第3話 退屈な授業と大変な昼食

 中等科になっても朝からマーガレット王女を起こすのは一緒だ。その上、髪型を整えるのに時間が掛かる。

「もう少し慣れるのに時間が掛かりますわ」

 いつもの倍の時間が掛かったのを謝る。

「まぁ、ペイシェンス。王宮のメイドの半分の時間で綺麗に仕上がっているわ。本当に器用ね」

 コテやら生活魔法で省略しているからね。でも、もっと要領よく出来る筈だ。

 2人で食堂に降りたら、キース王子に遭遇した。中等科になったから遭わないと思っていたのにね。

「姉上、一緒に朝食を取りましょう」

 マーガレット王女は断らなかった。つまり私も一緒だ。やれやれ

「今年も一緒に昼食なのでしょうか?」

 キース王子も不満なんだね。そりゃ、そうだよね。友だちと楽しく食べたいよ。

「それを貴方に言われても困るわ。此方こそ友だちと食べたいのよ」

 そうだよね。キース王子が王妃様の前だけでも野菜や魚を食べれば安心されるのだ。お子ちゃまめ

 ラルフやヒューゴは隣のテーブルでひやひやしながら食べている。良いよなぁ、別のテーブルで。これが1年続くのか……あっ、良い事を思いついた。

「あのう、ラルフ様やヒューゴ様も一緒に食べられたら如何でしょう。マーガレット様も学友と同じテーブルで食べれば良いのです」

 ハッと2人は顔を見合わせる。

「ペイシェンス、お前賢いな!」

「そうね、お母様はキースと昼食を一緒に食べるようにと言われたのだわ。他の学友が一緒でも良いはずよ」

 あっ、これで8人テーブルで食べる事になったのかな。まぁ、マーガレット王女とキース王子が喧嘩しながら食べるよりマシだよ。多分。


 4年Aクラスの教室にマーガレット王女と一緒に行く。あっ、キャサリン達の視線が怖いよ。ライバル視されてる。

「ご機嫌よう」

 優雅な挨拶だね。控え目に挨拶しておこう。

「ご機嫌よう」

 席は後ろにしておくよ。マーガレット王女とは離れるけど、あの取り巻きと争いたくないからね。

「おはよう、皆んなそろっているな。私が4年Aクラスの担任のサム・カスバートだ。体育で前に教えた事があるだろう」

 私は初対面だ。男子学生達は頷いている。

「これから時間表を配る。1週間後に履修届けを出して貰うから、それまでは色々な授業を受けてみた方が良いぞ。それと必須を取るのを忘れるなよ。留年するぞ」

 ガハハハと豪快に笑うが、笑い事では無いのでは? ケプナー先生が懐かしいよ。もっと詳しい説明が欲しいよね。私は前の日に時間表を貰ってて正解だよ。

「マーガレット様、どうされます?」

 キャサリン達も慌てているよ。大雑把過ぎる説明だものね。

「私はもう決めてますわ」

 マーガレット王女が昨夜作った時間表を見せる。

「まぁ、マーガレット様はしっかりなさっているのですね。私もご一緒させて頂いても良いですか?」

 真似っ子軍団だ。わぁ、家政コースの選択科目が偏りそう。まぁ、仕方ないよね。この学年の女子はマーガレット王女と仲良くなるように親に言い聞かされているからね。あっ、ビクトリア王妃様はそこら辺も心配されたのかも。

「ペイシェンスは別の授業なのね」

 取り巻きの視線が突き刺さる。

「ご機嫌よう」とさっさと去るよ。ああ、疲れる。

 法律の教室を探してたどり着いた。あっ、凄くアウェイ! 見事に男子ばかりだよ。シャーロット女官、ここで授業を受けたのか。あっ、少なくとも同級生だったんだね。

 その上、授業は退屈。必須科目じゃなきゃ、パスしたい気分。教科書をパラパラ捲ってみる。うん、丸暗記して飛び級しよう。いや、終了証書欲しい気分だ。この退屈な授業をしているパターソン先生に3年生までの教科書貰うの大変そうだな。

 2時間目は育児学だ。マーガレット王女と取り巻きと同じ教室。あっ、手招きしないで下さい。私は教室の後ろで結構です。目で合図するが、許してくれない。

「ペイシェンス、やっと一緒に授業を受けられるわね」

 マーガレット王女、私に席を譲ったキャサリン様の目が怖いです。

「ペイシェンス様はすぐに飛び級されるでしょうね」

 あっ、とっとと飛び級して消えろ! と聞こえます。了解です。

 育児学、これで良いのか異世界。私の世界の育児と違うんですが……まぁ、子守りがしっかりしていたら良いのかな? これは学ぶ価値を感じない。教科書もペラいし、丸暗記して終了証書取ろう。

