第13話

 (※ナターシャ視点)


 万能薬は、次々と必要としている人の手に届けられた。


 そして、それを摂取する様子は、新聞に掲載される記事に詳しく書かれていた。

 これを見て、まだ摂取していない人たちも勇気をもらい、万能薬を摂取していった。


「ナターシャ、これだけほかの人が万能薬を摂取して、体が治っているんだから、君だって万能薬を飲めば、きっとよくなるよ。不安なのはわかるけど、勇気を出して、一歩踏み出してみたらどうかな」


「……ええ、そうね」


 これだけほかの人が万能薬を摂取している中、私だけ摂取しないというわけにもいかない。

 世間からも、そしてアーノルドからも、不審に思われてしまう。

 私は遂に、万能薬を飲む決心をした。


「よし、そうと決まれば、レイチェルがいる開発室へ行こう。あそこに万能薬が保管されていて、そこでもらえるそうだ」


「ええ、行きましょう」


 ああ、どうしてこんなことに……。

 ついに私も、万能薬を摂取しなくてはならなくなってしまった。

 もちろん強制ではないけれど、周りからの無意識の圧力が、私に摂取することを急かしている。

 そろそろ、先延ばしにするのも不可能だ。


 私たちは、開発室へと向かった。

 そこには、カメラを構えたたくさんの新聞記者たちがいた。


「来たわね、ナターシャ。万能薬によってあなたの体が完治する様子は、世間に発信されるわ。万能薬の効果も知ってもらえるし、飲むことに躊躇している人に、勇気も与えられるわ」


「え、ええ……、そうね……」


 まさか、こんなことになるなんて、思っていなかった。

 ここにいる人たちは、万能薬によって奇跡の回復をしたという画を撮りたいのだ。


「はい、これが万能薬よ。もちろんまだ作っているけれど、作るのにはしばらく時間がかかってしまうの。落としたりしないように、注意してね」


 私はレイチェルから万能薬を受け取った。

 たくさんのカメラが、こちらを向いている。


「いよいよこの時が来たな。さあ、ナターシャ、私も見守っているから、安心して飲むんだ」


 アーノルドも、期待の眼差しを向けている。

 しかし、これを飲めば、自由に動く体を手に入れるのと引き換えに、今までの行いのつけを払わなくてはいけなくなってしまう。


 私は何よりも、そのことを恐れていた……。


 どうすればいいの?

 このままプレッシャーに負けて、空気を読んで、万能薬を飲むべきなの?

 それとも……。


 皆の期待の視線が、こちらを向いている。

 奇跡が起きるのを、皆が期待している。


 私は万能薬の入った瓶のふたを開けた。

 そして、それを口へ運ぼうとした。

 しかし、手から瓶が離れ、床に落ちて瓶が割れてしまった。


 否、私はわざと、瓶を床に落としたのだ。

 しかし、その結果……。

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