一緒にDVDを見る程度の関係の元同級生(多分非処女)に連れられてボッチで劣等感丸出しの俺が呼ばれていない同窓会に出席したら当時と価値観が違ってモテまくった話

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

1_元同級生と高校の時の同窓会

一緒にDVDを見る程度の関係の元同級生(多分非処女)に連れられてボッチで劣等感丸出しの俺が呼ばれていない同窓会に出席したら当時と価値観が違ってモテまくった話




「ねえ、高野倉くん、今度の日曜さあ、同窓会行ってくるね?」


「同窓会?」


「そそ、うちの学校では高校の時の同窓会があるのよ」


「小路谷(こうじや)さん、知ってる?俺とあなたは高校3年間同じクラスだったんだぜ」


「えへへ」


「『えへへ』は良いけど、俺のとこにはその話来てないよ。露骨にハブられてて凹むわぁ」





■01:俺達のこと―――

俺こと、高野倉光将(たかのくらあきまさ)は、高校時代からあんまり友達がいなかった。


アニメとラノベとパソコンとネットが友達の『ボッチ』だった。大学を卒業して数年経つが未だにその劣等感が抜けない。




バカな会話をしている相手の彼女は、高校3年間、俺と同じクラスだった小路谷美穂(こうじやみほ)さん。

高校のクラスはずっと一緒だったけど、ほとんど会話もしなかった。


彼女はクラスでも人気者だったし、剣道部の先輩と付き合っていたから俺とは違う世界の人間だった。


大学生になって、何となく再会して、なんとなくご飯を食べに行ったり、家でDVDを見たりする機会があって、なんとなく今までそんな関係。


確かに、現在彼女の家でご飯をご馳走になって、これから借りてきたDVDを一緒に見るつもりだが、付き合ってなどいない。



■02:俺たちの関係-――

この集まりには、俺と彼女以外にあと2人いるのだ。

大学時代の同級生、仲原与無(なかばるあとむ)と、高校時代の同級生、倍賞玲子(ばいしょうれいこ)さんもいて、4人で集まることがほとんどだった。


大学時代に倍賞さんに頼まれて、2人を仲原に紹介した。いわゆる合コンだ。

結果はこんな感じ。



仲原 (一目ぼれ)→ 小路谷さん

倍賞さん (一目ぼれ)→ 仲原

小路谷さん (何となく良いと思ってる)→ 仲原



ただ、倍賞さんと小路谷さんは仲が良いから、倍賞さんに気を使って交際は進展していないみたい。

そして、俺はその微妙な三角関係から外れた「紹介者」としての立ち位置。


俺以外の3人は就職して忙しくしている。

だから、最近は集まりも悪くなってきた。


この日はたまたま、俺と小路谷さんだけだった。

確かにご飯を作ってもらって一緒に食べたよ。

彼女は料理を作って振舞うのが好きと言う変わったところがあったから。






■03:現在-――

「ねえ、ビール?ワイン?」


小路谷さんがキッチンの方から顔だけ出して聞いてきた。

さっきまで洗い物をしていたのに。


「んー、つまみはなに?」


「ポテチ?」


なぜ疑問形?


「じゃあビール。そもそも俺、ワイン飲むと寝てしまう・・・」


「寝たら襲っちゃうからねぇ」


彼女はこういう微妙に思わせぶりなことを言う子だった。

高校時代から。


そういうのもあって、男子達にも人気で、高校時代は3年間剣道部の主将になったやつと付き合ってたらしい。


俺は、高校時代に彼女がいたなんてリア充とは違う。

今思えば、髪はボサボサで、メガネで、背の高さはまあまあだったけど、体型的には中肉中背くらい?


