第33話 遺跡調査開始!

 ノースコートに着いたばかりなので、遺跡の見学は短時間で済ませた。カエサル達は伯爵に採掘調査をして良いか許可を取るつもりなので、意外とすんなりと屋敷に帰る。


「ノースコート伯爵、是非私たちに遺跡の調査の許可を与えて下さい」


 わっ、カエサル達ときたら、屋敷に帰ったなり即頼んでいるよ。


「それはご自由になさって構いません。是非とも、我が家の召使いや兵士をお使い下さい」


 伯父様、バーンズ公爵家に恩を売ろうとしているのかな? 他のメンバーも上級貴族の子息だしね。


「予定では2日程の滞在するつもりでしたが、長期になるかもしれません。その上、こちらの兵や使用人までは図々しすぎます。何処か泊まる宿でも有れば良いのですが」


 確かに、私なら宿に泊まった方が気楽だと思うね。フィリップスは良識派だから迷惑を掛けるのを気にしているみたいだ。


「とんでもない! どうか我が家にお泊まり下さい!」


 わぁ、伯父様が真剣に引き留めている。そうか、追い出した様に思われたら、貴族の面子に関わるのだ。


「フィリップス君、ここはノースコート伯爵に甘えておこう」


 カエサルはそんな所も分かっているみたい。それにノースコートの町には貴族が泊まるに相応しい宿は無さそうだもの。船乗りや商人の為の宿はあるけど、貴族がノースコート港に着いた時は屋敷に招待するのが慣例なのかも。


「では、ご厚意に甘えさせて頂きます」


 伯父様が満足そうに頷く。きっと、サミュエルの為の人脈が確保できたと思っているのだろう。この点も、家の父親には期待できないよ。


 夕食はカエサル達も一緒なので、急に大人数になった気がする。まぁ、夏休みになってからも、近在の貴族を招待したりしていたから、コックは困ったりしなさそうだけどね。


 流石に皆、上級貴族の子息だけあり、マナーは完璧だ。サミュエルも魚の綺麗な食べ方を教えたので、お皿も散らかっていないよ。


「魚がこれほど美味しいとは!」


 ベンジャミンが褒めているよ。王都では魚はあまり食べないからね。リリアナ伯母様は、嬉しそうだ。リリアナ伯母様が料理した訳では無いが、ホステスとして客をもてなすのは大事だからね。


 夕食の後、カエサルは食卓に残り、ノースコート伯爵と今回の件について話し合うみたい。フィリップスも残りたそうな身振りをしたけど、カエサルに目配せされて、私達と一緒にサロンへと向かう。その時、ちゃんとエスコートしてくれた。ブライスは、騎士道精神を発揮してリリアナ伯母様をエスコートしている。ナシウスもアンジェラをエスコートしているよ。


 なのにベンジャミンは、魔道船を作る可能性についてブツブツ呟いている。これでは、プリースト侯爵が勉強し直せと小言が止まらないのも当然だね。


 サロンでは、リリアナ伯母様が皆にデザートやお茶が行き渡る様に気を配っている。私も誰かと結婚したら、こんな事もしなくてはいけないんだよね。


「あれ、このデザートは軽くて美味しいな」


 ブツブツ言いながら、無意識にプチケーキを口にしたベンジャミンが砂糖ザリザリでないケーキに気付いて褒める。うん、ベンジャミンって自由気ままに振る舞っているけど、人を喜ばせるのが上手いね。だから、バーンズ公爵も甥を可愛がっているのだろう。


「ええ、これはモラン伯爵夫人に教わったレシピで作らせましたの。どうぞ、皆様も試してみて下さい」


 男子組は、サミュエル以外は手を出していなかったけど、勧められて口にして驚く。


「伯爵夫人、とても美味しいです」


 ブライスやフィリップスにも褒められて、リリアナ伯母様は満足そうだ。


 そうこうするうちに、ノースコート伯爵とカエサルが合流した。きっと、遺跡の調査について掛かる費用とかの話もしたのだと思う。カエサルもノースコート伯爵に全ての費用を負担させるのは駄目だと、バーンズ公爵家の面子に掛けて主張しそうだしね。その辺は、私は関知しないよ。グレンジャー家には、調査費用を負担する余裕は無いからね。それに遺跡調査より、弟達と海水浴して過ごしたいんだもん! まぁ、手紙を出した責任も感じるから、時々は調査に参加するかもね。


 その夜は、ハノンを演奏したり、リュートと合奏したりして過ごした。リリアナ伯母様は、上級貴族の子息達に満足していたが、その事を後悔しなきゃ良いけどね。フィリップスは普段はとっても礼儀正しいけど、歴史が絡むと少しね。それに、カエサル、ベンジャミン、ブライスは錬金術クラブだもん。あっ、これは私にも突き刺さるよ。




 次の日は、朝から遺跡調査だ。まぁ、初日だから私も付いて行く。


「お姉様、私も付いて行って良いですか?」


 えっ、ナシウスには屋敷に残るサミュエルやヘンリーやアンジェラの勉強をみてもらうつもりだったんだけど?


