第50話 魔導灯の動力源は?
格納庫からカザリア帝国の執政官の館まで歩く。遠いよ! ゼイゼイ!
「遅いぞ! やはり背負籠があった方が良いのではないか?」
ベンジャミンは背負籠を勧めるけど、それに乗るのは嫌だ。体力が無いのは事実だけど、夏休み中に強化したいよ。
「それよりペイシェンス嬢、お疲れで無ければ開けて欲しいのですが……」
ヴォルフガングが丁寧に頼む。グースは階段が出ると教えられた場所をガン見しているよ。
「開け!」凹みを押しながらとなえると、壁から階段の踏み板がスルスルと出て、天井が開いた。一瞬、眩しい夏の光が入ったけど、すぐに薄ぼんやりした闇に戻った。
「こちらの入口の開閉システムは壊れかけています。偶然、私と執政官の館跡を調査していたナシウス君が壁に手をついて落ちたので発見されたのです」
フィリップスが発見した経緯をヴォルフガングに説明している。ナシウスが居なくなった時の恐怖を思い出して、私は身を震わせた。
「ナシウス君が落ちたのか? 階段は出なかったのだな。怪我は無かったのか?」
サイモンが心配しているのかな? 少しは従兄弟だと思っているのだろうか? それにしても詰問口調は頂けないね。ガン無視しといてさ!
「それにしても、こちらの天井はすぐに閉まってしまうのだろう? どうやって落ちたナシウス君を救助したのだ?」
グースが首を傾げている。うん、その事については秘密保持でお願いします。錬金術クラブのメンバーもフィリップスもあの転移魔法については口を閉ざしてくれたよ。でも、いつかバレそうだ。あの場には其々の従僕や護衛達もいたからね。
「空を飛ぶ魔導船と海に浮かんでいる魔導船の壁画を見に行きましょう!」
カエサルが上手いことこの場を誤魔化したけど、きっと後で追求されそう。まぁ、その時は真実を言うしかないね。弟が居なくなって必死に神頼みしたんだってね! だって本当だもの。
あの魔法は、かなりやばい。それに一番の問題は、自分で自由に使えそうに無いことだよ。あれはナシウスとヘンリー限定だと思うから、あまり知られたく無いんだ。
相変わらずカエサル達は先頭で案内している。今回はフィリップスもヴォルフガングに呼ばれたので、ミハイルとブライスとアーサーが私に付き添ってくれる。
「先に行かれても良いのですよ」
アーサーは時々ブライスと一緒に寮に送ってくれたりしていたが、ミハイルは錬金術クラブに入ったばかりだし、ゆっくりとしか歩けない私に付き合わなくても良いと思ったんだ。
「いえ、私は遺跡の壁画は何回も見ましたから。それより、この魔導灯と開閉システムの動力源に興味があります。魔石だとは考えられないのですよ」
ミハイルの言葉で、ここに残った錬金術クラブメンバーが議論し出す。
「その通りだ! どの様な巨大な魔石であろうと千年も魔力が抜けない事はないだろう。こちらの開閉システムが不完全にしか動かないのは、地上部分が戦闘で破壊されて動力源との接続が切れたからでは無いか?」
アーサーの説に、ブライスも同意する。
「そうですよね。そして、少しでも動くのは、彼方のガイアスの丘の方の動力源がまだ破壊されていないからではないでしょうか? だから、地下通路をぼんやりとではあるけど魔導灯が照らしているのです」
ミハイルは、地下通路に等間隔で設置してある魔導灯をじっくりと見ていたが、ハッとした様に叫ぶ。
「ほら、魔導灯と魔導灯の間に線があります。これが動力源と繋がっているのでは無いでしょうか?」
私達は、脚を止めて、天井の魔導灯と魔導灯の間をじっくりと眺める。天井の劣化した部分から、線らしき物が見えた。前世の電気コードみたいだ。
「もしかしたら太陽光からエネルギーを得るシステムかもしれませんわね。それなら千年経っても動力源が枯渇する事はありませんもの」
前世の太陽光発電を思い出したのだけど、全員に呆れられたよ。
「太陽光で水をぬるま湯ぐらいにはできるだろうが、このシステムの動力源とは考えられない」
田舎のお婆ちゃん家では、屋根の上に太陽光温水器を置いていたね。でも、それより進んだ太陽光発電と蓄電システムがあったんだよ。悔しい事に仕組みは知らないんだ。
「あの古文書の二台目の設計図の中に無いだろうか?」
ブライスの言葉にミハイルも同意する。
