第2話 中等科の時間表

 ゾフィーがマーガレット王女の特別室を開けてくれた。その前に「お着きですよ」と知らせてくれたのもゾフィーだよ。私が織物や錬金術で金儲けの夢想していたからね。

「ペイシェンス、遅かったわね」

 あれっ? マーガレット王女の髪型が変わった。

「マーガレット様、とても素敵な髪型ですね」

 満更でもなさそうにマーガレット王女は笑う。

「ええ、素敵でしょ。やっとお母様が髪を結うのを許して下さったのよ」

 そう言えば、学友のキャサリン様とか髪を結ったりしていたなと思い出す。巻き髪を少し結っていたのだ。全部は結い上げてはいないけどね。

「ペイシェンス、この髪型もできるかしら? できないなら、やり方をゾフィーに聞いて欲しいの」

 髪の毛を結い上げて、一つに纏めて巻き髪がサイドに下ろしてある。うん、できそう。

「いえ、大丈夫です。でも、結うのに時間が掛かりますよ」

 早起きしろとの無言の圧力が分かったみたい。

「分かったわ。貴女が早く来れば良いだけよ」

 あっ、ゾフィーから同情の目を向けられたよ。冬休み間、朝起こすのに苦労したんだね。

 ゾフィーに2人分の紅茶を淹れさせると王宮に帰らせた。

「やっとお母様の監視から逃れられたわ。冬休み中、とても厳しくて困ったのよ。ペイシェンスはどうしていたの?」

 朝も叩き起こされたようだね。勿論、王妃様直接では無いだろうけど、女官とかメイドとか大変だっただろう。王妃様は他の貴婦人達と違い、朝食もきちんと食堂で取っておられる。

「私は従兄弟の屋敷を訪問していました。サミュエル・ノースコートは音楽クラブに入りたいみたいですわ」

 音楽愛の深いマーガレット王女の目が輝く。

「まぁ、それでサミュエルは才能があるのかしら?」

「ええ、彼は天才ですわ。一度聞いただけで、すぐに覚えて弾くのですから」

 パッと顔を輝かす。

「ペイシェンス、サミュエルを音楽クラブに連れていらっしゃい。グリークラブに取られてはいけませんからね。あのクラブは冬休み中にも勧誘活動をしていたそうよ」

 あらあら、ルイーズのコーラスクラブやばいんじゃないかな。グリークラブの方が勢いがあるよ。

「ええ、サミュエルも喜ぶと思いますわ。音楽クラブに入りたいと思っていたようですが、推薦が必要ではないかと案じていましたから」

 マーガレット王女は、少し考える。

「そうね、サミュエルには貴女の新譜を練習させておいた方が良いわ。きっと弾かされるから」

 こんな時のマーガレット王女は本当に役に立つ。

「ええ、サミュエルには私の新譜を何曲かプレゼントしていますから、それを練習させておきますわ」

 うっ、マーガレット王女の笑みが深くなるよ。怖い!

「私が王宮で窮屈な暮らしをしている間、ペイシェンスはとても楽しんだようね。サミュエルと音楽三昧していたのね」

 誤解だよ! でもサミュエルが勉強できないのは言えない。

「まぁ、違いますわ。サミュエルは今年入学でしょう。伯母のノースコート伯爵夫人に学園について尋ねられたのです。そこで、サミュエルが乗馬と音楽に興味があると知って、新譜を弾いたら、すぐにリュートで弾くから驚いただけですわ」

 マーガレット王女は乗馬に興味が無いので、そこはスルーしてくれた。

「そう、サミュエルはリュートも上手なのね。ペイシェンスも頑張りなさい」

 それより時間表だ。マーガレット王女が決めないと、私も決まらない。

「マーガレット様、職員室で時間表を頂いたのです。時間割を決めませんか?」

 どれどれとマーガレット王女も時間表を覗き込む。

「私は必須はAクラスのを取るわ。きっと学友達も同じだと思うから」

 うん? 時間表をよく見ると必須科目にはクラスが書いてある。やたらと必須科目の授業が多いと思ったよ。

「これは他のクラスのを受けてはいけないのですか?」

 私は2コースだから、他の必須科目とダブるなら困る。

「別に良いと思うわ。中等科になればクラスはホームルームしか一緒じゃない学生もいるみたいだから。でも、貴女はダンスだけでしょ」

「いえ、先生に質問しましたが、家政コースの必須科目の裁縫と料理は受けなくてはいけないみたいです」

 マーガレット王女がパッと目を輝かす。

「まぁ、なら一緒の授業にしましょう。Aクラスの裁縫と料理よ」

 これで2コマ決定した。ダンスは後で空いた時間で良いや。いっぱい授業コマがあるからねなんて呑気に考えていたが、マーガレット王女のチェックが入る。

「ダンスはAクラスのにしなさい。下のクラスの男子は油断できないし、下手な人が多いわ」

 下級貴族でダンス教師を雇う余裕がない学生が多いから下手なの分かるが、油断できないの?

