第45話

 (※ナターシャ視点)


 そんな……、まさか、この部屋の指紋を調べていたなんて……。


 憲兵も、犯人の言葉より、私の言葉を信じると思っていたのに、まさかこんなことになるなんて……。

 私はいったい、どうすればいいの?


「これはいったい、どういうことなんでしょうね? あなたは犯人は見ていないと言っていたのに、この部屋からは犯人の指紋が検出された。犯行時、あなたはこの部屋で本を読んでいたと証言しましたね。それなら、犯人がこの部屋に入れば、気付かないはずがない。これはつまり、あなたが嘘をついているということなのでは?」


 憲兵の鋭い視線が、私に向けられていた。

 私は狼狽えていた。

 しかし、何か言い訳を探さなくてはいけない。


「あら、ごめんなさいね。私が勘違いしていたみたいだわ。あの時は本を読んでいたのではなく、眠っていたのよ。だから、犯人に気付かなかったんだわ」


「なるほど、そうですか……。しかし、憲兵はあなたが偽証したのではないかと疑いの目を向けています。どうしてそんなことをしたのか、私は考えました。最初は自分でも笑いましたが、今ではそれが事実なのではないかと疑っています」


「何ですか? その憲兵さんの考えというのを聞かせてくださいよ」


「ええ、ナターシャさんが犯人と違う証言をしたのは、犯人の証言を嘘だと思ってほしかったからだと考えています。つまり、あなたが歩いて壺のところまで案内したという犯人の証言が嘘だと、ほかの人に思ってほしかった。なぜなら、あなたは本当に歩いていたから。違いますか?」


 憲兵がじっとこちらを見ている。

 まさか、そこまで疑っているなんて……。

 いや、疑っているなんてものじゃない。

 憲兵は、自分の中では確信しているようだった。


「面白いことを言いますね。でも、そんな証拠はないでしょう? 私が検査を受けたくないと言っている以上、私の意思を無視して調べることはできません」


「ええ、そうですね。でも、今まさに、その検査の許可をもらう令状を請求しているところです。まあ、令嬢がとれる確率は五分五分と言ったところでしょうか。その間、あなたが逃げないように、この屋敷を外から監視させてもらいます」


「そ、そんな……」


「何か問題でも? 体が思うように動かないというのが本当なら、何も不都合はないでしょう?」


「……え、ええ、そうね。べつに、何も問題ないわ」


 口ではそう言ったが、問題だらけだった。


「では、私は今日のところはこれで帰ります。次に会う時は、取調室になるかもしれませんね」


 憲兵は笑いながら去っていった。

 冗談じゃないわ。

 そんなことには、絶対にさせない。

 でも、この状況は、かなりまずい。

 

 このままでは、私の嘘がバレるのは、時間の問題である……。


     *


 (※アーノルド視点)


 私は遂に決心をした。


 今日の憲兵とナターシャのやり取りを見て、私の疑惑は大きくなった。

 もう、確かめずにはいられない。

 万能薬と共にレイチェルからもらった、あれを使うしかない。

 私は引き出しを開けた。

 

 そこには、万能薬が入った瓶がある。

 そしてその横には、万能薬と共にレイチェルからもらった、一本の針があった。

 

 これらを使って私は、彼女の体が治っているかどうか、確かめることにした。

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