第46話 地下通路の視察

 昼食は視察を控えているので、陛下がいらっしゃる割には素早く終わった。私は、普段も美味しい海の幸が出ているけど、それよりも豪華な昼食を楽しんだよ。馬糞雲丹、大好き!


「伯爵夫人、とても美味しかった」


 陛下に褒められて、リリアナ伯母様もホッとしたみたい。


「では、陛下、ご案内致します」


 先ずは地下通路の視察だ。今回はリリアナ伯母様もラシーヌもついてくる。馬車での移動だから楽だね。


 あっ、入り口の近くには大きな白いテントが張ってあり、中はまるでサロンだよ。テーブルに椅子にお茶のセットもある。


「さぁ、アンジェラ、開けてくれ」


 アンジェラの横には父親のサティスフォード子爵と母親のラシーヌが付き添っている。


「大丈夫よ。いつも通りにすれば良いのだから」


 緊張しているアンジェラに微笑みかける。


「ええ、開け!」


 凹んだ部分を棒で押しながら、アンジェラが唱えると、ゴゴゴゴゴ……と岩が二つに割れて、地下通路へと続く階段が見えた。


「おお、これは凄いな」


 うん、初めて見たら驚くよね! 陛下のお付きの人も驚いているよ。あっ、ユージーヌ卿は興味があるのか、覗き込んでいる。それとも、中を警戒しているのかな?


「私が先に立って案内致します」


 ノースコート伯爵を先頭にして、地下通路に降りる。


「アンジェラ、なるべく開けていてね」


 テントの中でリリアナ伯母様やラシーヌと寛いでいるアンジェラに一声かけて、私もナシウスと一緒に地下通路に入る。


「私達は、ここで開閉システムを調査しておく」


 錬金術クラブメンバーは肩の凝る王様の視察から一抜けして、入り口付近に魔法陣が隠されていないか調べるみたい。


「今日は、開閉システムに手を出さないで下さいね。灯の方が良さそうだわ」


 万が一、壊したら大事だよ。


「そうだな。それに調べるなら、壊れかけている遺跡の方が良いかもしれない」


 ミハイルは灯りに興味があるみたいだけど、他のメンバーは魔石を使うのに不自由していないからか、派手な開閉システムの方が気になるみたい。と言う事で、メンバーは格納庫の先の遺跡の出入り口を調査をしようと走り出した。


「ペイシェンス嬢、急ぎましょう」


 メンバーと話しているうちに、陛下一行はかなり先まで進んでいる。フィリップスは、私の足元を魔道灯で照らしてくれている。優しい紳士的な態度だよ。


「お姉様、お手をどうぞ」


 石畳みになっているけど、少しでこぼこしたり、階段もあるから、ナシウスがエスコートしてくれる。優しい弟だよ! マジ天使!


「おお、ペイシェンス来たな!」


 格納庫には陛下一行が待っていた。


「ペイシェンス、天井を開けてくれ」


 伯父様に言われて、壁の出っ張りがある所へ行く。


「皆様、なるべく壁沿いに移動して下さい。一度目ほどではなくても、土や枯葉が上から落ちてくるかもしれませんから」


 陛下をユージーヌ卿が壁沿へと移動させるのを待ってから「開け!」と唱えながら、出っ張りを押す。


 ゴゴゴゴゴ……、あっ、開けるのを見るのは初めてだよ。少し土と枯葉が落ちてきたけど、このくらいなら大丈夫。


「コホン、コホン!」何人かは口を開けたまま見上げていたみたい。ナシウスは、ちゃんと口を閉じていたよ。


「おお、これは素晴らしいな。カザリア帝国の技術は、今よりも進んでいたのだ。なんとかして、解明したいものだ」


 まぁ、扉の開閉システムは派手だからね。それより、このシステムを維持している方法が知りたいよ。魔石なら魔力が抜けてしまうよね? だって千年以上前の遺跡だもの。


「ノースコート伯爵、よく報せてくれた。感謝するぞ!」


 まぁ、黙っていても、いずれはバレるよね。一個、二個の遺物オーバツなら大丈夫だっただろうけど、規模が大き過ぎるし、カエサル達がいたからね。公爵家や侯爵家や伯爵家が、全員、王家に黙り通すとは思えないもの。


「いえ、陛下の視察を賜りまして、光栄でございます」


 これで閉めて、視察は終わりだと思ったけど、陛下は執政官の館跡の入り口にも行く。こちらは、壊れているんだけどね。


「陛下、此方の扉は壊れていて、一瞬しか開きませんが……」


 それに階段も無い。そう言えば、ここに来たのは初めてだ。


「内側にも開閉システムを起動させる凹みか出っ張りがある筈だ」


 ノースコート伯爵の命で、全員が探す。私は魔道灯を持ってきていないから、それを見ているだけだよ。だって、ここまで歩いて、少し疲れたんだ。かなり距離があるし、空気が澱んでいるのを浄化したからね。


「これではないか!」


 先に来ていたカエサル達が見つけたよ。此方も凹みだった。格納庫のだけ出っ張りなのは、何故なのかな?


