第20話 骨休めしなきゃ

 王宮の馬車で屋敷まで送って貰う。今回はシャーロット女官も一緒だ。何かあるのかな?

「シャーロット様、王立学園の家政コースにも変革の波がやっと届きつつあるのです。文官コースも変化した科目とそのままの科目があるのですよ」

 シャーロット女官は驚いて喜ぶ。

「それは良いですわね。家政コースは社交界デビューされる令嬢を甘やかす為のコースになり下がっていましたもの」

 シャーロット女官が何を王妃様に託されたのか気になるけど、それを聞いても答えては貰えないのは確実だからね。王宮から屋敷までもそんなにかからない。まぁ、馬のレンタル代が1回浮いたのはありがたいね。

 ゾフィーはいつものように籠2つをワイヤットに渡した。そしてシャーロット女官は王妃様からの手紙をグレンジャー子爵にとワイヤットに渡す。その手紙、とっても気になるけど、父親宛だから読めない。残念!

 さぁ、私は元気の元を抱きしめる。弟達エンジェルは下級回復薬より効くね。胃の痛みも和らいだよ。

「お姉様、元気が無いようですが、大丈夫ですか?」

 ああ、ナシウス。優しさが沁みるよ。

「中等科になって慣れない授業が多いから少し疲れただけです。それよりもっとお顔を見せて」

 どさくさに紛れて2回目のキスをしちゃった。うん、かなり回復したよ。

「日曜の乗馬訓練は一緒にできますか?」

 うっ、ヘンリーの期待に満ちた目には逆らえないよ。

「ええ、今日と明日、ゆっくりすれば大丈夫ですよ」乗馬なんてしたく無いけど、ナシウスとヘンリーの乗馬訓練は見たいよ。私はちょこっと乗って誤魔化そう。

「やったぁ。父上も一緒だと嬉しいな」

 あっ、父親も被害を受けているんだね。まぁ、書斎に篭りっきりは健康に良くないよ。ヘンリーにも2回目のキスしておこう。

 ワイヤットとは話し合いたい事がいっぱいあるけど、先ずは弟達と子供部屋に向かう。居なかった1週間の間の話をしなきゃね。

「ちゃんと父上が勉強を見て下さっています。1年の教科書をかなり進めましたよ。それに風の魔法も使えるようになりました」

 うん、ナシウスは大丈夫そうだ。

「そうだ! サリエス卿が明日来られるんですよ。お姉様が居られる時に来たいと言われたのです」

 ヘンリーは可愛いし、サリエス卿も好きだけど、何故、私が居る時に来られるのかな? こんな時は少し頼りないから、ナシウスに聞こう。

「ナシウス、何かサリエス卿は私に御用なのかしら?」

 ナシウスはヘンリーに「余計な事を言うな!」と叱ったが、私の請求する目に負けた。お姉ちゃんに内緒事なんて駄目だよ。

「サリエス卿は学園の騎士クラブについて何かお姉様に聞きたいと言われていました。お姉様は音楽クラブなのに変ですよね」

 何となく嫌な予感がするよ。でも、今は楽しい話をしよう。

「貴方達の従兄弟のサミュエルも音楽クラブに入ったのよ。ナシウスは何か入りたいクラブはある? クラブ案内の冊子はあげたでしょ」

 ナシウスは少し悩んでいるみたい。

「私はお姉様ほど音楽は好きではありませんし、読書クラブに入ろうかと思っています」

 本の虫のナシウスにピッタリだね。

「私は騎士クラブに入りたいです!」

 うん、ヘンリーもピッタリだよ。でも、その騎士クラブ、今はどうやら問題有りなんだよ。ヘンリーが入学するのは3年後だから、それまでには真っ当になってて欲しいな。

 それから縄跳びをして遊んだ。はぁはぁ、キース王子に亀よりのろいなんて口にさせないぞ。

「お姉様、大丈夫ですか?」ナシウス、そんなに心配そうな顔をしなくても……大丈夫では無かった。

 私は気絶したみたい。初体験なのに覚えて無いよ。

