第59話 王宮魔法師ってどのくらい偉いの?
昼食をヘンリーと一緒に子供部屋で食べ終わり、昼から何をしようかと考えていた。本当は良い天気だから海水浴に行きたいけど、サミュエルがどうするのか分からないので、保留中だ。
ヘンリーも昼からどうするのか考えているみたい。
「サミュエルは、調査隊と一緒に行くのでしょうか? お兄様はどうされるのかな?」
サミュエルは、ノースコートの跡取りとして、新しい生活魔法使いが初めて参加する調査隊に同行するかもしれない。ナシウスは同行を許されるかな?
私には王宮魔法師がどれくらい偉いのか判断できない。ヘンリーが一緒に昼を食べられなかったのは、陛下が来られた時だけだ。このままずっとゲイツ様が滞在して、ヘンリーが別に食べなくてはいけなかったら可哀想だから、早く帰って欲しいな。
「ナシウスも一緒に調査隊と行くなら、子供部屋でアンジェラとカルタをして遊びましょう」
本当は、海水浴に行かないなら、明日帰るアンジェラと刺繍をしたり、お茶会をして遊びたかったけど、ヘンリーだけにはさせられない。調査隊が出発した後なら、歌を歌ったりしても楽しいかもね。
「あのカルタは面白いから、アンジェラ様も喜ぶと思います」
そうだね! 偉人カルタだけでなく、格言カルタも良いかもしれない。アンジェラの弟達にも文字を覚える単語カルタを作ってあげたら、一緒に遊べるかな?
そんな事を考えていたら、昼食を終えたナシウスとアンジェラが子供部屋に戻ってきた。
「ペイシェンス様や私も調査隊と一緒に行くようにとノースコート伯爵に頼まれましたの。ペイシェンス様は、ご気分が優れない様だと言ったのですけど……あの王宮魔法師様が初めてだからと強く主張されたのです。ちょっとお顔が良い方だから素敵かもと思っていましたけど、ペイシェンス様の感じられた通り強引なお方ですわ。私は殿方を見る目を磨かないといけませんね」
えええ、私のちょっとした態度でゲイツ様を嫌っているのを察していたアンジェラの見る目をこれ以上磨かなくても良いよ。
「ノースコート伯爵に頼まれたのなら仕方ありませんわ。ナシウスやヘンリーも一緒なのかしら? それとも駄目なのかしら?」
一緒の方が良いけど、ナシウスは遺跡に興味があるけどヘンリーはどうなのかしら?
「もし、伯父様が行っても良いと言われたら行きたいです! 格納庫の天井が開くのが見たいです」
あれは派手な動きだからね。男の子が好きそうだ。
「ええ、私からも頼んでみますわ」
気分が優れないと言っているのに、調査隊と一緒に行くのだから、そのくらいの我儘は通して貰おう。
「勿論、ナシウスもヘンリーも一緒で良いさ。それにゲイツ様がペイシェンスとナシウスに聞きたい事があると言われているのだ。きっと、執政官の館跡でナシウスが落ちた件だろう」
ああ、やはり曲者だよ。あまり、あの件をほじくり返して欲しくないんだけどなぁ。王宮魔法師って、面倒くさいね。
「あの件は、夢中だったのでよく覚えていませんのに……困りますわ」
ここは伯父様の保護下にいた方が良いだろう。アンジェラの真似をして、大人しそうな女の子を演じてみる。遠くで聞いていたベンジャミンが「プッ」と噴き出しているよ。失礼だね!
「ナシウスがいなくなって、ペイシェンスもパニックになっていたのだろう」
ほら、伯父様は庇ってくれそうだ。だけど、ゲイツ様に通じるかは分からないから少し不安だよ。
「今日は、ガイウスの丘と執政官の館跡の両方の入り口を開けてみたいとゲイツ様は言われるのだ。アンジェラは、ガイウスの丘の方の開け方をハートリッジ様に教えて欲しい。ペイシェンスは、執政官の館の方だ」
それって上から? 下から? どちらからなのかな? 私が首を傾げていると、ゲイツ様がやってきた。
「お初にお目にかかります。ゲイツと申します」
自分の方が年も上だし、王宮魔法師なのに、何故か優しそうな態度で自己紹介をする。やはり、曲者だね!
