第9話 新しい音楽クラブメンバーな

 楽しい織物の授業だったのに、音楽クラブに行かないといけない。

「サミュエルを迎えに行こうかな?」

 どうせ私は小心者ですよ。マーガレット王女と学友のゴタゴタに巻き込まれたくないんだ。キャサリン達は嫌いだけど、クラブを辞めさせる理由は無い。だから、私が辞めたら良いだけなんだ。

「嫌だなぁ、手芸クラブに変わりたいよ」

 手芸クラブで色々と作品を作りたいな。子供部屋のクッションとか、織物でミニラグとか作れるようになりたい。

 ちょこっと手芸クラブを覗いてみようかな? サミュエル達は4人だから、勝手に来るだろう。

 クラブハウスには1年間来ていたけど、1階の音楽クラブしか知らない。まぁ、部屋の上には小さな看板が付いているから、探せるよね。

「ええっと、手芸クラブは無いわね。2階かしら?」

 クラブに入る気が無かったので、入学した時に貰った分厚いクラブ案内の冊子は見ていなかった。

 2階かもしれないと階段を上がろうとクラブハウスの端まで歩いていたら、カエサルに見つかった。

「おっ、ペイシェンス。錬金術クラブに入る気になったのか?」

「いえ、手芸クラブを探しているのです。2階でしょうか?」

 ニヤリとカエサルが笑う。

「生産系は裏のクラブハウスだ。丁度良い。手芸クラブは錬金術クラブの横だ」

 裏のクラブハウスには料理クラブや手芸クラブや錬金術クラブや薬学クラブや陶芸クラブや木工クラブもあった。水や火を使うクラブは別にされていたのだ。手芸部も染色とかは水も火も使うから、こちらのクラブハウスだ。外からちらりと覗いてみたが、今日は活動日じゃないようだ。

「ありがとうございます」と案内のお礼は言っておく。

「ペイシェンスは音楽クラブでは無かったのか?」

 微妙な話題だよ。

「ええ、今は音楽クラブですわ。そろそろ行かないといけません」

 行きたく無いけど、サミュエルも来るしね。

「そんな顔をしてクラブに行く奴がいるか。嫌なら辞めてしまえ」

 その通りだよ。

「ええ、辞めるつもりです」口に出してスッキリしたよ。

「錬金術クラブはいつでも歓迎するぞ」

 相変わらず勧誘するんだね。

「それは前にも言いましたが、才能が有れば考えます。私は生活魔法しか使えませんから、錬金術はできないかもしれません」

 カエサルは少し考えて口を開いた。

「ペイシェンスからは生活魔法とは思えない程の強い魔力を感じる。私の勘が錬金術師に向いていると告げているのさ。錬金術の授業を取るなら、魔法陣もセットで取った方が良いぞ」

 私の生活魔法は少し変だからね。そうか、錬金術を取るなら魔法陣も取った方が良いんだね。織物と染色がセットみたいな物なんだ。

「教えて下さり、ありがとうございます」

 やれやれ、辞める為にも音楽クラブに行かなきゃね。


 深呼吸して音楽クラブに入る。

「サミュエル、来ていたのね」

 私の顔を見て、ホッとしたサミュエルにズキッと心が痛む。誘ったのに辞めちゃうんだよ。

「私が推薦するのはダニエル・キンバリーとバルディシュ・マクファーレンとクラウス・アーチャーだ」

 アルバート部長が嬉しそうに3人を推薦する。そして、マーガレット王女がサミュエルを推薦した。

 キャサリンとリリーナとハリエットがいないんだけど、まさかマーガレット王女がアルバート部長に除名させたの? そのくらいなら私が辞めるよ。

「あのう、キャサリン様達は?」

 こっそりとマーガレット王女に尋ねる。

「私の学友から外すと伝えたら、怒って音楽クラブも辞めたのよ。社交界デビューするから、本当は音楽クラブで時間を取られるのが嫌だったとか文句を言っていたわ」

「彼女らは本当の音楽への愛が無かったのだ。マーガレット様へのご機嫌取りと、自分が王女様のご学友だと威張りたかっただけさ。あんな奴ら、こちらも御免だ」

 3通の退部届けをアルバート部長は破り捨てた。そっか、マーガレット王女に学友を外されたら、音楽クラブも辞めたんだ。

「だから、ペイシェンスは辞めないでよ。3人も辞めたのだから」

 うっ、手芸クラブへの道が遠のいたよ。手に職をつけたいんだよね。貴族の令嬢には必要ないかもしれないけど、刺繍とか内職できそうだし、織物も性に合うというか好きなんだもの。

