逃走
「
「あっ、もしかしてこいつ!」
「またいずれ会おう」
魔人はニタニタとしたニヤケ面を貼り付け、残った左手で指をパチンと鳴らすと空間に裂け目が生まれた。
「ラプチャー!!」
相棒が動き出したと同時に裂け目から蛇のようなものが現れ、魔人を咥えて裂け目の中へと消えていった。
相棒もすんでのところで間に合わず裂け目は綺麗に閉じられてしまい、魔人を逃してしまった。
「くそっ逃げられた!」
「一瞬見えたアレはもしかして魔獣か?」
「そうです。あの次元の裂け目のようなものは魔獣のスキルなんでしょうね。奴は魔獣をずっと裂け目の中に待機させていたんですよ。最初から逃げるための布石は置いていたわけで…………どんだけ用意周到なんだよ」
「それじゃあ…………あの人が空間から魔物を生み出していたのも…………」
「魔獣のスキルを魔人が使用していたってことだろうね。逃したくなかったな」
魔獣を殺せば魔人は力を失う。
それが分かっていたからこそ、奴は俺の前に魔獣を一度も現さなかったのか。
魔人云々の前に、奴の戦い方が非常にやりづらくて厄介だぞ。
何はともあれ、未来視によって予知された災厄とはこのことだったんだろう。
あそこまでの致命傷を負わせた以上、治癒系等のスキルが無ければ奴は何も出来ないだろう。
「それにしても、リオナはどうしてここにいたんだ?」
「それは───」
リオナからある程度の話を聞いた。
見知らぬ男と謎の魔物の発生を調査するため。
謎の魔物というのはそこら中に散らばっている魔物の死体のことだろう。
これらもあの魔人が操っていたのなら、今後の貴重なサンプルになるはず。
「だがリオナ嬢、単独で主犯を追いかけたというのは良くない判断だな」
「うっ…………そうですよね」
師匠が嗜めるようにリオナに忠告した。
「騎士団の戦闘は基本的に五人一組。いくら指揮官として浮いている駒だからといって単独で戦ってしまっては、五ツ星の神獣持ちとはいえ囲まれれば殺されかねない。そうすれば二度と神獣は生き返らないんだぞ」
「すいません…………おっしゃる通りで…………」
「自分の力に自信を持つことは大事だが、過信してはいけない。神獣は道具ではなく自分の分身であると理解する必要がある」
「うう………………」
「指揮官というのは判断を間違えてしまえば部下を危険にも晒してしまう恐れがあり、部下からの信頼の構築も──────」
「師匠ストップストップ!!久しぶりに会ったのにそんなに追い込む必要ないじゃないですか!」
止まらない指導にリオナがシュンとしてしまっている。
久しぶりに師匠の悪いところが出た。
ハッキリ物事を告げる性格というか、言い方に配慮が足らずに棘があるような言い方になる。
旅に出始めた頃は俺もよくグチグチ言われたものだ。
「む、すまん……」
「いえ……ヴァリアスさんの言う通りです……」
ポロリとリオナの頬に雫が伝う。
「あーあーリオナを泣かしたよ師匠これどうすんの」
「なっ!?まさか泣くほどとは!すまないリオナ嬢」
「これはもうロートルおじさんにチクるしかないね」
「勘弁してくれ!!」
ロートルおじさんに説教される師匠、見てみたいかもしれない。
まぁ冗談はこれぐらいにして、今後の展開としてかなり忙しくなるかもしれない。
多発する魔獣の存在。
自我を持つ謎の魔人。
奴の言い分からすれば自我を持つ魔人の存在は、奴一人だけではない可能性がある。
各国の
国同士の仲が悪いとしても、俺達
師匠がさっき話していたように、各国の
「アル、どれぐらいアトラス王国にいられるの?」
「そんなにいられないかもしれない。魔人の情報について各国と共有しないといけないから」
「そ、そっかぁ…………」
リオナが露骨に落ち込んだ表情を見せた。
その顔を見て俺はすぐに心変わりした。
「…………ま、まぁ久々に帰ってきたわけだし、少し長めにいてもいいかもな」
「ほんと!?やったぁ嬉しいなぁ」
落ち込んだ表情から一転、子供のような弾けた笑顔になった。
昔からリオナの笑顔に俺は弱いのかもしれない。
父さんの墓参りにも……行きたいしな。
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