魔獣掃除人

「ルーカス殿が魔獣掃除人ビーストスイーパーとしての任務を引き受けた理由の一つに、君の就職先が含まれていたことはあの時話したよね」


 ヴァリアスさんが割り込むようにして話した。


「……聞いていました。俺をダシに使っていましたよね」


 まるで取引だとでも言わんばかりの言い方をしていたことを俺は覚えていた。


「まぁ……否定はしないな」

「結果的に魔獣を倒したのはルーカスではなかったが、それでも国王陛下はアルバスの功績を大いに讃えている」


 国王陛下は学園に入学した時に、いわゆる入校挨拶のようなもので一度だけ見たことがあった。

 かなりの高齢だということだが、歳を取っているようにはあまり見えなかった。


「つまり……俺の就職先に融通を効かせてくれるということですか?」

「端的に言えばそうなる。国を救ったと言っても過言ではないからな」

「じゃ、じゃあ!アルが騎士団に入ることも出来るってこと!?」


 リオナが興奮したように言った。


「アルバスが望むなら。どうするかね?」

「やったねアル!アルも騎士団に入れるって!」


 嬉しそうにリオナがはしゃいでいるが、俺の中の答えは元より変えるつもりはなかった。


「ごめんリオナ……俺は騎士団には入らないよ」

「な、なんで!?」


 顔をしかめながら俺はカードを手元に召喚させる。


「神獣……?」

「気になることがあるんだ」


 俺はカードを確認した。


 ──────────────────



【ナナドラ】 Lv2


 ○攻撃力:20

 ○防御力:20

 ○素早さ:20

 ○特殊能力:20


 スキル:『七大進化【???、???、憤怒、???、???、???、???】』



 ──────────────────


 やはりカードに記載されていたのはナナドラだった。

 スキル欄が『???』から『七大進化』と変化しており、憤怒という項目が書いてあること以外は変わっていない。

 あの時現れた憤怒の龍神ラース・オブ・ドラゴンではなかった。


「やっぱりというかなんというか……俺の相棒バディはナナドラのままだ。レベルは上がっているけど……最弱の0ツ星のまま。そんな神獣で騎士団に入れると思う?」

「でもっ……!アルは魔獣を倒すほど強いってことをみんなにも教えれば……!」

「それは出来ない話だリオナ嬢。あの場に居合わせてしまった貴方には仕方なく魔獣について説明したが、これは最重要国家機密だ。五ツ星の神獣を持つリオナ嬢でなければ秘密裏に処刑されていてもおかしくない」

「しょ……処刑……!?」

「ヴァリアス…………子供の前でそのような発言は控えろ」

「…………失礼しました」


 ロートルおじさんが声色を変えるようにして嗜めたが、処刑という言葉にリオナは酷く怯えてしまった。

 やっぱり俺はこの人が嫌いだ。

 父さんはこの人のことを恨むなと言っていたが、そもそもの言動が俺とソリが合わない。

 頭の回転も早く、剣術も一目置くほどの力を持っているみたいだけど、目的のためならば相手の気持ちを無視してでも達成させようとするだろう。


「ときにアルバス君。あの時変化した神獣、君にはステータスが見えていたんじゃないのか?」


 ヴァリアスさんの質問に俺は頷いた。

 視界がグラつくほどの怒りを抱えていながらも、俺は憤怒の龍神ラース・オブ・ドラゴンのステータスをハッキリと覚えていた。


「あの時変化したカードは10ツ星で、全てのステータスが1万を超えていました」

「えっ!」

「10ツ星だと!?」

「それにステータスが1万……。ルーカス殿、これはやはり…………」


 圧倒的なステータスにやはり三人とも驚いていた。

 当然だ、アトラス王国最強と呼ばれるロートルおじさんの神獣でさえ、ステータスは6000程度だと噂されている。

 それを遥かに超える1万。

 魔獣を殺したという実績が無ければ信用されることのない戯言だ。


「アルバス、君に我々から一つ提案がある」

「提案…………ですか?」

魔獣掃除人ビーストスイーパーにならないか?」


 俺が魔獣掃除人ビーストスイーパー……!?


「国際条約規定により、魔獣掃除人ビーストスイーパーは必ず一人は選出されていなければならない。しかも魔獣を討伐できる実力を持っていると推定される者だ。今回の戦いで魔獣掃除人ビーストスイーパーであったトウゴウが殺され、前職持ちであったルーカスも殺された。我々の国には今、魔獣掃除人ビーストスイーパーに適している人材がいない」

「ロートル騎士団長はアトラス王国の顔だ、魔獣掃除人ビーストスイーパーにはなり得ない。魔獣を倒すことができる力を持つ君こそ相応しいと我々は判断する」

「いや、でも…………」

「騎士団と違い、魔獣掃除人ビーストスイーパーは職についていながらも拘束されることは少ない。普段は冒険者として活動していて構わない。何よりこれは…………君の父と同じ仕事だ」


 父さんと同じ仕事。

 その言葉に俺は強く惹かれた。

 父さんはこの仕事に就き、そして俺を拾った。

 父さんと同じ道を歩くことができるチャンスを今、俺は提示されているのだ。


「アル……私は騎士団に一緒に入って欲しいと思ってるよ。でも同時に、あの時話したように冒険者として強く生きていくアルを見たい。だからアル、答えは自分の信じる心のままに」


 リオナに後押しされ、俺の意志が固まる。


「どうだい?」

「…………引き受けます。父さんと同じ、魔獣掃除人ビーストスイーパーとしての使命を」

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