好きなものはアニメとラノベくらいで、3年間帰宅部、授業が終わったら即帰って家でアニメやラノベを堪能した3年間だった。

一浪してなんとか地元の大学に入れたので、大学のクラスには知っているやつがまるっきりいなかった。





■04:回想-――

3人の中では、俺だけ就職できていないけど、俺も食べて行かないといけない。

そこで、俺はちょっとしたアプリを作った。


小路谷さんがポイ活しているのを見て、初めてその存在を知った。

コンビニに行ったり、特定のスーパーで買い物したりしたときのポイントを集める『ポイ活』。

ポイントカードを忘れたりしてもらい損ねることも多いという。


そこで、アプリで自動化した。

取りこぼしを失くした上に、歩いて得られるポイントとコンビニ訪問するともらえるポイントを自動的に組み合わせて道を案内する機能を付けた。

これが女性のウォーキングによるダイエット効果狙いとうまくマッチしてアプリはだいぶたくさん売れた。


小路谷さんのアドバイスで税金対策のため一応会社にもした。

その他、スーパーのチラシとポイント獲得情報を一覧で見れるようにした機能も小路谷さんのアイデアだった。


『どうせ買うなら』とわざわざ1つ遠くのスーパーに行く人もいたみたいだが、この動きが企業の目にとまってコラボすることになった。



まあ、そんなこんなで就職できてなくても、今んとこ何とか食べていくことはできている。

小路谷さん様々だ。

ある程度収益は上がったので、アイデア料を渡そうと思ったけれど、丁重に辞退されてしまった。

だから、居酒屋なんかに行った時は、俺がご馳走するようにしている。





■05:現在―――

「このDVD、はずれだったね。あ、ねえ、結局、高野倉くんも同窓会いくでしょ?」


小路谷さんがポテチをパリパリやりながら聞いてきた。


「だから俺、招待されてないけど」


「私んとこに来たから良いでしょ」


「んー、俺と小路谷さんがよく会ってるって誰も知らないよね?しかも、俺陰キャだしなぁ」


「同窓会だよ?私人気者だよ?久々に会った男子達にモテて、モテて、お持ち帰りされるかもよ?」


「んー・・・」


確かに、自信満々で言うように、小路谷さんは笑顔が可愛かったので、クラスでも人気があった。

剣道部の先輩と付き合っているという噂は広まっていたのだが、何回か告白されているのを見たことがある。

それくらい人気は高かった。


「きっと、めちゃくちゃカクテルとか飲まされるよぉ?」


「飲まなきゃいいでしょ?」


「一晩のアバンチュールで、翌日にはボロ雑巾のように捨てられちゃうよ?」


センスがおっさんだよ。

元同級生を何だと思っているのか。

まあ、一緒に行ってほしいという気持ちは何となくわかる気がする。


20代も後半になってくると、女性は結婚してる・してないは、大きな差だろうし、既婚者が来たらどや顔を拝むことになるのだろう。

その時、慰める役が必要と言う訳だろう。


「分かった。行くよ」


「よーし、じゃあ、着て行く服、明日買いに行こうか」


「え?わざわざ買いに行くの?」


「オサレして行こうよぉ」


芝居じみた感じで袖を掴んで揺さぶってくる。

俺童貞だから、そう言うボディタッチすごく気になるんですけど・・・


「ああ、小路谷さんの服ね」


「うんにゃ、私のも高野倉くんのも」


「俺は・・・別にモテなくていいし・・・」


「ハツネちゃんとか来るかもよ?」


「ハツネちゃん?」


ハツネちゃんとは、苗字はもう思い出せないが、高校の同級生で、背が小さくて、おどおどしていて、笑顔が可愛い感じの子だったか?


「あんな子が人気でしょ?」


「あー、んー、あんま覚えてない」


「じゃあ、クラスで誰が好きだった?」


「んー、別にいなかった」


あえて言うなら、小路谷さんだったが、彼女は先輩と付き合ってた。

当時から『致している』と言う噂があったので、もう俺とは違う世界の人種だと思っていた。

こういうのを『高嶺の花』っていうのかな?


