第8話深夜に
それから、一時間。
玄関の方で鍵が回る音がした。
「帰ったでぇ~。霊ちゃーん!」
深夜なのに、そんな事などお構いなしでお母さんが大声で私の名前を呼びながらリビングに入ってきた。
「おかえり、お母さん。……何でそんな格好しているの?」
上は白のブラウス、下は黒のレザーパンツ。
首元に茶色のスカーフを巻いて、靴は黒のロングブーツ。
よく見たら、爪も真っ赤なマニキュアが塗ってある。
髪型もいつもは何の手入れもしていないのに、今はカールがかかり、普段は見たことのないお母さんの派手な姿に突っ込まずには居られなかった。
「どうや? 見よ! このオーラ! これが大和撫子! これが大人の色気っていう奴や! ガハハ! 心配せんでもな、霊ちゃんも年くえば私みたいに、胸も大きくなるで!」
「……聞いてないよ、そんな事。お母さん………色気なんかないし」
「ひど! それ、絶対に言ったらあかん奴! 私、めっちゃ容姿には自信あるのに! 堅物な辰巳さんもこの顔と胸で落したんやで!」
「……お父さん、その時疲れていたんじゃないの」
グイッと、私との
……確かにお母さんは美人だ。
40過ぎても、見た目だけならその辺の大学生と変わらないぐらい若くも見える。
昔、大学時代のアルバムを見せてもらったことがあるけれど、ミスコンにも出場して優勝も勝ち取ったぐらいだというから、別に私の主観的な評価でもない。
だけど、中身が残念過ぎる。
喋ったら、恵まれた容姿が台無しになるぐらいに残念だ。
正に残念美人。
黙っていたら良いのに。
「はーん? 霊ちゃん、今なんか変なこと考えてへん? ジト目やけど」
「考えてないよ。と、ところでさ。お父さんとお客さんは? なんで、入ってこないの?」
気持ちが外面に出ていたのを指摘された所で、玄関口でゴソゴソしている物音だけ聞こえてくれるだけで、一向にリビングに入ってこないお父さん達の話題に切り替えようとした、と同時。
「……疲れているようだから寝かしつけたよ。霊、布団敷いてくれてありがとうな」
「あ……お、お、お帰り、お父さん」
めちゃくちゃ噛みながら、スーツ姿のお父さんに、お帰り、と言った。
慣れないお父さんとの会話は緊張する。
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