「お嬢様、気がつかれましたか?」

 メアリーにも心配かけたみたいだ。

「ええ、もう平気よ。そうだわ鞄の中の瓶を取ってちょうだい」

 下級回復薬を飲むと身体がシャンとした。

「まぁ、それは回復薬では無いですか? そんな高価な物を……もしかして王妃様から頂かれたのですか?」

 えっ、回復薬ってそんなに高価なの? 飲まなきゃ良かったかも。

「いいえ、これは私が薬学で作った下級回復薬よ。先生が騎士コースに売るか、持って帰って常備薬にして良いと言われたから、飲んでも安心よ」

 メアリーったら、私が作ったと聞いて真っ青になり、先生の許可があると知って深い息を吐いたのだ。もっと信用してよ。プンプン

「あと1本はワイヤットに預けておくわ。家族や使用人が風邪をひいたりした時は飲んでね。薬学でいっぱい作るから、遠慮なく飲むのよ」

 夕食まではベッドで休む。内職も今日はやめておくよ。マーガレット王女の学友と揉めた件がかなり堪えているようだ。いつの間にか眠っていた。

「お嬢様、夕食はどうされますか? 体調が優れないようなら、ベッドにお運びします」

 少し寝たらスッキリした。それにいつも1人で夕食を食べるなんて父親も寂しいだろう。

「いえ、着替えるわ。手伝って」

 転生した時みたいな寒いレースのドレスでは無い。シャーロット伯母様に貰った絹の生地で作ったドレスだ。

「お嬢様、とてもお似合いですわ」

 うん、ペイシェンスも可愛くなったよ。痩せているけど、ガリガリじゃない。頬も少しふっくらしてきているから、目もギョロっとしてない。そう、なかなか良い感じなんだよ。嬉しいな。

 私が食堂に入ると父親が立ち上がって出迎えてくれる。礼儀正しいのは嬉しいよ。

 私は夕食中、王妃様からの手紙は何だったのか聞きたくて仕方なかったけど、父親が言い出さない限りは我慢するしか無い。マナーも身についてきたでしょ。その代わり、中等科のコースについて話す。これはマナー的にも大丈夫。

「そうか、3コースに跨っているのは大変だな。王立学園を卒業するには1コースの単位が有れば十分だ。どれか1コースに決めて、後は興味がある科目を好きに学べば良い」

 確かにその通りだ。何となく2コース取らないといけない気がしていた。

「私は文官コースを取るつもりでしたし、それで卒業したいです。家政コースもほぼ卒業できる単位は取れそうですが、これから魔法使いコースの興味がある科目が増えたら、染色、織物、習字、刺繍以外は外しても良いですわ」

 それでも心配そうな父親に「ダンス、美容、料理の終了証書を貰ったし、マナーと刺繍と錬金術は飛び級したの」と言ったら呆れられた。

「ユリアンヌも優秀だったが、ペイシェンスは特別だな。ビクトリア王妃様も褒めていらしたぞ」

 何て書いてあったのか聞きたいよ。

「そうですか、嬉しいです」とお淑やかに答えておく。

 それから文官コースや家政コースの一部に変革の波が来ていることを話した。

「そうか、それは素晴らしい事だ。変革の混乱はあるだろうし、全ての科目が変革されていないのは残念だが、少しずつでも良い方に進んでいるのは喜ばしい」

 とても嬉しそうだ。なんか胸が熱くなったよ。

 デザートは梨のコンポートに生クリームを泡立てて付けてあった。そして、私にはローズヒップティー。今日は気絶したから、夜のカフェインは控えておく事を伝えておいたのだ。

 1週間ぶりの家で骨休めして、履修届をゆっくりと考えようと思っていた。料理も終了証書を貰ったから、また変更しなくてはいけなんだもん。

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