「小路谷さんは剣道部の先輩と付き合ってたでしょ?」


「んー、あの気持ち悪い人」


「は?彼氏だったんでしょ?」


「うん、告白されて『はい』って言ったら付き合うことになった」


「そりゃ、そうでしょ。『はい』って言ってるし」


「でも知らない人だし!」


「だから付き合って仲良くなっていくんでしょ!?」


「んー、月に1回くらいデートに行ったけど、怖いし、気持ち悪いし・・・早く帰りたかった」


「そんな付き合いある!?」


「高校生だからねぇ。今なら明確に拒絶する!」


「そんなかよ・・・」


「でも、それなりのことは『致して』たんでしょ?」


「一回キスしようと顔を近づけて来たんで、『キモっ』て思って、『宿題があるんで帰ります』って言って帰った」


「どんな交際なんだよ、剣道部主将」


「好きじゃなくても、断れなかったなぁ。勇気がなくて。でも、なんにもなかったよ?確かめてみる?」


小路谷さんがスカートをめくって何かを出そうとする。一瞬パンツが見えたので、思わず目をそらした。


「何を見せる気なの!?」


「いや、処女膜見せたら納得するかと思って」


こういう品がないジョークを言っちゃう子なんだよなぁ。


「高野倉くんも童貞膜ある系?」


「『童貞膜』ってなんだよ。俺は陰キャのニートだから彼女もいないし、チャンスもなかったよ」


「へー、ふーん、ほー。あ、チーズもあるよ?ワイン飲む?」


なんか急に機嫌良さそうに冷蔵庫にチーズとワインを取りに行った。

俺が童貞と確認できて、心のマウント取れたのかな?

あと、俺、ワイン飲むと寝ちゃうんだって・・・


この日は結局ワインを飲んで、DVDは計3本見て寝落ちした。

翌日休みだったので、シャワーを借りて、2人で一緒にそれぞれの服を買いに行った。






■06:同窓会当日―――

そして、同窓会当日。先日選んでもらった服を着て同窓会にやってきた。

場所はカラオケボックス。

同窓会ってカラオケボックスでするものなの!?


「なんか緊張するね」


小路谷さんが少し緊張しながらも、えへへと笑いながら聞いてきた。


俺は小路谷さんと一緒にここまで来た・・・というか、俺は結局招待されていないので、場所も時間も知らなかった。

小路谷さんに着いてきただけなのだ。


「会場に着いたら誰かに会う前に帰りたくなる感じない?」


「分かる!この気持ちに誰か名前を付けてくれ」


「どんな?」


『シュミラクラ現象』みたいなの」


「シュミラクラ現象は、丸が3つあったら顔に見えるってやつでしょ!?」


「小路谷さん、何か考えて」


「バカなこと言ってないで、入るわよ!」


「小路谷さんが言いだしたんじゃん」


小路谷さんが腕を組んできた。

何か当たってるし!

やわらかいし!

そして、良い匂いするし!



もう逃げられないと思って観念して会場に向かった。

同窓会の会場になっているのは、カラオケボックスの広い部屋らしい。


ドアのくもりガラスから見える人影から、割とたくさんいるみたい。

ボッチだった俺の劣等感の元がこの箱の中に詰まってる・・・


「ちわーっす!ソバ屋の出前です!ラーメン2丁お持ちしました!」


「なぜソバ屋!?そして、なぜソバ屋がラーメンを!」


小路谷さんが絶妙に面白くないジョークを大声で言いながらドアを開け突入した。

俺もつい、いつもの調子でツッコんでしまった。


会場にいた20人程度が一斉に静かになった。







そして、次の瞬間・・・・・大爆笑。





会場が沸いた。


これが小路谷さんの力。

小路谷さんの魅力。

小路谷さんの人気。



「なんだよ!小路谷さんだよ!ソバ屋が来たよ!」


「あー!小路谷さん彼氏連れて来た!同窓会なのに!反則だよ!反則!」


入ってすぐの場所に『受付』と書かれた紙が貼ってあるテーブルがあった。

そこにいたのは幹事 (らしい)村吉くん (下の名前は知らん)となんとかハツネちゃん (苗字はおぼえてない)。


村吉くんは高校時代、目がジャックナイフのように鋭くて、怖くて近寄ることも会話することもできなかった・・・


「これ、高野倉くんだよー」


腕を組んだまま引っ張り出される俺。


すると、村吉くんが近づいてきて・・・



「おおー!高野倉―!来てくれたのか!ありがとう!男に連絡がつかなくて困ってたんだよ!!」


・・・なんか、来ても良かったらしい。


ただ、この同窓会の奇妙さにはすぐに気が付いた。


参加メンバーは確かに『元同級生』に間違いない。

顔を見たことがある。


同窓会に違いはないが、約20名のうち女性は15人。

3年の時の女子はほとんど来ている。


一方で、男は俺を合わせても5人。

75%女子の同窓会・・・な訳ではなく、4人の男たちが当時の女子全員に連絡して呼び出した同窓会兼合コン?


