第24話 錬金術! 錬金術!

 午後からは錬金術2だ。何となく魔法使いコースのエリアは怪しい雰囲気だ。この雰囲気は前世のホラー映画に似ている。ワザと怪しさを演出している感じだ。このノリにはついていけないな、なんて考えていたらベンジャミンに声を掛けられた。うん、ライオン丸だ。金髪が逆立っている。そうだね、メタルバンドのドラムにいそうなタイプ。朝、ホームルームの時はここまで逆立ってなかった。凄い癖毛なのか、掻きむしる癖があるのかな?

「ペイシェンス、錬金術2はこの教室だぞ」

 中は薬学の教室みたいに中テーブルが設置してあり、後ろには窯がある。

「ここに座れよ」ポンポンと窓際の1番後ろのテーブルの横の椅子を叩く。やはり、ベンジャミンの指定席みたいだ。

「ベンジャミン様は錬金術に慣れておられるのですよね。私は少し不安ですわ」

 ベンジャミンはガハハと笑う。

「まぁ、錬金術クラブなのに慣れてなかったら困るさ。でも、薬学は難しい。私は火がメインだからな。ほんの少し土も使えるが、薬学は水が有利そうだ。ペイシェンスは下級回復薬は合格を貰ったのだろう。今度、コツを教えてくれないか?」

 錬金術を教えて貰えるなら、それも良いだろう。

「ええ、私の分かる範囲なら良いですよ」

 2人で教え合おうと話していたら、ブライスとアンドリューが羨ましそうに廊下から見ている。

「良いなぁ。私も薬学は下級回復薬の合格が貰えなかったんだ。私にも教えてくれないか?」

 教室に入って来て素直に教えて欲しいと頼むブライスはまだ良いけど、アンドリューは拗らせ男子だ。廊下からブライスの側まで走って来て叫ぶ。

「ブライス、私と一緒に切磋琢磨しようと誓ったのを忘れたのか!」

 あれっ、BL展開ですか? ショタの私ですが、14歳はギリギリセーフですよ。ドキドキしていたけど、どうも違うみたい。

「アンドリュー、誤解されるような言い方は止めてくれ。それは魔法クラブに入った時に『一緒に頑張ろう!』と言っただけだ」

 あれ、ここは錬金術2の教室だよね?

「お前ら、錬金術は飛び級できてないのに、何故ここにいるんだ?」

 やっぱりそうだよね。

「そうだ、ブライス。こんな所にいてはいけない。魔法制御の授業に遅れるぞ」

 アンドリューに引っ張られてブライスも出て行った。何だったんだろうね?

「アイツら変わっているな」まぁ、その通りだけど、ライオン丸ベンジャミンも変わっているよ。

「錬金術2を教えるロビン・キューブリックだ」

 魔法陣と錬金術はこの先生しかいないのかな?

「春学期は、自分で1から魔法灯を作って貰うぞ。まぁ、錬金術1で作ったから、どんな物かは知っているだろう。灯の魔法陣は教科書に書いてあるから、それを書いてくれ。それと、魔法灯の基礎やカバーやスイッチも自分で作るんだぞ。では、教科書をザッと説明する」

