第26話 裁縫は大変そう

 火曜は、地理、外国語、裁縫、織物だ。まだ中等科の時間割に慣れてないから、毎朝チェックしている。それに中等科は飛び級が出やすい気がするので、変更も多いからややこしい。

 そう言えば、あの騒ぎから1週間経ったんだ。マーガレット王女は朝起きようと努力中だ。うん、起きれてはないけど、起きようとはされている。そこが大事だよね。

 朝食を食べながら、お互いの授業をチェックしたりする。

「地理と裁縫は初めて受ける授業ですわ」

 特に地理は楽しみだ。異世界の事をもっと知りたいからね。

「裁縫は大変よ。それと今日は外国語は一緒に受けれるわね」

 外国語も楽しいよ。この外国語、少し古典っぽいんだ。

「キース王子は本当に騎士コースと文官コースを取られるのでしょうか?」

 マーガレット王女はピンときていないようだ。

「何か問題でもあるの?」

「いえ、ただ文官コースの選択科目でもある外国語は古典に似ている気がするのです」

 マーガレット王女は首を傾げている。古典とデーン語に共通点を感じていないようだ。

「そうかしら?」

「ええ、古典はエンペラード語の前の帝国語でしょう。デーン語はその帝国語に似ているような気がします。我国より北部にあるのに帝国語が残ったのかもしれませんね」

 マーガレット王女も少し考えて「文法とかは似ているかもね」と同意する。

「でも、文官コースの外国語も選択科目でしょ。苦手だと思ったら取らなければ良いのよ」

 確かにね。それより裁縫だ。

「春学期は青葉祭のドレスと聞きましたが、秋学期は何を縫うのでしょう?」

「あら、知らなかったの? 収穫祭の後で中等科の学生は卒業ダンスパーティを開くのよ。だから、秋学期はそのドレスを縫うの。冬物は生地が厚いし、裏地も付けなくてはいけないから、大変だと皆が騒いでいるわ。でも、制服でダンスパーティより良いと言う強者もいるのよ」

 そっか、去年はマーガレット王女もまだ初等科だったから参加されなかったのだ。それにしても裁縫は6枚ドレスを縫わなくては合格できないようだ。なかなか大変だよ。


 地理の授業はルパート先輩の推薦だから、文句なしに楽しい。それに異世界の地図を見ながら、その土地の話を聞くのは役に立つね。いつか外国に行ってみたいな。お金に余裕ができたらね。

 外国語はマーガレット王女と組んで自己紹介の練習をしたよ。

『私は音楽が好きです』うん、その通りだね。

『私は弟達が大好きです』これ本当!

「あらペイシェンス、そうなの?」あっ、この時間は自国語禁止になったんだよ。

『マーガレット王女、自国語は禁止ですよ』ほら、モース先生から注意された。

『はい』簡単に答える。もっと複雑な会話ができるようになるには練習が必要だね。


 昼食は何だかキース王子達が騎士クラブに付いて話していた。うん、関わりたく無いから、私はマーガレット王女と裁縫の授業の話をするよ。

「ドレスの生地は用意されているのですか?」

 これ、重要だよ。シャーロット伯母様に絹の生地は貰ったけど6枚分も使いたく無いな。少しでも多く残しておいて、弟達のシャツとかも縫いたいんだもの。

「ええ、リボンやレースも用意されているわ。ペイシェンスは先ずはデザインを描いて、その型紙を取らなくてはいけないわ。というか、型紙を見てデザインを決めた方が良いわ。私は初め素敵なドレスのデザインをしたの。でも、型紙を作れなかったのよ」

