第24話 サティスフォード港へ行きたいな

 ラシーヌがアンジェラと来る前に、玉葱の皮や紅茶の使った後の茶葉で茶色も染めてみた。これがリリアナ伯母様には一番しっくりきた様だ。


「エキゾチックなのに、落ち着いているわ。これならインテリアにも使えそうね」


 私は、赤色や青色や茶色に染めた布でランプシェードを作った。魔法灯で透けると、元の模様が浮かび上がり、良い雰囲気になる。


「これは流行りそうね!」


 女の人の部屋には赤や茶色、男の人の部屋には青も良いかもしれない。あっ、でも冬は寒々しく感じるかも?


 そんな事を話していたら、サティスフォード子爵もラシーヌとアンジェラと一緒にやってきた。夏の離宮に2回も招待されたお礼を言いたいそうだ。


 私がアンジェラを連れて行ったわけではない。王女達を厳しく躾し直している王妃様が、偶には息抜きをさせたいと思った時に招待されているに過ぎない。でも、そんな内情は話せないから、笑顔で受けておくよ。


「ラシーヌ、これを見て!」


 サティスフォード子爵が私にお礼を述べている間は我慢していたリリアナ伯母様だけど、終わった途端に侍女に私が染めた布や、スカートやブラウス、ランプシェードなどを持って来させた。


「まぁ、これが南の大陸の派手な生地ですか? まさか、ペイシェンス様が染めたのでしょうか?」


 サティスフォード子爵も真剣に布を手に取って調べている。


「素晴らしい! これなら売れそうです。だが、染めるのに手間とお金が掛かると高くなりそうだ。綿なのに高価だと売れ難くなるのではないかな?」


 私は、この地方でも栽培可能な植物から染料が作れる事や、藍以外は簡単だと、纏めてあったノートを渡す。


「こんな資料を下さるのですか!」


 サティスフォード子爵は驚いていたが、毎週3回の乗馬訓練は本当に有り難かったんだよ。日曜の乗馬訓練は私には少し迷惑だったけど、ナシウスもヘンリーも王立学園で恥をかかずにすみそうだからね。


「私は染物や織物が好きですから、楽しんだだけですわ。それに庶民の女の子が可愛い格好ができたら良いと思ったのです」


 それは本当だよ。ノースコート港の雑貨屋の女の子にもこの赤いスカートを着て欲しい。


「まぁ、スカートの肩紐やブラウスに刺繍がしてあるわ。とても素敵ね。アンジェラ、貴女も刺繍をペイシェンス様に習いなさい」


 ラシーヌは教育ママだね。でも、嫁ぎ先の貴族によっては、染物や織物や刺繍も必須かもしれないので心配なのかも。染物で一緒の授業を取っているハンナ達は準男爵家や騎士爵の女の子だった。


 そうか、私も嫁ぎ先によっては色々と生活が変わるのかもしれない。王妃様の不安が少しだけ理解できた。


「ペイシェンス様、どうか弟君達やノースコート伯爵様達とご一緒にサティスフォードにも是非お越し下さい」


 私が物思いに耽っている間にも、大人達は南の大陸の布について話し合っていたようだ。染め直したり、スカートに縫って販売したりする方法についても話が進んでいた。


「私もサティスフォードには行ってみたいと思っていたのよ」


 リリアナ伯母様が一番に喜んだ。どうやら、サティスフォード港には南の大陸から魔石だけではなく、宝石や香料なども届く様だ。


「うむ、それは面白そうだ」


 あらら、ノースコート伯爵も乗り気だね。サティスフォード港を見学して、ノースコート港を発展させるアイディアでも考えるつもりなのだろうか?


 私はリリアナ伯母様の目の輝きが怖いよ。宝石好きだとサミュエルから聞いているからね。


「ペイシェンス様ならきっとサティスフォード港の市場バザールが気に入ると思うわ。私は少し賑やか過ぎて、頭痛がするのだけど、この前屋敷に泊まった貴族の若い方々は物珍しいと喜んでいらしたのよ」


 それは楽しそうだ。リリアナ伯母様が行かせてくれると良いのだけど、と顔色を伺う。


「本当なら貴族の令嬢が市場バザールなんか見学するべきではありませんが、ペイシェンスは文官コースを取っていると聞きました。他国との交流を見学するのも良い経験でしょう」


 わっ、嬉しいよ!