 そんな事を考えているうちに、新メンバー達に何か弾いて貰うことになっていた。

「そうだな。ペイシェンスが褒めていたサミュエルから弾いて貰おう」

 あっ、1番初めだなんて緊張しないかな? 親戚のお姉ちゃん、心配だよ。

「では、ペイシェンスの作った曲を弾きます」

 うん、ちゃんと練習してきたね。上手く弾けてる。パチパチ

「おっ、その曲は新曲だな! サミュエル、お前も新曲をいっぱい作ってくれよ」

 ダニエルはリュートを弾いた。凄く上手い。

「ペイシェンスもリュートの練習をしなくてはね」

 そうなんだよね。このところサボっている。

 バルディシュとクラウスはハノンを凄く上手に弾いた。まぁ、アルバート部長が推薦するぐらいだから上手なのは当たり前だね。

 呑気に聞いていたが、このままでは終わらない。

「ペイシェンス、後輩に音楽クラブの真髄を教えてやれ」

 アルバート部長、ハードルを上げないで下さい。

「そうよ、冬休み中に新曲を作ったのでしょう。聞かせて欲しいわ」

 うっ、マーガレット王女もハードルを上げるんだね。サミュエルの期待に輝く目を裏切られない。ここは頑張ろう。

「まだ練り上げていませんが、新曲を弾きますわ。卒業されたリチャード王子の為に作った曲です。『別れの曲』です」

 この曲、練習曲だなんて詐欺だよね。曲の初めはゆっくりなテンポだし簡単に思って手を出して、途中からの和音の連続に苦労したんだよ。ショパンはピアノの天才だね。

 わっ、やりすぎちゃった? マーガレット王女がハンカチで涙を拭いている。それにサミュエル、泣くのを我慢して上を向いているよ。可愛いな。

「ペイシェンス、やはり結婚しよう。お前は楽士では勿体ない。一緒に音楽サロンを開いて、ローレンス王国の音楽を発展させるのだ」

 アルバート部長に二度目のプロポーズされたよ。マーガレット王女、止めて下さい。手にキスされているんだよぉ。

「音楽サロン、それも良いかもしれないわね。でも、今は私の側仕えなのだから、アルバート手を放しなさい」

 アルバート部長はやっと手を放してくれた。やれやれ

 あっ、前からのメンバーはアルバート部長のご乱行に慣れているけど、新メンバーは呆れているよ。

「ペイシェンスがプロポーズされた……」

 唖然としているサミュエルに口止めしなきゃ。

「サミュエル、アルバート部長は冗談を言われただけよ。真に受けてはいけませんよ。伯母様に言ったら、真剣に取られてしまうわ」

 サミュエルは呆然としたまま頷く。

「音楽クラブのノリにはついていけないかもしれない」

 側にいたダニエルも顔が引き攣っている。

「アルバート様が変わっているとは父から聞いていましたが……」

 バルバッシュとクラウスは顔色が悪い。

「新メンバーの皆様、他のメンバーは真っ当ですから安心して下さいね」

 マーガレット王女、それフォローになってないよ。でも、他のメンバーの見事な演奏を聞くにつれて、安心したようだ。

「ペイシェンス、マーガレット王女様に推薦して頂いたお礼を言いたい」

 サミュエルをマーガレット王女に紹介する。サミュエルもマナーは完璧だ。

「ペイシェンスの従兄弟ですもの期待していますよ」

 あっ、サミュエルの顔、真っ赤だよ。マーガレット王女は綺麗だものね。

 その後は和気藹々な話し合いになる。猫脚の椅子やソファーに座って、優雅に談笑する。

「アルバート部長は文官コースですか?」

 騎士コースはあり得ないし、魔法使いコースでも無い気がする。

「ああ、芸術家コースも作るべきだと思うが、仕方ないから文官コースを選択している。おや、ペイシェンスは家政コースでは無いのか?」

「ええ、家政コースと文官コースを取っているのですが、必須科目の政治と行政の授業があまりにも退屈で」

「ハハハ、パターソン先生の授業を取ったのだな。あれは単に教科書を読んでいるだけだ。まぁ、丸暗記して終了証書を取れば良いだけだが、お前はそれでは嫌なのだな。ちょっと待て、ルパートお前は他の先生に変えたんだよな」

 収穫祭の打楽器担当だったルパートを手招きする。

「ああ、アルバート部長はあんな退屈な授業をよく我慢して終了証書を取ったな。私は性格的に無駄は嫌いなので、サリバン先生に変えたのだ。ペイシェンスも変えた方が良いぞ。教科書に載っていない法律が何故できたのかとか、問題点とか議論するのだ」

 それは為になるし、面白そうだ。

「ルパート様、ありがとうございます」

 ルパートは本当に親切だ。

「文官コースを選択する女学生は少ない。頑張りなさい」とサラサラとメモを書いて渡してくれた。

「私は単位の為に授業を取るのは嫌いなんだ。役に立つ授業をする先生を書いておいたから、参考にしてくれ」

「わっ、嬉しいです」私が喜んでいたら、アルバート部長がメモを取り上げて読む。

「おい、こんなに単位取得が難しい先生ばかり勧めるなよ。ペイシェンスにはさっさと終了証書を取って新曲作りに集中して欲しいのだ」

 そこから、王立学園の主旨に関する激論になったので、マーガレット王女や私や新メンバー達は帰ることにした。

「サミュエル、音楽クラブでやっていけそう?」

 サミュエルは少し考えて頷く。

「ええ、それに友だちも一緒だから。ダニエル達は乗馬クラブにも入ると言うから、私も掛け持ちするつもりです」

 サミュエルは待っている3人に向かって元気よく駆け出した。お姉ちゃん、安心したよ。王立学園を楽しんでいるようだね。

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