第72話 冬休みは弟達と遊ぼう
縁談の件をメアリーに聞こうとするけど、家にはメイドが1人しか居ないので、そうそうは捕まえられない。それに女中部屋でする話でも無いから、夕食前に身支度を手伝いに来るまで待つことにした。
なので、今日は
「ハノンを教えるから応接室の暖炉に火を付けておいてね」
使わない部屋の暖炉に火を付けておくほどグレンジャー家に余裕は無い。でも、使う時は入れてくれる。応接室が温まるまで、子供部屋で絵を描かす。ダンスも音楽がある方が教えやすいからね。
「絵の具の余裕があれば良いのだけれど」
家ではティーセットに細密画を書く内職をしているけど、その絵の具はほんの少しで練習に使える程は無い。絵の具って高いんだもん。
「お姉様、学園での実技は美術、音楽、魔法実技、体育なのですか?」
1年後に入学するナシウスは興味があるみたい。
「ええ、1年の美術はデッサンだけで合格です。でも、終了証書を貰うには絵の具を使いこなさないと駄目なのですよ。音楽は楽器を弾きこなせれば合格です。ダンスはリードが上手くないと合格は難しいですね。体育は馬術と剣術があるので努力が必要だわ」
ナシウスも馬術と剣術の合格は無理そうだと頷く。ごめんね。お姉ちゃん、不甲斐なくて。まだ馬と家庭教師が用意できないんだよ。
「では私は学年飛び級はできそうに無いですね」
がっかりするナシウスを慰める。
「いえ、実技は魔法実技が合格すれば、学年飛び級できますよ。魔法実技の練習の為にも早く教会で能力チェックを受けないといけませんね。お父様に話してみましょう」
私の縁談について話したく無いって態度で、朝食を済ますと書斎に素早く篭ってしまった父親だけど、まぁ、いつもと同じだとも言えるね。ナシウスには父親と話すと言ったけど、献金(金貨)の件もあるのでワイヤットに話した方が早いかもね。
「そろそろ応接室も暖まっているでしょう。ハノンとダンスの練習をしましょうね」
ダンスを先にした方が身体が暖まるかなと考えながら3人で下に向かおうとしたが、何と、グレンジャー家に来客らしい。メアリーがばたばたと温室から薔薇を切って来て飾ったりしている。
「お客様なの?」
「ええ、申し訳ありませんが、応接室は使えません」
応接室は本来はお客様を通す部屋なので、仕方ない。3人で子供部屋に帰る。
「家にお客様なんて来られるのね?」
免職になったグレンジャー家には訪問客などいないと思っていた。
「近頃、お客様が時々来られるのです。その度に父上との勉強は中断されて困っています。数学とかは教えて貰わないと無理なので、そんな時は国語を勉強しています」
ナシウスって真面目。私が子どもだったら、これ幸いに遊んじゃうけどね。
「お客様が来るとお父様の機嫌が悪くなるから嫌だ」
「こら、ヘンリー。そんな事を言っては駄目だ。お客様の悪口はマナー違反だぞ」
メッとナシウスに叱られて、ヘンリーは「ごめんなさい」と謝る。マジ天使だね。
でも、父親が不機嫌になる客は気になる。まさかこんな貧乏なグレンジャー家に借金しに来るとか無いよね。それにメアリーが売り物の温室の薔薇を飾るって事は、それなりに身分のある客なのだ。もしかして制服のお下がりをくれた親戚なのかな? 免職になった父親に皮肉の一言ぐらい言うのかも? まぁ、それは私も言いたいぐらいだけどね。異世界では父親に皮肉なんて言っては駄目みたいだから我慢しているだけだよ。
なんて事考えながら弟達と遊ぶ。今回は家の中で遊べるようにお手玉を作っている。ハギレで出来るからね。中は小豆とか勿体ないから、薔薇の実だよ。ローズヒップティーにもするけど、庭でいっぱい採れたのを乾燥させたんだ。豆とかは食べられるから入れないよ。勿体ないもん。
お手玉は女の子の遊びっぽいイメージだけど、結構色々な遊び方があるよ。ジャグリングもあるし、下にバラしてあるのをジャグリングしながら1個ずつ取っていくのとか。
「こうやって数を増やしていくのよ」
手品を見ているように目をまん丸にしているナシウス、可愛いな。ヘンリーはしたくてお尻がウズウズしている。ちょー可愛い。
私が弟達とお手玉をして遊んでいる時、父親は来客との挨拶合戦を開始していたみたい。何となく階下がざわめいているので、客が到着したのは察していたが、可愛い弟達の方が大事だよ。
だって、意外とナシウスが上手に2つのお手玉はでき、3つ目に挑戦していたんだ。真剣な灰色の目が可愛い。
「あっ、失敗しました。お姉様、もう一度お手本を見せて下さい」
そんな事を頼まれたら、百回でもお手本を見せちゃうよ。
「2個でも難しいです」
ヘンリーは何度も挑戦しては失敗してがっかりしている。多分、身体強化系だと思うヘンリーなのに上手く使えて無いようだ。縄跳びとかはすぐに出来たけど、お手玉みたいに手先の細かい運動は能力調整が難しいのかも。
私も教会であの円盤に触れてピリピリする感覚を真似して生活魔法が使えるようになったから、2人には早く能力チェックを受けさせたい。ワイヤットに要相談だ!
冬の間の遊びなら縄跳びもあるけど、もっと皆んなで遊べる物も欲しいな。竹馬も楽しいかも。竹は無さそうだから木馬かな。馬は手に入ってないけど、木馬もバランス感覚を鍛えられるよね。でも、これもきっと弟達にすぐに負けちゃうよね。ペイシェンスの体力無いから。
そうだ、ラノベ物の定番。黒と白に塗り分けた丸い駒と木の盤があれば、ほらあれが出来るじゃない。リバーシ! これなら私でも勝てるよ。コツ知っているからね。あっ、これで金儲けできないかな? よく転生した主人公がボロ儲けしていたじゃん。なんて事を考えていたら罰が当たった。
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