「私達も行っても良いのですか?」


 弟達を代表してサミュエルが質問する。


「サミュエルやナシウスやヘンリーも見学したら良い。きっと、将来、役に立つだろう」


 ノースコート伯爵の言葉に、パッとサミュエルとナシウスとヘンリーの顔が輝く。特にうちの弟達2人は、夏休みまで屋敷から出た事無いものね。ノースコート港を見学したけど、栄えていると聞くサティスフォード港も見せてあげたいよ。


「サミュエルは将来はノースコート領を継ぐのだ。よく見学しなさい。そして、ナシウスとヘンリーも将来どの様な職に就くにしても経験を積んでおいた方が良いだろう」


 ノースコート伯爵って第一印象は冷たい貴族そのものって感じだったけど、結構優しいね。貧しい時に援助してくれなかった事については少ししこりもあるけど、知り合った人には篤い人なのかも?




 サティスフォード港への見学はモラン伯爵家から帰ってからになった。今週は勉強と遊びだ! この数日、昼からは染物に集中していたから弟達と遊んでないんだよね。まぁ、剣術や乗馬は私は参加できないけど。いや、乗馬は参加できるけど、気乗りがしないし染色を優先しただけ。


 という事で、次の日からは午前中はアンジェラも一緒に勉強だ。分数の知育玩具も皆で作っておいたよ。分数はヘンリーも一緒に教える。


「ゲームをしながら覚えましょう」


 前はサミュエルだけだったから、色々な分数の板も少しだけだった。だから、すぐに丸になったけど、今度はいっぱい作ったから、なかなか丸にはできない。その分、より頭を使わなきゃね。


「お姉様、私達も参加しても良いですか?」


 ナシウスは分数は覚えているのに、楽しそうだと思ったのか一緒にやることになった。そしたら、サミュエルも付いてきたよ。この2人は本当に仲良くなったね!


 箱の中から板を取るのだけど、サミュエルは一度やったことがあるから、大きな2分の1とかを指先で探って取る。まぁ、どうなるかな? 前は2人だけだったし、簡単な3分の1とか4分の1しか作ってなかったんだよ。今回は難しいよ。


 私は、この場をナシウス達に任せて、自分の勉強をする。世界史はかなり勉強が進んでいる。後は、地理も終了証書をとりたいから頑張ろう。


 外交学、経済学、経営学はディベートやレポートが興味深いから秋学期はまだ終了証書を取らないつもりだ。異世界の事情をもっと知りたいからね。


 悩ましいのがデーン語だ。私は少し頑張れば終了証書が取れそうなんだよね。マーガレット王女も音感が良いから、かなり得意分野だ。これは秋学期に2人で頑張って終了証書を取る方針にしよう。


 錬金術3は終了証書を取りたいし、魔法陣2と魔法陣3も習得したい。趣味の分野になっている染物2と織物2は楽しみたいからゆっくり習いたいな。ハンナ達とももっと一緒にいたいし。


「あら、私の秋学期の履修はスカスカなのかしら?」


 カリグラフィーもすぐに終了証書が取れそうだし、裁縫も実は冬のドレスは3枚仮縫いまで終わっている。今年の収穫祭に着るドレスを本縫いして、青葉祭用のドレス2枚を仮縫いまですれば終了証書を貰える。ただ、マーガレット王女が心配なのだ。ミシンを作れたとしても、使い方に慣れるまでは大変だろう。ミシンが使えたとしても、却って、縫い間違えたりすると解くのに時間が掛かる。


「秋学期中にマーガレット様には裁縫を覚えて貰いましょう!」


 縫わなくてよい糊も作ったけど、やはり縫わないとドレスはできない。それと、基本的なドレスの構造を理解しないとね!


 きっと夏の離宮でマーガレット王女がクシャミをしているのではないかな?


 デーン語の終了証書と裁縫のマスター! マーガレット王女が知ったら嫌がりそう。でも、来年の秋までには終了証書をいっぱい取らなくては、社交界デビューがあるんだもん。




 午後からは海水浴! これでこそ夏休みだよね。前世で泳ぎを覚えていて良かったよ。服を着たまま泳ぎ方を覚えるのは大変そうだもの。


 冷やしたジュースを飲んでいると、サミュエルがアンジェラと話していた。


「アンジェラにもカザリア帝国の遺跡を見せたい!」


「わぁ、行きたいです!」


「そうだね、明日はカザリア帝国の遺跡に行こう!」


 ナシウスは本当に遺跡にハマった様だ。


 サミュエルの提案で、明日はカザリア帝国の遺跡へ行く事になった。あれっ? 何か忘れている様な? 


「そういえば、カエサル様達に送った手紙は着いたのかしら? フィリップス様の歴史研究クラブにナシウスが入るかもね」


 なんて少しだけ頭に浮かんだけど、ナシウスに泳ぎを教える方が大事だよね!


「ナシウス、身体の力を抜いて、水の上に浮かぶのよ」


 ナシウスも浮かぶ事はできるようになったのに、息をしようとして顔を上げると沈んじゃう。やはり、ビート板が必要みたいだ。頑張って作るぞ!


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