5人しかいない男たちは集まって村吉くんが事情を話してくれた。


「俺と室見が付き合ってて、『同窓会したいね』って話になったんだよ」


確かに村吉くんの隣にはなんとかハツネちゃんが立っている。

『室見』はなんとかハツネちゃんの苗字だろう。


「女子はハツネが連絡して、ほとんど連絡がついたけど、男子は連絡取り合ってなかったろ?地元の連中しか呼べなくて4人しかいないとこだったんだよ・・・」


そういうことか。

確かに俺は既に実家も出ているし、スマホの番号も当時とは違う。

連絡を取ろうと思っても連絡手段がないな。


「高野倉が来てくれて、少しでも男性率上がってよかったよー」


「あ、そう?よかったよ」


なんか歓迎された。

ボッチだからハブられたと思って行かないことを考えていたけど、肩透かしだった。


村吉くんも昔の厳しい目つきじゃなくなってるし、話しやすかった。

他の男子とも何となく話が出来た。


もしかしたら、当時も劣等感を持っていたのは俺の方だけで、別に相手は何も思ってなかったのかもしれない。


同窓会は30畳程度の比較的広い部屋で開催された。

当時のヒット曲を歌うやつもいた。


テーブルは料理が置かれている1卓だけで、立食形式だった。

みんな好きに食べて、飲んで、交流して久々の再会を楽しんだ。


そのうち、俺の周りに女子が集まっていた。


「高野倉くん、メガネやめたんだ?コンタクト?」


「あ、いや・・・」


「痩せたね!かっこよくなった!」


「あ、そうかな・・・ありがと・・・」


「いま何してるの?」


「んと、一人でごそごとと・・・」


「私服初めて見た!センスいいね!」


「あ、これは・・・」


男子とは普通に話せたけど、女子とはまだ無理だった。

当時も女子とはほとんど話してなかったし、未だに免疫はないし、童貞だし。

困り果てていると、背中から救世主が現れた。


「うーんとね、目はレーシック!」


俺の背中から顔だけ出す形で小路谷さんが答えた。


「え?!まじ!?怖くなかった?」


元クラスメイトの女子は、俺の方を見て追加質問を投げかけてきた。


「ん、まあ・・・」


「高かったんじゃないの?」


「両目で16万くらい・・・かな」


「えー、お金持ちー!」


とりあえず、小路谷さんが助けてくれたから何とか切り抜けた。

小路谷さんは立ち上がり、人差し指をステッキのように振って、次の質問の答えを言った。


「今はねぇ、自分で会社を興してる!」


「え!?まじ!?高野倉くん、社長!?」


一斉にみんながこっちを見た。

視線が怖い・・・


「あ、まあ、一応・・・でも、社員とか俺だけだから・・・」


「年収は2000万円!」


小路谷さんが自分の事のように自慢げに続けた。


「まじ!?どんな悪いことしたらそんなに稼げるの!?」


目をキラキラした女子が益々距離を詰めてきた。

声が聞こえたのだろうか、男子も集まってきた。


「ポイ活をアプリで自動化したら・・・意外に人気で・・・売ったら意外と売れたって言うか・・・」


「なにそれ、私も欲しい!ポイ活めっちゃやってる!」


何人かの女子がめちゃくちゃ食いついた。

みんなやってるんだなぁポイ活。


「じゃあ、後でソフトあげるよ・・・」


「ホント!?マジ!?ほしいほしい!」


「私も!私も!」


困ってる俺の代わりに小路谷さんが続きを答えてくれた。


「髪は昨日切って、服は1週間前に買いに行った。因みに、私が選びました!」


「あー、やっぱり、小路谷さんと付き合ってるってことー!」


「あ、いや・・・」


「いつから!?いつから!?実は高校時代から・・・ってオチ!?」


「あ、いや、付き合っては・・・」


「どれくらい頻度で会ってるの?ねえ」


とにかく圧が凄い。

そして、質問が多い!

