第8話 織物は根気がいるね

 結局、マーガレット王女の側仕えを続けることになった。でも、学友とは距離を取ると言われたし、私は一緒に行動することは遠慮するとはっきり伝えた。

『カラ〜ン、カラ〜ン』3時間目が終わった鐘が鳴る。

「マーガレット様、次はサボらないように」

 マーガレット王女が終了証書を取れる可能性がある美術だ。

「ええ、分かっているわ。ペイシェンスは織物だったかしら。それが終わったら音楽クラブに来るのよ」

「ええ、今日はサミュエルがクラブに推薦される日だから行きます。でも、キャサリン様達を音楽クラブから除名するのは反対です。ご本人が辞めると言われるのなら仕方ありませんが、それをされたらマーガレット王女は権力を振り翳して辞めさせた事になりますよ。クラブ活動なのだから、好きな事をしたら良いだけなのです」

 私は音楽クラブを辞めても良い。学友の3人がどうするかは、本人が決める事だと釘を刺しておく。

「でも、貴女はあの子達がいるなら音楽クラブを辞めると言うじゃない。それは駄目なのよ」

 まぁ、あまり近づきたくないのは確かだ。ホームルームとか家政コースの必須時間は仕方ないけど、放課後までは嫌だな。

「それは、音楽クラブで話し合いましょう。授業に遅れますよ」

 私は家政コースの選択の織物だ。楽しみだよ。

 見事にAクラスの女子はいない。つまりBクラスかCクラスの女学生だけだ。それに人数も8人しかいない。Aクラスの女子はマーガレット王女と同じ選択科目だし、他のクラスも単位がとりやすい科目に集中しているのかもしれない。

 教室の机の上には小さな機織り機が置いてあった。

「これで織物をするのね」

 幅が広くないから、前世の帯ぐらいしか織れない。異世界ならセンタークロスになるのかな?

 空いている席に座って先生が来るのを待つ。他の学生達は友達と話している。うん、少し寂しいよ。飛び級のマイナス面だね。知り合いが1人もいないのは仕方ない。

「あら、今年は少ないわね。サリー・ダービーよ。1年間宜しくね」

 あっ、この先生は好きだな。細くてキビキビしてて頼もしい。

「春学期は、見ての通り小形織り機で作品を作ります。この中で織り機を使った事がある人はいますか?」

 数人が手を挙げた。と言うことは、初心者は私を含めて4人だ。

「では、そこの4人は前の席に移って。固まっていた方が教えやすいわ」

 私は前の席に移動する。前の席は苦手だけど、仕方ないよ。

「他の人も見ててね。小形織り機の使い方を説明するわ」

 ダービー先生は、私の右隣の茶色い髪の女学生の机の上の小形織り機に縦糸を通す。

「この縦糸に模様を染め付ける遣り方もあるけど、初めだから白の太糸です。前の教台に太糸があるから通してみなさい。分からなかったら手を挙げてね」

 私は白の太糸を小型織り機に通していく。さっきダービー先生が通すのを真剣に見ていたから、ちゃんとできた。

「あら、初めてなのに早いわね。もう少し待っててね」

 ダービー先生は通し終えてない学生を手伝う。

「これから何回も縦糸を通すから、今回は手伝うわ」

 全員が縦糸を通したので、今度は横糸で織る方法だ。私の左隣の赤毛の学生の織り機で見本を見せる。数段織って、糸の色変えの方法も説明する。

「さぁ、織ってみて。分からなかったら手を挙げるのよ」

 後ろの席からはリズミカルな音が響く。横糸がシュと通り、バンと締めて、パタンと縦糸が交差する。

「ダービー先生、後ろの方の見学をしても良いですか?」

 先生は説明しながらだから、ゆっくりと数段織られただけだ。織物のリズムを感じたい。

「ええ、良いですよ」許可が出たので、後ろの席で織っているのを見学する。

 なんとなくリズムはつかめたので、織ってみる。

「先ずは赤色ね」

 白の縦糸に赤の横糸が1本進む。木の枠でバンと締める。そして縦糸を交差させて、横糸を走らせる。楽しいけど、根気がいる作業だ。

「紅白の縞模様にしよう」

 初めてだから2色だけで織る事にする。決めたら織るだけだ。赤色を多めにして、白を数段織る。あっ、熱中していたら生活魔法を使っちゃった。

「あら、もう織り終えたのね。もしかして、生活魔法持ちなの?」

 あっ、バレた。

「ええ、集中すると無意識で使ってしまうのです」

 ダービー先生は笑った。

「そんな謝らなくても良いのよ。優れた織手の中には生活魔法持ちは多いのよ」

 初心者の3人はまだ織り上がってなかったが、経験者は終わった。

「織り上がったら、こうして織り機から外すのよ。そして端の始末をしたら出来上がり。織物の授業を選択する学生には染色も一緒に取って欲しいわ。糸を染めて織るともっと自由に作品が作れますからね」

 染色も取るよ! 織物は根気がいるけど、作品が出来上がるのは楽しい。

 それに初心者の茶色の髪の女学生はソフィア・サマーズ。赤毛の子はリリー・ミッチェル、濃い茶髪の子はハンナ・バリー。

「初心者がいて心強いわ」ソフィアは可愛いね。年上だけど、可愛い性格なんだよ。

「すぐに追いつくわよ」リリーは強気だ。

「染物、取ってなかったの。取った方が良いみたいだわ。何かと変更しなきゃ」ハンナは少し頼りない感じだよ。

 そう、初心者の仲間ができたんだ。後ろの席の学生は家で織物をした経験があるみたい。今日の作品なんか目じゃない感じだよ。

「私はこれを暖炉の上に飾るつもりよ」

 よく見ると織り目が不揃いな所もあるけど、それは味と思う事にする。

「でも、貴女はマーガレット王女様の側仕えでしょ。いくらでも素敵な布が買えるのでは無くて?」

 リリーが尋ねたけど、他の2人も同意見みたいだ。

「側仕えだけど、私の家は質素倹約ですもの。自分で好きな物を作るのは楽しいわ」

 何となく貧乏なのが伝わったようだ。仲間意識が広がる。

「そうよね、次は何を織るのか楽しみだわ」

 やはり、自分の受けたい授業は楽しいね。

 法律や行政は先生が退屈なだけかもしれない。パターソン先生以外の授業は無いのかな? 丸暗記して終了証書を貰うにしても、春学期の間ずっと退屈な授業は受けたく無い。探してみよう!

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