第31話 錬金術クラブと歴史研究クラブの合宿?
いつものように水曜にはアンジェラがやって来る。今回はラシーヌも一緒だ。
「ペイシェンス、夫は南の大陸の布を染めて売り出そうと思っているのよ。それで、一度、夫から訪問して欲しいと言われたの」
うん、サティスフォード港のバザールは絶対に行ってみたい。
「ありがとうございます」
ラシーヌとは従姉妹だけど、かなり年は上だからお淑やかに答えておく。
「そうそう、週末にペイシェンスのお友達の男の子達がカザリア帝国の遺跡見学に来られるのよ。ほら、サティスフォード子爵が会いたいと言われていたバーンズ公爵の嫡男もいらっしゃるの。是非、お茶会にいらっしゃい」
錬金術にしか興味がないカエサルには迷惑だろうけど、栄えているサティスフォード港の統治者との顔つなぎは、バーンズ商会にとって悪いことではない筈だよね。
まぁ、そんな大人の事情は置いといて、アンジェラにも作った水着を見せる。母親のラシーヌに許可を得た方が良いからね。
「まぁ、これが水着なのですか?」
古くなった服より、泳ぎやすくなっているよ。スカートは邪魔だけどね。
「ラシーヌ、あれはペイシェンスが考えた水着なの。エリオットも気に入っているわ」
ラシーヌもスカートがついているから、アンジェラに着ても良いと許可を出した。
「これは……もしかして水を弾くのですか?」
リリアナ伯母様は領地の管理に関心がないけど、ラシーヌは夫と共にサティスフォード港の繁栄について考えているようだ。
「ええ、確かそう言っていたわね」
ラシーヌの目が輝く。色々と撥水加工は使えるからね。今度、作る物は決まっているんだ。ビーチサンダルだよ。今は、スリッパを使っているけど、濡れると気持ち悪いんだもの。
まぁ、他にもいっぱい考えているけど、夏休みだから、遊べる物をつい優先しちゃうんだ。それに、カエサル達の水着も作った。これは遺跡にしか興味が無いなら必要無いけど、彼らならフロートを見たら使ってみたいと言い出しそうだからね。
という事で、昼からはアンジェラも一緒に海水浴だ。アンジェラはお花のフロートでぷかぷかしている。私も白鳥のフロートで男の子達がボディボードで遊んでいる声を聞きながら、ぷかぷかしているよ。
「明日はビーチサンダルを作りましょう!」
鼻緒で歩き慣れていない弟達は、親指と人差し指の間が擦れるかな? ローマ帝国風のサンダルの方が良いのかも? 漁師にはゴム長靴が良いね! ビーチサンダルはカラフルな方が可愛いけど、スライム粉と炭を混ぜるから黒になっちゃう。他にゴムっぽい素材があると良いのになぁ。
海でぷかぷかしながらも、あれこれ考えていたんだよ。
「お嬢様、そろそろ帰らないといけませんわ」
海岸からメアリーに呼ばれるまで、ぷかぷかしていた。お茶の時間までに帰るようにとリリアナ伯母様に言われていたの忘れていたよ。泳ぐなら体力が無いから、日陰ですぐに休憩するのだけど、フロートの上で寛いでいるとすぐに時間が経ってしまう。
「まぁ、そんな時間ですのね」
アンジェラも寛いでいたようだ。ラシーヌは教育ママっぽいから、お疲れなのかもね。
そう言えば、夏の離宮からの招待が無いね。いや、積極的に行きたいわけでは無いから、良いのだけど。モラン伯爵領へ行ったり、カエサル達が来るのを知ってて招待されないのかな? あっ、そろそろ王様が来られる時期だからかも? 王妃様は王様とゆっくりと過ごしておられるのだろう。なんて考えながら屋敷に帰る。
お茶の後は、アンジェラとサミュエルと音楽の時間だ。アンジェラは知らない楽譜を見ては、嬉しそうにハノンを弾いている。私も弟達と合奏したり、歌を教えたりして楽しむよ。
そう、今回は週末までアンジェラもノースコートに滞在する。カエサル達が来た時に、サティスフォード子爵夫妻がお迎えに来て、お茶会に参加する予定だからだ。これはリリアナ伯母様とラシーヌが話し合って決めたみたい。
「生活魔法の練習をしていますが、やはりミアに頼ってしまいます。どうすれば良いのかしら?」
ラシーヌは厳しいから、寮に入る前からアンジェラに自分で自分の事をする様にと躾けている様だ。まぁ、庶民なら当たり前だし、貧乏なグレンジャー家でも普通だけど、裕福なサティスフォード子爵家でしっかりした侍女に付き添われて育ったアンジェラには大変そうだね。
「少しずつ練習すれば良いと思うわ」
私の言葉にアンジェラはホッとしたみたい。寮に入っても、特別室の掃除は下女がするし、洗濯物は週末に持って帰ればいいんだもの。服を着替えて、髪の毛をセットできれば十分だよ。
「あのう、ペイシェンス様はマーガレット王女様のお部屋によく行かれるのですか? ジェーン王女様の部屋に行った時の注意点とかはないでしょうか?」
ああ、マーガレット王女が朝起きれないのは内緒だから、それ以外でと言うと何かな?