 エネルギッシュな説明だが、サッと終わった。

「こんな説明より実際にやった方が早い。初めに魔法陣を書いても良いし、基礎やカバーを作っても良い。錬金術師は個性が大切だからな」

 クラスが騒つく。作り方をもう少し丁寧に指導して欲しい。

「ペイシェンスは魔法陣を書くのは上手かったな。なら、先ずは基礎を作ろう」

 魔法陣は別の授業で書く機会がある。この授業は錬金術ができるか確かめたいから取ったのだ。

「ええ、お願いします」

 窯に行くのかな? と思ったが、先ずは魔法灯のデザインを描くのだと言われた。

「どんな魔法灯にするか決めて無ければ、窯で基礎を作るのも、ガラス窯でカバーを作るのも無理だぞ」

 確かにベンジャミンの言う通りだ。

「そうですね。あのう、錬金術1で組み立てた魔法灯と同じデザインでなくても良いのですか?」

「当たり前だ。あれは大量生産されている魔法灯だ。あんなのをわざわざ一から作る意味は無い」

 そっか、なら自分の部屋に置きたい魔法灯にしよう。魔石は買えるか分からないけどね。

 魔法陣とスイッチは変えられない。でも、基礎とカバーは好きなデザインで良いよね。私は子爵令嬢の部屋に相応しい花の形の魔法灯にしようと決めた。

 睡蓮の花が開いたようなドーム形のガラスカバーにして、下の基礎は円形、そしてそこにスイッチをつける。ガラスカバーはピンクでも可愛いかもね。

「何だか変わった魔法灯だな。でも、まぁやってみよう」

 ベンジャミンと教室の後ろに設置してある窯に行く。ベンジャミンの魔法灯のデザインは前世のデスク灯に似ていた。使い易そうだ。

「ここの基礎部分を作るから、よく見ておけよ」

 窯には金属が溶けている。これを何か形にでも流し込むのかなと思っていたが、錬金術は予想外だった。

「金属よ我に従え!」

 ええっと驚いている間に、ベンジャミンが描いた魔法灯の基礎が窯の横に鎮座している。瞬き禁止だよ。早すぎて良く見えなかった。

「これが錬金術なのですね!」びっくりしたよ。前世の常識はぶっ飛んだ。

「ほら、ペイシェンスも試してみろ」

 できるかな? そんな不安を吹き飛ばし、頭に基礎部分を強く思い浮かべる。

「基礎部分を作って!」

 私は自分の目が信じられなかった。スルスルと窯の中の金属から基礎部分が浮き上がり、横にストンと落ちた。

「ほら、やはりペイシェンスは錬金術クラブに入るべきなのだ」

 ベンジャミンは勧誘してくるが、私はそれどころでは無い。

「えっ、何で溶けている金属が形になるの? 型を作って、そこに流し込んで冷やして作るのじゃないの?」

 私が混乱していると、キューブリック先生が得意そうに言った。

「これが錬金術なのだ!」

 その後で、金属を型に取ったりして大量生産するのだと説明してくれたが、私は興奮して話半分だ。

「錬金術って凄いですわ」

 それからガラス窯で蓮の花のドームを作った。生憎、半透明な白しか無かったけどね。

「スイッチも作ろうぜ」

 スイッチは細かい所まで把握していないと、単なるスイッチ型の金属の塊になってしまうんだね。そう、失敗したのだ。

「ペイシェンス、もっとキチンと考えて錬金術をしないと駄目だ」

 ベンジャミンに駄目だしされて、教科書のスイッチの分解図を暗記できるまで見た。

「もう大丈夫だと思います。スイッチができるように!」

 スイッチができたと思う。押してみるとカチッと片方に倒れる。

「どうでしょう?」ベンジャミンに見せる。

「さて、どうかな?」

 ベンジャミンがカチッカチッと動かしてみている。これで魔石を魔法陣にくっつけたり、離したりするのだ。作りは前世の懐中電灯に似ている。私のはルームランプだね。

「まぁ、動きはできているな。まぁ、失敗していたら付かないだけさ」

 教科書の魔法陣を写しながら、ドキドキが止まらない。基礎部分に収まるように小さく書かなくてはいけないので、慎重に書き写す。

「できたなら組み立てろ。私は魔法陣を書くのが雑だと言われるから、時間がかかるんだ」

 そう言えば魔法陣の授業で早かったけど雑だと、書き直しをさせられていたね。

 組み立ては錬金術1でやったのと同じだ。基礎に魔法陣を乗せて、そこにスイッチと魔石を置く。スイッチを押すと、灯がついた。

「あっ、付いたわ!」

 スイッチがちゃんと作れているか不安だったのでホッとする。基礎部分にドーム形のガラスカバーを取り付ける。ちゃんと回して取り付けれる様にイメージして作ったからピッタリだ。

「灯をつけてみろよ」

 ベンジャミンに言われなくても付けてみるよ。楽しみだもの。

「わっ、綺麗!」

 白いガラスのカバーの中で灯が付くと、蓮の花が開いたみたいだ。

「ペイシェンス、また跳び級する気なのか? 春学期の課題を1時間目で作ってしまうなんて困った学生だ」

 飛び級はしたくない。もっと作ってみたい魔法灯がある。

「キューブリック先生、錬金術3は何を作るのですか?」

「錬金術3では新しい魔道具を作るのだ」

 あっ、それも楽しそう。

「私は他のデザインの魔法灯も作りたいのですが、新しい魔道具も作ってみたいのです」

 まだ魔法陣を書いているベンジャミンが「だから、ペイシェンスは錬金術クラブに入るべきなんだよ」と口を挟む。

「そうだな、ペイシェンスは本来は錬金術2は終了しているから飛び級するべきだ。でも、春学期ぐらいはこのままでも良いか。いや、魔法使いコースの主任のマーベリック先生に知られたら叱られるな。やはり飛び級で錬金術3だ」

 色々な魔法灯のデザインが浮かんでいるのに残念だ。

 がっかりしている私にキューブリック先生は片目でウィンクする。

「だが、熱心な学生が復習したいと希望するのを断る訳にはいかないな。だから、ペイシェンスは春学期中は錬金術2で復習しても良い事にする」

 やったね! と、飛び跳ねたい気分だけど、マナー違反はしない。

「ありがとうございます」とお礼を言う。

 

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