね」
ヘンリーが変な顔をしている。
「お姉様、太陽光だと夜は飛べません。それに夜間に扉の開閉もできなくなると、困りませんか?」
うん、ヘンリーったらなんて可愛いんでしょう! 真面目に考えて、疑問点を見つけたんだね。
「ヘンリー、それでは困ってしまうわね。よく思い出してみて、人工岩で集めた物を何処かに集めていたでしょう。そこに溜めて置いたのでは無いかしら?」
ヘンリーが思い出して「光の塊ですね!」と笑う。
「そうか、だからお姉様はあれを蓄魔式人工魔石と呼ばれたのですね。夜はあれに溜めたエネルギーを使うんだ!」
ナシウスも理解してくれたみたい。マジ、うちの弟達天才! 可愛いからキスしておこう。
弟達との親睦をはかっているのに、それを邪魔する人がいるんだよ!
「ペイシェンス様、やはりその仮説は素晴らしい! 是非、論文を書かれるべきです」
ヴォルフガングが騒ぐから、壁画に熱中していたゲイツ様が振り向く。嫌な予感で背中に悪寒が走る。
「さっきから気になる話が聞こえていたのですが、ヴォルフガング教授、何事でしょう?」
ゲイツ様も学習するんだね。私よりヴォルフガングの方が聞きやすいと思ったみたい。
「ペイシェンス様が格納庫の上の動力源らしき物を見つけられて、そのシステムの仮説を述べられたのです」
こっちに丸投げですか! でもゲイツ様は先ず怒る。やはり子どもっぽいよ。
「動力源が見つかったなんて、誰一人教えてくれませんでした。調査隊の報告にも載っていませんよね!」
ヴォルフガングが報告書を書いている途中だとか、しどろもどろで言い訳をする。私達の海水浴を邪魔する暇はあったじゃん! フロートを助手に乗っ取らせたりしてさ。フロートの恨みは深いよ。
ヴォルフガングの言い訳を、片手を上げて制すると、ゲイツ様は私に微笑みかける。
「ペイシェンス様は、何を見つけ、何と推測されたのでしょう。先程は弟君達との会話でしたので、少ししか聞いていなかったのです。是非、説明して頂きたい!」
凄い圧を感じるよ。やはり、王宮魔法師って魔力が半端なく多いんだね。
「実際にご覧になれば宜しいのでは? あら、馬車が着いたみたいですわ」
良いタイミングで馬車が着いたみたい。メアリーが呼んでいるよ。
「ナシウス、ヘンリー、馬車で帰りましょう」
ゲイツ様はヴォルフガングとユーリとフィリップスと一緒に帰れば良いよ。古文書の箱から目を離せないんだしね。
「やはり、ペイシェンス様は私に冷たい!」
約一名が駄々をこねているけど、無視してメアリーと弟達と馬車に乗ったのに、ゲイツ様が乗り込んでくる。
「ゲイツ様、古文書は?」
得意げに箱を見せるゲイツ様に呆れるよ。フィリップスから返してもらって、こっちの馬車に乗り込んだんだね。
「少し窮屈だが、まぁ、近いから良いでしょう」
いや、ゲイツ様が乗り込んで来なければ四人でゆったりと乗っていたんだよ。私の横に座っていたナシウスが向かい側に移る。そして、ゲイツ様が当然みたいな顔で座る。苛つく!
「ヴォルフガング教授達と一緒の方が宜しいのでは? 女子供と一緒では退屈でしょう」
普通の男の人はそちらの馬車を選ぶよね。嫌味をチクリと言ったけど、全く気にしてないみたい。
「いえ、私はペイシェンス様と一緒の方がワクワクする事が多くて楽しいですよ。それに動力源についての仮説をお聞きしたいですからね」
それを話したく無いから別の馬車に乗って欲しかったんだよ。
「お姉様、私にもう一度説明をして下さい」
ナシウス、それはゲイツ様に忖度しているの? あの父親の息子とは思えない気遣いができるんだね。偉いよ!
「ゲイツ様、これは私が思い付いた事ですので、そんなに真面目に受け止めないで下さい。格納庫の上には人工岩が8個ありました。そこから線が延びていて、一箇所に集中しています。私は、そこに何らかのエネルギーを集めて、溜めていたのでは無いかと思ったのです」
簡単に言うとこうだよね?
「太陽光エネルギーを集めて、それを蓄魔式人工魔石に溜めるのですよね!」
ナシウスの方が、より纏めている。賢い!
「それが、この地下通路の扉の開閉や魔導灯の動力源だとの証拠はあるのですか?」
ゲイツ様の質問に、ヘンリーが元気よく答える。
「ええ、お姉様が土に半分以上埋もれていた人工岩から、土や枯葉を取り除いてから、魔導灯がピカッとしだしたのです。それまでは、薄ぼんやりとしてて魔導灯で足元を照らさないと歩けませんでした!」
これはヴォルフガングが古文書を持ち出した時にも言っていたと思うのだけど、聞いていなかったのかな?
「ふむ、では本当に地下通路は薄暗かったのですね。それで、いつ扉が開かなくなるか分からないから、古文書や部品を持ち出したと言っていたのか……まぁ、それは仕方ないな」
仕方ないどころじゃ無いじゃん! 今、自分の膝の上に置いている箱の中にも古文書があるくせに! やはり、この人とは合わないよ。
「それで、格納庫の上にある動力源には、これから案内して貰えるのでしょうか?」
深い溜息を吐きたくなったけど、令嬢らしくないので噛み殺す。
「ええ、ゲイツ様を伯父様や調査隊の皆様が案内されると思いますわ」
私は、サロンでお茶をしよう!
「えっ、その言い方だとペイシェンス様は行かないと聞こえますけど?」
正解! こんなに疲れる人と乗馬なんかしたくないよ。
「ええ、私は行きませんわ。だって格納庫の上まで凄い坂道なのですもの」
ゲイツ様が黙り込んだ。皆と行けば良いじゃん。
「ペイシェンス様の仮説を、現場でお聞きしたいのですが……」
何と言われても、NO! だよ。疲れているのに乗馬で丘を登りたくない!
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