第7話「客人」


カチ……カチ……カチ……カチ


壁に掛かっている時計が刻む針の音がふと耳に入ってきて、目をやると1時を過ぎていた。


「………もう寝ようかな」


お母さん、今日は帰ってこないなと踏ん切りをつけた私は、机に広げて黙々と解いていた数学の参考書をパタンと閉じ、勉強中につけていた眼鏡を外して、寝る前に日課のストレッチを10分程して、いい感じに体がほぐれてきた辺りで、消灯した。




★☆★


………………寝れない。


いつもなら、この流れですぐに寝れるのに全然寝れなかった。


原因は唯一つ。


今日、いや昨日の朝からずっとある得体のしれない胸騒ぎ。


ドクンドクン、と心臓の音が常に聞こえ、私の睡眠を妨害した。


寝返りをうっても、羊の数を数えても、時計の秒針の音に耳を傍立てても、全然寝れない。


仕方がない。


諦めた私は、もう一度起きて、スマホでネットサーフィンをして睡魔を待つことにした。





――


最近のゴシップニュースを何気なく見た。


会社の金を横領した会社員が、横領が発覚して会社が男に問い詰めると、ギャンブルで倍にお金を増やして、返金して仲直りした話。(本人はあらゆるギャンブル業界から出禁を食らった)


最近、売れてきた清純派女優が未成年ながら飲酒や煙草を吸って炎上した話。(本人はスクープ写真が公表されている状況でも、「私ではありません。信じてください!」と涙ながらに会見したことが、一部から余計に非難された)


どんな病を抱えていても、治せると公言する自称霊能力者の話。(今度、テレビで実際にやるらしい)



「………ふーん」


スマホをスクロールさせながら、未だに眠れない自分。


その時だった。


ブーン、ブーンとスマホが振動し、電話が鳴った。


相手は――お母さん。


「もっ、もしもし? お母さん?」


「あっ、良かっ……わ。まだ起…てたん…ね」


「うん、ちょっと聞こえにくいよ?」


周りがガヤガヤと騒がしい事に加えて、少し電波が悪いのかノイズ音が混っている事を指摘すると、スゥーと思い切り息を吸い込む音がした後に、


「おけ! ちょっと声大きくするわ! んでさ! 今から辰巳さんと家に帰るんやけど! 霊ちゃん、めっちゃ悪いんやけど、クロ――ゼットから布団1枚出しておいてくれへん? んで、私の部屋に敷いておいて!」


「え? 何で?」


「………ん。ちょっとな! 訳アリやねん! 帰ったら話すし! そういう事やからヨロシク☆」


「あ」


話すことだけ話して電話を切られた。


(にしても、今から帰ってくるなんで珍しいなぁ。お父さんも帰ってくるって言ったし。仕事の人でも来るのかな?)


思うことはあったけど、私はとにかくお母さんの言われた通り、布団を引っ張り出してこれから来るという『客人』のために敷いた。














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