第71話 中等科に飛び級するぞ

 学年末のテストが近づくと、いつもは優雅なAクラスの学生も真剣な顔になり、2年Aクラスの雰囲気も重苦しくなった。何故なら、成績順にクラスが変わるからだ。親から絶対にAクラスをキープしろと圧力を掛けられているのだろう。

 飛び級で会うキース王子もプライドに掛けてBクラスに落ちるわけにいかないって顔をしている。数学、国語、魔法学、音楽、ダンスを飛び級しているぐらいだから大丈夫だと思うんだけどね。ピリピリしているから近づきたくないよ。

 なのに昼食は一緒なんだ。その上、リチャード王子はいない。なんでもロマノ大学の入試だってさ。最終学年の卒業テストは既に終わっている。じゃないと収穫祭で追い出し会をされて留年とか格好悪いものね。

 卒業式は未だなので寮生は残っているけど、それぞれの進路や就活で不在の学生が多く、何となく寂しい感じだ。


 学期末テストが始まった。私は、国語、古典、歴史、魔法学の終了証書が欲しいので、別の教室でテストを受ける。

 国語とか魔法学とかは数十人もの学生が受けていたし、古典や歴史も十人程度が受けていた。

 マーガレット王女も春学期の期末テストで国語と魔法学の終了証書を取りたいと話していた。中等科になると終了証書を取る学生が多くなるみたいだね。

 テストの結果? まぁ、大丈夫だと思うよ。1年間かなり真面目に勉強したもの。社会人になってこんなに真面目に勉強したの久しぶりだよ。そりゃ、そうだね。学生に戻ったんだから。それにペイシェンスの脳ってマジ優秀なんだよ。記憶力抜群。11歳だもんね。

 家政と美術の展示を見たよ。マーガレット王女、今回の家政はまぁまぁだった。これならビクトリア王妃様に叱られないと思うよ。美術はあと少し頑張れば終了証書貰えるんじゃないかな。

 学年末のテスト結果は公表されなかった。保護者に直接手紙で知らされるみたいだね。春学期に公表されたのは、落ちそうな生徒を激励するのと、落ちた時の理由が分かりやすくする為なのかな?


『そっか、転生して1年経つんだね』

 寮の暖炉の前で暖まりながら、あの時は寒かったなぁと思い出す。今年の冬は寒さが厳しくなければ良いな。魔物が去年より大きくなかったから、そんなに寒くないっていうのは本当だろうか。それに薪は十分足りるかな?

 マーガレット王女は王宮に帰ったし、私は例によってメアリーのお迎え待ちだ。

 暇だから、あれこれ考えちゃう。内職しようにも材料を使い果たしちゃってるしね。貧乏性なので、普段は金にならない事はあまり考えないんだ。

 そもそも異世界に転生したけど、何故なのかは分かっていない。前世の私は死んでいるのか? それとも意識不明で生きているのか? 前の世界に帰れるのか? 帰りたいのか? そりゃ、こっちより便利な世界だし、親もいるから帰りたいと思うけど帰れない……ああ、暇だと碌な事を考えない。金儲けを考えよう。

 先ずは、家に帰ったら温室の薔薇を売ろう。社交界シーズンだから、パーティとか薔薇は高く売れるんじゃないかな。お金が儲かったら、来年はもっと薔薇を増やそう。

 苺の種まきもして、生活魔法で育てたら高く売れるかも!

「お金儲けの事を考えていると元気になるわ」

 ペイシェンスに呆れられている? 近頃、段々と気配が薄くなっている気がする。マナーチェックされなくても身に付いて来たからかな? あの寝方も自然としているしね。頭痛が無いのは嬉しいけど、何か寂しい。ペイシェンスはフェードアウトしちゃうのかな? つまり私は帰れないって事なのかな?

「駄目、駄目! 自分でどうしようも無い事を考えてもお金にならないわ」

 そう、薪と食糧事情は改善したけど、グレンジャー家にはまだまだ足りない物があるんだよ。先ずは1年後に学園に入るナシウスの制服、下着とかも新品で揃えたい。それに馬! 馬は飼うと飼葉がいるんだよ。夏に庭で大麦とか作る? でも、野菜も作らなきゃいけないし。馬は草も食べるよね? よく知らないや。ワイヤットと相談しよう。でもナシウスもポニーからの方が良くない? 馬って背が高いんだもん。怖いよ。要相談だ!

「お嬢様、お待たせしました」

 やっとメアリーが迎えに来てくれたので家に帰る。


「お姉様、お帰りなさい」

 ナシウス、先週以来だけど大きくなったね。お姉ちゃん、そのうち背が抜かされそうだよ。

「お姉様、お帰りなさい。走り縄跳びの競走しよう」

 ヘンリー、もう勝てそうにないよ。体力もっとつけなきゃね。

「ただいま帰りました。2人とも大きくなったわね」

 まだナシウスも帰ってきた時とかはキスさせてくれる。嬉しい。ヘンリーはいつでも大丈夫。可愛いね。

 子供部屋で2人と留守の間の話をする。ちゃんと食事ができているかチェックしなきゃね。うん、大丈夫そう。2人とも大きくなっているし、ほっぺもふっくらしてきてる。前はガリガリだったからね。

 それに子供部屋の暖炉には火がちゃんとついている。寮ほどは暖かくないけど、部屋が広過ぎるから仕方ない。

「ナシウス、もう1年の教科書を勉強しているの?」

 私が持って帰った飛び級した1年の教科書がナシウスの机の上に置いてある。

「ええ、父上が教えて下さっています。国語は簡単だけど、数学と古典と歴史はまだまだ難しいです」

 ナシウス、まじ天才じゃない。

「それは良かったですね。お父様に感謝しなくてはね」

 家庭教師としては優秀そうだけど、やはり働いて欲しいよ。

「私もいっぱい勉強しています」

 ヘンリーも本をすらすら読んで聞かせてくれる。

「凄いわ、ヘンリー」

 グレンジャー家は本当に優秀だ。なのに父親はクビになっちゃったんだね。それはもう良いから、何か職に就けないのかな?

 この辺の常識はペイシェンスにも無いので、困ってしまう。ハローワークとかバイト情報誌とか無いのかな? そもそも貴族って働いちゃ駄目なの?

 こういった事を尋ねる人が居ないのが困る。冒険者ギルドって父親には無理そうだよね。私は? 生活魔法で掃除のバイトとかしちゃ駄目かな? ラノベで初心者は街の清掃とかしてるじゃない。貴族の令嬢は駄目かな? うん、駄目そうだね。メアリーが必死で止めそうだよ。でも、令嬢の体面を傷つけない方法で何か金儲けしたいな。


 その日の夕食後、父親の書斎に呼ばれた。きっと中等科に飛び級の件だと思っていたのに、驚いた。

「お前に縁談がある。勿論、未だ11歳だから今すぐの話ではない。王立学園を卒業してからの話だ。だが、一応は伝えておこうと思う」

 異世界ってロリコン天国ですか? 私はショタコンですが、手を出したりしませんよ。お巡りさん、変態がいますよ。

 私が凄く嫌そうな顔をしていたので、父親もホッとしたみたい。

「いや、未だ早いよな。私もそう思ったのだ。この話はお断りしておこう」

 お断りは結構だけど、誰からの申し込みだったの? それと、その話を持って来た人は誰? 尋ねようとしたのに、中等科飛び級の話になった。

「中等科に飛び級とは凄いぞ。本来なら1年に1度しか飛び級できないのだが、必須科目全て終了証書が貰えたので、新学年からの中等科に飛び級を認めると書いてある。ペイシェンス、凄く頑張ったな。それで、どのコースを選択するのだ?」

 縁談の話はしたく無いんだね。凄く勢いよく話している父親でわかったよ。

「私は文官コースを選択したいと考えています。でも、マーガレット王女が家政(花嫁修行)コースなので、そちらも選択しなければいけないみたいです」

 父親は2コース選択か! と驚いていた。

「お前は必須科目と魔法実技や美術や音楽や家政は終了証書を貰っているから2コースでもやれるだろう。だが、無理をしないようにしなさい」

 父親の激励を受けて書斎を出たが、誰との縁談だったのか気になった。それと、誰がその縁談を持って来たのかも。ワイヤットは守りが固いから、メアリーに聞こう。

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