「さぁ、お昼だわ。早く行って席を作って貰わなきゃ」

 ご機嫌なマーガレット王女と3人の学友、それを嫉妬の視線で見つめる取り巻き達。ああ、疲れる。

「今年から8人席にして下さい」

 給仕達が3人席を8人席にセットし直す。まぁ、3人席といっても4人用テーブルだから、2つ引っ付けるだけだよね。マーガレット王女は上座に座る。そしてキャサリン、リリーナ、ハリエットが周りに座る。私は、キース王子側に押し出されたよ。

「まぁ、ペイシェンス、そこで良いの?」

 マーガレット王女が声を掛けてくれる。良くないけど、他の学友を押し除ける根性は無い。

「ええ、キース王子やラルフ様やヒューゴ様は同じ年ですから」

 ハリエットが「そうですよ。お友達ですものね」と同意する。

「まぁ、そこで良いなら」

 マーガレット王女は許可してくれたが、キース王子はどうなるのかな?

「おっ、ペイシェンスも一緒なのだな。当たり前か、姉上の側仕えなのだから」

 キース王子はマーガレット王女の反対側に座る。そしてその横にラルフ、つまり私の横はヒューゴだ。

「明日からは3個テーブルをくっつけて貰いましょう」

 女学生と一緒なんて嫌だよね。

「それでは間が空いてしまう。一緒に食べる事にならないから駄目だ。まぁ、ペイシェンスは一緒に食べるのに慣れているから、このままで良い」

 キース王子は良くても、私は良くないです。でも、逆らえないんだよね。それにマーガレット王女達は和気藹々としているし、このままかも。

 兎に角、どちらの会話にも加わらない様にして昼食を終えよう。と思っているのにさぁ、マーガレット王女の音楽愛を忘れていたよ。

「音楽クラブに新しいメンバーを推薦するつもりなのよ」

 キャサリン達も興味深々だ。だって新たなライバルになるかもしれないからだ。

「ペイシェンスの従兄弟のサミュエル・ノースコートよ。ペイシェンスが言うには天才なんですって」

 あっ、視線で殺せるなら殺されそう。

「ノースコート伯爵家の嫡男だな。ペイシェンスが天才と言う程なのか」

 何故か頭の上から言葉が降って来た。勝手に椅子を引っ張って来て隣に座らないで下さい。アルバート部長。

「まぁ、アルバート。勝手に席に付かないで」

 マーガレット王女の制する声も無視ですね。

「明日、クラブにその天才を連れて来るのだぞ。お前の従兄弟なら本当に天才かもしれないな。マーガレット様、今年は当り年かも知れませんよ。私も3人推薦しますから」

 あっ、マーガレット王女の音楽愛に火がついた。

「給仕、1席作りなさい。それでアルバート部長、どなたを推薦されるのですか?」

 他の学友もマーガレット王女の音楽愛には敵わないのを知っている。盛り上がっているマーガレット王女とアルバートを放置して、3人で家政コースについて話しながら食べる。

「お前の従兄弟も賢いのか? まさか学年を飛び級して2年になるつもりなのか」

 私はキース王子の質問攻めだ。

「サミュエルは、古典が苦手ですから飛び級などできませんわ」

 キース王子が愉快そうに笑う。

「そうか、サミュエルとは気が合いそうだ」

 確かに似ている性格だね。でも、サミュエルの方が影を背負って拗らせているけどね。

「音楽の天才なのですか?」

 ヒューゴが興味を持ったみたい。同じ伯爵家の嫡男だからね。

「一度聞けば、すぐ弾けますわ。私より音楽の才能に恵まれている様です」

 テーブルの端からアルバートが聞きかじって騒ぐ。

「そうか、それは凄いな。だが、ペイシェンスの様に新しい曲を生み出す才能も貴重だ。なぁ、お前は文官コースなんか取らずに、家政コースをさっさと卒業して、ラフォーレ公爵家に就職しないか? 音楽だけで生きていけるぞ」

 求婚を断ったら、職を提供されました。

「アルバート、私の側仕えを取るなんて許しませんよ」

 これもマーガレット王女が断ってくれたよ。やれやれ

「お前は変人に好かれるな。そうか、お前が変人だからだ!」

 すっきりした顔のキース王子を見て、本当にリチャード王子が卒業されて残念だと思ったよ。こんな時こそ威圧して欲しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る