「ペイシェンス、押してみてくれ」


 棒を伯父様から渡されて、それで凹みを押しながら「開け! 階段も出ろ!」と唱える。だって、執政官達が地下通路に毎回落ちていたとは考えられないもの。壁から階段の板が出ていたんじゃ無いの?


 やはり、天井はパッと開いて、パッと閉まった。壊れているね。でも、階段というか、板がスルスルと十数段も出たんだ。まぁ、それも一瞬だったけどね。


「おお、あれは階段だな。ガイウスの丘の入り口は石の階段だったが、こちらは違うのか」


 陛下も驚いていたが、錬金術クラブメンバーは大騒ぎだ。


「外の凹みでは階段など出なかった。内側の方がまだ生きている機能が多い!」


 カエサルが喜んでいるけど、壊れているのは一緒だよ。目糞、鼻糞だ。


「それで、空飛ぶ魔道船の壁画は何処にあるのだ?」


 この入り口の開閉システムが壊れていなかったら、上に上がれば良いけど、一旦、ガイウスの丘に戻って遺跡に行かなくてはいけない。私は、ここでリタイヤしたいよ。だって地下通路とはいえ、遺跡まで往復したんだもん。途中には高低差を埋めるために階段や坂もあったから、既に疲れている。


「ペイシェンス、大丈夫か?」


 サミュエルに遅れがちで歩いているのを心配されたよ。


「サミュエルは、先に行きなさい。陛下は、ノースコート伯爵家にいらっしゃっているのですから」


 ナシウスとフィリップスに付き添われて、やっと出た時には、皆が馬車に乗ろうとしていた。その前に、テントでお茶が振る舞われたみたいだ。


「ペイシェンスも一緒に行こう!」


 ご遠慮したいけど、陛下から言葉が掛かると拒否し難い。


「陛下、ペイシェンスは疲れているみたいです。地下通路の空気の浄化もずっとしてくれていましたから」


 伯父様が庇ってくれたよ。


「そうか、なら無理はしない方が良い。其方の意見を聞きたかったのだが……カエサル、アーサー、ベンジャミン、ブライス、フィリップス、ミハイル、其方達の意見は館に帰ってから聞く時間を取るぞ」


 全部を取り上げられそうに無いと分かって、ベンジャミンが喜んでいる。また、カエサルに横腹を肘で突かれたよ。交渉はこれからだもんね!


 一行を見送って、私はリリアナ伯母様達とお茶を一杯飲んでから、館に戻る。


「さぁ、早めの晩餐になるから、ペイシェンスはお風呂に入って着替えなさい」


 陛下は泊まらずに離宮に帰られるけど、簡単な晩餐会はあるみたい。遺跡から帰ったら、ノースコート伯爵やカエサル達とも話し合わないといけないし、忙しそうだね。


 私は、メアリーに世話されて、お風呂でリラックスしている。


「ふう、疲れたわ」


 異世界の人達は体力がありすぎるのか、ペイシェンスの体力がなさ過ぎなのか?


「お嬢様が遺跡まで往復出来る様になられたのは、とても進歩ですわ」


 やはり、元ペイシェンスは体力が無かったみたい。今の私も体力は、アンジェラよりも無いけどね。


「どうすれば体力が付くのかしら?」


 メアリーは令嬢に体力なんか必要ないと答えると思ったけど、違った。


「体力が無いと、舞踏会で困りますよ。ダンスは体力を使いますからね。そうですわ、ダンスの練習をされては如何でしょう」


 ダンスの終了証書は、カエサルのリードのお陰で取れたんだ。その後は、青葉祭か弟達に教えるぐらいしかしていない。


「ダンスねぇ……」


 あまり気乗りがしない返事をしたら、メアリーに叱られた。


「ダンスが上手くないと、社交界で楽しめませんよ」


 その社交界を楽しみたくないんだなんて、メアリーには言えないな。


「さぁ、お風呂から出て下さい。髪の毛をいつもより複雑な形にしたいのですから


 こんな時のメアリーには逆らわないよ。だって、侍女の仕事に誇りを持っているからね。やはり、ロマノに帰ったら下女を雇おう!


 

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