第52話 ラフォーレ公爵家で昼食

 マーガレット王女のお腹が鳴る前にラフォーレ公爵家の屋敷に着いた。いや、マジにでかいよ。屋敷の門からどれだけ走ると着くのかなと笑う程、遠かった。

「ようこそお越し下さいました」

 あっ、やはり新曲発表会で目立っていた保護者がラフォーレ公爵だった。

 わぁ、凄い数の使用人ですね。英国ドラマとかで見る、ぞろっと勢揃いしたお出迎えだ。

 王妃様にラフォーレ公爵家の1人1人が挨拶している。アルバートの上には兄上もいるんだね。嫡男のチャールズは短髪でキビキビしている。タイプが違う兄弟だね。アルバートも王妃様に礼儀正しく挨拶している。

 その後は、リチャード王子、マーガレット王女、キース王子に挨拶していく。あれっ、王様はお留守番なのですか? 少し気楽になったよ。ここでも、10歳までのジェーン王女とマーカス王子は家庭教師達や子守り達にさっさと屋敷の中に連れて行かれたよ。私も子供部屋で食べたいよ。

「こちらがペイシェンス・グレンジャーです。私の側仕えです」

 マーガレット王女に紹介されて、お淑やかに挨拶する。

「ペイシェンス・グレンジャーです」と挨拶すると「何処かで見たな? 何処だったかな?」ラフォーレ公爵が首を傾げている。

「ラフォーレ公爵、エスコートして下さらないの?」

「失礼いたしました」ラフォーレ公爵は屋敷に王妃様をエスコートして入っていった。

 リチャード王子とキース王子は、チャールズと話しながら屋敷に入る。マーガレット王女と私の相手はアルバートだ。同じ音楽クラブだからかな?

「ペイシェンスにリュートを習わせようと思っていますの」

「リュートを習うのは良い事だ。作曲の幅が広がるよ」なんて2人は意気投合しているよ。

 護衛の騎士達も一緒に食事を取るのかな? と思っていたが、馬車の警護をしながら順番に食べるみたい。別の部屋に用意されているようだ。ラフォーレ公爵家も大変だね。警護の騎士や女官やメイド、家庭教師、子守……何人いるんだろう。

 各々、案内された部屋で少し休憩して昼食を取る。うん、美味しい。豪華な食事に満足していたが、やはりデザートは砂糖じゃりじゃりなんだね。残念! 音楽好きなラフォーレ公爵らしく食事中に生演奏もあったよ。それも会話を邪魔しない程度の良い感じの演奏。

「美味しかったですわ。それに素敵な演奏でした」と王妃が感謝を述べて席を立つ。全員が後に続く。馬車に乗ろうとした時、アルバートが余計な事を言う。

「ペイシェンス、夏休みに新曲をいっぱい作るんだぞ」

 ラフォーレ公爵が「あの時の学生だ!」と騒ぎ出したが、ぎりぎりセーフ。馬車は出立したよ。

「アルバートときたら余計な事を……ペイシェンス、本当に気をつけてね」

 大袈裟に言って怖がらせているのだと思った。

「まさか、あんな立派なお屋敷に住んでおられるし、使用人もいっぱい雇っておられますわ。音楽家も雇っておられるのに」

「本当にペイシェンスは世間知らずなのね。まだまだ修行が必要ね」

 ペイシェンスが世間知らずなのも、私が異世界知らずなのも確かだけど、マーガレット王女の口ぶりはそれだけでは無さそうだ。奥歯に物が挟まっている様に感じる。

「今日、いるべき人がいなかったでしょ」

 ヒントを貰った。

「王様はお留守番ですか?」

 頓珍漢な答えだったようだ。マーガレット王女に爆笑されてしまった。

「お父様は1週間遅れていらっしゃるわ。そうではなくて、ラフォーレ公爵家でよ」

「あれ? 公爵夫人はお留守だったのですか?」

 マーガレット王女に呆れられた。

「王妃が屋敷で昼食を取るのに、夫人が生きていてお出迎えしないなんて有り得ません。病気だとしても這ってでも出てきます。だから気をつけなければいけないのよ」

 一瞬、マジで何を言われているのか分からなかった。

「えええ、もしかして、ラフォーレ公爵の後添えになるって事ですか? 父より年上に見えますが……有り得ないでしょう」

 私はオジサン趣味は無い! それにまだ10歳なのだ。歳の差いくつ? あれ、20数歳差とか有りえるの? 私はショタコンだから無理!

「アルバートの義母になりたくなければ、絶対にラフォーレ公爵の側に行ってはいけませんよ」

 本当に絶対に無理だから、真剣に頷いた。ペイシェンスも『無理!』と叫んでる。

「あとアルバートにも注意しなさい。ラフォーレ公爵は義理の娘にしようと考えるかも知れませんよ。まぁ、それは私が許しませんけどね」

 ラフォーレ公爵には手が出せないが、アルバートぐらいは撃破できると微笑む。

 恐ろしいよ。やはりマーガレット王女はビクトリア王妃様の娘なのだと感じた。寝坊で無類の音楽好きだけどね。

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