「ナシウスは遺跡に興味があるみたいだから、行ってくれば良いよ。勉強は私がみておこう」


 サミュエル、凄い進歩だよ。勉強嫌いを拗らせていたのに、ヘンリーやアンジェラに教えるなんて! 親戚のお姉ちゃんとして嬉しいよ。


「でも、昼からは海水浴だぞ!」


「うん、分かっているよ!」


 二人が拳をぶつけて約束している。船乗り達がしていたのを真似ているのだ。わぁ、可愛い! 抱きしめてキスしたいよ。


 確かにナシウスは初等科1年の勉強は終わっているし、2年のもかなり進んでいる。少しぐらいサボっても大丈夫なのだ。


「えええ、メアリーも一緒に行くの?」


 今日はノースコート伯爵も一緒なのだから良いじゃん。侍女システム、面倒くさいな。


 カエサル達の馬車と、私とナシウスと伯父様とメアリーの馬車と、カエサル達の従僕達の馬車、そして護衛達でカザリア帝国の遺跡に向かう。


「先ずは、遺跡全体の地図を作成する。そして、ブロック分けして調査を開始だ」


 わぁ、フィリップスが生き生き指揮している。けど、錬金術クラブのメンバーは違う考えみたい。


「そんな遺跡調査をしていたら、夏休み中に終わらないぞ。先ずは魔道船の情報が得たいから、建物を中心に調査しよう。地上部分には何も残って無さそうだから、地下だな」


 わぁ、ベンジャミン、真反対の遣り方だよ。そう言えば、前世でも問題になっていたんだよね。目的の物を探す為に、その上の地層に残っていた遺跡を破壊したとかなんとか。


「それだと、上の遺跡を壊してしまう」


 フィリップスが反論している。


「普通の遺跡ならそうだろうが、このノースコートの遺跡は帝国が滅びた時に破壊されたのだ。それ以降は、誰もこの上には街を建設していない。つまり、全てがカザリア帝国の時代の物だ」


 カエサル部長も魔道船が目的だからね。ベンジャミンより理論的だけど、言っている事は一緒だ。


 睨み合う、歴史研究クラブのフィリップスと錬金術クラブのメンバー。


「なら、フィリップス様は全体の地図を作成し、カエサル様達は壁画が残っていた建物を調査すれば良い。建物1軒ぐらいなら、全体の調査に影響は無いだろう」


 領主であるノースコート伯爵の仲裁で、フィリップスもカエサル達も納得する。それに、お互いに早く調査を開始したいとうずうずしていたからだ。


 私は、本来は錬金術クラブの方に行くべきなんだろけど、ナシウスがフィリップスの方に行ったので、そちらにする。それに人数のバランスもあるからね。


「ペイシェンス嬢、本当に招待して頂き、感謝しています」


 先ずは全体の地図の作成だから、防衛壁の上に登る。崩れ掛けた階段では、フィリップスがエスコートしてくれたよ。


「かなり大規模な防衛拠点だったのですね。ここが北部の要だったのなら、何か遺物があるかもしれません」


 私はスケッチブックに先ずは防衛壁を描き写す。その中に残っている建物の残骸を描き加えていくつもりだ。


「ああ、やはりノースコートもカザリア帝国の都市計画に則り造られたのですね!」


 世界史で少し脱線した話で聞いた事があるよ。日本の都が中国の都を模倣して作られた様に、カザリア帝国の都市は帝都リアンに似せて作られたそうだ。


「では一番北にノースコートを支配していた執政官の館があったわけですね」


 私の言葉にフィリップスが微笑んで頷く。ナシウスは目を輝かせて聞いている。


「ええ、その通りです。そして、一番南に防衛拠点の兵舎を配置し、下町、中間層、そして支配者階級と北に上っていく構造です」


 という事は、一番破壊されている北の執政官の館か、一番南の防衛拠点だった兵舎に魔導船のヒントが残っているかもしれない。


「カエサル様達が調査している建物は、配置から考えると南の防衛拠点だったと推測されます。つまり、私達は北から調査しましょう!」


 地図にザッと残っている建物の残骸の位置を描き、私とフィリップスとナシウスは北へと進む。


「わぁ、これは徹底的に破壊されていますね」


 うん、かつて建物があったと思われる残骸というか、基礎部分の上に柱が何本か折れているのが残っているだけだ。


「お姉様、ここがノースコートの執政官の館だったのですか?」


 ナシウスは基礎部分を歩いて回っている。


「フィリップス様、この様に破壊されてしまっていたら、何も残っていないのでは?」


「いや、これはノースコート陥落の際に破壊されたのでしょう。それ以降は誰もここを調査していないとしたら、何か見つかるかもしれません。執政官なら地下に逃げ道とか作っていると思います!」


 わぁ、フィリップスが目を輝かせて舌弁を振るいだした。ナシウスは夢中で聞いている。


「お嬢様、もうお昼になりますよ」


 なる程、メアリーがいなかったら、私達は昼食に間に合わなかったね。


「フィリップス様、一度帰って調査方針を考えましょう」


 フィリップスはここに残りたいと顔に書いてあったが、ノースコート伯爵も一緒なので、素直に馬車に乗った。約一名、ランチボックスを持ってきてくれれば良いのだとぐずっている人がいたけどね。


 こうして、カザリア帝国の遺跡調査が始まった。

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