「まぁ、ペイシェンスっときたら世間知らずね。子爵家の令嬢を射止めようする野心家に捕まってしまうわよ」

 あっ、マーガレット王女はグレンジャー家がどれほど貧乏か知らないのだ。そんな野心家は裸足で逃げ出すよと考えたのが分かったようだ。

「本当に呑気ね。今はグレンジャー子爵は免職中でしょう。でも、そんなに長くは無いわ。お父様はとてもグレンジャー子爵を買っていらっしゃるもの」

 あっ、それは嬉しいな。何か閑職にでも付けて貰えれば感謝するよ。

「何故、寮に入るように命じられたのか尋ねてみたのよ。そしたら、貴族至上主義に染まって欲しく無いからだと教えて下さったの。そこで貴女の父上の事も知ったのよ」

 アルフレッド王様は父親の事を忘れていなかったのだ。なんかジーンときちゃうよ。夏の離宮では腹が立ったのに勝手だね。

「でも、なんで去年からなのでしょう。リチャード王子は1年だけですし、マーガレット様も3年からだなんて中途半端ですわ」

 マーガレット王女も肩を竦める。

「さあね、ふと思いつかれたのかも知れないわ。さぁ、ダンスはAクラスのを受けるのよ」

 3コマ決まった。後は、家政コースの選択科目だ。

「私はマナーと外国語と育児学と栄養学と家庭医学と美容にするわ。これで6科目ね」

 王妃様に予め聞いていたから驚きはしない。

「外国語は習得が難しいと聞きました。一度、授業を聞いてからにした方が良いかもしれませんよ」

 一応、忠告しておく。私的には文官コースも外国語があるから得だけどね。

「ええ、リチャード兄上からも聞いているわ。でも、外国に嫁ぐ可能性もありますもの」

 驚いた! そうなんだね。

「まぁ、ペイシェンス。目がまん丸よ」

「私は文官コースも取るので、外国語も取るつもりですから一挙両得です」

 ショックを誤魔化した。そこから、マーガレット王女の選択科目6コマ決める。

「ペイシェンス、貴女の時間割、スカスカね。それなら新曲をいっぱい作れるわ」

「いえ、ここから文官コースの必須科目と選択科目が加わりますから。それよりマーガレット様の時間割も空いていますわ」

 マーガレット王女の時間割を見て首を傾げる。終了証書を音楽、ダンス取っているのは知っているが、もっと空いている。

「でも、これは初めのだわ。必須科目を1コマしか取っていないのよ。国語と魔法学は終了証書を貰う予定だから、これで良いけど。歴史と古典は増やさなくていけないかも。それに家政数学も難しいと思ったら2コマにしなくてはいけないのよ。裁縫もドレスが縫い上がらないと先生が判断されたら増やされると聞いたわ」

「裁縫は作品の持ち出し禁止でしょうからね」

 確かにドレスを縫うのは1コマでは難しいかも。

「こうなったら、国語と魔法学は終了証書を貰いましょう。そして古典と美術も頑張りましょう」

 キース王子と違って古典もそんなに悪い点数では無い。

「そうね、裁縫で時間を取られるなら、他の科目を免除して貰わないといけないわ。ペイシェンスも頑張って終了証書を取るのよ」

 私もこれに文官コースの必須と選択を入れて、錬金術まで取ったら2コマしか空かない。染色と織物を取ったら満杯だ。

「ええ、退屈な授業はどんどん終了証書を取ります。やりたい事がいっぱいあるのですもの」

 突然のやる気にマーガレット王女は驚く。

「ペイシェンス、そんなに新曲に燃えているとは嬉しいわ」

 あっ、新曲に燃えている訳ではなく、染色や織物で何か売れる物を作ろうとか、錬金術で便利で価値がある物を作ろうと燃えているんです。でも、内緒にしておこう。

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