降ってわいたワイドショーネタ的な感じだった。

みんな悪乗りしていると思う。


「週・・・8くらい?」


「毎日超えた!」


小路谷さんが可愛く答えたところを、他の女子がきれいにツッコんだ。

俺は常にタジタジだった。




同窓会もお開きになり、2次会に行く人、そのまま帰る人、色々いた。


「おう!高野倉くん!」


酔っぱらった小路谷さんが背中を思いっきり叩いて来た。

多分、『部長的コント』らしい。


「なんすか?小路谷さん」


「これからうちの近所の店で2次会いこう!ふたりだけで!」


耳元で話しかけてきた。

少しこそばい。

耳の近くで言っている割に、全然こそこそ話じゃない声のトーン。


「いいけど」


「何でもいいけど、お前ら全部聞こえてるからな!」


「やーん、ラブラブじゃーん!」


「高野倉が、かつてのクラスのアイドルを独り占めするー!」


みんなにめちゃくちゃ揶揄われたけど、嫌な気はしなかった。


みんなそれぞれに酔っぱらっていた。

でもやっぱり、当時のことを思い出すと、ちょっと恥ずかしくて急いでみんなから離れた。

ただ、小路谷さんの手だけは引いて連れて来た。





■07:2人だけの2次会―――

タクシーで彼女の家の近くまで移動して普通の居酒屋に入った。

彼女は店に入った時点で机にうつ伏せになり顔を横に向けていた。


「酔った?」


小路谷さんは机に伏していたが、にこにこしていた。


「やっぱり、飲まされちゃった・・・」


「女子ばっかだったろ」


「女の嫉妬―」


「嫉妬?」


「高野倉くんはどうだった?」


「うーん、なんか、いい意味で普通だった。村吉くんとか昔は目が怖かったけど、ちょっと優しくなってた。ちゃんと話せた・・・」


「お互いもう大人だからねぇ」


「高校の時は、みんな何か将来に不安を抱えていた気がする。それが、いまだと憑き物が落ちたみたいな・・・」


「ふーん。さすが」


「さすがって・・・」


「これから私すっごく性格悪いこと言うから聞いてねー」


「おう」


「女子の方はねー・・・マウントの取り合いだったー」


「そう?傍から見てるとそんな感じには見えなかったけど」


「女の世界は女にしか分からないからねぇ」


「そうなん?」


「うん、誰が結婚したとか、誰と付き合ってるとかって・・・」


「ふーん」


注文した簡単な料理と酎ハイが運ばれてきて、2次会はスタートした。


「「かんぱーい!」」


酎ハイのジョッキがカキーンといい音を鳴らす。


「あー、気持ちよかったー!」


小路谷さんは右手のこぶしに力を入れながら言った。


「さっきの同窓会?」


「そう!」


「『ざまぁ』してきたわけですよ!」


「『ざまぁ』?」


「結果、飲まされた訳です。報復かな?祝福?応援?」


「なんだそりゃ」


なんだか、小路谷さんが自分にだけ分かることを言い始めた。

やはり酔っぱらっているらしい。


「あそこにいたのはねぇ、みんな『自分』なの」


「自分?」


「そ、スタートはみんな一緒だったし、卒業してどうなったのか、比べる相手は他人であり、『かつての自分』ってとこかな」


確かにみんな同じ高校。

同じクラス。

学歴も同じ、その後どう頑張ったかの話。


「今日の優勝は、高野倉くんだったね」


「え?そうなの?」


急に褒められた?

