第29話 音楽クラブ
ダンスなんかで落ち込んでいる暇は無い。3年Aクラスまで急ぐ。
「ペイシェンス、音楽クラブのメンバーを紹介するわね」
クラスには数人の学友がマーガレット王女の周りに座っていた。この人達のうち誰か1人でも寮に入ってくれたら、私が側仕えにならなくて良かったのだと恨んじゃうよ。
「こちらがキャサリン・ウッドストック、ウッドストック侯爵家の次女よ。あちらがリリーナ・クラリッジ。クラリッジ伯爵の長女だったわよね。そして、ハリエット・リンダーマン。リンダーマン伯爵の四女だったかしら」
「マーガレット様、私は三女ですわ」
ハリエットが笑いながら訂正する。私は、紹介されるごとにお辞儀をして「宜しくお願いします」と忙しい。あれっ、3人だけ?
クラスにはまだ何人も残っているけど? あっ、音楽クラブじゃないんだね。
「さぁ、音楽クラブに行きましょう」
最初に紹介されたキャサリンがさっと歩き出した。金髪というか濃いブロンドが巻き髪になっている。この髪形は寮生活では無理だな。マーガレット王女と腕を組んでいるのがハリエット。薄い色の金髪に水色の目。ふわふわの巻き毛。その後ろからついていってるのがリリーナ。妖精みたい。銀髪に紫の目。銀髪はストレートできらきらしてる。うん、皆さん、メイドさんに凄く手入れして貰っているのが分かるよ。
身分も容姿も選び抜かれた学友達に羨望の目が向けられている。あっ、チビの側仕えなんか目に入ってないみたい。良かったよ、本当に!
クラブハウスには縁が無かったから来たことなかったけど、これは私の考えているクラブ活動とは違う。これはサロンだ。それも高級なサロン。制服を着ていても、まるで別世界だ。椅子やソファーも猫足だよ。そこに十数人が優雅に座って談笑していた。
「マーガレット様、こちらが推薦された新クラブメンバーなの?」
中等科の学生が声をかける。学友だけでなくクラブメンバーも『マーガレット様』呼びなんだね。私は側仕えだから、控え目にしておきますよ。
「ええ、メリッサ。丁度良かったわ。皆さん、こちらが私の側仕え、ペイシェンス・グレンジャー。音楽クラブに推薦するわ」
メリッサはにっこりと笑うと握手を求めてきた。握手って初めてだ。
「ようこそ音楽クラブへ。ここでは身分なんか気にしないで自由に音楽を競い合うのよ。私は部長のメリッサ・バーモンド。こちらは、副部長のアルバート・ラフォーレ」
メリッサは濃い茶髪のエキゾチックな美女だ。アルバートは、モロ芸術家肌の青年。茶色の髪は女の子の様に長く、手入れが行き届いている。枝毛なんて無さそう。
「ねぇ、早速だけど、何か演奏して欲しいわ」
わっ、キャサリンの先制パンチがきた。マーガレット王女の一番の学友として、チンケな側仕えは許せないのかな?
「そうね、私も聞きたいわ」
甘えっ子みたいなハリエットだけど、かなり性悪そう。リリーナは黙って頷いている。
「そうね、ペイシェンス、昨日渡した新曲をお願いするわ」
えっ、一度弾いただけなんですけど……ペイシェンス頼みでハノンを弾く。
「まぁ、さすがビクトリア王妃様が選ばれた側仕えだけあるわね」
キャサリン基準では合格だったみたい。
「でも、もう少し情感を込めて欲しかったな。譜面通りでは味気ない」
アルバートのチェックが入る。
「まぁ、昨日一度しか弾いて無いんだから仕方ないじゃない。アルバートの曲だからと意地悪しては駄目よ」
マーガレット王女の言葉で「ふうん」と見定める様な視線が全員から送られた。
「でも、作曲できないといけませんわ」
ハリエット、見た目はふわふわ可愛い子ちゃんだけど、なかなか根性真っ黒だよ。そこを見せてしまう所、まだ若いね。まぁ、ペイシェンスより2歳年上だけどさ。
「そうね、新しいメンバーに新しい曲を期待してしまうのは分かるけど、少し慣れてからにしましょう」
さすがメリッサ部長! 纏めるのが上手いね。後は、次々とメンバーがハノンやリュートやフルートを演奏するのを聞いていた。皆さん上手! パチパチ
野心的なルイーズがマーガレット王女が音楽クラブだから、コーラスクラブから変更してくるのではと案じていたけど、なかなか難しそう。私もマーガレット王女の推薦だから入れたんじゃないかな?
クラブハウスの隅の椅子に座って、音楽鑑賞するだけなら楽だと安心していた。まぁ、それでは済まされないよね。
「ペイシェンス、もう一曲、何でも良いから弾いて」
マーガレット王女の無茶振りをいただきました。昨夜貰った新曲は全部弾かれている。それにペイシェンスが知ってた曲も凄く上手な演奏済みだ。
ままよ! 女は度胸だ。私は前世の曲を弾くことにする。音楽の天才、モーツァルトのソナタだ。短いし、明るくて楽しい曲だから選んだ。それと暗譜しているからね。ハノンは少しピアノと鍵盤が違うから、ちょこっとミスしちゃった。
「申し訳ありません。タッチミスしてしまいました」
シーンとしている。ミスして不愉快にさせたのだ。急いで謝る。
「いや、指のタッチミスなんか問題ないよ。君、ペイシェンスだったっけ。凄い才能だよ」
ひぇ〜! アルバートがハノンの前に座っている私の横に跪いて、手にキスをしている。恥ずかしくて真っ赤になるよ。こんなの前世でも未経験だもん。手を離して欲しいな。えっ、頬ずりしてる。マジやめて!
「アルバート、私の側仕えに勝手な真似は許しませんよ」
マーガレット王女がアルバートから私の手を救ってくれた。ホッとしたが、キャサリン、ハリエット、そしてリリーナからも強い視線を感じる。チビの側仕えから、ライバルに格上げされた様だ。
「これからの新曲も楽しみだわ。でもペイシェンス、練習不足が目立ったわ。部屋のハノンで十分に練習しなさい」
しまった! 拘束時間が増えそう。トホホ
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