第27話 刺繍を極める

 水曜は経営学、魔法陣、薬学、刺繍2だ。

 経営学の授業は教科書通りに進んだが、フィリップスやラッセルから事業の立ち上げについての質問が飛んだ。皆んなこの課題に苦労しているみたい。私も物価が分からないから要調査なのだけど、メアリーを説得できるかな?

 魔法陣は水を出す魔法陣を書いた。うん、時間は掛かったけど、ちゃんと書けたよ。次は風を起こす魔法陣だ。これが書けたら扇風機ができるよね。

「ペイシェンスは魔法陣も飛び級するか? 教科書を写すのは自習でできるだろう。魔法陣2では魔法陣の理論を学んで自分で魔法陣を作り出すのだ」

 凄く面白そうだけど、時間割の調整が無理だ。

「そう言えば放課後のクラブ活動は無理だと言っていたな。この時間と錬金術2の時間に錬金術クラブ活動をしても良いぞ」

 キューブリック先生は錬金術クラブの顧問だから、めっちゃ押してくる。

「考えておきます」と答えておく。この魔法陣飛び級、もしかしてこの為なの? なんて疑っちゃうよ。


 薬学では上級回復薬を作る。ほぼ下級回復薬と同じだ。違うのは上級薬草を使うのと煮出す時に魔力を注ぎ続ける事だ。

「お前さんは合格だよ。薬学3にしな。分かっているよ。どうせ時間割が変更できないんだろ。この時間で薬学3をやれば良いさ。それでこの上級回復薬は売るのかい?」

 マキアス先生に上級回復薬を売って貰う事にした。内職できたよ。お金は学期末に貰えるそうだ。楽しみ!

「ペイシェンス、凄いな。どうやって下級回復薬を作るのかも分からなくなったよ」

 ベンジャミンにしては珍しく自信喪失している。

「何か気づくかもしれないから、やってみて下さい」

 うん、浄化が雑だ。

「ベンジャミン様は火が得意なのですよね。鍋を洗った後に火で浄化してみて下さい。それと漉し器も漉した後の鍋も。回復薬を入れる鍋も。そして水の浄化が出来ないなら、蒸留して下さい。ほら、テーブルの下の蒸留装置を使うのです。多めに蒸留水を作って、薬草も水で洗った後に蒸留水で洗い直して下さいね」

 一気に言われて驚いていたが、ベンジャミンは魔法使いコースだ。理解したみたい。

「そうか、浄化ができていなかったのだな。ペイシェンス、ありがとう。徹底的に浄化してみる」

 なんとかベンジャミンは下級回復薬を作ったが、マキアス先生は合格を出さなかった。

「こんな下級回復薬では売り物にならないよ。まぁ、自分で飲むなら、飲みな。腹を壊したりはしないさ。もっとキチンと浄化しな」

 薬学の合格は売り物になるかどうかなのだろうか? クラス全員が疑問を持った。

「なんだい。薬学なのだから、ちゃんと飲める薬を作らなきゃ駄目に決まっているだろ。そんなことも分からないのかい」

 やはりマキアス先生は心を読めるのでは無いだろうか。

「ペイシェンス、私の下級回復薬の作り方も見てくれないか?」

 ブライスも下級回復薬の作り方に迷っているようだ。やってみて貰うが同じだ。

「ブライス様も浄化が中途半端です。それに薬草の洗い方がなっていません。ほら、根元には土が残っていますよ。水の魔法を使えるなら、全てを綺麗に洗った後で魔法で出した浄水でもう一度洗って下さい」

 貴族の子息は薬草の洗い方から教えないといけないみたいだ。横でアンドリューが「薬草すら洗えないのか」と笑っていたが、マキアス先生に「お前さんの薬草も根元に土がついているよ。そんなので作った回復薬なんぞ飲んだら腹を下すぞ」と叱られていた。

 アンドリューに教えないのか? 聞かれて無いから教えないよ。それにマキアス先生の仕事だからね。


 刺繍2はクッションに刺繍をする。魔法使いコースから家政コースに来ると、何となくホッとするよ。魔法使いコースにもベンジャミンやブライス、そしてまぁアンドリューとか知り合いができたけど、あのおどろおどろしい雰囲気は疲れるよ。ホラー映画は苦手だったんだ。

 刺繍2には知り合いはいない。うん、少し寂しいけど、かえって気楽だ。そう思う事にする。

「昔の王宮では王族以外は座ってはいけませんでした。例外は刺繍をする貴婦人だけでしたのよ。今でも刺繍ができるのは貴婦人の嗜みの一つです。それに夫のサーコートに紋章を刺繍するのは素敵な風習ですからね。奥方が刺繍が下手では戦場で力がでませんわ」

 相変わらず、このマクナリー先生は女学生を煽るのが上手い。これも教えるテクニックなのだろう。

 マクナリー先生から材料を貰って刺繍を始める。

「どの様な模様でも結構ですが、それを応接室に飾り、大切なお客様をお迎えして恥ずかしくないように刺繍を施して下さいね」

 そうかデザインが自由なら薔薇にしよう。家の応接室は飾りっ気が無いからね。温室の薔薇を思い出して、赤とピンクの薔薇を刺繍していく。うん、楽しい。どんどん刺していくと薔薇が布一面に咲き誇った。

「まぁ、ペイシェンス。貴女は刺繍2も合格だわ。困ったわね、刺繍3を取れるかしら?」

 錬金術2に続いて刺繍2も飛び級になった。

「先生、もう金曜の午後しか空いていないのです」

「金曜の3時間目は刺繍1ですわね。他の時間は詰まっているのですか? そうだわ。このまま刺繍2の時間で、刺繍3をなさいな。どうせ、刺繍3もすぐに合格して終了証書をあげなくてはいけないでしょうからね」

 いっぱい刺繍をしたいのに、すぐに熱中して生活魔法を使ってしまう。

「マクナリー先生、私は刺繍が好きなので、なるべく長く授業を受けたいのです」

 マクナリー先生は少し考えて、フッと笑った。

「ペイシェンス、刺繍には芸術的な作品もあるのですよ。絵画のように見える刺繍を学んでみませんか? これならすぐには作品も出来上がりませんわ」

 前世の日本刺繍みたいな物かもしれない。祖母の日本刺繍は絵のように見えた。

「ええ、教えて下さい」

「やる気のある学生は嬉しいですわ。次からは絵画刺繍に挑戦しましょう」

 他の学生から呆れられたけど、これ以上の時間割の変更は無理だ。やはりもっと余裕を持った時間割にしなくてはいけなかったのだ。

 やはり法律と行政は春学期の期末テストで終了証書を取ろうと決意した。教科書はアルバート部長に貰っている。この2コマが空けば、少し余裕ができる。

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