「ジェーン王女が髪の毛を整えられるか分かりませんが、それをお手伝いすると喜ばれるかも?」
王妃様が再教育中だけど、ジェーン王女が髪の毛のセットを気にするタイプだとは思えない。まぁ、アンジェラが側仕えに選ばれるかどうかは分からないけど、選ばれたらみっとも無い髪型でジェーン王女が学園生活しないようにしなくてはね。
「まぁ、私の髪のセットも未だミアがする方が綺麗にできるのに!」
わっ、プレッシャーを与えてしまったかも。
「いえいえ、それは側仕えに選ばれてから考えれば良いのよ。そうだ! アンジェラはお茶を淹れられる?」
「お茶は侍女が……そうですわね、寮には侍女がいないのですね」
しまった! アンジェラをより不安にさせちゃったみたい。明日は、ゴムでビーチサンダルを作る予定だったけど、お茶の淹れ方講座かもね。
カエサル達が来るまで、私はビーチサンダルとローマ式のサンダルを作ったよ。それとアンジェラとお茶の淹れ方講座もした。
「まぁ、そんな事までしなくてはいけないの? 寮生活は大変ね」
リリアナ伯母様には呆れられたけど、サロンで優雅にお茶を淹れるのは、令嬢としてもギリギリ大丈夫みたいだ。
「ペイシェンスはお茶も上手く淹れられるのね! これはユリアンヌ様の教育のお陰かしら?」
伯母様の父親への評価は低いから、勉強面以外の私の実績は全て母親のお陰になるみたい。勉強面は伯母様もグレンジャー家出身なので、厳しくされた記憶があるようだ。
アンジェラは賢い子なので、私がお茶を淹れる注意点をメモしたりしていた。実際に淹れさせてみたけど、まぁまぁかな。ミアが後ろでハラハラしているよ。
「優雅にお茶を注ぐのは、貴婦人としても必須ですわ」
うん、まぁ練習しなくてはね!
そうこうするうちに金曜日になり、先ぶれが着き始める。カエサル部長とベンジャミンは一緒みたい。この2人はよく一緒にいるよね。何故か、ブライスとフィリップスが一緒だ。通り道だったのかな?
リリアナ伯母様には客室の手配とか迷惑を掛けてしまったな。
「伯母様、私が手紙を書いたからこんなことになって申し訳ない気持ちですわ」
少し図々しい気分になって謝ったけど、リリアナ伯母様は気にもとめてないみたい。
「何を言っているの? ペイシェンスは貴族として、もっと社交とか考えなくてはいけませんわ。ああ、ウィリアムが免職になり、隠者の様な生活をしているから、貴女が知らないのは仕方ないかも。でも、来年には社交界デビューするのですから、お付き合いは大切ですわ」
良家の子息達に目を輝かせるリリアナ伯母様には申し訳ないけど、カエサル達は錬金術的な興味しかないし、フィリップスは歴史的遺産に惹かれて来ただけだよ。
そう、これは錬金術クラブと歴史研究クラブの合宿みたいなものなんだ。ガッカリさせちゃうかも。
でも、ナシウスには良いかもしれない。前は読書クラブに入りたいと言っていたし、本の虫のナシウスにはピッタリだと思ったけど、近頃は外に出かけるのが好きになったみたいだもん。歴史研究クラブも考慮したら良いんじゃないかな?
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