ちょっとびっくりした。


「だってー、大学卒業して、社長になってー、センスいい服着て、髪切って清潔感あるしー」


「おう。ありがと。あと、こっそり服のセンスは自分の事を褒めてるでしょ」


「へへへへへ」


くねくねしながら酎ハイをあおる小路谷さん。

ここで注文した料理が次々運ばれてきた。


「私は負けてたー」


「そ?みんな小路谷さんのこと綺麗になったって褒めてたよ?」


「それは、後半かなぁ。前半はどんぐりの背比べだった」


「へー。気づかなかった」


「お化粧して、良い服着て行っても、他の子も綺麗になってた」


「確かに」


「これがねぇ、私の限界。頑張ったけど、みんなも頑張ってた」


小路谷さんが箸でホッケの身をほぐしている。

多分食べるつもりじゃないけど、とりあえずほぐしている。


「私の月収知ってる?手取り12万だよ」


「ぶっちゃけたねぇ」


「女の子は高卒も多かったし、みんな何とか生きてる感じだった・・・」


「・・・」


俺は何と言っていいのか分からず、黙って続きを待った。


「高校の時、成績が良かったミオちゃんも私とあんまり変わらなかった・・・」


「そうなんだ」


「一生懸命頑張ったのって、何のためだったんだろうねぇ」


「確かに」


「『さ行変格活用』っていつ使うのさぁ」


「・・・」


小路谷さんがジョッキの酎ハイを一口飲んで続けた。


「高野倉くんは、私たちがいるレールからは外れてる」


「あ、突然の仲間外れ」


「違う、違う。誰も抜けられないのに、一人抜け出してる。突き抜けてた。だから一番」


「そうなん?」


でも、俺は小路谷さんのアイデアが無かったら今でもほんとにニートだったし。


「私と高野倉くんと再会したのって、高野倉くんがまだ大学生の時だったじゃない?」


「ああ」


「貧乏だったじゃない!」


「ああ(笑)」


「そのとき『仲間を見つけた』って思ったの!」


「仲間?」


「そ、仲間。世間の荒波に打ち勝つために、同じ高校出身の仲間」


「ああ、そう言うことね。確かに仲間だ」


「仲間にかんぱーい!」


小路谷さんがノリよく言った。


(カチーン)本日2度目のカンパイ。


「私の方が就職先だったし、よし、お姉さんがうまいもん喰(くら)わしたろうってなもんよ」


「まあな。同級生だけどね」


「私の実家はあんまりお金なかったから、お弁当は作ってたし、料理はまあまあやったの」


「ああ、それで、ご飯おいしい!」


「それよ、それ!」


「え?どれ?」


「高野倉くんにご飯食べさせてるとね、美味しそうに食べてくれるし、子宮の下の方から『キュウゥン』ってしてたわけですよ」


下腹を両手で撫でながら、身体をくねくねする小路谷さん。


「どっかに下ネタをねじ込まないと死ぬ病気なのか、きみは」


俺がモロキュウのきゅうりに味噌を塗りながらツッコむ。


「ところがさぁ、高野倉くんって貧乏でも前向きなのよ」


「そうだっけ?」


「私の貧乏料理もおいしく食べてくれるし」


「ん?貧乏料理だったのか!?」


普通においしくいただいていたので、そもそもそういう認識がなかった。


「それよ!そういうとこよ!」


「どういうところだよ」


「私のどうでもいいつぶやきからソフト作っちゃうし」


そもそもそのソフトのアイデアは小路谷さんとの会話の中からひらめいたものだった。


ソフトを作るのは比較的簡単だったので、あと俺がやったのはひたすら実験だった。

実際に歩いたり、買い物したり、やってみるしかないのだから。


「そのうち、みるみる痩せていっちゃってさ」


あの頃、その実験のために結構距離歩いてたからなぁ。

1日10万歩をノルマにしてた。


「かっこよくなるし、ソフトも売れてお金持ちになるし、メガネやめちゃうし・・・」


ソフトはたまたま売れただけ。

メガネは歩くと汗でズレるから、面倒なんで思い切っただけなんだが・・・


「私にはできない変身を目の前でやって見せた。なんか感動しちゃってさ!」


「でも、お金云々は今だけかもよ?」


「貧乏料理でよければ、手取り12万で食べさせてあげるわよ」


「そりゃどうも」


「元々まじめなのに、かっこよくなって、ズルいよね」


「なに、ズルいって」


「あと、私みたいに『誰かと比べて』とかじゃなくて、『いつも前向き』ってなんかよかったの」


