4.復讐の鬼――ウィリス。
「くっ……!」
「ほう、今のを防ぐか。防戦一方だが、なかなかやるな」
「ガンヅさん!!」
ウィリスの剣を盾で受け止め、ガンヅは眉間に皺を寄せる。
あまりにも重い一撃。腕に響く感覚は、かつて経験したことのない威力だった。それこそ先日のヒュドラが放った一撃よりも、何倍も……。
「この――!」
「ほう、こちらは身軽なようだな」
ベネットは隙を突いて、ウィリスに短刀で襲いかかった。
しかし彼女の素早さをもってしても、青年を捉えることはできない。それどころか背後を取られ、反撃を受けそうになった。
だが、そこに割って入るのはガンヅ。
「――っ!! 大丈夫か、ベネット!!」
表情を歪めながら、どうにか持ちこたえた。
しかし、限界が近い。このままでは、ジリ貧だった。
「お前は、何者だ……!」
「キミたちが知る必要はない。ただ――」
そして、瞬間の隙が生まれる。
「しまっ――!」
「きゃ!」
会話の最中。
ウィリスはベネットに狙いを定めて、一気に距離を詰めて剣を振り上げた。青の瞳には光が宿っていない。
まったくの無表情で、彼はこう口にした。
「アインを呼び出す、贄となれ」――と。
直後に剣が振り下ろされる。
少女の家族が見守る、その目の前で――。
「いやああああああああああああああああああああ!!」
悲鳴と共に、血飛沫が舞った。
◆
――なにか、胸騒ぎがする。
「どうしたんだろう……?」
宿の一室で、ベッドに仰向けに転がりながら。
ボクはそう呟いた。
「嫌な、予感がする」
根拠はない。
ただ、本当になんとなく、急がなければいけない気がしていた。
――その時だ。
「え、なんだ……?」
誰かが部屋の扉をノックした。
そして、隙間から紙切れが差し込まれる。
急いでそれを拾いに向かうも、気配はすでにない。ボクは眉をひそめつつも、ひとまずその紙に視線を落とした。
すると、そこに書いてあったのは――。
「なっ…………!?」
◆
ボクは走った。
紙切れに指定されていた場所は、王都の外――ダンジョンの前。
そこに一人で来いと、そう書いてあったのだ。そして、そこでボクの大切な仲間を――。
「くそ、何だっていうんだ!?」
思わず悪態をつきながら、ダンジョンの前までやってくる。
周囲を見回し、薄暗闇の中から二人を探す。
すると――。
「ベネット、ガンヅさん!?」
「アインさん!」
見つかった。
こちらの声に気付いた少女は、悲鳴に近い声でボクを呼ぶ。
それに答えるより早く、二人のもとへ駆け寄った。そして気づくのだ。
「これ、は……」
「はは、悪いアイン。俺にはこれが、限界だった……」
背中に深い傷を負い、おびただしい血に染まったガンヅさんの姿。
ボクのことが見えているのか、それさえ分からない。焦点の合っていない瞳に、乾いた声。すぐに治療を始めなければ、命取りになるのは明らかだった。
だから、ボクはすぐに治癒魔法を――。
「やあ、久しぶりだね。――アイン・クレイオス」
「え……?」
そんなボクに、声をかける人物が一人。
振り返るとそこにいたのは、学園時代の先輩の姿だった。
「貴方は、たしか――ウィリスさん……?」
「覚えていてくれて嬉しいよ、アインくん」
月を背負ったウィリスさんは、静かに微笑む。
そして、ゆっくりと剣を引き抜いてこう告げるのだった。
「今宵は、月が鮮やかだ。キミの――」
浮かぶ満月とは正反対。
三日月のように、口角を歪めて……。
「キミの、命を刈り取るには絶好の日だね?」――と。
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