2.楽しい冒険者ライフ。
「こ、こんな良い盾を使ってもいいのか!?」
「もちろん、良いですよ。ガンヅさんは間違いなく、このパーティーの守りの要ですから!」
武器屋から出てから、彼はボクに申し訳なさそうな声でそう訊いてきた。というのも、ボクがガンヅさんにとある提案をしたところまで、話はさかのぼる。
先日のヒュドラ戦から考察した結果、彼には前線で戦うよりも守りに徹してもらった方が良いのでは、という結論に至ったのだ。
「しかし俺が、剣士ではなく盾持ち、ってのは考えたことなかったな」
類稀な身体の強さに、その腕力。
盾も武器としての性能を持ち合わせており、大剣よりも向いている。
そんなわけだから、ヒュドラ戦で得たお金を彼の盾を購入する資金に充てた。これでまた路銀はなくなったけど、彼のためでもある。
そう考えれば、冒険者を続ける以上は必要経費だった。
「ありがとう、アイン」
「お礼なんて良いですよ。これでまた、楽しく冒険者をやりましょう!」
「お、おう!」
ボクが微笑みかけると、ガンヅさんは嬉しそうに笑って答える。
そんな中、一人だけ時間を気にしている少女がいた。
「ベネット、さっきから何か気になるの?」
「え、あぁ。少し、家の用事があって――」
「家の用事?」
首を傾げて訊くと、少し恥ずかしそうにベネットは頬を掻く。
「実は今日、お母さんの帰りが遅くてですね。家には弟たちがいて、その子守をしなくちゃいけないんです……」
「あぁ、なるほど」
そして、話を聞いて納得した。
少し前に聞いたことだが、彼女の家はそれほど裕福ではなく、また母子家庭とのこと。冒険者をしているのは、少しでも生活費の足しに、とのことだった。
ボクはベネットの話を聞いて、少しだけ思うことがある。
というのは――。
「ねぇ、ベネット」
「はい、なんですか?」
「ボクもベネットの家に行っていい?」
「ふえっ!?」
――少しでもいいから、なにか手伝えないか、と。
せっかくの仲間なのだし、協力できるなら協力したかった。
それにベネットには、ダンジョンでも世話になっている。そのことを一度、彼女のお母さんに報告しておいた方がいいと思ったのだ。
「え、あ――その!」
明らかに動揺した少女は、少しだけモジモジとしてから。
「き、汚いですけど……。それで良ければ」
顔を真っ赤にして、そう言うのだった。
そうしてボクとガンヅさんは、顔を見合わせて笑う。
まるで本当に友達、家族ができたような温かさに包まれて。ボクはだんだんとこの暮らしが好きになっていくのだった……。
◆
「アイン・クレイオス……!」
だが、アインは知らなかった。
そんな幸せな光景を、陰からおぞましい表情で睨む人物がいたことに。
「お前は、このウィリスが必ず――殺す!」
逆恨みによる、一方的な殺意。
その毒牙は確実に、三人に近付いてきていた。
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