「ゲイツ様、こちらは妻の姪のペイシェンス・グレンジャーです。アンジェラ・サティスフォードと共に扉の開閉をしてくれていました」
私は、アンジェラと一緒にスカートをちょこんと摘んで挨拶をする。余計な事は話さないよ。
「ふうん、貴女が地下通路の入口を見つけたペイシェンス様なのですね。そして、あの落ちたナシウス君のお姉様なのか……皆は、ナシウス君が何故落ちたのか、その点を考えていないみたいだけど、私は気になるな」
ハッとしたよ。そう言えば、ナシウスは何故落ちたのだろう? あの扉を開けたのはフィリップスが凹みを押した時に「開け!」と唱えたからだけど、その前にナシウスが落ちた時は凹みに手を付いただけだった。
「ナシウス君は、風の魔法を賜っていますが、少し生活魔法も使えるみたいですね」
離れた場所でサミュエルと話しているナシウスを見ただけで、ゲイツは生活魔法も使えると言い出した。
「でも、教会の能力判定では、ナシウスは風の魔法を賜ったと言われましたわ」
口をききたく無いと思っていたのだけど、愛しいナシウスの魔法能力についてなので、ついつい反論してしまう。
「教会のあの能力判定のお盆では、微かな能力までは判定しきれないのですよ。それに、貴女の生活魔法を下に思う馬鹿どもなど、絶対に信用してはいけません」
銀色の目でウィンクしてくるけど、やはり油断できない感じがする。こんなにあからさまに教会の悪口を言う人は……そうか、カエサルも言っていたね。でも、二人だけの会話だったよ。忠告は有難いけど、あまり関わりたく無い気がする。危険だ!
「ナシウス君の生活魔法は、少し後天的に目覚めた物の様な感触があります。貴女の生活魔法を身近に見て、覚えたのかもしれません。ある意味で、ナシウス君はとても優れた才能の持ち主です」
そうか、ナシウスは見て覚えるタイプだからね。あれだけ苦手だったゲイツ様だけど、ナシウスの才能を認めてくれたので、少しだけ好意を持った。チョロいかも?
王宮魔法師って、ナシウスを見ただけで、そんなに分かるものなの? もしかして凄い人なの?
「ふふふ、私はペイシェンス様の味方ですよ。そんなに警戒しないで下さい」
うん、やっぱり苦手だけど、王宮魔法師が凄い人だって事は分かったよ。
「今日は、格納庫と執政官の館の入口を開けて欲しいのですが、ご協力お願いできますか?」
そっちの方が年も身分も上なのに、やたらと私に丁重な口をきくのが、身体がムズムズする様な感じ。だってゲイツ様の第一印象は、逆らわれるのに慣れていない独裁者だったもの。猫撫で声で優しい言葉を紡がれても、警戒しちゃう。
「それがお望みなら、協力致しますわ」
やれやれ、今日もガイウスの丘から遺跡まで地下通路を往復しなくちゃいけないみたいだ。体力強化のウォーキングだと思おう!
ガイウスの丘までは馬車で向かう。私とアンジェラとナシウスとヘンリー、そしてミアとメアリーだ。少し窮屈だけど、館からは近いからね。サミュエルは、ノースコート伯爵と共に、ゲイツ様とハートリッジ様と一緒だよ。嫡男って大変だよね。
「明日は、離宮行きですわね。だから、ハートリッジ様に扉の開け方をちゃんと説明しなくてはいけませんわ」
アンジェラが心配しなくても良いと思うよ。
「ゲイツ様がいらっしゃるのだから、何とでもなさると思うわ。第一、私が一緒でなくても良いのではないかしら?」
アンジェラも「そうかも?」と小首を傾げる。
「でも、ゲイツ様はペイシェンス様にとても丁重な態度で接しておられましたね。昼食の時は、教授方にも傲慢な態度でしたのに不思議な方ですわ」
ああ、やはりゲイツは猫を被っているのだ。それが何故かは分からないけどね。なんて考えていたら、アンジェラの妄想が大暴走し始めた。
「もしかしたら、ゲイツ様はペイシェンス様に一目惚れをされて、優しくされているのでは無いかしら?」
ナシウスとヘンリーの目がまん丸だよ。
「アンジェラ、それは有り得ませんわ。ゲイツ様は、何か目的があって、優しい態度を取っていらっしゃるのに過ぎません」
アンジェラは、深い溜息をついた。
「やはり、私は殿方を顔で判断してしまう癖があるのです。これでは、良い伴侶を選べませんわ」
うん、アンジェラが面食いなのは、恋バナで分かっていたよ。まだ10歳なんだから仕方ないんじゃない? でも、もう伴侶なんて考えているんだね! 私ってもしかして出遅れているの?
秋には12歳になるけど、前世だと子どもだよね。この問題では、母親が亡くなっているのが痛い。うちの父親は当てにできないもの。それは弟達の縁談でも同じかもしれない。なんとかしなきゃ!
そんな事を考えているうちに、ガイウスの丘に着いたよ。
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