 なる程、先生もいきなりドレスを型紙から作らせるのは無謀だと考えられたのだ。

「では、型紙からデザインを選んで、そこにリボンやレースでアレンジすれば良いのですね」

 マーガレット王女が呆れる。

「ペイシェンスが言うと簡単そうに聞こえるわ。あっ、でも良い生地はもう残って無いかもしれないわ。青葉祭だから、緑や青色の生地を皆が選んだから」

 そうだよね。爽やかに見える色を着たいよね。

 何だか揉めていそうな騎士クラブの話題には関わる事なく無事に昼食を終えた。


 やはりマーガレット王女の言われた通り、涼しげな色の生地は残ってなかった。

「ペイシェンス、貴女が授業に出なかったからよ。どれか選びなさい」

 濃い色の生地しか残ってない。茶色や暗い黄色、赤も黒っぽい赤だ。収穫祭なら有りだけど、青葉祭にこれは無いよ。濃い紺色の生地が目についた。

「キャメロン先生、柄物は駄目ですか?」

「いえ、正式な舞踏会では未婚の令嬢が柄物では砕け過ぎに見えますが、青葉祭なら大丈夫ですよ。でも、柄物の生地は高価なので裁縫の授業の材料にはありません」

 私は良いプランを考えついたのだ。

「白い生地も少し使わせて貰えますか?」

「ええ、襟や裾に白い生地を使う学生も多いですから良いですよ」

 私は濃い紺色の生地と白い生地を少し貰ってマーガレット王女の横のテーブルについた。

「あら、そんな色しか残っていなかったの? 綺麗な紺色だけど、青葉祭には少し重いわ」

 マーガレット王女は若草色の生地に型紙を当てて裁断していた。うん、青葉祭にピッタリの色だね。でも、型紙をピンで止めないとズレるよ。

「マーガレット王女、型紙をこのようにピンで止めてから裁断しましょう。それと、ダーツの位置をチャコで記しておかないと困りますよ」

 あっ、ダーツの意味もわかって無さそう。ザッと説明はあったと思うけど、そうかマーガレット王女も1回目の授業をサボったんだ。何となく罪の意識を感じるよ。

「あっ、そう言えば聞いた気がするわ」

 マーガレット王女は2コマ取っているから聞いていたんだね。なら、ちゃんと聞いてなかったマーガレット王女の責任だ。でも、側仕えとして青葉祭で恥はかかされない。マーガレット王女のやる事は要チェックだ!

 私は前世のディオールのニュールックに似たドレスに決めた。よく似た型紙もあるからね。襟を少し大き目に開けて、そこに白い大きなボートネックの襟を付ける。そして、生地は紺地に白の水玉模様にするつもりだ。これは型紙で生地を切ってからにする。模様合わせをするなら、型紙で切ってからで良いと思う。

「まぁ、もう裁断が済んだの?」

「ええ、でもこれからが大変なのです」

 私は生活魔法で白い生地から小さな丸い形に何十個も切り取る。白い水玉模様が多い方が涼しそうに見えるから、大変だよ。

 縫い付けるには縫い代が必要だ。切り取った白い生地より一回り小さな型紙を作って、それに生地を乗せてアイロンで型をつけていく。異世界のアイロンは中に炭を入れて使うから重いんだよ。

「まぁ、ペイシェンス。素敵なドレスになりそうね」

 キャメロン先生が周ってきて、私がしている事を見て意図に気付き、褒めてくれる。

「ええ、そうなったら良いのですが……先生、縫う前に水玉模様にした方が良いですか? それとも縫ってから水玉模様にした方が良いですか?」

 前世の生地は初めから模様が付いていた。だけど、どちらが正解かわからない。

「本当は縫う前に模様合わせをするのが正しいと思いますが、模様を作るなら、後からの方がバランス良くできるでしょう」

 では、縫ってから模様を付けよう。

「腕がブルブルするわ」

 本当にペイシェンスは体力が無い。重いアイロンで、腕が疲れたよ。

「まぁ、今日は音楽クラブなのに。次の授業で腕を休ませるのよ」

 どこまでも音楽愛が深いマーガレット王女だけど、次は織物だ。腕を休ませるのは無理かもしれないとは黙っていよう。前の染色で染めた濃い黄色の糸で織るんだよ。凄く楽しみだ。黄八丈っぽい柄を織りたいな。

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