第69話 大盛況の錬金術クラブの展示会
「まぁ、凄い人ね」
私も朝からずっと講堂に居たので知らなかった。自転車の試乗もアイスクリームの試食も大繁盛だ。
「おっ、ペイシェンス! やっと来てくれたな」
カエサル部長とベンジャミンに熱烈歓迎された。
「マーガレット様は席を予約してあります。キース王子とラルフ様とヒューゴ様も一緒にどうぞ」
この人出の中は大丈夫だろう。マーガレット王女達が予約席につく。私は展示会場を半分に仕切った簡易キッチンで上級メイドの手伝いだ。
「器が足りませんの」
洗おうとしたらしき痕跡はあるが、客の応対で忙しくて放置されている。私は腕まくりして器を洗う。乾かすのは生活魔法で簡単に終わらせた。
「昼食は食べましたか?」
バーンズ公爵家からランチボックスが届いていたが、手を付けた様子は無い。私は紅茶を入れて、2人ずつ昼休憩を取らす。
その間は盛り付けを私がする。運ぶだけなら2人でも大丈夫だ。
錬金術クラブのメンバーも昼食を取っていない様だ。私は異世界に来た時に飢えたから、食事を抜くのは反対だ。上級メイド達が食べ終わったので、今度はメンバー達だ。
「カエサル部長、昼食を食べに行って下さい」
自転車を自慢げに説明しているカエサル部長に言ってみるが「分かった」と言うが、分かって無い。それどころか、自転車の試乗の整理を手伝わされた。
1号機はコマ付きなので簡単なのに人気が無い。皆、見栄を張って2号機と3号機に試乗したがる。そして4号機には意外な事に保護者が殺到していた。カエサル部長は女学生が錬金術クラブに興味を持ってくれるのではと考えていたが、生憎な結果だ。夫婦で仲良く乗っている保護者も多い。
マーガレット王女達もアイスクリームを食べ終わった様だ。挨拶をしに行く。
「ペイシェンス、とても美味しかったわ」
褒めて貰えたよ。ついでだから、宣伝しておこう。
「このデザートを作る道具をバーンズ商会で販売します。レシピも付けますから、アイスクリームをいつでも食べられますよ」
マーガレット王女だけでなく、キース王子とラルフやヒューゴも目を輝かした。お買い上げ決定だね!
マーガレット王女は、音楽クラブのメンバーと講堂へと向かう。皆、観劇はパスしたみたい。演目が暗いもんね。
キース王子とラルフとヒューゴは錬金術クラブの展示会場に残った。何だか、クラブメンバーから怪訝な目を向けられている様な気がする。そりゃ、変だよね。キース王子と学友が縁もゆかりも無い錬金術クラブの展示場に居座るなんてさ。
「自転車の試乗をされては如何ですか?」
ずっと側にいられても窮屈だ。それに手持ち無沙汰みたいな顔をされて横にいられても困るよ。
「だが、予約をしていないのだ」
そう言うが、さっきから足をつきつき自転車に乗っている男子学生を熱心に眺めている。
「1号機なら予約があまり入っていませんよ」
キース王子はコマ付きは格好悪いと感じた様だ。
「足をつきつきより、1号機ですいすい自転車に乗る方が良いですよ」
「ペイシェンスがそう言うなら、乗ってみよう」
うん? 何か引っ掛かる言い方だよね。まぁ、私が自転車に詳しいからかな?
「これがハンドルで、ここをギュと握ればブレーキになります」
キース王子は自転車のコマ付きはすいすい乗れた。運動神経は良いからね。ラルフやヒューゴも乗れたよ。
「これは面白いし、便利だな」
4号機を見て、便利さにも気づいた様だ。
「ええ、近場なら馬車は必要ありませんわ」
キース王子は難しい顔をする。
「ペイシェンス、自転車で1人で出掛けてはいけないぞ。ラフォーレ公爵だけでなく、お前の才能を狙う奴は多いからな」
音楽馬鹿以外にも目をつけられているのだろうか? 意味不明だよ。
「アイスクリームメーカーや自転車だけでは無いのでしょう?」
ラルフに言われて、洗濯機や冷蔵庫や冷凍庫やアイロンやヘアアイロンの展示会場を案内する。
「この洗濯機とやらは、下女の代わりか?
冷蔵庫や冷凍庫は食品の保存に良さそうだ。アイロンは分かるが、ヘアアイロンとは何だ?」
キース王子にあれこれ説明しているうちにアイスクリームもメレンゲも売り切れた。
「これで販売は終了です」
カエサル部長が説明しているが、予約していた客を見て不満を言う学生も多い。
私は上級メイドに材料があるか聞いて、あと2つ分のアイスクリームを作った。時間が無いから、アイスクリームメーカーでは無く、生活魔法でちゃちゃと作るのを見て、キース王子達に呆れられたよ。
「カエサル部長、あと40個作りました。でも、これで材料は無くなりましたわ」
詰めかけていた学生達もアイスクリームを美味しそうに食べている。
「少しは錬金術クラブに入る気になった学生がいると良いのだが……自転車とアイスクリームメーカーは売れそうだがな」
そうなんだよね。展示会場は閑散としているもん。何とか青葉祭も無事に終わりそうだ。
「後片付けはメイドに任せなさい。ペイシェンスは着替えなくてはいけないのだろう?」
今年から裁縫の時間で縫ったドレスでダンスパーティに出るのは、カエサル部長も知っていた。5年Aクラスでも女学生が騒いでいたのだろう。
「ええ、でもダンスパーティに興味は無いので……」と断ろうとしたが、私の後ろにはキース王子とお供の2人が待ち構えている。
「ペイシェンス、裁縫教室まで送るぞ」
カエサル部長に「行きなさい」と言われて、ドナドナされる気分で裁縫教室まで歩く。
「ペイシェンスはドレスは出来ているのだろう?」
キース王子にはダンスパーティが苦手な理由なんか分からないだろうね。初等科は制服なのに、中等科はドレスなんだよ。私は初等科としても背が低い方なのに、ドレスを着たら目立つじゃん。それも悪い方にね。
「少し参加したら寮に帰りますわ」
初めから帰るのを前提なのを呆れられる。
「ダンスも終了証書貰ったじゃないか」
それはリーダーがカエサル部長だったからだよ。なんて言ったら、また機嫌が悪くなるかもしれないから言わないよ。
「キース王子、ラルフ様、ヒューゴ様、ありがとうございます」
ラフォーレ公爵には会わなかったし、流石に拉致して屋敷に連れて帰られるとは思ってないけど、エスコートして貰ったお礼を言う。
「いや、ペイシェンス、本当に気を付けるのだぞ」
そんな事を言われると不安になるけど、いざとなったらモンテラシード伯母様の縁談に逃げるしか無いかもね。やれやれ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます