第38話 街に出かけてみた

 疲れる昼食を終えたら、マーガレット王女は美術の授業だ。私は美術も終了証書貰ったので免除されている。いざ街へ出発だ。

 でも、何だか校門の前の警備員が怖い。王族や貴族が学ぶ学園なのだから、警備が厳しいのは当たり前だ。堂々としていれば、問題ない筈だ。

『そっか、歩いて門を通ったこと無いんだ』

 いつも馬車だった。馬はレンタルだけど、馬車にはグレンジャー家の家紋も付いている。フリーパスだったけど、歩きなら何か言われるかも? 自信を持って「ちょっと街まで出かけます」と言えば良いのだとシミレーションまで考えたのに、呆気なく通れた。

 寮生とかよく出掛けているのかもね。

「さて、店とか何処にあるのかしら」

 王立学園は王宮の隣だ。そして、校門を出たところは貴族街だ。大きな屋敷ばかりで、ここを見て歩きたい訳ではない。王宮から離れた方が庶民的になるのだろうと推理して、南へと下って行く。ペイシェンスは歩くのに慣れていない。体力強化が必要だ。なんて考えて歩いても屋敷ばかりだ。

「貴族の屋敷って大き過ぎるよ」

 一軒歩くのに何分も掛かる。4時間目だけでは店に到達できなかったよ。でも、体感で1時間ぐらい歩いたら、屋敷がこじんまりしてきた。

「あそこに店がある?」

 異世界初の店を発見! 近づいてみたら、本屋だった。本は家に腐る程あるし、図書館にもいっぱいある。でも、初発見の店だし入ってみる。本屋さんって立ち読みとか出来るのかな? 真面目な本じゃない漫画とか無いのかな? 期待して入ったけど、本は少ししか置いて無かったし、専門書ばかりみたいだった。残念、次行こう!

 王立学園の制服着ていたからか、本を見て歩いていても怒られなかった。これなら他の店も大丈夫そう。

「商店街とか無いのかしら? 歩いている人も少ないわ」

 貴族街は抜けた筈なのに人がいない。それに店も見つからない。ペイシェンスは歩き慣れてないから、疲れてきている。バーゲンセールの梯子なんてしてないものね。

「しまった、さっきの本屋で尋ねれば良かったのよ」

 異世界初のお店で緊張してたのだ。それに本は高いから買えないし、聞きにくいよ。コンビニでもガムとか買って道を聞くじゃない。

 ぶつぶつ言いながら歩くこと体感で30分、やっと店が何軒か固まっている場所にたどり着いた。

 食物店、酒店、肉屋、花屋……リサーチには向かなさそうだけど、食物店と花屋を覗いてみる。肉屋は丸ごと吊り下げてあるのは、ペイシェンス的にも私も無理でパス。酒店も今のところ飲めないからパス。

 食物店、苺もおいてあるけど、家の温室の方が赤いし綺麗だ。結構高い。売ろうかな? でも、弟達も好きだし、悩むなぁ。

 ちなみに卵と砂糖もグレンジャー家では買えない額でした。王妃様に感謝だよ。

 屋敷の庭が広いから、花なんか育てれば良いのでは? なんて思いながら花屋を覗いてみたら、高っかぁ! そうか、まだ春になったばかりだもん。温室で冬も花を育てたら儲かるかも! 

 今年の冬までに保存食料が備蓄できたら、半分は薔薇にしようかな? なんて考えながら、学園に帰る。

「服とかアクセサリーとか小物とか見たかったな。今度、あの女子学生を見かけたら、お店を教えて貰おうかな?」なんて呑気な事を考えながら校門を通っていたら、キース王子に見つかっちゃった。

「お前、何処に行っていたんだ」

 馬車の窓から顔を出して怒鳴らなくても良いじゃない。目立つよ。

「少し散歩していただけです」と誤魔化して中に入った。黙っててくれたら良いけど……キース王子って雰囲気読めない人だもんね。

「ビクトリア王妃様やマーガレット王女の前で言いません様に」

 エステナ神に祈っておいたが、前も聞いて貰えなかったのを思い出したよ。

「なる様にしかならない!」

 くよくよしても仕方ない。それにキース王子が私の事を覚えているとはかぎらないもんね。

「それに明日は弟達エンジェルに会えるんだ!」

 悩んで眠れないかと思ったけど、歩き疲れた身体はぐっすりと行儀良く眠ったみたいだ。この寝方にも慣れたよ。

 メアリーを待ちながら、馬は午前中レンタルなのか、時間制なのか聞いてみようと考えた。歩いて店を見つけるのは疲れるし、効率的でもない。午前中レンタルなら、少し遠回りして服屋などを見てみたいとメアリーを説得しようと計画した。でも、そうしたら弟達との時間が少なくなるんだよね。それは嫌!

「でも、食料品屋と花屋を見ただけでも、物価とか分かって良かった。それに温室の使い方でお金儲けもできそうなアイデアも得たし……」

 寮を出て家から通えるから馬を手に入れたいと願っていた。でも、きっとマーガレット王女の側仕えを辞めるのは無理だ。馬のレンタルが午前中なら、ナシウスに少しずつ乗馬訓練をしても良い。

 あれこれ悩んでいるうちにメアリーが迎えに来た。何となくメアリーを裏切った気がして、辛かった。侍女システムの呪縛は破れても、メアリーの信頼を裏切れない。

『勝手な街行きはできないな。メアリーを巻き込んで行くしかない』

 それと体力をつけなきゃね! 春になったんだ。授業免除の時間は勉強だけでなく、ペイシェンスの身体も鍛えなきゃいけない。幸い、学園はすっごく広い。これからは薔薇の花も綺麗だろう。散歩するのも良いだろうと前向きに考えて、キース王子の件は忘れる事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る