「私は、空を飛ぶ魔導船にも憧れますが、それよりも動力源の解明が重要だと思います。王都ロマノに活用できたら、庶民も恩恵を受けられますからね」
今の魔道具は魔石が必要なので、貴族か裕福な商人しか使えないのが現状だ。
「そうよね! 街灯や下水道の設備を動かす動力源があれば、もっと文化的な生活が送れるはずよ!」
ここにいる全員一致で、動力源の調査をする事に決定した。
「ミハイルは機械が好きだと言っていたのに、魔導船を最初に研究しないのだな?」
「空飛ぶ魔導船なんか、機械だらけで好きそうだけどな」
アーサーとブライスが不思議がる。
「いずれは魔導船の研究もしたいです! でも、この格納庫や部品から考えて、かなり大きな魔導船だったと推察できます。動かす魔石が入手不可能に近い巨大な物が必要だと思ったのです。だから、動力源の研究を先にしないといけないのです!」
まぁ、それはそうだよね! ミハイルはしっかりしている。私の歩くペースで外に出た時には、調査隊は遺跡に向かった後だった。
「アンジェラ、お待たせしてしまいました」
テントの中でラシーヌとミアと待っていたアンジェラに謝る。
「いいえ、では閉めますね!」
アンジェラも扉の開け閉めには慣れてきた。でも、早く調査隊の生活魔法の使い手が到着して欲しいよ。
「お茶の時間に遅れそうですわ」
ラシーヌに急かされて、馬車で館に戻る。アーサーやブライスやミハイルは馬で帰るよ。お茶の時間に遅れるからではなく、古文書の写しで動力源についての記述があるか調べたいみたい。
私もそちらに参加したいけど、アンジェラ達とお茶会だ。それにサミュエルと弟達も合流する。
「そろそろサティスフォードに帰らなくてはいけませんの」
ラシーヌは、アンジェラを連れて帰るか相談している。私的には一緒に居たいけど、ここに残ると扉の開閉係として使われちゃうからね。
「ええ、長い間留守にするのはよくありませんもの」
そんな事を話していたら、執事が銀の皿に恭しく手紙を載せてサロンへ持ってきた。あっ、あの手紙は……
「まぁ、王妃様からですね!」
リリアナ伯母様とラシーヌの目が輝く。
「サミュエル、ペイシェンス、アンジェラ、開けてみて!」
夏の離宮への招待だと、開ける前から分かっていたよ。この前、陛下はかなりジェーン王女を心配されていた感じだからね。
「週末にくる様にと書いてある」
サミュエルがサッと読んで、伯母様に伝えている。アンジェラのも私のも一緒の内容だ。まぁ、私のには弟達も連れてと書いてあるのが違うだけだよ。
「なら、アンジェラだけ残して、私は一旦サティスフォードに戻りますわ。伯母様には離宮行きの手配を任せてしまう事になるけど……また貴族の方を屋敷にお泊しなくてはいけませんの」
リリアナ伯母様は、サミュエル達を離宮に送るついでだからと笑う。
「それにしても調査隊も滞在しているし、伯母様も大変ですわね」
うっ、元々は私がカエサル達に壁画の絵を送ったからだよ。こんな大事になるとは思っていなかった。
「いいえ、陛下にお越し頂きましたし、サミュエルは準男爵バロネットに叙されました。調査隊を受け入れる費用も頂いていますし、賑やかな夏休みになっただけですわ」
カエサル達は貴族同士の付き合いで、滞在費としての金銭のやり取りは無いが、各家としての借りは王都ロマノに帰った時にパーティに招待されたり、御礼の品物を贈られたりするのだろう。ここら辺の貴族の付き合い方は、私には理解できないけど、リリアナ伯母様の機嫌が良い所を見ると、今年の秋の社交界ではかなり優遇されるのだと察せられる。
調査隊は、陛下が派遣した正式な物で、予算も配分されている。此方の方が、私には理解しやすい。
「それにしても早く調査隊に生活魔法の使い手が合流して下さらないと、ペイシェンスとアンジェラには負担ですわ。それに、どうやら明日は雨だと家政婦のマルシェが言っていますの。雨の中、テントには居させられません」
まぁ、雨なら調査は中止だね。なんて気楽な事を考えていた私は、本当に馬鹿だ。あの古文書と写しを見て、調査隊は目の色を変えるのだった。これなら、雨の中で調査させておいた方が良かったよ。トホホ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます