第42話 新生騎士クラブ?
騎士クラブの署名活動はマーガレット王女と私が考えていたよりも難航していた。騎士コースに属していない男子学生の多くが署名拒否したのだ。
「騎士コースの殆どが騎士クラブに入っているけど、過半数には足りないわよね」
4年Aクラスの騎士コースの学生は5人だが、BクラスやCクラスにはもっと多いと思っていた。
「騎士爵の息子だからと言って、全員が騎士コースを取るわけじゃ無いのですね。文官コースを取る学生の方が多いとは知りませんでしたわ」
キース王子がいた1年Aクラスが異常だったのだ。他の学年は、文官コースが1番人気だ。女子は殆ど家政コースなので2番目。そして、3番目を魔法使いコースと騎士コースが競っている感じなのだ。驚いた。魔法使いコースって意外と人気あるんだね。Aクラスの人数が少ないから、1番人気が無いと思っていたのだ。
「そうか、下級薬師とか下級錬金術師とか下級王宮魔術師とか資格取れるのが多いからだわ」
平民のCクラスで入学した学生の多くは、官僚になる文官コースか、資格が取れる魔法使いコースを取るのだ。そうか、騎士って貴族がなるんだもんね。平民で騎士を目指すのは稀なんだろう。よほど腕に自信あるとかね。
「女学生は属しているクラブによるわね。乗馬クラブや魔法クラブは絶対にしないし、演劇クラブやコーラスクラブ、それに意外と運動部に属している女学生も厳しい目を向けているわ。騎士クラブだけ優遇されているのに不満があったみたい」
リチャード王子、ちょっと甘く考えていたみたいですよ。このままでは騎士クラブの復活は難しそうだ。
なんて心配していたが、騎士クラブも考えたんだね。パーシバルとか顔の綺麗どころを集めて、家政コースの署名を集めまくったんだ。キース王子も初等科の署名をいっぱい集めたみたい。
勿論、拒否する学生もいたけど、どちらでも良い学生は署名して、過半数に届いたようだ。うん、キース王子が機嫌良さそうに昼食で話していたから知っているよ。良かった!
学生会で検討して、ハモンド部長、そしてカスバート顧問の辞任で、騎士クラブは復活した。やれやれ!
で、新部長はラズモンド・サセックスだってさ。私の知らない人だ。何となくパーシバルがなるのかなって思っていたけど、違ったね。
ラズモンド部長はハモンド部長と違って、初等科の学生には厳しいとキース王子は愚痴っているよ。少し気の毒だけど、変におべんちゃらを言う部長よりマシだよ。王子を利用しようとしないのは合格だね!
「何故、パーシバルが部長にならなかったのかしら?」
マーガレット王女も不思議に思ったみたい。
「5年生だからでは? それか騎士クラブでは能力主義で強い者順とか?」
この件で裏で動いたのはパーシバルだ。でも、表では最後の女学生の署名集めにしか出ていないんだよね。何だかパーシバルって不思議だ。なんて考えていたら、土曜にやって来たんだよ。サリエス卿と一緒にね。
弟達に剣術指南してくれた後でお茶に誘う。今回は卵サンドと苺サンドだよ。金曜に王宮へ今回の件で呼び出されたから、生クリームも貰ったからね。
「ペイシェンス、ありがとう」
サリエス卿にお礼を言われたけど、私はうろうろしていただけだよ。まぁ、かなり迷惑だったけどね。
「ペイシェンス様のお陰で何とか騎士クラブも存続できました。それにラズモンド部長なら任せておいても大丈夫です」
あれっ? パーシバルの口調は辞めるって感じだけど?
「やはり文官コースに移るのか? まぁ、モラン伯爵家の嫡男だから仕方ないな」
えっ、そうなの? なのにあんなに真剣に動き回っていたの?
「騎士コースは春学期で単位を全て取れるでしょうから、秋学期から文官コースです。ペイシェンス様の後輩になりますね」
爽やかに笑うパーシバルだけど、意味が分からないよ。
「でも、パーシバル様はあれほど騎士クラブの事を真剣に考えていらしたのに」
パーシバルはキッパリと答えた。
「私は騎士クラブは辞めませんよ。ただ、文官コースの人間が部長に選ばれる事は無いだけです。それに騎士団にも入りません。ロマノ大学に進み外交官を目指します」
「モラン伯爵は外務大臣だからな。お前なら良い騎士になれたのに残念だ」
華やかな外交官になりそうだね。なんて考えていたら、パーシバルに勧誘された。
「ペイシェンス様は文官コースですよね。外交官は如何ですか? 外国には興味はありませんか?」
えっ、外交官? 前世でも憧れの職だったんだよ。でも、難しそうで諦めたんだよね。外国には行ってみたいんだよ!
「おいおい、従姉妹を誘惑するなよ。外交官なんて難しそうじゃないか。ペイシェンスは良い嫁さんになれるよ。この卵サンドイッチも苺サンドイッチも美味いし、前のケーキも凄く美味しかった」
サリエス卿の褒め言葉、ありがたいけど、持参金が無いんだよ。貧乏な子爵令嬢でも嫁に貰い手は有るかもしれないけど、こちらも選びたいからね。
パーシバルは自分は部長になれないけど、尊敬できない部長の下は嫌だったんだ。うん、プライド高そうだもんね。リチャード王子の下ならバリバリ働けそうで良かったよ。
金曜は王宮行きだったから、錬金術クラブには行かなかったよ。だから、家で作りたい物リストを作ったんだ。説明だけでは分かりにくい物もあるから、図も描いたよ。あれこれ描いていたら、ピンと閃いた。
「あっ、これなら魔石も要らないから、家でも使えるよ。それに、2回使えるから節約になるね! あっ、でもこれは錬金術にならないのかな? カエサル部長に聞いてみよう!」
欲しい物リストの図は、説明する為だから大雑把に描いていたが、これはしっかりと考えて大きさとかも書き込む。
「うん、確かこのくらいの大きさだったよね。それと、これを入れるカバーは作っておこう」
屋根裏部屋の要らない布でカバーを作る。早く錬金術クラブに行きたくてうずうずするよ。
弟達の為の魔法灯はとても喜ばれたけど、魔石が無くなったら付かなくなる。今回の魔石は錬金術クラブから貰ったんだ。アイデア料だとカエサル部長は言っていたけど、毎回は貰えないものね。
頑張って陶器の絵付けの内職をいっぱいするよ。これは初めから生活魔法でばんばん絵付けする。
「あれっ、これはコピーだよね? もしかして魔法陣の内職できないかな? 魔法灯を作る工房に魔法陣を売るのってどうすれば良いのかな?」
取り敢えず、白磁のティーセットに細密画を絵付けして、ワイヤットに取りに来て貰う。
「お嬢様、お早いですね。そんなに根を詰めなくても宜いのに」
いつもの倍はできているから、ワイヤットに心配されたよ。
「ねぇ、ワイヤット。私は魔法灯の魔法陣が凄く早く書けるのよ。誰か魔法灯の工房に知り合いは居ないかしら?」
ワイヤットは弟達の部屋の魔法灯と、私の部屋の魔法灯を見ている。ハッと何か思いついたのか微笑む。
「さようですね、私の古い知り合いを訪ねてみましょう。ですが、無理をなさらないようにして下さい」
これで内職が増えた。もう、靴下のかけつぎはパスだよ。工賃が安すぎるからね。
今は学園では刺繍の内職に励んでいる。嫁入り支度に名前入りのナプキンや枕カバーやハンカチは山程持って行くそうだ。メアリーと2人で受注してはチクチク刺繍しているよ。これは見た目よりも難しいんだ。裏も綺麗に刺繍しなくてはいけないからね。その分、工賃は高くなる。それに刺繍屋と繋がりを持ったメアリーに刺繍糸を格安で買ってきて貰える。これでナシウスの制服の身返しに紋章と名前を刺繍するんだ!
それと刺繍のマクナリー先生から絵画刺繍を習っていて、それが習得できたら、かなり高値で売れるみたいなんだ。だって普通に刺繍したら1年はざらにかかるからね。今はテクニックを色々と習っているから、生活魔法を使わないように気をつけているよ。つい使っちゃうけどね。
マクナリー先生曰く、これを嫁入り道具にするのが前は流行っていたんだって。家の嫁はこんなに刺繍が上手いのだと見せびらかす為に飾るそうだ。実際に下手だとバレたらどうなるんだろう。まぁ、メイドにやらすとか抜け道は有りそうだよね。で、今でも花嫁道具に自分ではしないけど、こっそり買う人は絶えないそうだ。頑張るぞ!
楽しい土日はすぐに終わっちゃう。なのに、何故その貴重な日曜に苦手な乗馬をしなくちゃいけないんだろう。それに、ヘンリーそんな高い障害を飛んだら転けないの? 冷や冷やして心臓に悪いよ。
「お姉様、見てましたか?」なんて言うけど、目を瞑っちゃったよ。
「ヘンリー、大丈夫ですか?」心配で堪らない。
「今度は私の番ですね」えええ、ナシウス! やめておいた方が良くない?
「大丈夫だ! 飛んでみろ」おい、サミュエル、いい加減な事を言うんじゃないよ!
怖くて見てられないよ。でも、ナシウスも飛んだようだ。
「お姉様、飛べましたよ!」と叫んでる。
お姉様業は大変なのだ。心臓もつかな?
「ペイシェンス、もう練習しないのか?」
サミュエル、余計な事を言うと出入り禁止にするよ。少しだけで十分なんです。
「私はそろそろ寮に行く支度をしないといけませんから」
サミュエルが土日に時々遊びに来て良いかと尋ねるから、良いよと答えたんだ。ナシウスとヘンリーが従兄弟と遊べるのを喜んでいるからそれは良いんだ。でも、私に乗馬を強要はさせないよ! 錬金術クラブで絶対に自転車を作って貰おう! あっ、でも自転車の仕組みを思い出さなきゃ。先ずはあれからだね!
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