単なるボッチを、少々買いかぶりすぎな気はするが、褒めてくれているのは分かるので、とりあえず頂戴しておこう。


「だから同窓会では、高野倉くんの評価が低かったのが嫌だったの」


「まあ、ボッチの陰キャだからねぇ」


「自分で思ってるよりポテンシャル高いよ?高野倉くんは。だから、それをみんなに伝えたかった」


「ああ、そう言うこと」


「結果『ざまぁ』成功だった訳ですよ」


「クラスメイトでしょ」


「『過去の自分』によ」


「ふーん」


「でも、高野倉くんと一緒じゃないと私は変われない」


「ほほう」


「色仕掛けはもう、失敗してるんですよ。えっちぃ服を着ても押し倒されなかったし」


「ああ、一時期えらい薄着だなぁと思ったわ。『薄着ダイエット』って言ってたから信じてた・・・」


「え!?あれ信じちゃったの!?」


「・・・」


俺は自分で思っているより、信じやすいし、鈍いらしいことを今知った・・・。

ちょっと恥ずかしいんだけど。


「高野倉くんを取り込もうと思ったら、もう、胃袋を掴むしかないわけですよ」


「はぁ」


「いっぱいいっぱいご飯を喰(く)らわせたので、そろそろ掴んでないですか?」


「ああ、たしかに。掴まれてるねぇ」


コンビニ弁当とかじゃ物足りないと感じるし、美味しいものを食べようと思ったら小路谷さんに連絡してたと思う。


「じゃあ、そろそろ堕(お)ちてくれませんか?」


「ええ?」


小路谷さんを見ると、アルコールが入っているからだけとは言えないくらい顔が真っ赤だった。

俯いたまま、テーブルの上では俺の指を掴む程度に控えめに握っている。


「今夜、一緒に処女膜確かめませんか?」


「ここぞというときも下ネタをねじ込んでくるんだね」


「へへ、照れ隠しだからね」


「顔が真っ赤だから、全然隠れてないよ」


テーブルの上で、俺の方からも手を握り返す。

しっかりと。


会計を終え、彼女の部屋に一緒に歩いていく。

行きは、それぞれだったけど、帰りは腕を組んで帰ってきている。

なんか不思議な感じ。


「あ」


「どうしたの?」


「仲原になんて言おう?」


「ん?」


「ほら、仲原って小路谷さん狙いだから・・・」


「仲原くんなら来月レイちゃんと結婚するらしいよ?」


「は?それ俺聞いてないけど!?」


『レイちゃん』とは、4人組の一人、倍賞玲子のこと。

なぜ、何かあっても俺には知らせないのか。

俺に何か知らせると負けなの?


「なんか、押せ押せで何とかなったみたい」


倍賞さん肉食系だからなぁ・・・


「残念でしたー、あとは私しか残ってないよ?」


「ふっ」


「あ!今、鼻で笑った!ひどい!すごく傷つきましたー!」


「いや、小路谷さんは俺にとって『高嶺の花』だよ?『残りもん』じゃないから」


小路谷さんが真っ赤になって挙動がおかしい。


「真顔でそういう事いうのやめてもらっていいですか?」


「ふふ、顔真っ赤だよ?」


耳まで真っ赤だ。


「ちょ!女子の顔を覗き込まないで!ちょ!」


顔をひたすら隠す小路谷さん。

もっと早く勇気を出していたら高校時代にこんな関係に・・・それは無理か。

今だからこうなれたのかな。




高校時代からのボッチに劣等感を持っていた俺は、今日同窓会に出て救われた気がする。

社会に出てから現状の自分に劣等感を持っていた小路谷さんは今日、自分に打ち勝った。


結局ソフトのアイデアを出したり、会社を作った方が良いって言ってくれたのは彼女だし、料理上手だし、コミュ障の俺とも普通に話してくれてる。


ついでで言ったら悪いけど、ついでに美人。

ポテンシャルはかなり高いんだ。

それを活かせないのは世の中が悪いのか?


2人でいることで、かつての自分に『ざまぁ』できるってことが分かった。

あと残ったのは、『彼女は経験者』で『俺は童貞』ってことの俺の劣等感だけ・・・


・・・呼ばれてない同窓会に行ったみたいに、思い切ってドアを開けてみるか。

面白くない冗談と一緒に。


「高野倉くん、今日はDVDもポテチもないけど、いいの?コンビニ寄る?」


「いや、でも、処女膜があるんでしょ?おいしくいただこうかと思って・・・」


「うわー、最悪だぁ。女子の口説き文句として最悪だぁ」


「日ごろの俺の気持ちを存分に味わいたまえ」


俺達は手を恋人つなぎのままで彼女の部屋に向かった。

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